東方楽酔録 ~ Perfect Sake Bliss.~ 作:地軸
~鬼の温もりと、覚えきれない宴の朝~
目が覚めた瞬間、頭の中が爆発しそうだった。いつもの二日酔いだ。いや、今回はそれ以上だな。喉がカラカラで、視界がぼやけ、身体中が重い。酒呑蔵の奥の布団で、俺はゆっくりと上体を起こそうとした。でも、すぐに何か熱いものが背中に当たるのを感じて、動きを止めた。
……隣に、誰かいる。
いや、誰かじゃねえ。誰かってレベルじゃねえよ。銀色の髪がシーツに乱れ、角が俺の頰を優しくくすぐる。伊吹萃香さんだ。普段は小柄な少女のような体躯の萃香さんが、裸で俺に抱きついて横たわってる。朝の柔らかな光が彼女の白い肌を優しく撫で、汗の残る曲線を妖しく輝かせている。細い腕が俺の腰に絡みつき、柔らかな胸の膨らみが俺の背中に密着して、鬼の熱い体温がじんわりと染み渡る。銀髪がシーツに零れ落ち、首筋の鎖骨が微かに影を落とし、息づかいに合わせてわずかに揺れるその肢体は、昨夜の激しい宴の余韻を色っぽく湛えていた。角の先が俺の肌を甘く刺激し、彼女の吐息が耳朶をくすぐる——まるで、禁断の果実のように、触れるのをためらうほどの魅惑的な裸体だ。
昨夜の記憶が、霧のように断片的によみがえる——異変解決後の大宴会、霊夢さんが解決して皆がホッとして、俺も巻き込まれて参加した。あの萃香さんと、無限に酒を交わした飲み比べ。伊吹瓢箪から溢れる酒と、俺の能力で生み出す肴が、夜通し続いて……その先は、熱い肌の感触と、笑い声の渦だけ。
「鬼と……やっちまったかよ。レミリアさん、幽々子さんに続いて3回目か。俺の人生、どうなってんだ……」
心の中で呟きながら、俺はそっと抜け出そうとした。だが、萃香さんの腕が無意識に俺を引き寄せて、逃げられない。彼女の胸に顔を埋めそうになって、慌てて息を止める。くそ、こんなところで動悸が速くなるなんて、情けねえ。
その時、萃香さんが目を覚ました。銀色の瞳がゆっくりと開き、俺を捉える。
「ん……ここ、どこだよ?」
彼女の声は低くて、眠気混じりで親しみやすい。原典の宴の記憶がよぎる——あの陽気な笑い声、嘘を嫌うまっすぐさ。でも今は、そんなイメージとは違う。俺は喉を鳴らして、なんとか言葉を絞り出す。
「俺の店、酒呑蔵だよ、萃香さん。えっと……昨夜の宴の後、ここで寝ちまったみたいで」
萃香さんは体を起こし、辺りを見回す。角が天井をかすめ、布団がずれる。彼女の肌が朝の光に照らされて、俺は思わず目を逸らす。鬼の体躯は威圧的で、でもどこか柔らかい。彼女は首を傾げて、俺の顔を覗き込む。
「あんたの店か。酒呑? ん? どういう由来だよ?」
変なところで食いつくなあ、と思いながら、俺は苦笑した。萃香さんは格上だ。妖怪の山を揺るがす鬼だぞ。俺みたいな人間が、こんなに近くで話すなんて、夢みたいだ。でも、昨夜の記憶がそれを現実にする。
「まぁ、この店は俺の能力で出てきた時からこうなんだけど……俺の苗字が酒飲でさ。昔ご先祖が鬼に飲み比べで勝って、金銀財宝の代わりに苗字をくれって言ったら『酒呑』をくれたんだよ。それが時代とともに『酒飲』に変わったって話さ。いい箔がついたぜ、ってご先祖は喜んだらしいけど。家族の伝承で、酒の肴みたいに語り継がれてるよ」
言葉を吐き出しながら、俺は萃香さんの反応を窺う。彼女の表情が、一瞬だけ変わった。銀色の瞳がわずかに細くなり、懐かしさみたいなものがよぎった気がした。でも、すぐにいつもの陽気な笑みが戻る。
「へぇ、そうかよ。あんたの話、面白いね」
彼女はそう言って、俺の肩を軽く叩く。力加減が絶妙で、痛くはない。むしろ、温かさが染みてくる。萃香さんは布団から起き上がり、俺を抱き寄せるように腕を回す。鬼の力で、抵抗なんてできない。
「楽しい時間はどれだけあってもいいよな、あんた」
その言葉に、俺の心臓が跳ねる。昨夜の宴の続きみたいだ。記憶の端に、彼女の熱い息と、溶け合うような感覚が残ってる。
俺はびびりながらも、萃香さんの温もりに身を任せる。なんか、安心するんだよな。この鬼は、他の連中とは違う。レミリアさんの支配欲とか、幽々子さんの妖艶さとは違って、ただ純粋に……楽しい。ふと、首筋に違和感を覚える。霧みたいな、かすかな気配。気のせいか? でも、萃香さんの瞳が優しく俺を見つめてる。
「萃香さん、もう一杯やるか? 朝からだけどよ」
俺がそう提案すると、彼女はにやりと笑う。
「いいね。あんたの酒、美味いんだよ」
俺の能力が働き、枕元に盃と酒瓶が生まれる。伊吹瓢箪の隣に並べて、俺たちは朝の宴を始める。外から妖精たちの喧騒が聞こえてくるけど、今は関係ない。この瞬間、萃香さんの隣で酒を酌み交わすのが、俺の日常の始まりだ。
……萃香さんとの間に、特別な何ものを感じる。鬼の温もりが、俺の心に染み込んでいく。覚えきれない夜の続きが、こんな朝でいいのかもな。
この調子でいくと花映塚でこの主人公確実に死ぬ気がするんだが