うろ覚えが雨宮吾郎になったけどさりなちゃんがアクアになってた。 作:邪神ツクヨミ
「意外となんとかなるものね」
結論から言ってしまえばインストールした仮想の人格は驚くほど良い方に作用した。
まあ多分ベースにした先輩の性格が良かったのだろう、少し演技も加えたが「頼れる大人」の雰囲気を出して
「……ただ、あれは結局無駄だった。やっぱり運命はある程度収束してしまうのかしら?」
尚全国ニュースになるほど大きなものでもなかったので
まあそれは置いておこう、別に少し問題もある。
「やっぱりこれはどうにか……なるのかしら?まあ治さなくてもいいっちゃいいのだけれど」
単刀直入に言おう、
例えればソシャゲの周年SSRが放置ゲー並みの育成上限を持っているようなもの、何もしなくても天才的な実力を持つ上にやろうと思えば何処までも伸ばせる、正しく規格外のチート。
思考はこうして
ただ……弊害もあって、咄嗟に人格の切り替えができなくなっている。メソッド演技の延長線とでも言えばいいんだろうか、インストールした人格が馴染みすぎて咄嗟に剥がそうとすると微妙に貼り付いて剥がし切るのに時間がかかってしまうのだ。まあ今特に不都合があるわけではないが……将来的には克服しておいた方がいいだろう。
「……私がルビーって事はやっぱり将来B小町を作る事になるのかしらね。ただアクアは結構乗り気だし私はアイを死なせないように色々してるし、「原作」からはかなり乖離しそうだけど」
不審者が再襲撃してくるのはドーム公演当日だという事はどうにか覚えている。だからどうにかするための準備はできるだけ仕込んできた……それこそ最終手段も含めて雨宮吾郎の時から。変えられるというのなら絶対に「原作」から逸らしてみるという強い意志を込めて……ああそうだ、原作乖離といえば凄いことが起きた。
「……まあ、今は備えましょうか。ミヤコさんに安心して良い子を産んでもらいたいし」
なんとミヤえもんことミヤコさんが壱護さんと子供を作ったのだ、これはびっくりである。どうしてそうなったのか原因は……まあ多分私がベビーシッター代わりにミヤコさんのサポートに徹していたのが大きいだろう、アクアの対応は今はほぼほぼ私がしているし。それで経済と心身共に余裕ができたし……ってところじゃないだろうか、真実はわからないけど。
何はともあれドーム公演までもう少し。ある程度原作へと物語が収束しているのは感じるが……運命なんてクソ喰らえだ。起きると分かってる悲劇なんて力尽くでも止めてやる。
「あれ?随分と早起きだねルビー……もしかしてドーム待ちきれなかった?」
「そんなところかな……逆にアクアは楽しみすぎて夜更かししてご覧の有様だけど」
「あらら……まあ行くまでには起きるんじゃない?」
「だといいのだけれど……顔洗ってくるわ」
早起きして思考を覚醒させ、身支度を整えるフリをして自然と玄関の近くへスタンバイ。
プラン①:素直にチェーンを使う。
原作だとアイがドアチェーン使えば良かったとか言ってたらしい、まあやっておけばこの場でアイが死ぬ事はない……この場では。あの不審者君は4年前に仕留め損なったアイをわざわざ殺しに来たのだ、この場で諦めさせてもまた命を狙いに来るのは明らか、これは一時凌ぎだ……けど誰も傷つかない、どうしよう。
プラン②:あらかじめ社長を呼んでおく。
確か不審者……リョースケ君はB小町の1人と交際関係にあったらしい。それを知ってる社長をあらかじめ呼んでおけば襲撃されても成人男性パワーである程度抵抗はしてくれるだろうし、アイドルのプライベートに敏感なあの人なら正体に気付く筈。「その後」を考えると1番安牌だ。
問題は今から呼んで襲撃に間に合うかどうか微妙な事、そして万が一社長が刺されたら……アイが生きていてもドーム公演は難しくなるだろう。博打になるが1番平和に終わる可能性が高い。狙ってみるか?
プラン③:最終手段
雨宮吾郎として仕込んだほんとにほんとの最終手段。正常な人間なら通じるか怪しいが半ば錯乱状態にある彼ならば強力に作用するだろう。プラン①と②のどちらも試行できなかった場合の非常事態にのみ使う事を考えているが……確実性はこれが1番高い、そしてドーム公演と今後の平穏を同時に成立できる可能性も。
問題は……
「……っ!」
……ああ、どうやら思考の暇は元からなかったようだ、洗顔するなどと言って玄関前に出た瞬間インターホンが鳴る。
「……うん、やりましょうか」
迷うまでもなく……
「アイ……ああ、そっちか」
「どちら様?此処にはア……」
……やっぱり、だ。ドアチェーンもかけずにドアを開け、すっとぼけたフリをしてやれば予想通り
「だれ……ルビー!?」
「ははっ、やっぱり居た、やっぱり出てきやがった!」
インターホンを聞きつけたアイが目にしたのはナイフを刺されて蹲る
「お前が、お前が子供なんて作るから……っ!」
だから
「……」
鈍い痛みを我慢して深呼吸、切り替えは終わった。
「次はお前だアイ、一緒に「あァ……痛い、ナぁ……」……は?」
「ル……ビー……?」
声色も
「あの時も、そうだった、なァ?」
「な、なんだ、おま「4年前のあの日、お前ハ今と同じみたいニ、こうやって、刺したナ?」よ、よね……!?」
……やっぱり、効果大だ。
「そして……ああ、崖から、落とした、な。痛かった、よ、凄く、ね」
「う、嘘だ、それを知ってるのは俺だけ、俺……!」
「4年も経ってれば……俺が何を言ったかも、忘れた、カ?」
無意識に恐怖で後退りし始めた、後一息。
「ま、まさ、か……」
「ようやく、気づいた?なら言いたい事、わかるだろ」
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
「ル、ルビー、どうしたの、ねえ!?」
……ごめんアイ、もう少しなんだ。話すのは全部終わってから。
「もし此処でアイを殺しても、何度も俺はお前の前に現れる。何度も、何度も、何度も」
「来るな、来るなっ!こっちに来るなぁ!」
「一生、一生。お前が死ぬまで……」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!?」
……成功。不審者君は発狂しながら逃げていった。
「……ああ、やっと、終わった……」
「ルビーっ!」
どうもこっちも緊張していたらしい。身体から力が抜けて倒れ込む。身体能力と演技を可能な限り磨き込んでBETした文字通り命がけの大博打、アイの生存は、まず、達成。
「ああ……アイ?何処から……聞いてた……?」
「そんなの今はどうでもいいっ!傷、傷……救急車……!」
……ご丁寧にナイフは刺したままでいてくれたから処置は楽そうだが……ああこれ腹部大動脈やられたな、助かるかどうか怪しくなってきた。
「……俺を救急車に乗せたら……早くドームに行くんだ。待ってる人達が、居る」
「ドームよりもルビーの方が大事なの!……って、え?」
多分今の俺は無意識で
「吾郎、先生、なの?」
「……うん、そうだよ。さっきから、じゃなくて……最初、から……失望、した?」
「ないっ、そんな事ないっ!中身が吾郎先生でも!ルビーは大切な私の子供!」
「……ああ、安心、した。ちゃんと使い分け……できるように、なった、じゃん……」
「そんな事気にしてる場合じゃないよ!救急車?社長?ミヤコさん!?どうして……どうすれば……!」
……ああ、そういやアイがどうなるかを想定してなかったな……失敗してしまった。
「救急車……次に、斉藤社長……なるべく……アイの子じゃなくて……マネージャーの子が刺されたってニュースになる……ように……」
「自分の心配をして
「……もう、さっき、貰ったよ」
「嫌だ!これっきりとか嫌だ!やっとできるようになったの!だからこれからいっぱい言ってあげるの!」
「……やっぱり君は……欲張り、だなぁ……」
「そうだよ!私は欲張りなの!だから、だから……死なないで、
……意識が、ぼやけてきた。そろそろ意識が限界……らしい。
「……アクアは、普通の、子供、だったよ。この子は、俺が入ってしまったから……ああ、やっぱりこれ……」
「救急車……119……!」
「……運命は変えられないけど、逸らすことは、できた……の……」
……どっちにしろ、これで「原作」は崩壊するだろう。
「ルビー!ルビー!……先生!?」
「ねえママ……何が……」
「来ちゃダメ!アクア!」
「ねえってば!?何が起きてるの!?教えてよママ!?」
扉越しに叫び合う
……そうして。
「星野ルビー」は居なくなった。