こんな地獄のような環境でも前を向いて、自分たちを守ろうとしてくれた、激しい戦火の中でも、折れずに生きようとしていた。
そんな彼女がいなくなったキッカケは、ほんの些細な喧嘩だった。ミサキの自傷癖を彼女が咎めた際にミサキが放った「関係ないでしょ。私が死んだところで、何も変わらない」という言葉が、彼女の逆鱗に触れた。
今までにないほどの大喧嘩をした結果、彼女は「もういい。勝手にしろ」と言い残しその場を去った。ミサキたちは、すぐに帰ってくるだろうと思っていた。
…結果として、彼女は帰ってこなかった。
戦火が自分達の地域にまで広がったことで、彼女たちはその場から逃げた。彼女が帰ってこないのは、戦闘に巻き込まれ、そのまま命を落としたからだと結論づけた。
彼女がいなくなったことでポッカリと空いた穴を埋めたのは、妹を失った才羽モモイだった。
アツコとは同級生、ミサキやヒヨリから見れば年下。それでいながら、彼女は自分達を率先して引っ張ろうとしてくれた。
アズサと出会ったのはその後だ。私達はそれからずっと、共に過ごしてきた。
そして現在。
アズサ「ぐ…!」
モモイとアズサの戦いに決着がついた。
戦いというにはあまりにも圧倒的すぎたが。
モモイ「…馬鹿正直に真正面から挑みかかるなんて、先輩らしくない…。余程あの場所に絆されたんだね」
アズサ「…ッ!」
モモイ「…私達を止めたいのなら、ヘイローを壊してでも止めればいいんだよ。百合園セイア相手にそれができなかった先輩にできるのなら、だけどね」
アズサ「…モモイ…!」
確かな敵意を持った目と声色で、モモイはアズサにそう言い放った。
その時、爆撃音が響き渡り、爆煙がモモイ達の視界を覆う。その騒ぎに乗じて、アズサはその場から逃げ出した。
ミサキ「追う?」
モモイ「…いや、いいよ。どうせ先輩はまた来るもん」
ヒヨリ「あ、アズサちゃん…痛そうでしたねぇ…」
アツコ「………」
モモイ「…そうだね。一旦退いて、体勢を整えるよ」
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一方その頃、サオリとミドリはトリニティ学区へ足を踏み入れていた。
途中から列車が止まってしまったので歩いてきたが、混乱に巻き込まれる形で2人ははぐれてしまった。
サオリ「ミドリ!何処だ!」
ミドリを探して歩くサオリだったが当然返事はない。そうこうしてるうちにも混乱は更に激しさを増す。
ミドリの携帯に連絡をしてみたがどうやら部室に置き忘れてしまっていたらしい。
そのことはアリスからモモトークで教えられたが、同時に早く帰ってきてほしいというメッセージも送られてきている。
早くミドリを見つけなければ…!
そんな焦りがサオリを突き動かしていた。
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ミドリ「…ッ!!」
一方その頃、路地裏の隅でミドリは蹲って震えていた。ミドリにとって、混乱に巻き込まれ、サオリと離れ離れのこの状況。それはかつて、自身がアリウス自治区の内乱に巻き込まれ、その最中姉と、モモイと離れ離れになったあの日と同じ状況。
身体中から嫌な汗が吹き出る。心臓の鼓動が早まる。過去の映像と音が何度も再生されるような感覚がミドリを襲う。
お姉ちゃんとまた離れ離れになるかもしれない…そんな絶望が、恐怖が、ミドリを静かに蝕んでいく。
そんなミドリを現実に引き戻したのは、誰かの足音だった。
誰かが来た。お姉ちゃんかもしれない。そんな考えが頭をよぎる。
しかし、路地裏の向こうから現れたのは、怪我を負ったトリニティの生徒だった。
息を切らしながらフラフラと覚束無い足取りで歩いている。路地裏の中から隠れ見ていたミドリだったが、その視界から彼女が消えたその数刻後、倒れたかのような音が響く。
見に行ってみると先程の少女が倒れていた。怪我をしている。そこまで酷くはないが放っておくわけにもいかない。応急処置の必要があるとみたミドリは、日頃から携帯している医療用品を使い、アズサを介抱し始めるのだった。
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アズサ「………んん…!」
目を開ける。目の前には見覚えのない天井。どこかの廃墟だろうか?
ミドリ「…あ、起きましたか…?」
そう問いかけた少女の顔を見て、アズサは目を見開いた。
アズサ「!?」
ミドリの表情を確かめる前に、アズサはミドリへ銃口を向ける。
アズサ「ふーっ、ふーっ…!」
アズサの脳内は混乱していた。何せ先程まで自分に対して確かな敵意を向けていた相手と同じ顔の人間が、そこにいたからだ。
逃げている最中、アズサはモモイのヘイローを壊すことを決意していた。
モモイには感謝している。自分と仲良くしてくれたし、辛い状況でも折れなかったのはきっとモモイのおかげだ。
だからこそ、私は─
アズサは、ミドリに銃口を向けたままでいる。
ミドリ「…驚かせちゃいました、か…?余計なお世話だったなら、ごめんなさい…」
ミドリは心配そうな表情で言う。その言葉と態度はアズサに冷静さを取り戻させるのには十分だった。
アズサ「………お前、モモイじゃないのか…?」
この子はモモイじゃない。なら誰だ?
そんな疑問のままに、その言葉を発した。
ミドリ「お姉ちゃんを知ってるんですか!?」
アズサ「…お姉…ちゃん…!?」
お互いに驚きの感情を浮かべる。ミドリは目の前の相手が姉を知っていることに。アズサはモモイに妹がいたことに。
ミドリ「あの!お姉ちゃんの知り合いなら、教えてください!お姉ちゃんは…才羽モモイは、今どこにいるんですか!?」
アズサ「………それについては…私もわからない」
ミドリ「そ、そうですか…」
アズサ「…さっきはすまなかった。混乱してしまって…」
ミドリ「それは、いいんですけど…」
アズサの胸中に少しの迷いが混じり始める。
彼女が本当にモモイの妹ならば、私は今から彼女の姉を殺すことになる。それをしたら、この子はどうなる?この様子だとモモイを相当慕っているようだ。
私は彼女と今まで会ったことがない。だからきっと、彼女はずっとアリウスにいたわけではないのだろう。どこか離れたところにいて、ここに来た理由が姉に会いに来たのだとすれば…。
アズサ「…いや、心当たりがあるかもしれない」
ミドリ「本当ですか!?」
アズサ「あぁ」
彼女がモモイに会いに来たのなら、会わせるべきだろう。
それに、モモイから妹がいたということは一度も聞いたことがないが、もしかしたら彼女の心に何かしら変化を与えられるかもしれない。
アズサ「…でも、私にはやることがあるから…ここで待っててくれないか?」
ミドリ「わかりました!あ、私、才羽ミドリって言います!」
アズサ「…私は白洲アズサだ(…才羽…やっぱり妹なんだ…)」
外に出ていくアズサの背中を、ミドリは見送る。
ミドリ「…お姉ちゃん…」
テレビに映ったモモイのあの様子を不安に思いつつ、ミドリは静かに待つのだった。