欠けた連星のサブスティチュート   作:アカネのメガネ

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─誰もいなくなった部屋の中。ベッドの上で、サオリはミサキの言葉を思い出していた。

ミサキ『…なんで…私たちの前から…いなくなったの…』

あの顔が、あの声が、脳内でリピート再生される。それほどまでに、ミサキのあの言葉はサオリの心を抉っていた。
自分たちはもう、アリウスには関わらない方がいいのではないかと…そう思ってしまうほどに。

─確かに私がアリウスのみんなのことを忘れたことはない。それは事実だ。
だけど、アリウス自治区には戻りたくないとは考えていた。あの地獄のような日々に、戻りたくないと…そう思うこと自体は不思議なことではないはずだ。

…だが、ミドリはそうは思ってなかったのだろう。ミドリが何を考えていたのかはわからないが、モモイのいるアリウスに戻りたいと考えていたのかもしれない。
例えあの地獄のような日々に戻ろうとも、大切な姉と一緒にいたいと…そう考えていたのかもしれない。

しかし、今のモモイたちと私たちがいるのが、違う世界であることは確かだ。エデン条約を奪い取り、トリニティを潰すことが彼女たちの目的。
であればそれを達成できなかったことで、みんながどうなるか…わからないわけではない。
そしてそれに首を突っ込んで、どうなるかはミドリだってわかっているはずだ。それでも、ミドリはモモイの元へ行くことを諦めなかった。
私はもう、諦めていたのに。
あの時、モモイたちが立ち去っていくのを私が止めなかったのも、私とモモイとでは住む世界が違うと…勝手に諦めてしまったからだ。
アリスがリオに連れていかれた時は、諦めなんてしなかったのに。

ミドリはきっと、姉の温もりを私に求めていたのだろう。元々自分がミドリの姉ではないことは、重々承知の上だった。それでも、ミドリが自分を姉と呼び慕うなら…それに応えたいと思っていた。
それができなかった私は。あの時、飛び出して行ったミドリを追いかけることができなかった私は。

サオリ「…わたしは…なにをしているんだろうな…」

彼女の姉には、なれない。


資格と約束

ミドリが飛び出していったその日、サオリは何も言わずに学校休んだ。あんなことがあったばかりでの無言での休みということで、アリスとユズはサオリたちの家へとやってきていた。

 

アリス「サオリ!いますか!?」

ユズ「…サオリ?」

 

サオリの部屋に入った二人が目撃したのは、ベッドの上で蹲っていたサオリだった。

 

サオリ「…アリス、ユズ…?」

アリス「何も言わずに休んだら、みんな心配しますよ!」

ユズ「…ミドリは?」

 

その言葉を聞いたサオリは、更に自身の身を縮こませた。

 

サオリ「…出ていった」

ユズ「え…?」

サオリ「………もうここには、戻ってこないと思う」

アリス「ど、どうしてですか!」

 

困惑の表情を浮かべる二人に、サオリはそのままの姿勢で答える。

 

サオリ「…私が、ミドリのお姉ちゃんじゃないから…」

 

サオリはユズたちにも改めて話した。トリニティで起きたこと、モモイのこと…。

自分たちの住む世界とは違う場所にいる本当の姉を、ミドリはそれでも助けに行こうとしていること。

そんなミドリの思いを否定して、今もこうして何も出来ないままでいる自分が嫌になっていること。

 

こんな姿を他の誰かに見せるのは、よく考えれば初めてのことだった。

それほど、今のサオリは精神的に参ってしまっているのだ。

 

サオリ「…私は…」

 

落ち込んだ姿勢のまま、サオリは呟く。

そんな彼女にユズが声をかける。

 

ユズ「…ね、ねぇ…サオリ。ちょっといいかな…。で、できれば顔を上げて…」

 

ユズに促されるまま、サオリは顔を上げた。次の瞬間。

 

パァン!

 

サオリ「………は?」

 

小気味よい快音とともに、頬に痺れるような痛みが走る。頬を抑えながらユズの顔を見ると、慌てた様子を見せていた。

 

ユズ「ご、ごめんね!こういう時は言葉より、こ、こっちの方がいいかな…な、なんて…」

 

…正直な話、ユズにぶたれた痛みよりも、ユズがぶったという衝撃の方が大きかった。だがそれのおかげか、霞がかった脳内が少しクリアになった気がした。

 

ユズ「…サオリ。覚えてる?アリスちゃんが、リオ会長のところに行って…私たちがどうしようか悩んでた時のこと」

 

…覚えている。あの時、私は…。

 

サオリ『…なら話は単純だろう。アリスを連れ戻しに行く』

ミドリ『お姉ちゃん!?』

サオリ『正直、難しい話はよくわからない。だけど、みんな…この状況に、納得できてるのか?』

ユズ『…それは…』

サオリ『…私は納得できない。こんなエンディング、私は認めない。だから私は、アリスを連れ戻しにいく』

 

ユズ「…あの時のサオリの言葉に…勇気をもらったんだ。ねぇ、こんなエンディング…サオリは認められるの?」

サオリ「………」

 

認められない。認められるわけがない。

だけど、今の自分には…。

 

アリス「しっかりしてください、サオリ!」

サオリ「…アリス…?」

アリス「例えサオリにとってミドリが妹でなくても、ミドリは私たちの大切な仲間です!…サオリが、私にそう教えてくれました!」

 

あぁ、そうだ。確かにそう言った。

 

サオリ『アリスが魔王だっていうのが真実だとしても。アリスは、私たちの仲間だ』

 

今までずっと頭にかかっていた霞が一気に払われた故か、あの時の自分の言葉や行動が正確に思い返せるようになった。

 

アリス「それに、今度発売されるゲーム!ミドリと一緒にやる約束をしています!約束を破るのは、いけないことです!」

サオリ「…約束…」

 

モモイ『ねぇ、サオリ。もしも私がいなくなったらさ。ミドリのこと、お願いしてもいいかな?』

サオリ『…わかった。そのかわりと言ったらなんだけど…』

モモイ『…?』

サオリ『...私がいなくなったら、アツコたちを...みんなを、守ってあげてくれ』

モモイ『…わかった。約束だよ』

 

サオリ「…そうだな。そうだった」

 

サオリはゆっくりと立ち上がる。その目に、もう迷いはなかった。

 

サオリ「私も、約束してたんだった」

アリス「そうなんですか?」

サオリ「うん。少し忘れかけてたけど」

アリス「約束を破ったらダメですよ!」

サオリ「わかってる。大丈夫」

 

軽く微笑むと、サオリはアリスの頭を軽く撫でる。

 

サオリ「みんなでミドリを、連れ戻しにいこう」

アリス「はい!」

 

サオリのその言葉に、アリスは元気よく返事をして、ユズは静かに頷いた。

 

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