「ふうくん」が「しーちゃん」をプロデュース!   作:擬態人形P

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第3話 『あの時言えなかった言葉』

トラブルがあって、階段の踊り場に倒れ込んだ大石風は、栗原シオンに助けられる形で、何とか下まで降りる。

周囲の人々の嘲笑があったがシオンは気にする様子も無く、むしろ申し訳なさを覚えた風に対し、優しく微笑んで安心させてくれた。

 

打撲が多かった故に早退した風は、歩行訓練などを行う為に、泊まらせて貰っている倉本千奈の別荘で、アイドル科の生徒のパーソナルデータを確認する事に。

シオンについて調べた事で、千奈に経緯を聞かれ、彼女に昔生きる道を示して貰ったという過去を語る。

 

だが、シオンがその時の約束を覚えているか不安に陥る風。

ここで千奈が、だったら確かめればいいと励ましてくれたので、勇気を持ってスカウトしに行こうと決めるのであった。

 

 

 

翌日のプロデューサー科での授業を終えた俺は、千奈さんに車椅子を押される形で、再びアイドル科にやって来た。

相変わらず様々な特異性を持っている事から、ヒソヒソと噂話をする生徒は多いが、慣れているので気にはならない。

むしろ、シオンが今どこにいるかの方が、気になってしまっていた。

 

「本当、放課後はどこにいるんでしょうかね………?」

「クラスが分かっているのならば、そこにいる方々に聞くのが早いですわ。猫桜さんなら、何か知っているかも。」

 

確かに昨日、シオンと一緒にいた猫桜神子なら、彼女の行方を知っていそうである。

とはいえ、あんまり騒ぎを起こしたくは無いので、神子が教室の外にいる事を願うしかない。

そう言っている内に、アイドル科の1年1組の前まで来た。

 

「あ………いましたわ。」

 

ここで、千奈さんが俺に囁くように教えてくれる。

視線を辿って見れば、帰り支度をして教室から出た所で、何やら悩んでいる顔をしている赤髪のショートボブの小柄な少女………神子の姿が。

だが、こちらに気付いた事で、全身を使って大袈裟に引くようなアクションを取る。

 

「にゃっ!?2人して、怪我した部分の慰謝料を請求しに来たの!?」

「違うって………。ちょっと聞きたい事があって来たんだ。」

 

冷静に考えれば、実質同い年の俺はともかく、学生会会長の千奈さんにため口であるのは結構失礼だと思ったが、無理強いをしたところで仕方ない。

周りの視線が集中する前に、昨日助けてくれたシオンにお礼がしたいと告げ………そこで、自己紹介をしていなかった事を思い出し、慌ててする。

 

「悪い、最初に言っておくべきだった。俺は大石風。一応プロデューサー科の1年生だ。」

「大石………もしかして、大石泉さんの弟!?」

「そうそう。噂話で大体の事は知っていると思うけれど、こちらこそ宜しく頼む。」

 

やっぱり、ねーちゃんは人気者なんだなぁ………と感心した所で、改めて神子にシオンの居場所を聞く。

只、神子は少しだけ嫌そうな顔をして、俺を値踏みするように聞いてくる。

 

「風は………シオンをスカウトするつもりなの?」

「そこは、シオンの答え次第だ。」

「えっと………ゴメン、ハッキリ言うね。………車椅子なのに?」

 

重い言葉だと、俺は思った。

遠慮がちに神子は言っているが、車椅子のプロデューサーでは、アイドルに迷惑を掛けてしまうのでは無いか?………と疑念を抱いている。

 

結論から言えば、迷惑を掛けてしまうだろう。

どんなにしっかり振る舞ったとしても、持ってしまっているハンデを完全に克服する事は、不可能に近い。

 

昨日の様子を見る限り、神子はシオンと比較的仲良くしていそうだった。

だから、彼女の身を案じて、俺を警戒しているのだ。

 

思った以上に神子は優しい性格なんだな………と感じた俺は、彼女に誠意を尽くす。

 

「そこも全て含めて、シオンに判断して貰う。絶対に無理強いはしねーよ。」

「でも……………。」

「友達を案じてくれるのは、いい事だけどよ。友達から選択肢を奪う真似は、しないで欲しいんだ。」

 

神子に深く頭を下げる。

色々あるが、一応、俺も「プロデューサー」という選択肢だ。

友達想いの発言とはいえ、それを無条件に奪うのは、流石に良くない。

 

しばし俺の考えを反芻していた神子は、やがて小さく頷く。

 

「分かったにゃ………ちょっと待ってて。」

 

彼女は教室の中に戻ると、1人の少女の腕を引っ張って来る。

………と言っても、その少女はシオンでは無かった。

 

髪は栗色のロングヘアーで、アホ毛が生えているのが特徴。

小柄な神子が隣にいるのもあるが、明らかに女性の中では長身の部類に入る。

丸眼鏡を着用しており、ずれ落ちそうになっているそれを慌てて直していた。

制服は、上が紫色の長袖カーディガンと白の長袖のブラウス。

下が初星学園のスタンダードである、紺色と青系のチェックのスカート。

かなり整った顔立ちをしており、モデルのように美人だと思えた。

只、その顔は突然の出来事に対し、明らかに困惑している様子だ。

 

「この子………シオンと一番仲良しで、今日も一緒に話をしていたから、どこにいるか知っていると思うにゃ。」

「ぁ………う………え………。」

「ほら、挨拶!」

「ひ、ヒイイイイイイ!?」

 

その長身の少女は、俺や千奈さんを見て、いきなり金切り声を上げる。

突然の反応に、2人で目を見開いて驚いてしまったが、神子を始め周りの生徒達は、こちらを見ても溜息をつくだけだ。

口をパクパクさせている所を見ると、どうやら人付き合いが苦手な性格であるらしい。

それも含め、既に周りにも知れ渡っているのかもしれない。

 

「ゴメンなさいね、いきなり呼び出してしまいまして。貴女に危害を加えるつもりはないので、安心してください。」

「でも………でも………!?」

「とりあえず、深呼吸して落ち着いてくれないか?俺はともかく、千奈さんは付き合ってくれているだけなんだ。怖がらないでくれ。」

「は、はひィィィィィッ!分かりましたっ!」

 

2人掛かりで説得を行った事で、ようやく長身の少女は、荒く深呼吸をして心を落ち着かせる。

神子が呆れたように背中をポンポンと叩いた事で、少女はようやく落ち着き、俺や千奈さんを見て………意を決して叫ぶ。

 

「ぼ、ボクはっ!五十鈴古々菜(いすず ここな)と申しますっ!以後お見知りおきをーーーッ!!」

 

頭を深くというか、直角90度に下げた少女………古々菜の姿に、俺は相当重症だと感じ、思わず頭を抱えてしまう。

ここで、流石にカバーしないといけないと感じたのか、神子が状況を改めて説明してくれる。

 

「古々菜は多分………大石泉さんの弟っていう肩書きに緊張しているんだと思うにゃ。そうでなくても、倉本千奈会長もいるし………。」

 

成程………と思わず俺は、納得してしまう。

千奈さんにため口を張れる神子の肝が据わっているだけで、古々菜の反応がむしろ普通なのだ。

確かに、トップアイドル級のねーちゃんの弟が、プロデューサーとなってやって来たと言われたら、普通は緊張してしまうだろう。

 

「本当にゴメン………怖がらせたみたいで。」

「い、いえ………サイン下さい!!」

「俺はそんな立派な存在じゃねーから!?………その、神子から聞いていると思うけど、案内してくれないか?………シオンの所に。」

 

俺は古々菜にも頭を下げながら、必死に頼み込む。

その言葉で目的を思い出した彼女は、思わずもじもじしながらも控えめに頷く。

 

彼女が俺達を案内してくれたのは………この校舎の屋上であった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

初星学園高等部の校舎の屋上は、簡易な公園のような作りだ。

座る為のベンチがあれば、少しであるが花壇などもある。

そんな憩いのような場所で………シオンは、アイドルとしての自主練をしているらしい。

 

「シオンさんは………優しい性格で、ボクなんかにも、優しく接してくれるんです………。アイドルのお姉さんに負けないくらい………親切な人で………。」

 

エレベーターで屋上に昇る途中、古々菜の独白を俺と千奈さんは聞いていた。

神子はどこか行かないといけない場所があるらしく、クラスの前で別れている。

相変わらず古々菜は緊張から、手と足が一緒に出るような感じであったが、それでも最初に比べれば、何とか落ち着いてくれた。

 

「アイドルとしても真面目で………、こうして練習しようって、誘ってくれたんです………。ボクは、みんなの前で歌うのが恥ずかしくて………断ってしまったんですけれど………。」

 

彼女の説明で、今のシオンの状況は把握できた。

俺は止まったエレベーターの出口で息を飲むと、扉が開くのを待つ。

 

「ここが……………。」

 

目の前に広がった景色を見て、思わず感嘆の声が漏れる。

学舎の屋上は、夕焼けに照らされて花々が輝いており、綺麗だった。

その美しさを一目見ようと集まっていた生徒達は、車椅子の俺に視線を集める。

 

だが、1人だけ俺に全く気付かない少女がいた。

必死に空に向かって歌を歌っている、黒髪の少女………栗原シオンだ。

 

「準備は宜しいですか?」

「はい………。」

 

心臓が高鳴るのを感じながらも、千奈さんに車椅子を押して貰う。

一応、自分で車椅子をこぐ事も可能であったが、会話前に力を使って荒い息を吐くのもどうかと思ったので、ここは任せる。

 

車輪の音と共に近づいて行った事で、シオンの方も俺達に気付く。

最初は、古々菜を見て手を振ったが、やがて俺や千奈さんに気付き、目をパチクリさせる。

 

「貴方は………!?大丈夫だったんですね!良かった!」

 

相変わらず車椅子の俺に対し、眩しい笑顔を向けて心配してくれるシオン。

その姿を見て、俺は少し安堵する。

あの時の天使のような笑顔は、間違っていなかったのだから。

 

「どうかしましたか?真剣な顔をして………?」

 

俺の表情に気付いたのだろう。

シオンは、心配そうな顔をする。

多分、昨日転倒した際に、何か後遺症があったのでは?………と思っているのかもしれない。

 

「変わらないな………その親切心………あの頃からずっと。」

「え………?」

 

シオンの前まで来た俺は、思わず声を漏らした。

「あの時の優しい女の子」でいてくれた事が、少しだけ嬉しかったのだ。

そして、真っすぐな瞳で少女を見上げると………俺は意を決して告げた。

 

「栗原シオン………いや、「しーちゃん」。約束通り、君をプロデュースしに来た!」

 

言った後で、ストレートで端折り過ぎたか?………と少々後悔した。

というか、また自己紹介を忘れている………という事に、後になって気付く。

千奈さんが昨日言っていた「愛の告白」では無いが………仮にそうだとしたら、大失敗と言える選択肢だろう。

 

しかし………彼女はそれで、「分かってくれた」。

 

「もしかして………「ふうくん」!?」

 

口に両手を当て、驚いたように目を見開き、俺を見つめるシオン。

だが、しばらく固まっているその姿は、明らかに動揺しているのが見て取れる。

その理由を………俺は真っ先に理解したつもりだった。

 

「やっぱり………こんな格好で言っても………締まらないよな。」

 

思わず俯いてしまい、頭をかいてしまう。

 

5年前、自身をプロデュースして欲しいと言ってくれた少年は、約束通り来てくれた。

そこまでは、王道のストーリーで感動ものだ。

だが、素敵な王子様であるならまだしも、俺は皆の笑い者である車椅子の男。

体も細くて、自力で歩行する事は出来ない。

とてもじゃないが、プロデュースする立場としては、格好がつかない。

 

「まあ、分かっていたよ。でも………シオンのお陰で、あの時からまだ生きたいと思えたから。だから………お礼を言わせてくれ。………ありがとう。」

 

完全玉砕。

それでも後悔は無い。

満足な気持ちと共に、その場を去ろうと千奈さんにお願いしようとした所で………急に腕を掴まれる。

 

「し、シオン!?」

 

ビックリする俺に対し、彼女は遠慮なく俺の腕や足、更には身体のあちこちを触り、最後に頬を撫でてくる。

いきなりの奇行を理解出来なかった俺であったが………、いつの間にか至近距離で俺を見つめていたシオンは………何と涙を流していた。

 

「ふうくん………肉、付いたんだ………。」

「え、まあ………5年前のガリガリの時に比べれば………。」

「良かった………本当に良かったぁ………!」

 

そのままポロポロと彼女は、安堵の笑みを見せながら泣き始める。

 

ああ、そうか………。

5年前の俺は、それほど酷かったんだな………。

そしてシオンは………長い闘病生活の苦しさを知っているから………。

俺が「まだ車椅子である事」に失望したわけじゃなくて………「ここまで回復出来た事」を喜んでくれているのだ。

 

「本当に………優しいんだな、シオンは。」

「ねえ、ふうくん………。」

 

シオンはそっと右手を俺の眼前にかざすと、小指を伸ばす。

その意味を、俺は即座に理解出来た。

彼女の知りたい言葉を。

あの時チューブで繋がれていた為に、ずっと話せなかった言葉を。

 

「………俺は将来、しーちゃんのような人をプロデュースしたい。苦しむ人の苦しさを、分かってあげられるしーちゃんを………。」

 

俺は5年前の約束と共に、右手の小指をシオンの小指に絡めた。

 

「約束しようぜ、ゆびきりげんまん。」

 

しばし流れる静寂の時間。

優しい風が流れた気がする。

何となくだが………お互いがそれぞれ思っている事が分かった気がした。

長い闘病生活を、過ごして来た者同士だからかもしれない。

大袈裟に聞こえるかもしれないが、この瞬間………俺達2人は友人でも恋人でも無く………互いが互いの半身のように感じた。

 

だから、もう緊張感は無い。

大丈夫だという確信が、「俺達」の中にあった。

 

「………改めてハッキリと言わせてくれ。今の「シオン」………君をプロデュースしたい。」

「ふうくん………。うん、私も今の「風君」と一緒に………トップアイドル、めざしたい。」

 

『じゃあ、新しく………『約束』だな(だね)!』

 

俺達は、今度はしっかりと結べた小指同士を見せ合い、優しい笑顔を見せ合う。

案内役を担ってくれた古々菜は驚いたように口に手を当てており、千奈さんはうっとりとした表情をしながら両手で頬ずりしていた。

 

 

こうして、俺達のプロデューサーとアイドルとしての誓いは交わされる事になる。

意外にも今年第一号の、担当プロデューサーと担当アイドルの誕生瞬間であった。




デレステのコミュを読んだ方は分かると思いますが、大石風さんと栗原シオンさんは共に幼い頃から体が弱かったという共通点があります。
シオンさんは、成長して抗体が出来た事で人並までには回復しましたが、それでも病弱だった頃の辛い想いは、ずっと抱えているでしょう。

だからと言ったら何ですが…風さんとシオンさんは、お互いがお互いの辛さを理解し合えるという希少な関係となっています。
個人的に理解者が出来る事は、互いにとって大きなアドバンテージになると感じていますね。
勿論、デメリットも確実に生まれるでしょうけれど、それは後の話でテーマになると思います。

確かなのは、風さんとシオンさんは、プロデューサーとアイドルとしての関係を結ぶ事で、スタートラインに立てたという事実。
ここから、2人の二人三脚でのトップアイドルを目指す道が始まります。
どんな困難が待ち構えており、どのようにして乗り越えるか…これは、2人に限らず、全ての登場人物に言えるのかもしれませんね。

序章の序章が終わった事で、次回はとりあえず1週間後を目途に投稿したいと思います。
ストックはある程度あるのですが、一気に投稿するとあっという間になくなってしまうので…。
申し訳ありませんが、ご了承下さい。
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