オレンジアカデミーのモブ生徒になったので影を薄くしていきます 作:モカチップ
…………憂鬱。いや、怒り…悲しみかもしれない。それとも虚無だったりするんだろうか。
色んな感情が掻き回され理解できないナニカ。……違う。ドス黒く濁りきった殺意だ。
セルクルタウンのポケモンセンター。
その病室、ポケモン専用ベッドに眠る一匹のポケモンを眺めて思う。
揺らめく炎のような赤毛には真紅の如く紅い血が混ざっている。巻かれた包帯にも血が滲んでいた。
ジョーイさんに言われたあの言葉を思い出す。イエッサンの適切な応急処置、最短距離での移動。……この二つのどちらかが欠けていればこの子……ロコンは手遅れだった、と。
……ロコン。きつねポケモン。
先端が丸まった六本の尻尾が特徴的だろう。
可愛らしい容姿に美しい毛並み。とても人気の高いポケモン。進化すればキュウコンとなりバトルはもちろんポケモンコンテスト等でも活躍が期待できる将来有望なポケモン。
ロコンとの出会いは奇跡に近い。……アオイちゃんの家に泊まった翌日。アオイちゃんと約束をした。
アオイちゃんがチャンピオンになったら本気で戦う。……そんで敗者は勝者の願いを一つ叶える。そんな約束を……強制契約に近かった気がするけど。
火の玉ストレートで宝探し誘われましたしね。可能な限り聞き入れる覚悟はしていた。だけど宝探しだけは聞き入れることはできなかった。
それだけは勘弁してください。本編介入ルートに入ったら確実にエンディングまで隣にいることが確定してしまうんすよ。
パルデア組……ネモちゃを除いて二人が変に気を回してくださりやがりますのでね。
アオイちゃんは強くなった。今も、これからも強くなる。…ネモちゃとの約束もあるし期待に応える他ない。
本気でやるなら戦力の確保……は二の次で新しい仲間を迎え入れたいと思っていた。
その矢先だった。木々繁る中に似つかわしくない鉄の匂い、赤い地面。…瀕死のロコンを見つけたのは…。
……ロコンはパルデア地方に生息していない。
キタカミの里やカントー地方など…リージョンフォームならばアローラ地方に生息、ブルーベリー学園で管理されている。
ロコンがトレーナーのいない状態でパルデア地方にいることすらおかしい。しかも瀕死で…!!
怒りが治まらない。グツグツと頭が温まってくる。……はぁ、落ち着け…冷静さをかいてもしょうがないだろう。
ロコンが目を覚ました時にこんな顔してたら怖がられてしまう。…今だけは落ち着け。
深呼吸を繰り返す。薬品と血が混ざった気持ち悪い匂い。気休めにロコンの顔を見つめる。うん、やっぱり可愛い…………あっ……。
ロコンの目覚め。ビー玉みたいに丸い瞳がこちらを見ている。……良かった…。
目が熱くなる。…視界は歪み頬に溢れた涙が流れ伝う。……ゆっくりロコンへと足を進める。
恐怖の表情を晒し身を縮こませるロコン。
目の前で足を止め手を伸ばし……ロコンの頭を撫でた。
震えが伝わってくる。涙目が…ちょっと…んん、時と場合を考えて行動しろ俺。
人間に対する恐怖がこの身に染み込んでいく。……確信した。
イエッサンを繰り出しロコンを頼む。
この空間に人間は邪魔以外の何者でもない。
頼んだよイエッサン。
病室を出る。
……ポケモンセンターから出る。
出た瞬間…思いっきり拳を地面に叩き付けた。皮が裂けヒリヒリする。折れる音、じんわりと痛みが広がる拳。手の平からこぼれ落ちる血液。
…………よし! スッキリしたし落ち着いた。
ジョーイさんに説明しよう。
親指がクッソ痛い。
折れたかもしれない……折れましたね。
ロコンの痛みに比べりゃ遥かにマシ、か。
「……何をしているんですか」
渋いおじ様ボイス。
振り向けば無気力なイケオジフェイスにキッチリスーツ。
アオキさんじゃないっすか。
なんでここにいるんすか?
「それは自分のセリフなんですが」
ちょっとした鬱憤晴らしですよ。
勢いに任せてポケモンセンターの壁ぶん殴ろうと思ったけど普通に器物破損か威力業務妨害。犯罪者にはなるつもりはないです。
「……相変わらずですね。自分は仕事です」
仕事…あー…ジムリーダーと四天王を兼業しているんだったなぁ。
タイム先生がジムリーダーの時にはもうジムリーダーしてたって考えたら歴が長い。なによりノーマルタイプとひこうタイプのエキスパート。
尊敬する大大大先輩なのだ。
「……ポケモンセンターに入りましょう。早くその手を治療して貰ってください」
あ、はい。
アオキさんと共にポケモンセンターに入り直す。ジョーイさんと目が合う。
何か言いたそうにしてたが拳を見て血相を変えてかけてきた。即治療され理由を聞かれ答えたら呆れながらも注意されてしまった。
うぃっす……すんません。
そん時にロコンが目を覚ましたことを説明し共に病室へと戻る。
中に入れば献身的なイエッサンと落ち着きを取り戻したロコンの笑顔がそこにあった。
あ…良かった。やっぱ可愛ええな…と安息と萌えが反復横跳びする中アオキさんが咳払い。
ビクッと体を震わしイエッサンの背後に隠れるロコン。……そいやアオキさん仕事で来てるって言ってたけど…ジムの視察って訳じゃなさそうだな。
……ふむふむ…ロコンの保護に来たんすね。
リーダーことオモダカさんの指示で休日を強制返上された挙句に序でに視察もしてこい、と。
…これ俺のせいでは? でも…助けるのは当たり前で被害者のロコンに罪は無い。…うん、こんなことをしたトレーナーが悪い。
トレーナーの風上にもおけないクズ野郎が悪い。QED証明完了。んで……保護するとのことですが……。
……無理そうじゃないっすか?
ロコンがアオキさんにビビってそれどころじゃなさそ……無抵抗で震えている。
「困りましたね」
本当に困りましたよ。イエッサンにべったりで俺も帰れそうにないんすよね。
無理やりでもモンスターボールに戻してもええけど……それは酷だしなぁ。
ロトロトロト? …スマホロトムの着信だ。
俺の……じゃない。アオキさんのか。
「保護の方はどうですか? アオキ…おや、貴方は」
オモダカさんこんにちはーっす。
うわっアオキさん…あからさまに嫌そうな顔をしている。
そんな顔を見てオモダカさんは笑顔…大人って怖いですねえ。
アオキさんが説明に入る。オモダカさんは相槌を打ちつつ……なーぜかこっちを見ているんですよね……嫌な予感が。
「……でしたら彼に預けたらどうでしょう?」
的中しました! はい!
そ、それは嬉しいっちゃ嬉しいんですが…。
ロコンは心身共に傷を負っている。
イエッサンやイーブイの時とは訳が違うんだ。カウンセリングのノウハウなんてないしなんならされる側の人間なんすけど?
それにアオキさんが無理なら俺だってビビられるのがオチでしょう?
イエッサンの背に周りロコンを抱き上げた。
ほら…無理やり抱き上げた日なんて喉笛噛みちぎられるかひのこを飛ばされてアフロヘアー出来上がり……。
……?
「…コ、コン」
暴れることも震えることもなく腕の中で大人しくしているロコン。ちこっと怖がってはいるが……逃げる様子は、ない。
ぎこちないが微笑んでいるようにも見える。
これは希望的観測であり俺の幻覚、または妄想である。
「…………問題ないでしょう?」
得意げなオモダカさん。アオキさんも無表情ながら納得の視線を向けていた。
ジョーイさんはよろしくお願いしますね? と笑顔で頭を下げると病室から出ていった。
あれぇ……これは…………。
「エッサン!」
イエッサンも乗り気みたいですね。
あー……えーと…はい。
よ、よろしく……ね? ロコン。
「……コンッ」
こんな感じでロコンをゲットした。
アオキさんはこのまま視察を。オモダカさん曰く悪いポケモントレーナーの監視をパルデア全体で強化するらしいです。
ロコンみたいなポケモンを生み出さないために…。
これが解決策になるかは微妙だが…やるだけやるもんだと思う。
もし俺が見つけた場合は……色々と覚悟してもらうけどね。
……あー今のロコンの様子かい?
それは……その…………。
「コン♪」
膝に乗ってこれでもかと腹部に頭をめり込ませる勢いで押し込んでいます。
数週間は入院して、退院後はリハビリ。
メキメキと回復していき今じゃおてんば娘みたいにあちこちと駆け回るぐらいに元気です。
ただ……この子…めっちゃ絡んでくるのだ。
初めはもう可愛いくてキュートで血反吐吐くほど萌え殺されかけたけど……。
な、なんか……懐いているとは違う感じがするんだ。スキンシップで顔は舐めるし首も舐める……服の中に入り込んできたり……。
寝る時なんて朝起きたら首を甘噛みされてたりする。…初めは寝首掻っ切られたと思った。
ただみんなとは仲が良いみたいだから問題視はしてないんだけど……ここまで一直線で来られると……その困るんだよなぁ。
そういえばアオイちゃん。明日最後のジム戦に挑むとか言ってたっけ? 最後はナッペ山ジムのグルーシャと戦うらしいです。
ペパーくんとのスパイス集めも折り返し地点でありスター団も倒し終えたんだとか。
もう終盤か……その間俺は…何してたんだろうな。…いやー……育成しないと本格的に不味いっすねえ。
摩擦で腹が焼けそうになりながら育成方法を考えていた。ただ……数分後アオイちゃんからナッペ山に呼ばれるのは聞いてないです。