大喧嘩
─翌日。サオリたちはミレニアムに戻ってきた。
アリス「ミドリ!無事でよかったです!」
ユズ「怪我は…痛くない?」
ミドリ「大丈夫だよ。…ありがとね、二人とも」
ゲーム開発部の部室。あんなことがあった故に当然の反応ではあるが、アリスとユズはミドリに付きっきりでいた。
怪我はそこまで酷いものではなかった上に治療もしっかり行ったのだが、そんなことでは二人は安心しない。
サオリがここにいれば確実にサオリも同様の扱いを受けただろう。そのサオリはというと…。
ユウカ「なるほどね、事情はわかったわ」
サオリ「何も言わずに出ていったことについては謝る。でも…」
ユウカ「わかってるわよ。これ以上、私からも何も言うつもりはないわ。問題は、何も言わずに出ていったことだもの」
食堂でユウカと話し合っていた。内容は言わずもがな昨日の件だ。
ユウカにはすべてを話した。自分たちがトリニティ襲撃事件における主犯格たちの出身地の生まれであること、その主犯格たちと付き合いがあったこと、そしてトリニティで起きたこと…。
サオリが知る限りのすべてをユウカに話した。
ユウカ「…幼馴染がそんなことしてたら、そりゃ止めに行こうとも思うわよ。私だって、きっとそうしたでしょうし。…でも、やっぱりアリスちゃんたちに何も言わずに出ていく必要はなかったんじゃないの?」
サオリ「アリスとユズなら絶対ついてくると思ったんだ。…あまり、私たち個人の問題に関わらせたくなかったから、言えなかった」
ユウカ「…まったく」
そんな会話を少しして、サオリもゲーム開発部の部室に戻った。やはりアリスとユズに心配されたサオリは、改めてアリスたちに謝罪をした。
─まだ気になることはあるものの…少なくともこの一件で自分たちはこれ以上どうこうできないと…サオリはそう考えていた。
…しかし、ミドリはそう考えることができなかった。
その日の夜。
ミドリ「………」
サオリ「…ミドリ?」
ミドリ「…お、お姉ちゃん…」
微かな物音を耳にしたサオリは、玄関の前で外へ出ようとするミドリを見つけた。
サオリ「こんな夜中にどこへ行くつもりだ?」
ミドリ「…こ、コンビニに行こうかなって…」
サオリ「だったら私も行く」
ミドリ「いや、大丈夫だよ!お姉ちゃんは寝ててもいいから!」
何かを隠すように、ミドリはついて行こうとするサオリを拒む。その様子を見て、何も気づかない程サオリは鈍感ではない。
サオリ「…まさかとは思うが、モモイのところに行こうだなんて考えてないよな?」
ミドリ「ッ!」
図星だった。それもそうだ。
あんな別れ方でミドリが納得するわけもない。
ミドリ「…ごめん。でも私…お姉ちゃんが心配で…」
サオリ「そうか。…そうだろうな」
ミドリ「…お姉ちゃん」
サオリ「でも、ダメだ。モモイには、もう会いに行こうとするな」
ミドリ「え…」
真剣な眼差しでそういうサオリの目見て、ミドリは小さく言葉をこぼした。
サオリ「あそこはもう、私たちの知ってるアリウスじゃない。…これ以上、関わろうとするな」
ミドリ「な、何言ってるのお姉ちゃん…?言ってる意味が全然わかんないよ…?」
声が震える。目頭が熱くなる。
それでも、ミドリは精一杯の疑問をサオリへ投げかけた。
サオリ「ミドリ。私たちの居場所は、もうアリウスにはないんだ。だから…」
ミドリ「…だから、お姉ちゃんを見捨ててって言うの?」
ミドリのその問に、苦虫を噛み潰したような顔をして、それでもサオリは言葉を絞り出した。
サオリ「…モモイは、きっと大丈夫だ」
ミドリ「そんなの信用できないよ!」
サオリ「そもそも探しに行くと言っても、どうやって探すつもりなんだ。どこに行ったのかもわからないんだぞ?」
ミドリ「それは…さ、探さないとわからないでしょ!?」
ミドリの語気が強くなっていく。
姉妹喧嘩はこれまで何度もしてきた。大半はサオリが折れての決着だったが、これについては折れるわけにはいかない。サオリは冷静であるように努めた。
サオリ「落ち着けミドリ。心配なのはわかる。だけど…」
ミドリ「何がわかるの!?私の気持ちなんてわからないでしょ!?」
サオリ「ミドリ、私は…」
ミドリ「私のお姉ちゃんじゃないくせに!!」
サオリ「ッ!!」
ミドリ「もういいよ!私は行くからね!」
そう言うとミドリは勢いよくドアを開けて飛び出していってしまった。
後に残ったのは、何も言えないままだったサオリと、虚しく響く時計の針の音だけだった。