「ふうくん」が「しーちゃん」をプロデュース!   作:擬態人形P

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第2話 『天使のような笑顔』

難病で生死の境を彷徨っていた大石風は、闘病生活で家族に迷惑を掛ける事に耐えられず、「しーちゃん」の前で死にたいと思ってしまう。

しかし、しーちゃんはアイドルを目指す自分を、将来プロデュースして欲しいと言い、彼に生きる道を示した。

 

5年後、風は車椅子生活でありながらも、初星学園のプロデューサー科に飛び級で入学。

アイドルである姉の存在もあって周りから異質な目を向けられるものの、お世話になっている倉本千奈に連れられ、アイドル科の学び舎を見て回る。

 

ところが、そこで出会った赤髪の「ミコ」と呼ばれる少女とトラブルを起こしてしまい、階段を蹴り落とされてしまう。

大怪我にはならなかったものの、自力で踊り場から階段を下りる事が出来ず、車椅子にも戻れない状態に。

 

責任を感じた「ミコ」が、助けを呼びに行くが、そこにやって来た黒髪の少女の名前を聞いた途端、風は驚愕する。

彼女の名前は栗原シオン………他ならぬ、成長した「しーちゃん」であったからだ。

 

 

 

「栗原………シオン?」

「あ、お姉ちゃんがアイドルやっているから、知っているんですね。でも、まずはこの状態を何とかしないと………。」

「何とかって………うわ!?」

 

まさかの再会に驚いていた俺に対し、シオンは何と身をかがめてそっと抱きしめてくる。

いきなり感じる異性の温もりといい匂いにドギマギしている内に、よいしょ!………という声と共に、俺の上半身を何とか起こしてくれた。

 

「待て、大丈夫か!?俺、160センチあるんだぞ!?」

「じゃあ………私と同じ身長ですね!」

「だったら、体重は男の俺の方が重いだろ!?」

「それくらいは………なん………とか!」

 

そのまま、俺を担ぎ上げようとして失敗。

流石に自分の体重以上の物を持ちあげるのは、無理がある。

 

「すみません!私の右肩に、彼を乗せてくれませんか!」

「分かりましたわ!」

「ミコも手伝うにゃ!」

 

しかし、彼女は簡単にあきらめる事はせず、千奈さんと「ミコ」の協力も得て、自身の右肩に俺の胸を乗せて、左肩に俺の左腕を回して何とか固定する。

介護の方法としては、かなり間違っていると思うが、体格の関係上、こうなるのは仕方ない。

千奈さんがそのまま後ろで俺が落ちないように支える形になり、シオンはゆっくりと慎重に階段を降りていく。

一方で「ミコ」は、先回りして車椅子を下へと運んで行った。

 

「なんだなんだ………?」

「何、アレ………?」

 

騒ぎを聞きつけて様子を見にきた生徒達が、運ばれる俺の様子を興味深げに眺めている。

中には、滑稽だと思いクスクスと笑う奴らもいたが、シオンは気にする様子が無い。

………というか、気にする余裕が無いと言った方が正しいかもしれない。

 

「笑っているなら、手伝ってくれよ………。その、ゴメン………。」

「大丈夫です………!もうすぐだから、安心して下さい………!」

 

あくまで俺の身を案じてくれているシオンの様子に、感謝するとともに、非常に情けない気持ちになる。

彼女はふらつきながらも、何とか階段を下りきった。

そして、「ミコ」が用意して待っていた車椅子を見て………千奈さんの協力を得て、一度俺を階段の一番下の段に座らせる。

手慣れた様子で車椅子にロックが掛かっている事を注意深く確認した後で、もう一度俺を正面から抱きしめるように抱きかかえて、持ち上げる。

今度こそ、ハッキリとした笑い声が聞こえたが、シオンはそれすらも全く気にする事無く、俺を慎重に(若干引きずる感じであったが)運び、車椅子に座らせてくれた。

 

「大丈夫でしたか?」

「………本当にゴメン………。」

「そういう時は、ありがとうって言って下さいね。」

「……………。」

 

俺は、散々異性を抱きかかえる羽目になったシオンの、女としてのプライドを砕いてしまった事を、とても申し訳なく感じた。

だが、彼女はそんな事を全く気にした様子が無い。

それどころか、俯く俺の手を握り、優しい笑顔を向けてくれたのだ。

まるで、天使のような笑顔を………。

 

「……………ね?」

「じ、じゃあ………改めて、ありがとう。あのさ………。」

「あーーー!次の授業始まっちゃうにゃ!?」

「ゴメンなさい!時間が無いので失礼しますね!後は、お願いします!」

 

俺が何か言う前に、シオンは千奈さんに頭を深く下げて、廊下を走って去っていく。

「ミコ」と呼ばれた少女も追いかけようとして………その前に俺を向いて、同じように深く頭を下げる。

 

「さっきは、本当にゴメン!ミコは、猫桜神子(ねこざくら みこ)!プロデュースはゴメンだけれど、宜しくにゃ!」

 

そう言って、「ミコ」………神子も素早く走って行った。

取り残された俺は、2人に名乗ってない事を後悔しながらも、手を伸ばそうとして………痛みが走る。

 

「痛てッ!?」

「早く保健室に向かいましょう。一度見て貰いませんと。」

 

千奈さんに車椅子のロックを外され、シオン達とは反対側へと連れられて行く。

あっという間に出来事であったが、彼女のあの優しい笑顔が………忘れられなかった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

幸いにも、保健室で診て貰った結果、どこも骨折はしていなかった。

只、打撲箇所が多かったので、今日は早退するようにと言い渡されてしまう。

ちなみに診てくれたのは、保険医の見習いの男性の先生だったのだが、やたらねっとりと喋るのが印象的だった。

 

こうして、俺は千奈さんに連れられて、倉本家の別荘へと帰宅する事になる。

 

「千奈さんまで、一緒に早退する事は無かったんじゃ………。」

「車椅子のロックをしていなかったわたくしにも、怪我の責任はありますわ。後は香名江に任せましたし、問題はありません。」

 

こうやって、他人に迷惑を掛けてしまう事を申し訳なく思いながらも、他に出来る事も無かったので、大人しく連れられるまま倉本家の別荘の庭を抜けていく。

 

千奈さんと氷渡香名江さんは、この近くにある別荘から初星学園へと通っている。

その別荘に俺がお邪魔しているのは、理由があるからだ。

実を言うと学生寮は、残念ながらバリアフリーがまだそこまで整っていない為、車椅子での生活が難しい。

更に、相部屋を使用すると同居人の負担が大変な事になるので、簡単に利用する事が出来ないのだ。

その為、十王邦夫学園長と話した時に、飛び級で外部入学する際に倉本家の別荘を利用する事を条件とされた。

 

「思い出しますね………1ヶ月前、この庭で千奈さん達に出迎えられて、不服だった俺は、いきなり拗ねてしまったんですっけ………。」

 

千奈さんは笑顔で、「わたくし達を家族だと思って接して欲しい」………と出迎えてくれた。

でも俺は、他の入学生と同じ条件で無かったために機嫌が悪かったので、「障碍者だからと言って、辛さを理解出来ると言って同情するんですか?」………と非常に失礼な事を言ってしまったのだ。

 

「でも千奈さんは、俺のバカな言葉に対し、こう言いましたね。『わたくしが、貴方を理解していると思うのは、貴方に対して大変失礼です。』………って。」

「はい………覚えてくれているのですね。」

「当然です。その後、貴女はこう言ってくれましたから。」

 

 

『けれども、夢を叶える為にこの道を歩もうとする貴方の手助けを、本気でしたいと思っていますわ。その感情に嘘を付く事もまた、失礼だとわたくし達は感じるのです。』

 

 

生死を彷徨う程の俺の障碍の重さは、他人には簡単に理解できないだろう。

むしろ、自分の事のように理解できると豪語する奴は、信じられない。

でも………千奈さん達は理解出来ないと分かったうえで、純粋に俺を助けたいと思ってくれている。

その想いを無下にするのは、それこそ俺が千奈さん達に失礼なのだと、その場で学ぶことが出来た。

 

病室で過ごしていた俺の世界は、まだまだ狭い。

千奈さんのような人間がいる事を、しっかり理解しないといけなかった。

 

「今日も歩行訓練は、なさいますか?」

「毎日しないと、意味がないですから。………只、その際に1つお願いをしてもいいですか?」

 

故に、俺は千奈さん達には、素直に甘える。

彼女達にお願いしたい事が、どうしてもあったから………。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

歩行訓練は、倉本家の別荘の中に用意された千奈さん用のレッスンルームの一角で行う。

体操の平行棒のような手すりを用意し、そこに腕を引っ掛けて少しの距離を歩くのだ。

一見すれば簡単な事かもしれないが、足に筋肉の無い俺にしてみれば、険しい山を登るような辛さ。

また、成長期に歩く事が出来なかった事も有り、足に「歩く」という情報を一からインプットしなければならない工程もある。

その為、温度管理のされている部屋なのに、毎日汗だくになってしまう。

 

「ぜえ………ぜえ………くそっ………今日は………全然ダメか………。」

 

実は、この1ヶ月………数メートルほどの平行棒の端から端まで歩けた事が、一度も無い。

多分、この15年の人生で数えても、全く不可能では無いだろうか。

大体半分くらいまで歩ければ、とても調子が良いと言える程。

その調子の良さも長続きせず、疲労度によっては「立つ」という工程すら出来ない。

冷静に考えれば、全身を痛めた今日は、全く持って調子の悪い日になる。

それでも、毎日続けなければ、只でさえ劣っている筋肉が鍛えられるわけも無く………俺は、病院のリハビリの時から、ずっと継続しているのだ。

 

「あまり無理をされては、かえって明日以降に響くだけです。今日はこの辺りでやめておきましょう。」

「すみません………いつも負担を掛けてしまって………。」

 

倉本家で補佐をしてくれているのは、帰宅した後の香名江さん。

千奈さんのお願いだからと言って、床にへたり込んだ俺を抱え上げて車椅子に乗せてくれる。

シオンに比べれば、かなり慣れた手付きであり、ここは流石メイドと言えた。

そうして栄養ドリンクを飲んでいる内に、白の半袖に緑の半ズボンという動きやすいレッスン着に身を包んだ千奈さんが、タブレットを持って来てくれる。

 

「では………説明しますわね。初星学園のページを開いたら、このページに飛んで風さんが学園長から頂いたパスワードを入力してください。」

 

帰宅した際に、千奈さんにお願いした事。

それを叶える為に彼女が説明してくれているのは、アイドル科の生徒の個人情報が示されているページの閲覧方法だ。

プロデューサー科の生徒は、その立場上、プロデュース対象となる生徒のパーソナルデータを、限定された範囲ではあるが見る事ができる。

勿論、閲覧画面に進む為に、パスワードは三重に入力しないといけないし、更に顔認証も必要とされる。

更に言えば、閲覧履歴は必ず残る為、隠れて悪さが出来ない仕組みだ。

 

「当たり前だけれど、相当厳重ですね………。入力は………と。」

「何か………打ち込みがキレッキレに手慣れていますわね。」

「アイドルの姉の影響ですね。プログラミングが得意で、よくベッドで寝込んでいた俺に、学習用のプログラムを作ってくれました。」

「わたくしには、とんちんかんな内容ですが………良いお姉さんですわね。」

 

正直に言えば、俺にはもったいないくらいの、出来過ぎたねーちゃんだ。

只、俺を大事にしてくれる故に、自分をおろそかにする部分があった為、逆に俺がねーちゃんを心配する事も多かった。

そういう点では、シオンのお姉ちゃんと似たもの同士とも言えるが………。

 

「よし、入れた。えっと………栗原シオン………は………。」

「あの時、助けてくれた方ですか?彼女ならば、アイドル科の1年1組に所属しています。」

「流石学生会会長………しっかり覚えていますね。えっと………。」

 

 

《栗原シオン(くりはら しおん)》

現年齢:15歳

初星学園アイドル科1年1組(外部入学)

出身:群馬

身長:160センチ

体重:41キロ

血液型:B

スリーサイズ:78/55/79

利き手:右

趣味:アイドルテレビ鑑賞・アニメ鑑賞

特技:モノマネ

憧れのアイドル:工藤忍

憧れの理由:才能が無くても努力でトップアイドル級になったから

歌唱力:F

表現力:F

ダンス力:F

 

 

顔写真と共に、本当にデータが赤裸々出て来た事に、若干の申し訳なさすら覚えてしまうが、これはアイドル科として入学した生徒達の覚悟なのだろう。

順に読み取っていくと、憧れのアイドルが工藤忍(くどう しのぶ)さんなのが、意外に思えた。

自身の姉を憧れに据える必要は無いと思うが、世間では「最高の凡人アイドルの1人」に据えられている忍さんをわざわざ選ぶという事は………?

 

「「才能が無くても」………?」

「あまりこのような事は言いたくは無いのですが………入学当時の総合成績はあまり良くないみたいですわね。各アイドルに必要な能力がFとありますが、一番下はGです。」

 

少々顔をしかめた千奈さんの説明を聞き、納得がいく。

考えてみればシオンは、俺ほどではないが病弱だったのだから、身体的な能力が低いのは仕方ないのかもしれない。

只、千奈さんは顔を曇らせたまま説明を続ける。

 

「それ故に、学園では「出来損ないの妹」と呼ぶ方々もいるらしいのです。」

「陰口は、どこでも出ますよね………。」

 

悪口の類に慣れてしまっている俺は思わず溜息をつく。

しかし、ここで千奈さんが俺の正面に回って膝をついて屈み、顔を覗き込んで来た。

 

「………聞いても宜しいですか?」

「はい………?」

 

その顔は真剣その物で、少しだけ息をのむ。

 

「風さんが、シオンさんをプロデュースしたいのは、何か理由があるのですか?」

 

告げられた言葉を聞き、俺は思わず右手で頭をかく。

ここまで行動をすれば、シオンに興味があると誰だって分かるだろう。

俺は、かいつまんで説明をする。

 

「5年前………病室で約束をしたんです。俺がシオンを将来プロデュースするって。」

「それ………本当ですの!?」

 

一転目を輝かせて食い付いてくる千奈さんに、自信なさげに頷く。

シオンはそんな約束………もう忘れているかもしれないからだ。

大体、あの約束自体、生きる目的を見失って行った俺を励ます為に、機転を利かせただけの可能性も高い。

仮に覚えてくれていたとしても………だ。

 

「俺のような車椅子のプロデューサーは………。」

「確かめましょう!」

「ちょ!?千奈さん!?話を聞いてました!?」

 

思わず頬ずりするように両手を自分の顔に当て、目をキラキラさせながら立ち上がる千奈さんに、俺は思わず右手を伸ばしてツッコミを入れてしまう。

しかし、彼女は優しくにこやかに微笑むと、また膝を付いて俺の顔を見て言う。

 

「では、敢えて意地悪を言わせて下さい。風さんは、今日会ったシオンさんの何処に魅力を感じましたか?歌も表現力もダンスも未熟な彼女に。」

 

千奈さんとしては珍しく人を見下すような言葉であったが、だから「意地悪」なのだろう。

俺はまず、ユーモアを交えてこう答える。

 

「仮にダントツの冴えない劣等生だったとしても、トップアイドルになれる素晴らしい見本が俺の目の前にいます。それに………。」

「それに………?」

「悪意のある嘲笑の中で俺を助けてくれたシオンは、自分の事を全く気にせず、優しく微笑みかけてくれました。その時、彼女が天使に見えたんです。」

 

メンタルの強さもさることながら、人を気遣える優しさがある。

あの笑顔が忘れられないからこそ、俺はシオンに興味を………いや、プロデュースしたいと思えた。

 

「………私の先生を始め、先人のプロデューサー様達が言っていました。プロデューサーとは、アイドルと共に地獄の果てまで付き合う物だと。」

「5年前に、その地獄から手を引っ張ってくれた女の子なんです。だから………そうですね、ハッキリ言います。俺は彼女にもう一度会って、あの時の答えを確かめたい。」

 

俺のしっかりとした言葉に、千奈さんは物凄く嬉しそうな顔でぴょんぴょん跳ねると告げる。

 

「では、明日の放課後に探しに行きましょう!愛の告白………楽しみですわ~!!」

「いや、そういうのじゃないですって!?」

 

 

こうして俺は、栗原シオンに会いに行く事を決めた。

5年前の約束の是非を、確かめる為に。




この物語は、主人公である大石風さんが車椅子生活である事もあり、健全な人と同じ生活を送れない彼の苦悩や苛立ちも、1つのテーマとなっています。

ニコニコ動画に投稿していた私の作品を見て下さった方ならばご存じかと思いますが、私自身もうつ病を患い、苦悩した時期があります。
大分マシになっているとはいえ、今も完全に回復しているわけでは無いので、日常生活におけるハンデという物は、少しばかり知っているつもりですね。

風さんは、自身の辛さを理解したつもりでいて欲しくない…という、人によって様々な解釈が出来る感情を持っていますが、その1つのアンサーを今回倉本千奈さんが答えています。
勿論、千奈さんの答えが完全に正しいとは限りませんが、そのような人がいる事を、風さんは学んでいきます。

余談ですが、皆に好かれやすい千奈さんは言霊の力が強い為、風さんの先輩役にうってつけだなぁと思い、序盤における導き手として活躍して貰っていますね。
物語において、このような立ち位置の人物は、様々な意味で動かしやすい特徴を持っているので、感謝しかありません。

さて…次回の投稿は、12月8日の予定です。
とりあえず、3話までは一気に投稿していきますね。
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