オレンジアカデミーのモブ生徒になったので影を薄くしていきます 作:モカチップ
疲れた。……疲れたよ。
嗚咽を漏らすアオイちゃんの頭を撫でながらなんとか思考を凝らす。
落ち着きはしたが話せる状態じゃないし外は真っ暗だしで最悪ですよもう。門限は軽くオーバーして帰った所でお叱りを受けることは確定。……泣けるぜ。
冗談はさておきイエッサンを呼び出しアオイちゃんの状態を確認してもらうことにしました。キタカミでも体調不良の生徒を完全看病してくれたりと病院勤めは伊達じゃない!
見ただけで絶句しているイエッサンはそっとアオイちゃんの手を握った。…うわっ凄い顔している。表現できない…その冒涜的な顔。軽くSAN値減ったんじゃないか?
どんな感じか聞いたら身振り手振りで説明してくれた。…慌てた様子でめっちゃ可愛い。
突然恥ずかしそうに腕に抱きついてくれたのは素直に発狂しかけた。慣れは怖いが不意打ちがいちばん怖いわ。
そこから離れて呆れたような冷たい顔をすると見られた側に移動し…ほんまその悲しそうな…目を見開き絶望顔…そのやめてください! 心にきますよ! イエッサンを悲しませたりしない! 心臓捧げてもいいレベル。
最後には涙目で隅っこに座った。あああああぁ!! やめてぇ! 暗い部屋に灯る月明かりがイエッサンを儚げに見せて…今にも消えてしまいそうな…!! カムバック! イエッサン!
と、とりあえず…整理しよう。
……先に心の整理をしよう。
…ポケモンの言葉が分かればイエッサンに無理させる必要はないんだけどなぁ。喋ることができるポケモンとかさ。
……ふと思い出した。一時期喋るピカチュウが噂になってたっけ? みなさんご存知の月刊オーカルチャー! パラドックスポケモンが掲載されている謎の出版雑誌!
パラドックスポケモンに限らず色んな情報が載っているんですよ。ハナダシティにある謎の洞窟やカロス伝説。悪夢に魘された少年の話みたいに地方問わずオカルトや伝説を取り扱っている。
しかし喋るピカチュウか。喋るニャースならわかるんだけどなぁ……名探偵ピカチュウを忘れてたよ。……あれは特殊だったし別物か。
伝説のポケモンは総じてテレパシーが使える気がする。まぁ欲しいとは思わない、それ以前に捕まえられる筈がない。
無い物ねだりは意味がない。
そもそもこんなこと考えている時点で無駄だしアオイちゃんのことを考えなくては。
イエッサンのボディランゲージを振り返ろう。いきなり抱きついてきたのはアオイちゃんを表現したんだろう。
そんで冷めに冷めきった顔をしていたのは……相対的に見たらだよ? 最後の涙目で座ってたのはアオイちゃんってこと。ということは前者を踏まえれば、その…俺ってこと? …いや! いやいやいや! 俺そんな顔してた!?
確認すればイエッサンは苦笑いでコクコクと頷く。マジ…かぁ……つ、つまりだぜ? これ……俺のせいでは? 罵倒で心を折られると思ったらなんで逆になってん? いつサイドチェンジをした?
そ、そういうことねえ……ペパーとボタちゃんクラベル校長は速攻で理解したと。エスパータイプかよ。イエッサンいなきゃ一生分かんなかったぞ。
いや、でも…普通は怒るじゃん? 逆ギレに近いことしてんだよ? …違うか、普通は当てにならない。俺を基準に考えてはいけない。
すぅ……はぁ……。
つまりぃ…逆効果だった……わけです、ねぇ。
はは…あはは……はぁ…。
ほんっとうに申し訳ございませんでしだあ"ぁ"ぁ”あ”!!!!
「ミィ!?」
アオイちゃんを優しく引き剥がし渾身の土下座。これにはイエッサンも驚愕。そりゃそうだ。でも俺と知った以上謝るのが筋だろう。
謝って済む問題じゃないんだけどさ!
言い訳はしないわよ。原因は俺だった。要らぬ事をした結果こうなってしまったんだ。
アオイちゃんのお母さんからオレンジアカデミーに影響して明るくなった。…俺も多少は影響を与えているんだろうなぁ。なんか…うん…。
考えれば分かること。友達にいきなりこんな事いわれれば気に病むのも仕方ないのかもしれない。…距離感が近いから親しい男友達だろうね。傍から見ればクソ野郎じゃん。
状況的にスグリくんとの一件で参ってたのも拍車にかかっている。アオイちゃんはきっと隣にいて欲しかったんだ。マジでごめんよ…沢山罵倒していいっすよ何を言われても言い返さないので…。
……スグリくん大丈夫? アオイちゃんがこの様子じゃスグリくんもべらぼうにやばいことになってそうなんだけど…。
「……私が…悪いから…隠してた…私が…」
う、うむ……。
隠し事の一つや二つあって当然なんだよなぁ。俺もあるわけで記憶とか変態とか…後者はともかく前者はいえないしさ。
「だから……」
気にしなくていいといいますか俺が去った後のキタカミの動向とか聞きたかったり…。
「隠し事…しない…から……」
俯かせた顔が上がる。
涙の痕がくっきり見え潤んだ瞳、上気した頬。
無理やり土下座を解除すると垂れかかってきた。……アオイちゃん?
「…あの……ね。私………の事が…」
うん?
眩しっ!? 目が…! 目がぁ!!
「……お邪魔だった?」
目を焼かれ悶える中アオイちゃんのお母さんの声。気になってきたみたいです。
何時間も経ってますしね。分かります。
瞼の隙間なら見えたのはいつか不満げな顔のアオイちゃん。良かったこれで元通り……?
「ううん! 大丈夫」
一瞬だけ濁った瞳がドロッと俺を見ていた…気がする。…………本当に怖いと何も反応ができないんだなぁ。
この感じは…許されたか、分かんないですね。ギリギリグレーゾーンというか……。
「そう。……良かった」
「……心配かけてごめんなさい」
親子の会話を眺めときましょう。
これが親子愛ってやつですねえ。アオイちゃんにもし殴られたらお母さんも追撃してきそう。……もしそうだとして甘んじて受け入れますよ。
そろそろ帰らないとなー。アオイちゃんは大丈夫…! 明日には復学してくれるはずさ〜。
ワタクシはこの辺で失礼致します…る?
泊まっていきなさい? いやいやアオイちゃんも元気? になったしこういう時こそ親子の時間は大切にしないと…アオイちゃん?
親子の時間より3人の時間の方が楽しいって? それは違うよ! 親子は家族だけど俺は赤の他人……んぃ!?
「私は泊まって欲しいよ」
お、おう……ならお邪魔させていただきます。
「うん! お母さん! 今日のご飯はなに?」
「…ええ、パスタよ」
パスタ! あんま食べたことないや。麺類はラーメンばっかだしなぁ…おけですおけですよ。腕を引っ張んなくても逃げたりしませんって。
リビングに引きずられていく。間際アオイちゃんのお母さんが複雑そうな顔をしていたのを見逃さなかった。
……因みにクラベル校長に連絡済みだったらしい。許可も貰ったみたい。少なくとも門限破りでお説教は回避出来た。けど……。
隣に座ったアオイちゃんを見る。籠ってたなんて嘘みたいな眩しい笑顔。…だけど……今夜不幸な死を遂げるかもしれない。最後の晩餐かぁ……そんな不安が過る。
うん、お説教の方が良かったんじゃないか?
…ああ、今日はとっても楽しかったね(白目)。
明日はもっと楽しくなるよね……イエッサン…。
パスタを食べるイエッサンを目に焼き付けながらパスタを食べた。
食後は談話しお風呂を借りて当然のようにアオイちゃんの部屋に搬送される。
流石に…流石に添い寝は回避しましたよ! 体育座りですみっコぐらししてたからね。隙なんて晒せないっすよ。保険でみんなをモンスターボールから出させて貰ったくらいです。
それ込みでも問題ないくらいに広いもの。寮部屋でもスペースあるし当然なんだけどね。ああ! やっぱイーブイは癒しだ! 一緒に寝ようねえ!
寝る前にキタカミのことを聞かせて貰おう。
オーガポン……まさかのノーゲット。え? ちょ? …ならスグリくんが? と思ったが違うらしい。ん??? まだキタカミの里にいるんです? …嫌な予感がする。…あー……これも、俺のせいだったり? …そうですよね! はぁぁぁ!? …待ってくれよ! …だってあんなアオイちゃんやスグリくんを間近で見ていたわけでしょ?
胃に穴がレンコン並に空きまくるわ!! スグリくんだけがヘラってるなら分かるけど! 両方ヘラってるとかどうすりゃいいんだよ! これね…一番の被害者はオーガポンと二人の手持ち! 次点でゼイユ!
ポケモン同士気まずいだろ!! お互いに心配だろうし! どうしたらいいか分からないんだぞ! そんで俺は一番の加害者だよ! 判決! 死刑! 一生ROMってろ!!
ゼイユはアオイちゃんやスグリくんのことをとても気にかけてたらしい。俺に対しても怒りはなく当然の反応だといわれ謝りたいとも言っていたと…うーん、謝罪とかいいです寧ろこちらが謝罪したい。
オーガポンにも土下座案件だぞ!? ストーリー改変なんてもんじゃねえ!! アオイちゃん…スグリくんの手持ちでも…ゼイユでも良かったんだ。…胃に穴が空きそう…もう空いた。やべぇよ…やべえって……!
…でも今後会うことはないだろう。スグリくんもゼイユもブルーベリー学園だし交換留学しないといけない。枠はアオイちゃんで固定だから林間学校みたいに運でどうにかするなんて不可能。
アオイちゃんに頑張って貰う他ない。陰ながら応援させていただきますって……その前に色々あるし大変だなぁ。キタカミの出来事は把握できた。正直何もやれることはない。唯一あるとすれば…もう一度キタカミの里に行きオーガポンに土下座をすることぐらい、か。
ヤマブキシティのホテル予約してキタカミの里を日帰りすればいいかな。行き方は完全に理解したし時間ができたらチケットを取ろう。
アオイちゃんは寝ちゃったか。……そいやあの時なにを言おうとしてたんだろうな。んー考えてもわかんねえや。
翌日、目を覚ましたら目の前にアオイちゃんの顔がドアップ。
……今日も生き延びることができた。