東方楽酔録 ~ Perfect Sake Bliss.~   作:地軸

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~酔いどれギターと騒霊の出会い~

春の終わり、午後の風がまだ少し冷たい。

魔法の森の外れ、桜並木の道を、俺はふらふらと歩いていた。

右手に開けっ放しの恵比寿ビール、左肩にギターを引っ掛けて、作務衣の裾が風にひらひらしてる。首筋のレミリアの噛み跡が、陽射しにキラッと光って疼く。酔ってる。かなり酔ってる。蔵からここまで、どれだけ空けたか覚えてねぇや。

満開を過ぎた桜が、ひらひらと地面に落ちてくる。

俺はその上をわざと踏みながら、ギターの弦を爪で軽く弾いた。

ジャーン……って音が、風に乗って遠くまで響く。

「はー、生きてるって最高だなあ……」

独り言が自然と漏れる。

霊夢には借金踏み倒されてるし、妖夢には逃げられてるし、レミリアには血を吸われたままだし、幽々子様には死の誘惑されてるし……でもなんでこんなに気分がいいんだろう。

ビールをもう一口。

喉がゴクンって鳴って、炭酸が胸の奥まで染みていく。

「♪もう一杯だけ……って寝言言ってる俺を、誰か起こしてくれよな……」

ギターのネックを握って、適当にコードを押さえる。

CからGへ、AmからFへ。簡単なコード進行だけど、酔ってるせいか妙に気持ちいい。桜の花びらが弦に落ちてきて、ピックみたいに弾いたら変な音がした。

「ははっ、桜ピックかよ……最高じゃねえか」

道端に腰を下ろして、ギターを膝に乗せる。

空になった缶を地面に置いて、新しい一本を開ける。

プシュッ。

風が通り抜けて、桜が一気に散った。

頭の上から花吹雪が降ってきて、髪はもう桜だらけ。

俺はそれでも笑いながら、ギターを弾き始める。

「♪さくら さくら……って歌、知らねえけどさ……

 お前らが散るの見てると、なんか泣けてくるんだよな……」

指が勝手に動く。

簡単なメロディだけど、俺の気分が全部乗ってる。

酔ってるから下手くそだけど、それがまたいい。

遠くで、誰かがこっちを見てる気がした。

……妖精か? それとも霊夢が怒鳴り込んでくる前触れか?

まあいいや。今は誰も来なくていい。

桜がまた一枚、ギターのボディに落ちた。

俺はそれをそっと拾って、弦の上に置いたまま、最後のコードを鳴らす。

ジャーン……

風が止んだ。

桜が止まった。

俺の酔いも、ほんの少しだけ醒めた。

「……また明日も、飲もう」

缶を掲げて、誰にも見せない乾杯をする。

桜の花びらが、ビールの泡に混じって、ゆっくりと地面に落ちていった。

風に乗って、音が聞こえてきた。

ヴァイオリンが艶やかに唸り、トランペットが空を裂き、キーボードが悪戯っぽく跳ねる。

俺は缶を片手に、ギターを肩に担いだまま、フラフラと歩き出す。

桜の絨毯を踏むたびに、花びらがふわりと舞う。

道が開けた先、桜に囲まれた小さな広場。

そこに、三人の騒霊がいた。

演奏がぴたりと止まった。

ルナサがヴァイオリンを下ろし、静かに微笑む。

「……あら、お客さん? 珍しいわね」

メルランがトランペットを肩に担ぎ直し、にやりと笑って大声で。

「おーい! 酔っぱらいのお兄さん! こんなとこまで来るなんて、音楽に呼ばれた感じ?」

リリカがキーボードから立ち上がって、両手を腰に当てて首を傾げる。

「ねえねえ、どれくらい聴いてた? 最後の一曲、ちゃんと聴こえた?」

俺は缶を片手に、桜の木に背中を預けたまま、苦笑い。

「……最初から最後まで、だと思う。邪魔して悪かった」

ルナサが小さく首を振る。

「いいえ。むしろ、ちょうど休憩どころだったから。……あなた、酒呑蔵の店主さんよね? 幽々子様から話は聞いてたわ」

メルランが目を輝かせて一歩近づく。

「マジで!? あの『酒が無限に湧く蔵』の!? 噂通り、めっちゃ酔ってるじゃん! ギター持ってるし、音楽もできるんだ?」

リリカが俺の缶を指差して、悪戯っぽく舌を出す。

「恵比寿だ~! いい匂いする~。ねえ、一口ちょうだい? 演奏の後って喉乾くんだよね」

俺は缶を掲げて、笑った。

「……まあ、座れよ。まだ何本か持ってる。缶チューハイもあるぞ」

メルランが即座に地面に座り込んで、両手を広げる。

「やったー! じゃあ遠慮なく! 私、メルラン! よろしくね、お兄さん!」

ルナサが優雅に膝をついて、ヴァイオリンを横に置く。

「ルナサ・プリズムリバー。……あなた、楽さん、よね? 幽々子様が『面白い酔っぱらいがいる』って言ってた」

リリカが俺のすぐ横にぺたんと座って、缶を奪い取るように受け取る。

「リリカ! 末っ子! ねえ、楽って呼んでいい? 私たち、騒霊三姉妹だよ~」

俺は缶を開けて、リリカに渡しながら。

「いいよ、楽で。……で、こんなとこで何やってたんだ? 客、いねえぞ」

メルランが缶を受け取って、プシュッと開ける。

「練習! 新曲のテストしてたんだ~。でも誰も来ないから、ちょっと寂しかったところ」

ルナサが桜の花びらを指で摘んで、静かに呟く。

「……たまには、誰かに聴いてもらいたいときもあるのよね」

リリカが俺の肩に軽くもたれかかって、にやりと笑う。

「で、楽はどう思った? 私たちの音」

俺はギターを抱えたまま、正直に。

「……たまんねえよ。酔ってるのもあって、胸に響いた」

三人が同時に顔を見合わせて、くすくす笑った。

メルランが缶を掲げる。

「じゃあ、乾杯しよー! 桜と酒と音楽に!」

俺も缶を掲げて。

「……乾杯」

桜がまた一気に散って、四人と一本のギターと、三つの楽器が、春の終わりに溶けていった。

缶が空になり、地面に転がる音がどんどん増えていく。

「もう一本!」「こっちも!」「あたしトランペット吹きながら飲めるから!」

メルランが缶を頭上に掲げて一気飲み、リリカがキーボードの上で缶を回してリズム取る。

ルナサまで普段の落ち着きをどこかに置いてきて、頬を赤く染めてヴァイオリンを膝に抱えたまま笑ってる。

「楽ー! ギター出せ出せー! セッションしようぜー!!」

メルランの号令で、俺は酔った勢いでギターを抱え直す。

指が勝手にコードを探し、弦が鳴る。

ジャカジャーン!

メルランのトランペットが即座に絡みついてきて、リリカのキーボードが小刻みに跳ね、ルナサのヴァイオリンが艶やかに溶け込む。

桜が散るたびに音が跳ねて、風がリズムに乗って、広場が一瞬でライブ会場に変わった。

「うおおおおお!!」「いくよー!!」「もっと熱く!!」

俺のギターが暴走する。

簡単なブルース進行だけど、酔ってるから指が滑って、それがかえって気持ちいい。

メルランがトランペットで俺のフレーズを追いかけ、リリカが笑いながら即興でメロディ乗せて、ルナサが目を閉じてソロをぶちかます。

桜が狂ったように舞う。

誰かが叫んで、誰かが笑って、誰かが缶を掲げる。

どれだけ経ったか分からない。

気づけば空はオレンジに染まり、缶が山になってる。

メルランが息を切らしながら、俺の肩をバンバン叩く。

「楽! 最高だった!! こんな楽しいセッション初めて!!」

リリカがへたり込んで、でも満面の笑み。

「ねえ、もう帰らないでよ~」

ルナサが珍しく声を上げて笑いながら、静かに言う。

「……ねえ、楽さん。今度はお店でやらない?」

俺はギターを抱えたまま、にやりと笑った。

「いつでも来いよ。酒は無限に出る」

三人が同時に顔を見合わせて、叫んだ。

「行くよー!!」「絶対行く!!」「明日から通う!!」

メルランが立ち上がって、トランペットを空に突き上げる。

「酒呑蔵専属楽団、決定ー!!」

桜が最後に大きく散って、春の終わりを告げるように地面に降り積もった。

俺は缶を一本掲げて、

「じゃあな、楽しい酒飲み仲間」

三人が缶と楽器を掲げて、

「「「乾杯ー!!」」」

笑い声が、桜並木の奥まで響いていった。

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