サオリ「待てミドリ!何処に行くんだ!」
サオリの呼び掛けを無視して、ミドリはトリニティ学区へと向かおうとした。しかし、ミレニアム学区からトリニティ学区へ向かう駅の前でサオリに捕まった。
ミドリ「離してお姉ちゃん!!」
ミドリはシタバタと体を動かし、抜け出そうとするがサオリの体はビクともしない。
サオリ「いきなり駆け出したかと思えば…トリニティに行くつもりか?」
ミドリ「…」
サオリ「…今行って何をするつもりだ?あんなことがあったばかりだぞ?危険すぎる。そもそも行ったところで何を…」
ミドリ「…お姉ちゃんが…」
サオリ「?」
ミドリ「…私のお姉ちゃんが…いたの」
サオリ「!?」
『私のお姉ちゃん』。この言葉が自分を指していないということを、サオリはわかっていた。
ミドリには双子の姉がいた。アリウスの内戦で逸れてしまい、そのまま離れ離れになった姉。
私とは違う。本物の姉。
彼女が、トリニティの襲撃に関わっていたとするならば、いてもたってもいられなくなるのは確かだ。
…それに、仮に彼女がこの襲撃に関わっているとするならば、この襲撃にアリウスそのものが関わっている可能性もあるかもしれない。
ミドリ「優しかったお姉ちゃんが、こんなことをするなんて信じられないけど…でも…ッ!お姉ちゃんが、こんなことをしてるなら…なんとしてでも止めたいの…!!」
涙を浮かべながら、必死にそう話すミドリ。
サオリ「…わかった」
本来ならば、『姉』として止めるべきなのだろう。だが─
サオリ「…私も行く」
─自分の生まれた場所、関わってきた人達が無関係ではない大事件。
無関心ではいられなかった。
二人は顔を見合わせ互いに静かに頷くと、トリニティ学区へ向かう鉄道へ乗り込んだ。
サオリ「…モモイ…!」
微かに揺れる座席の上で、サオリは拳を強く握りしめた。
調印式の会場となった古聖堂。周辺の光景は悲惨そのものだ。
そんな中で先生はゲヘナの風紀委員長『空崎ヒナ』と行動を共にしていた。
“…大丈夫?ヒナ…”
ヒナ「これくらいなんてことない…」
どう見てもなんてことないわけないが、ヒナは鋭い目つきのままそう答える。
刹那、銃声が響く。
ヒナ「ッ!先生!!」
ヒナは先生を庇うようにして銃弾を避ける。
先生とヒナが目線を彼女に向けたのはほぼ同時。しかし先生はその顔を見て、思わず声を漏らしてしまう。
“ミドリ…!?”
そこに居たのは、ミドリと瓜二つの顔をした少女だった。
モモイ「…ゲヘナ風紀委員会、委員長の空崎ヒナ…それに、シャーレの先生だよね?」
ヒナ「…く…!」
モモイ「手負いの状態で、戦えない人を庇いながらここまで戦えるなんてね…流石だよ。でも…」
ミドリの顔をした少女は、無骨なデザインのショットガンを構える。
モモイ「いい加減、楽になっていいんだよ?」
ヒナ「…舐めないで…!」
そうして始まった戦闘。しかし万全な状態でないヒナは防戦一方のまま…。
ヒナ「…う…」
限界を迎え、倒れてしまった。
“ヒナ!”
モモイ「…虚しいね。ここまでやって、守りきれずに終わる」
“…どうして、こんなことを?”
モモイ「…アリウスの名の下に、エデン条約は調印された。私たちが、新たな『エデン条約機構』…。難しいことはよくわかんないけれど、私たちは邪魔な存在を排除できる力を手に入れたんだ」
先生にショットガンの銃口が向けられる。その目からは、何かに対する強い憎しみを感じさせた。
モモイ「トリニティとゲヘナ…いや、このキヴォトスに…私たちが募らせてきた憎悪を思い知らせるんだ」
“…キミは、一体…”
それは純粋な疑問だった。
ミドリの顔をしていながら、ミドリではない。そんな彼女が何者なのか、知りたかった故の言葉だった。
モモイ「…アリウススクワッド、才羽モモイ」
才羽。それは確かミドリの苗字。この子、もしかして…!
モモイ「…シャーレの先生…あなたが計画の一番の障害になりそうだって、彼女も言ってたからね」
発砲音が響いたその瞬間。
ヒナ「うああァァァッッ!!!」
モモイ「…ッ!この人、まだ…!」
立ち上がったヒナが先生を庇う。
全ての銃弾から庇いきることこそできなかったものの、殆どの銃弾を一身に受けたヒナは怯まずに叫ぶ。
ヒナ「セナ!先生を!!」
その声を応えるかのように、救急車両が乱入してきた。
乗り込んでいた生徒、救急医学部の『氷室セナ』は横腹に銃弾を受けた先生とボロボロのヒナを抱えて走り去っていった。
モモイ「………逃げられちゃった」
ミサキ「…モモイ」
モモイ「…みんな。そっちはどうなったの?」
ミサキ「…万魔殿は撃墜した」
ヒヨリ「せ、正義実現委員会も…全員かはわかりませんが、主要なメンバーはほぼ片付いたかと…」
アツコ「…」
モモイ「…こっちは少し微妙。先生を逃がしちゃった。でも、ヘイローを持っていない人間にとって、あの位置の銃弾は致命傷足り得ると思う」
ミサキ「…そう。なら成果は上々ってところかな」
四人がそう話し合っていると、その場に四人のものとはまた異なる足音が響く。
アズサ「…モモイ…!」
『白洲アズサ』…。アリウスで苦難を共にした…かつての仲間がそこにはいた。
モモイ「…アズサ先輩。ようやく来たんですね」
アズサ「…よくも…先生を…」
モモイ「それもすべて作戦のうちだよ。先生は放っておくとマズいだろうからね」
アズサ「モモイィ!!」
モモイ「…激情に身を任せて真正面から来るなんて…アズサ先輩、あなたは本当に…」
突っ込んでくるアズサの気迫に身動ぎ一つせず、モモイはショットガンを構える。
モモイ「…何もわかっていない」