ミドリ「…どうしたんですか?」
ミドリはアズサが思い詰めたような顔をしていたのを疑問に思って、そう言葉を投げかけた。
アズサ「…なんでもない、行こう」
ミドリと再会して、モモイの考えに変化があればそれでよし。
何もなければ、その時は…。
ミドリに連れて、アズサはモモイ達の元へと向かった。
サオリ「…もしもし」
ユウカ「やっと出た!何してるのよサオリ!アリスちゃんもユズも、すっごく心配してるわよ!?」
電話の向こうにいるのはセミナーの鬼会計こと『早瀬ユウカ』。ユウカの小言は慣れっこでこそあれ反発することも憚られるが、今回ばかりは勝手が違う。
サオリ「…心配かけたことについては謝る。一つ、伝言を頼まれてくれないか?」
ユウカ「…いや、アンタが直接伝えなさいよ」
サオリ「それはできない」
ユウカ「なんでよ!?」
サオリ「………これは私と、ミドリの問題だ。あの二人に今回の件で、心配させたくない」
ユウカ「待ちなさいサオリ!何の話なの!?」
サオリ「………『私達にとって、大事なクエストに行ってくる。しばらく帰れないだろうから、少しだけ待っててほしい』…これだけ、あの二人に伝えてくれ」
ユウカ「ちょっとサオ」
サオリはユウカが言い切る前に、電話を切った。
道中聞こえてきた話を整理すると、やはり今回の件はアリウスが発端であるということが再確認できた。
疑問はまだまだあるが、少なくとも自分の知りたかったことの一つはわかった。であるならば答えは一つ。
サオリ「…アリウスを止める」
かつての仲間が、故郷が、こんな凶行をしているのなら絶対に止めなければならない。
そうと決まればまずはミドリ…そうでなくとも話ができる人間と出会わなければ。
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ところ変わってアズサにとっては見知った廃校舎。モモイはそこで体勢を整えていた。
モモイ「…来たね」
アズサ「モモイ…他のみんなは」
モモイ「それぞれ各地の状況を確認しに行ってるよ。今ここにいるのは、私達2人だけ」
アズサ「…いや、3人だ」
モモイ「?」
アズサの陰から、ミドリがアズサの前に出る。
ミドリ「…お姉ちゃん…」
モモイ「………」
あぁ、お姉ちゃんだ。
目つきはやや鋭くなっているし、髪も傷んでるみたい。それでも、目の前にいるのは…確かにお姉ちゃんだった。
今すぐにでも抱きしめたい。再会できた喜びを分かち合いたい。だけど、今はそれよりも話をしなくちゃならない。
ミドリ「お姉ちゃん…どうして?どうしてこんなことしてるの?お姉ちゃん、言ってたじゃん。『このキヴォトスでは人を殺す為の争いは恥ずかしいことなんだよ!』って!こんなことして、どれだけの犠牲が出ると…」
その瞬間。銃口から弾丸が放たれる。
その弾丸を、ミドリは無防備なまま一身に受ける。
ミドリ「う…ッ!?」
アズサ「ミドリ!」
アズサはミドリに駆け寄り、モモイを睨みつける。
アズサ「…モモイ…!お前…!」
モモイ「そんなこと言った覚えないし、そもそもお姉ちゃんって言ってるけどさ…私は、あなたなんて知らないよ」
そうだ。モモイから妹がいたなんて話は一度も聞いたことがない。モモイとは長い付き合いだが、その中で『一度も』妹のことを口にしなかったというのはよく考えてみればおかしな話だった。
その答えが、これだと言うのなら…。
ミドリ「…お姉…ちゃん…」
アズサ「………ミドリ…立てる?…ここは危ないから、離れて」
ミドリ「…でも…!」
アズサ「いいから、離れて」
その言葉を受け、ミドリはその場から離れる。
アズサ「…」
モモイ「…お姉ちゃん、か…私を動揺させたかったの?先輩」
アズサ「…動揺というより…期待だ。ミドリはお前の妹だ。あいつの言葉なら、お前に届くと…そんな淡い期待していた」
モモイ「…私に妹なんて…」
突如、脳内にノイズが走ったかのような感覚にモモイは襲われた。誰かが自分のことを『お姉ちゃん』と呼んでいる。そんな声が聞こえた気がした。
モモイ「…?」
アズサ「…だが、まさか妹のことを忘れてしまっているとは思わなかった」
モモイ「…妹…」
フラッシュバックする存在しないはずの記憶をかき消すように、モモイは頭を掻き毟った。
アズサ「…ミドリには悪いと思っていたが…もう、こうするしかない。モモイ、私はお前を必ず止める。その為に、お前の…」
ヘイローを壊す。
その発言を聞いて、モモイは少し口角を上げた。
モモイ「…それでいいんですよ。アズサ先輩」
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時は少し遡り、サオリは途中現れる幽霊のようなシスターを薙ぎ倒しながら、荒れ果てた市街地を一人歩いていた。
サオリ「しかしなんなんだあの幽霊は…倒しても倒しても湧いてくる…」
ミドリのことは心配だが何処にいるかわからない以上無闇に探し回っても体力を無駄に浪費するだけ。そう判断したサオリはひとまず古聖堂を目指していた。
破壊の中心地。そこなら今回の元凶…アリウスの人間と出会うことが出来るかもしれない。そう判断しての行動だった。
『ミドリなら大丈夫だ』…そう信じて歩いているとまたしてもユスティナ聖徒会とエンカウントする。しかし今回はその中に明らかにそれとは異なる人間がいた。
サオリ「…幽霊の指揮役か…?」
警戒を緩めず、サオリはジリジリと歩み寄る。
そんなサオリに気づいたか、彼女はこちらに顔を向けた。仮面をしているため、顔は分からないが…恐らくアリウスの人間だろう。
サオリ「…ここで何をしてる」
アツコ「え…」
小さく、本当に小さく声が漏れる。
それはサオリには聞こえていなかったが、驚いた素振りをしたことについてはサオリにも伝わっていた。
─死んでしまったと、思ってた。
あの日からずっと帰らない彼女のことを、思わない日はなかった。私達にとって、まさに姉のような存在で、絶望の中にあった私たちをそれでも、引っ張ってくれた。
いなくなってからは、モモイがその役割を担うようになったが、彼女は…あの頃の私達にとって、柱と言える存在だった。大切な…友達だった。
そんな彼女が…サオリが、生きていた。
本来なら喜ぶべき場面のはずだ。しかし、状況はそれを許さない。
サオリ「…答えろ。何故こんなことをした?これから何をしようとしている?」
少し驚いた素振りを見せたことを半ば不思議に思いつつも、怒気の混じった声でサオリはそう問いかける。アツコはしばらくの思案の後、何も言わずにその場から立ち去ろうとする。
サオリ「逃がすか!!」
目の前にいる仮面の少女がかつての友達だとは知らないまま、サオリは逃げるアツコにそう叫んだ。
しかしユスティナ聖徒会に阻まれ、アツコの背中は段々遠くなっていく。
全員を倒しきった後、その場に残っていたのは、サオリ一人だけだった。
サオリ「…逃げられたか…」
周りから誰もいなくなったその中で、ぽつりとそう呟いた。