東方楽酔録 ~ Perfect Sake Bliss.~ 作:地軸
魔法の森の入口に建つ「酒呑蔵」は、今日も穏やかな陽光に包まれていた。木々の葉が優しく揺れ、遠くから妖精たちの笑い声が聞こえてくる。俺、酒飲楽はカウンターの奥で、いつもの作務衣を袖まくりし、ボサボサの黒髪を適当に掻き上げながら、ギターを手にしていた。このギターは、無縁塚で拾った外の世界の遺物だ。最初は弦が切れていたり、ボディが傷だらけだったけど、俺の能力のおかげか、なんか自然と直っちゃったんだよな。
能力の詳細は俺も正確には理解してない。ただ、「お酒を楽しく飲む程度の能力」ってだけで、酒と肴が勝手に揃うんだ。まあ、楽しく飲めりゃいいんだよ。自在に操れるわけじゃなく、勝手に発動する感じで、俺の気分次第で酒が湧いたりするんだ。時には予想外の酒が出てきて驚くこともあるけど、それもまた一興さ。
今日は天気がいい。座敷の障子を少し開けて、森の風を入れながら、ギターを爪弾く。指先が弦を滑り、軽やかなメロディーが店内に響く。カウンターに置いた盃には、秋の純米酒が注がれていて、一弾きごとに一口飲む。アルコールが体に染み渡り、二日酔いの頭が少しずつクリアになる。妖精たちがピョンピョンと飛び回り、時々弦に絡まってくるけど、それもまた楽しい。蔵の奥、無限の酒庫から新しい酒が勝手に湧いてくる感覚が、心地いいんだ。
そんな中、店の戸がガラガラと開いた。入ってきたのは、黒い帽子に白いエプロンドレスを着た少女。魔法の森の住人らしい雰囲気だけど、俺は顔を見知らない。彼女はキョロキョロと店内を見回し、鼻をクンクン動かして酒の香りを嗅いでいる。
「へえ、ここが噂の新しい酒屋か。魔法の森にこんな店ができてたなんて、知らなかったぜ」
と、明るい声で言った。
俺はギターを膝に置いて、笑顔で迎える。
「ようこそ、酒呑蔵へ。お客さん、初めてだね? 俺は店主の酒飲楽だよ。名前は? まあ、座って座って。初来店サービスで、一杯おごるよ」
少女は少し驚いた顔をし、
「おごり? そんなサービスあんのかよ。まあ、遠慮なくいただくぜ。俺は霧雨魔理沙だ。魔法使いさ」
と、カウンターに腰を下ろした。
彼女の帽子には星の飾りがキラキラ光り、黒髪の三つ編みが揺れる。見た目は普通の人間だけど、魔法の匂いがするんだよな。霧雨魔理沙か……聞いたことない名前だけど、森の住人ならこれから仲良くなれそうだ。俺は能力が勝手に発動して、カウンターの下から新しい盃を取り出す。実際、どうやって酒が出てくるのかは俺もよくわかんない。ただ、「楽しく飲みたい」と思うだけで、どこからか湧いてくるんだ。
今日は彼女にぴったりな、軽めの吟醸酒を選んだ。盃に注ぎ、彼女に渡す。
「これ、外の世界のヤツだよ。スッキリしてて、魔法の研究の合間にいいかも」
魔理沙は盃を受け取り、一口飲むと目を細めて
「おお、うまい! なんだこれ、普通の酒じゃねえな。魔法の力か何かかよ?」
と感嘆した。
俺は笑い、
「ま、俺の能力だよ。お酒を楽しく飲む程度の能力さ。詳細は俺もあんまりわかんないけど、酒と肴が勝手に揃うんだ」
魔理沙は興味津々で盃を傾けながら、店内を眺める。妖精たちが彼女の周りを飛び回り、笑い声を上げる。
「へえ、能力か。面白そうだぜ。俺も魔法で似たようなことできるけど、酒専門ってのは珍しいな。たとえば、俺の魔法はきのこを材料に使って、爆発的なエネルギーを生み出すんだぜ。昨日も実験で森の一部を焦がしちまったよ」
俺は盃を回しながら、
「へえ、面白そうだな。博麗霊夢とのエピソードってのも聞かせてくれよ」
魔理沙は目を輝かせて話し始める。
「あいつとはよく異変解決で組むんだけど、いつも俺が魔法で派手にやるのを、霊夢が箒でぶん殴ってくるんだぜ。こないだのきのこ実験も、霊夢に怒られて中断しちまったよ」
そんな風に、魔理沙の魔法話は尽きない。俺は聞き役に徹し、時々ギターを軽く弾いてBGMを加える。酒が進むにつれ、魔理沙の頰が少し赤らみ、笑顔が増える。初来店サービスのおかげで、彼女は遠慮なく飲んでいる。俺の能力で、アルコール中毒の心配はないから、安心だ。勝手に枝豆や焼き鳥がテーブルに並び、宴会ムードが高まる。
ふと、魔理沙の視線が俺の膝のギターに止まった。
「それ、ギターだろ? 外の世界の楽器だぜ。弾けるのかよ?」
俺は頷き、
「ああ、拾ったヤツだけど、なんとなく弾けるようになったよ。魔理沙ちゃん、興味ある?」
彼女は目を輝かせ、
「まあな。魔法の道具として使えねえかなと思ってさ。ちょっと弾いてみせてくれよ」
俺はギターを構え、簡単なフォーク調のメロディーを弾く。弦の振動が店内に広がり、妖精たちが静かに聞く。魔理沙は身を乗り出して、
「すげえ、いい音だぜ。俺も弾いてみたい」
「じゃあ、教えてあげるよ。来い来い、こっちに来て」
俺はカウンターの奥に魔理沙を招き、ギターを彼女に渡す。彼女は少し照れくさそうに受け取り、膝に置く。
「どう持てばいいんだ?」
俺は彼女の後ろに回り、密着して手を添える。俺の胸が魔理沙の背中に軽く触れ、彼女の三つ編みが俺の首筋に当たる。俺は彼女の手に自分の手を重ね、弦の位置を教える。
「ここがE弦、ここがA弦。指をこう置いて、ピックで弾くんだ。ゆっくりな」
魔理沙の体が少し固くなり、頰がさらに赤くなる。
「お、おい、ちょっと近すぎだぜ……」
俺は笑い、
「ちゃんと教えるにはこれくらい密着しないとさ。ほら、指を押さえて。まずはオープンコードからだ。Eマイナー、指をここに」
俺の指が魔理沙の指を導き、弦を押さえる。彼女の指先は細くて、魔法の残り香がする。ギターのボディが俺たちの間で共有され、息遣いが近くなる。魔理沙は照れを隠すように、
「わ、わかったよ。自分でやるぜ」
と言いながらも、俺の手を振り払わない。
俺はさらに密着し、彼女の肩越しに顔を近づけて、
「いい感じ。次はコードだ。Cメジャーからいこうか。親指をネックに、指をこう曲げて……」
弦を弾く音が不揃いに響く。魔理沙は最初、音を外すが、俺の指導でだんだん上手くなる。失敗するたび、
「くそ、指が絡まるぜ」
と悔しがり、俺は
「焦るなよ。ゆっくり押さえて、弦をクリアに弾くんだ」
とアドバイス。ようやく正しい音が出ると、魔理沙は笑顔で
「へえ、面白いなこれ。魔法みたいだぜ」
俺の能力が勝手に働いてか、酒がまた盃に注がれ、俺たちは交互に飲む。密着した状態で教えるのが続き、魔理沙の耳が赤くなる。
「おい、楽……もうちょっと離れろよ。熱いぜ」
俺はからかい、
「照れてんのか? 可愛いな、魔理沙ちゃん」
彼女はプイッと顔を背け、
「ば、ばか言うなよ! ただの熱さだぜ」
そんなやり取りを繰り返し、魔理沙は簡単なメロディーを弾けるようになった。店内はギターの音と笑い声で満ち、妖精たちが拍手する。酒が進み、夜が更ける頃、魔理沙はギターを置いて盃を上げる。
「今日は楽しかったぜ、楽。また来るよ。次は魔法でギターに負けない音を出してみせるぜ」
俺は笑い、
「楽しみにしてるよ。初来店サービスは今回だけだけどな」
魔理沙は照れくさそうに帽子を被り直し、店を出て行った。俺はギターを弾きながら、残った酒を飲む。能力の詳細はわからないけど、こんな出会いが続くなら、それでいいさ。
翌日、また店を開けると、魔理沙が再来店した。
「よっ、楽。昨日教わったギター、もっと練習したいぜ。たのむぜ、先生!」
俺は驚きつつ、笑顔で迎える。
「お、早速か。先生って……冗談だろ? じゃあ、今日は特別にまたおごるよ」
魔理沙は
「本気半分だぜ。魔法の師匠は別にいるけど、ギターの先生はあんただろ」
とツッコミを入れるが、嬉しそうに座る。
そんな不思議な師弟関係が始まった。以降、魔理沙は時折「先生」と呼んでくるようになった。たとえば、数日後、魔理沙がまた来て、
「先生、今日はこのコードの移行が上手くいかねえんだ。教えてくれよ」
と相談してくる。俺は笑いながら教えるんだけど、密着レッスンが続くたび、彼女の照れが少しずつ減っていくのが面白い。魔理沙の魔法話も混ざり、ギターと魔法の融合みたいな実験を一緒に考えるようになった。たとえば、弦に魔法をかけて音を変えるとか。
俺の能力が勝手に酒を出し、一緒に飲む。ギターを手に取り、また密着して教える。魔理沙の照れが昨日より少し減り、楽しげに弾く。そんな日々が続き、魔理沙は店に顔を出すようになった。時には霊夢を連れて来たり、魔法のきのこを肴に持ってきたり。きのこを焼いて食べながら、
「このきのこ、魔法で味が変わるぜ。先生、試してみろよ」
と魔理沙が言う。俺は
「毒きのこじゃねえよな?」
と冗談を返し、笑い合う。
妖精たちも巻き込んでの宴会が、酒呑蔵の日常になる。能力がみんなを楽しく繋げている。詳細はわからないけど、それが俺の酒呑蔵だ。魔理沙との出会いが、幻想郷での俺の生活をより豊かにしてくれた。ギターの音と魔法の火花が、店内で混ざり合う日々が続くんだ。酒呑蔵だ。
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