少女型兵器が戦う世界でTSする話【完結】   作:畑渚

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前線任務

 宿舎でくつろいでいたところで、ヴァイスがなにやら分厚い書類を抱えて帰ってきた。

 その顔は疲れ切っており、いつもより生気が見られない。

 

 話しかけないという選択肢は俺にはなかった。

 

「掃討任務ですか」

 

「ええ。ユーディにとっては初の前線任務になるわね」

 

「ちょっと資料を見ても?」

 

「ええ、構わないけれど」

 

 半ばひったくるようにヴァイスからその紙束を受け取る。

 そこに書かれていたのは、明らかに後方部隊の度を超えた前線任務の一端が描かれていた。

 

「ヴァイスさんはこれを受けると?」

 

「受けるも何も、私たちは上からの指示を遂行するだけよ」

 

「でもそれだとしてもこれは、あまりにも……」

 

 話の筋が通っていないわけではない。そもそもうちの基地全部隊を投入する作戦のようだし、規模にあわせて投入される指揮官の数も多い。

 しかし、俺達が任される戦線は、指揮官がいないLF部隊には明らかに荷が重すぎる。まるで、意図して戦線の薄い部分を作ったかのような配置にしか見えない。

 

「私、軍団長に抗議してきましょうか」

 

「やめなさいユーディ」

 

 肩をがしりと掴まれる。その手は、震えていることを隠すかのように力が過剰にこもっていた。

 

「私たちはLF。与えられた任務をこなす機械よ」

 

「ですが……」

 

「いいから、はやく支度をはじめなさい。もたもたしている暇はないわよ」

 

「……はい」

 

 そう頷くしかなかった。俺は今では、一介のLFに過ぎない。

 部隊配置に意を唱えるような権限はないのである。

 

 ふと去り際にヴァイスの方を再度見る。

 彼女は、大事にしていた勲章を自分の胸につけているところだった。

 

 ヴァイスとてバカではない。きっとこの任務の本質に気がついているはずだ。その上で、覚悟を持ってこの任務に挑むということだろう。

 

 隊長の覚悟が決まっているというのに、俺は変に考えこんで、なんて情けないんだ。どんな見た目になっても、中身は俺のままなんだ。漢らしく、覚悟して貫き通せ。隊長に泥を塗るような真似は決してしない。

 

 俺はヴァイスにはそれ以上何も告げずに、荷物をまとめて宿舎を立ち去った。

 

 

+++

 

 

「どういうことかね、軍団長殿」

 

「アザレア博士が直々に訪ねてくるとは珍しい。今、茶でも淹れさせよう」

 

「結構。もう一度聞く。なぜ新型LFを前線に送るような真似を?」

 

「なに、こちらも人手不足でね」

 

 背中を向けた軍団長からそれ以上の意図は聞き出せないのだろうと、アザレアはため息をついてソファに腰掛けた。

 タイミングよく、秘書が茶を持ってきてくれる。久々の研究所外の空気に喉が乾いていたアザレアは、ゆっくりと茶を啜る。

 

「そもそも博士、最初からおかしかった話なんだ。新型LFの実働試験というのなら、実戦の多い前線部隊が良いはずだ」

 

「新型といえどあのLFはまだ未完成。それを変数の多い現場には向かわせられないというわけだよ」

 

「博士のようなお方が、そんな完成度の低いものを?」

 

「私を買いかぶりすぎだよ、軍団長。それにあれには、特殊な物が必要不可欠だったから開発も遅れていたんだ」

 

「その特殊な物、とは?」

 

「君ならもうわかっているのだろう?」

 

 軍団長は頭を抱え、秘書に席を外すように指示を出す。

 

「都合の良い物が入ったあんたは、自らその回収にあたったというわけか」

 

 軍団長の頭にあの奇妙な回収任務が浮かぶ。まるでそれが正解かというように、博士は口角を上げた。

 

「まさしく理想的な物だったよ、彼は。私が長年求め続けてきたものだ」

 

「人をそんなふうに呼ぶな。研究倫理はどうした」

 

「人類の勝利のためなら些細なことさ」

 

「あいつの意思はどうなる!」

 

「彼の?死後の検体登録にサインしたのは彼自身だよ」

 

「ぐっ」

 

 彼を知っているからこそ、彼がサインしたという事実を受け入れられてしまう。

 軍団長は拳を頭に当てて考え込む。

 

「そんなに深く考え込まないでくれたまえ。それに、成果は十分に出ている」

 

「例の掘削任務中の、指揮系統書き換えのことか?」

 

「ええ、これは可能性の話だと聞き流してもらいたいのだが、もし人の手を離れたLFのみの部隊ができたら、補給や睡眠を人としてではなくLFとしての限界値まで減らせるとしたら、それは軍にとって大きなメリットだと思わないかい?」

 

「それはそうだが、そのために犠牲を作るつもりはないぞ」

 

「犠牲ととらえるか、必要な転換と捉えるかは人次第だろうがね」

 

「貴様!」

 

 軍団長は博士の胸ぐらを掴む。しかし、それ以上なにかをすることはしなかった。否、できなかった。

 今や軍をまとめる立場となった彼には、LFのみの部隊のメリットが十分に理解できてしまっていたからだ。

 

「まったく、軍人は野蛮だから困る」

 

 軍団長の手を振りほどき、博士は衣服を整えた。

 

「今回の任務、くれぐれも新型LFに他指揮官が口出しするような真似のないように」

 

「それだとドレッド部隊は孤立するしかなくなるぞ」

 

「その方がマシということさ。前線投入は時期尚早だと思っていたが、考えて見れば悪い話でもない」

 

「……わかった。配置を変更しておく」

 

「頼んだよ。お茶、ごちそうさま」

 

 空になったカップをおいてアザレア博士は立ち去っていった。

 

「はぁ、俺はどうすれば」

 

 軍団長の呟きが、静かな部屋にこだました。

 

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