アズサ「う…!」
ミドリ「アズサさん!」
古聖堂前の戦い。連戦に次ぐ連戦についに体力の限界を迎えたか、アズサは膝をついた。
モモイ「…終わりだよ先輩。もうおしまい」
ミドリ「お姉ちゃん…!」
モモイ「後はあなただけ…」
アズサ程ではないがミドリももうボロボロだ。それでも、ミドリは諦めていない。
ミドリ「お姉ちゃんを…止めるんだ…!」
モモイ「…」
なんなのこれは。
目の前の彼女は確かに知らない人のはずだ。少なくとも、私の記憶には彼女の姿はない。なのに、体はまるで覚えているかのように振る舞う。撃とうとする指が、体が、震える。
モモイ「違う。私は…あなたなんて、知らない!」
ショットガンから弾丸が放たれる。ミドリは避けられずそのまま─
アズサ「うぁぁぁッ!!」
ミドリ「あ、アズサさん!?」
かと思われたがすんでのところでアズサが飛び込みその弾丸を一身に受けた。
アズサ「はぁ…はぁ…!ぐ…!」
もう既に限界は迎えているはずだ。それでもアズサは、なおも立ち上がろうとする。立ち向かおうとする。
モモイ「…先輩。なんで?なんでまだ戦おうとするの?全ては虚しいのに」
アズサ「…たとえ全てが虚しくても…足掻くと決めた…!」
モモイ「…そう。なら…!望み通りにしてあげる!」
更に撃ち込まれた銃弾を受け、アズサはそのまま後ろに倒れ込む。しかし、誰かにそれを抱き止められた。
アズサ「…ヒフ、ミ?」
ミドリ「…?」
『阿慈谷ヒフミ』
アズサにとって大切な友達。
ヒヨリ「増員、ですね…」
モモイ「…」
ヒフミ以外にも、その場に現れた二つの人影。あれがきっと、アズサの言っていた補習授業部とやらのメンバーなんだと、モモイは理解した。
ミサキ「…はぁ…はぁ…」
ヒヨリ「ミ、ミサキさん!大丈夫ですか!?」
ミサキ「………大丈夫。それより、まずいよ。囲まれてる」
向こうの援軍が古聖堂の周辺に集まる。ゲヘナやトリニティ、更にはアビドスの生徒の姿まである。
その光景を前にして、モモイの苛立ちは頂点にまで達していた。
モモイ「ふざけないで…!あなたたちがなんて言おうと!この世界の真実は変わらない!憎悪と怨恨に満ちたこの世界で、いくら足掻いたところで…救われることなんてないんだよ!!」
ミドリ「…お姉ちゃん…」
“…それは違うよ”
モモイの声に物怖じもせず、先生は言葉を返した。
ミドリ「先生…?」
“…ミドリ。まさか君がここにいるなんて思わなかったけど…詳しい話はあとにしようか”
ミドリ「…はい」
モモイ「生きてたんだね…シャーレの先生…。でも、どう足掻こうと無駄なことに変わりはないよ!」
ヒフミ「無駄なんかじゃありません!」
強い怒りの籠った言葉が、周囲に響き渡る。
ヒフミ「誰かが誰かを恨むのが、誰かが誰かを憎むのが当たり前で…どう足掻いたって救われることがない世界なんて、私は嫌なんです!そんな物語、私は望んでなんかいません!」
モモイ「望む望まないじゃない!そういうものなんだよ!」
ヒフミ「例えそうだったとしても!そんな暗くて憂鬱なお話、私は好きじゃないんです!私の好きなものは、誰が相手だろうと譲れません!」
静かになっていく雨音を書き消す程の勢いで、ヒフミは叫ぶ。
ヒフミ「誰かが誰かを助けるのが、誰かが誰かに手を差し伸べるのが当たり前で!最後はみんなが幸せに…笑顔になれるような!…そんなハッピーエンドが、私は好きなんです!」
モモイ「…ハッピー…エンド…?」
静かにそう呟いたモモイは、拳を強く握りしめる。そんなモモイの様子を知ってか知らずか、ヒフミは声高々に言葉を紡ぐ。
ヒフミ「誰がなんと言おうと、何度だって言い続けてみせます!私たちの描くお話は、私たちが決めるんです!終わりになんてさせません!まだまだ続けていくんです!私たちの物語…!」
BLUE ARCHIVE
私たちの、青春の物語を !
いつしか雨は止み、空からは陽光が差し込んでいた。
力強く誓いを立てるように言い切ったヒフミに応えるように、先生が続ける。
“今ここに宣言する。私たちが、新しいエデン条約機構”
モモイ「なっ…!?」
ゲヘナとトリニティ間の不可侵条約。条約の発起人である連邦生徒会長の代理として、シャーレの先生は改めて条約の締結を宣言した。
ヒヨリ「ゆ、ユスティナ聖徒会が…!」
エデン条約が二つ存在するというゲームのバグじみた状況を前にして、ユスティナ聖徒会はその力を弱める。
モモイ「それがどうしたって言うの!ハッピーエンド!?何も知らない人が勝手なこと言わないで!願ったところで叶うわけがない、ただ虚しいだけの世界で…そんな言葉になんの意味があるの!」
ミドリ「…確かに、お姉ちゃんの言う通りかもしれない」
怒りを露わにして吠えるモモイに、ミドリはその口を開く。
ミドリ「この世界には、願っても叶わない…そんなバッドエンドだってきっとある。…だけど!ハッピーエンドを夢見ることに、意味がないなんてことはないよ!」
モモイ「…ッ!」
“…生徒がハッピーエンドを夢見るなら、その実現を助けるのが大人の義務。私は、生徒たちが心から願う夢を…信じる”
…一つ、大きく息を吐く。それでこの苛立ちが収まるわけじゃない。目の前の先生と私を姉と呼ぶ生徒の言っていることは、自分が教えられてきたことと反することだった。だからこそ、モモイは受け入れることはできなかった。
モモイ「…わかった。だったら…」
「その夢ごと、壊してあげる…!」