モモイ「…先生、ベアトリーチェは…」
“逃げたよ。でも、もうみんなを苦しめることはないと思う”
そう言う先生は少し苦しそうな顔をしていた。取り逃してしまったことを相当後悔しているのだろうか。
サオリ「…先生」
そんな先生に最初に声をかけたのは、サオリだった。
サオリ「………アリスとユズが、さっきの生徒と一緒に戦ってるんだ。そっちに行ってくれないか?…こっちは任せてほしい」
“…わかった。それじゃお願いするね”
サオリはミカ、アリス、ユズの元へ向かう先生を見送る。こうして、バシリカに残ったのは6人だけとなった。
サオリ「………」
モモイ「…ねぇ、サオリ」
サオリ「…なんだ?」
モモイ「ミドリのこと、頼むね」
何かを決意したような表情で、モモイは他の4人に聞こえないように言う。
サオリ「…どういう意味だ?」
モモイ「そのままの意味だよ。私はミドリとは一緒にいられない。一緒にいたって、迷惑をかけるだけだもん」
サオリ「…自首するつもりか」
モモイ「うん。顔もそっくりだし、ミドリが間違って捕まっちゃうかもでしょ?」
サオリ「それはそうかもしれないが…だが…」
続きを言おうとするサオリを制するように、手をサオリの前に差し出す。
モモイ「ダメだよサオリ。私みたいな悪人のことなんか気にしなくていいから」
サオリ「…違う」
モモイ「違わないよ。犯罪者を庇おうとするなんて、そんな人にミドリを任せるわけにはいかないな〜。…なんて」
サオリ「…お前は悪人でも犯罪者でもない。お前はただ、何も知らなかっただけだ。何も知らないまま利用され、搾取され続けただけだ」
モモイ「その何も知らなかったことが私の罪なんだよ、サオリ。何も知らないまま、この手を何度も汚したんだ。知らないというのは何よりも重い罪だって聞いたことはあるけど、本当にその通りだなって思うよ」
モモイの言っていたことは何も間違っていなかった。それはサオリにもわかっていた。
ただ、納得することはできなかった。
サオリ「…ダメだモモイ。お前は…」
モモイ「…いい加減にしてよ、サオリ」
サオリ「お前は、ミドリの姉なんだ。私と違って、本物の姉なんだぞ!」
モモイ「だから罪を償って胸を張ってミドリと向き合いたいって言ってるの!本当の、本物の姉として!向き合えるようになりたいの!」
声を荒らげる2人の声がバシリカにこだまする。それを聞いて4人は心配そうにモモイとサオリを見つめる。
サオリ「………すまない、モモイ。お前の言ってることは正しいとは思ってる。だけど、私の心は納得できてないんだ」
ミドリ「…お姉ちゃん…」
モモイ「…大丈夫だよ、ミドリ。もう二度と会えなくなるわけじゃないんだし。サオリも、今までずっと約束を守ってくれてたじゃん。これからもきっと大丈夫だよ」
サオリ「…ミサキたちは、どうするんだ」
そっちの約束はどうする。と言わんばかりにサオリは問いかける。それに対してモモイは、若干答えづらそうにしていた。
モモイ「…悪いのは全部私だよ。私が巻き込んだようなものだし」
アツコ「モモイ…」
ミサキ「…自分1人だけが悪いみたいに言うの、やめてくれない?」
少しため息を吐いた後、ミサキは静かにそう零した。
ミサキ「私たちは、勝手に巻き込まれに行ったんだから。それに対してモモイが罪悪感を感じる必要はなんてない」
モモイ「…ミサキ」
ミサキ「モモイが自首するなら、私たちも行く。このまま逃げるなら、ついていく。…それでいいでしょ」
モモイは、自分はどうすればいいのかわからなくなってしまっていた。
今自首をするというのは、ミサキたちのことを全く考えていない行為なのではないか?
ミサキたちだって被害者のようなものなのに、これから先も追われるだろう3人を放ったらかしにするか。
それとも、全員で矯正局に捕まるか…。
答えが出ない。この選択は自分のエゴなのではないかと考えると、決断をするのが恐ろしい。
そうして悩むモモイの手に、暖かい感触が触れる。見ると、何かを決意したかのような顔をしながらミドリがモモイの手を握っていた。
ミドリ「………」
モモイ「…ミドリ」
ミドリ「…お姉ちゃん。私は大丈夫だよ。…私には、もう一人のお姉ちゃんがいるから」
涙をこらえて、笑顔のままミドリは言う。
ミドリ「…だから、大丈夫。お姉ちゃんは、ミサキさんたちを…お姉ちゃんとの約束を守ってあげて」