少女型兵器が戦う世界でTSする話【完結】   作:畑渚

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責務

「おいおい、そっちは人間用だぞ」

 

「あ、そうだった。すみません」

 

 つい前までの癖で分かれ道を右に曲がろうとしてしまった。俺は振り返り、左の道へと進む。

 

 LFと人間の宿舎は分けられている。理由は過度な接触を避けるためだ。

 人間からしてみれば年端もいかぬ少女だ。切り捨てるべき駒を相手に情が湧いてはいけない。それに男所帯の軍となれば、いくら機械といえど少女の見た目は問題になりかねない。

 

 実際に、俺の後輩に任務中のLFに手を出したバカがいたが、そいつは思い切り股間を蹴り上げられて白目を向いて倒れていた。

 

 とまあ、挙げればキリがない理由があり、LFは左、人間は右に進むことになっている。

 

「……暗いな」

 

 見えないわけではない。むしろ高性能カメラと各種センサーによって、見えすぎるほどだ。しかし、人間の宿舎と比べて照明の数が明らかに少なかった。

 

「っと、ここか」

 

 自分の名前が書かれたベッドを発見する。簡易性二段ベッドの上の段だ。俺は少ない荷物を下ろし、近くのベンチに腰掛ける。

 しばらく心を無にして休憩していたが、ふと顔を上げたときにある名前が目に入った。

 

 ヴァイス

 

 どうやら彼女のベッドらしい。俺は好奇心から近づいてみることにした。

 

「彼女らしいな」

 

 最低限の荷物が整頓されており、ベッドメイクも完璧の一言に尽きる。そんな中、荷物の最上段に鈍く輝く物を見つけた。

 

「これは……勲章?」

 

 手入れはされているのだろうが、それ以上に傷がひどい。まるで戦地の中から拾い上げられたようだ。

 でもこの勲章は人間用のはずだ。LFである彼女が手に入れたとは考え難い。

 

 そして何より、見覚えがあった。

 

 そっと裏返す。そこには、くっきりとナイフで刻み込まれたマークがあった。

 俺が生前、自分のものだとわかるように付けた、お気に入りのマークだ。

 

「何をしているの」

 

 背後から急に声が聞こえ、思わず勲章を背に隠し振り返る。

 

「見ない顔ね。新人?」

 

「は、はい。ユーディといいます!」

 

「そう」

 

 背後に立っていた人物、ヴァイスはふっと目を細めた。

 

「配属直後に他人の物漁りとは、感心しないわね」

 

「し、失礼しました」

 

 俺は勲章をそっと荷物の上に戻す。

 

「ありがとう。それは大切なものだったの」

 

「大切なもの、ですか」

 

 ヴァイスは四肢からノイズのような駆動音を鳴らしながら、こちらへと近づいてくる。

 

「これは私の指揮官が指揮官だった証よ。これが……これだけしか」

 

 勲章を手に取り、顔を下に向けるヴァイス。それはまるで、泣いているようだった。

 

 あの日ドゥエラーの波に呑まれた俺は、原型を留めないほど損傷していたと聞いた。胸につけていた勲章くらいしか、形に残るものがなかったのだろう。

 

「それより、ちょうどよかったわ。ユーディと言ったわね」

 

「は、はい」

 

「うちの部隊の新人だと聞いてるわ。よろしく」

 

「よろしくおねがいします」

 

 濁った瞳がこちらに向き、微笑む。差し出された手を握れば、ざらざらと手入れのされていない人工皮膚の感触がした。

 

 

 こりゃ思ったより重症かもしれないな

 

 

 力のない握手をしながら、俺は思考の端でそんなことを考えていた。

 

 

+++

 

 

 挨拶を終えた後、俺はヴァイスにつれられ食堂に向かっていた。といっても人間がつかうような食堂ではなく、素体のバッテリー補給のための充電スポットだが。

 

「あ、ヴァイス隊長。こんな時間にめずらしー」

 

「アリス。あなたも補給中だったのね」

 

「まあねー。それで、隣のかわい子ちゃんは誰?」

 

「紹介するわ。うちに配属になったユーディよ」

 

「ユーディちゃん?よろしく~!」

 

「あぁ、よろしくおねがいします」

 

「そんな堅苦しくなくていいよ~」

 

 眼の前で天真爛漫に笑顔を見せる彼女。彼女もまた、俺の部隊のメンバーだったアリスだ。

 アリスの様子は、ヴァイスとはまるで真逆だった。快活で、明るい目をしており、髪色も明るくなっている。まるでいにしえのギャルのような言動。いったいどこで覚えたんだろうか。

 

 

 こっちも重症だな。

 

 

 一見問題ないように見えるアリス。だが、問題ないのが大問題だった。

 彼女は、言葉数が少なく、目元を前髪で隠し、誰からも距離を置く、物静かなLFだったはずだ。

 

 そんな彼女の性格モデルの根本を揺るがすような大事件。そんなものが直近に起きたとすれば……

 

 

 心当たりしかなかった。

 

 

 とにかく、他のメンバーも早めに状況を見る必要がありそうだ。

 

「それより早く補給しよ?」

 

 アリスが差し出してきたのは、細い管だ。シーシャを想像してくれればわかりやすいか。

 

 脳内のマニュアルにそって口に加えれば、喉奥の充電ポートがぱかりと開き、管が接続される。視界の端に電池マークとパーセンテージが拡大表示され、充電状況を知らせてくれる。

 

「そういえばユーディちゃんはさ」

 

「ん、なに?」

 

「新型LFなんでしょ?私たちとどこが違うの?」

 

 人間の脳みそが入っているとは言えまい。

 

「実は博士からあまり聞いてないんだよね」

 

 嘘ではない。実際に説明は受けてない。

 

「ふーん」

 

 アリスの明るかった目の奥に、闇が見えた気がした。

 

「まあいずれわかるか。じゃあ私補充終わったから先行くね」

 

「あ、うん」

 

 ばいばーいと手を振るアリスに手を振り返し、ほっと胸を撫で下ろす。

 明るい表情の裏でなにか探りを入れられているような気がして、落ち着かなかったのだ。

 

「私も終わったわ。先に戻ってるわね」

 

 ヴァイスもそう言い、去っていく。

 

 独り残された食堂で、俺は思考を巡らせていた。

 指揮官の喪失というのは部隊に想定以上の被害をもたらしているらしい。他のメンバーにはまだ会えていないが、大なり小なり似たようにダメージを受けているに違いない。

 

 そうとなれば俺ができることはただ一つだ。

 

 

 ドレッド部隊を立て直し、メンバーであるLFを正常化。再び前線を任されるような立派な部隊にする。

 

 

 それが俺の目標であり、責務だ。

 

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