オリ地方でのオリポケモンありきのオリ主人公による旅路、お楽しみいただければ。
――……
――…………
――……あ。もしかして、もう撮ってる?
――えー、オッホン。ポケットモンスターの世界へようこそ!
――ボクの名前はトシツキ。ポケモン博士だ。
――この『セイレキ地方』には、ポケットモンスターと呼ばれる生き物たちが至るところに棲んでいる。
――草むらや森の中、洞窟や川に海、それに街では人と共に暮らしていたりもするんだ。ボクたちの生活にポケモンは必要不可欠と言ってもいいね。
――ボクはそんなポケモンについてもっともっと知りたくて研究をしているんだよ。
――ところで。キミは、男の子? 女の子? 名前も教えてくれるかい?
――…………よしっ! それじゃあ準備はいいかい?
――これからキミだけの物語が始まる。
――そこには楽しいこともあるし、大変なことだってあるだろう。だけどそれは、キミにとって何よりの思い出になってくれるはずだ! そうなってくれることを、ボクも心から祈っているよ。
――さあ行こうか! 夢と冒険の、ポケットモンスターの世界へ! レッツゴー!
そこでテレビの映像は終わった。
「どうだっ、なかなかそれらしくなっているだろう!?」
ナノカの横で、先ほどまで画面に映っていた馴染みの顔が得意げに言ってくる。
それにナノカは半眼を向けて口を開いた。
「確かに様にはなってるけど……」
「そうだろうそうだろうっ。いやー、奮発して製作した甲斐があった! カントーやホウエンの博士の方々を参考にアレンジしてみたんだが、実に新人トレーナーを送り出すポケモン博士らしく仕上がって――」
意気揚々と語る声に、ナノカははっきり問いかける。
「でも叔父さんってポケモン博士ではないよね?」
「…………」
返す言葉もなく思わず黙り込むナノカの叔父、トシツキ。
そう。彼はポケモン博士ではない。
「……こ、心はポケモン博士だから……」
「だけど事実違うよね? 元はポケモンコレクターだし。本当の博士みたいに職業として認められてはいない、いわゆる『なんちゃってポケモン博士』でしょ?」
「ぐぅ」
リアルにぐうの音しか出ないようだ。
ナノカの母の実弟でもあるトシツキは、ある日突然「ボクはポケモン博士になる!」と言い出した。だいたいナノカの一家がこのセイレキ地方東端の町『ハツハルタウン』に引っ越してきたくらいからである。
元々ポケモンコレクターとして知識は豊富な叔父だ。ポケモンリーグチャンピオンと同じだけ憧憬が向けられる職業を目指すのは理に適っているのだが――いかんせん思い付きレベルの実績なしなので、実際にはポケモン博士になれてはいない。姪であるナノカからの指摘の通り、なんちゃって博士なのだった。
「で、でも! セイレキには他のポケモン博士はいないし、ナノカのスマホロトムにちゃんとポケモン図鑑のアプリインストールしてあげたし、なによりナノカの誕生日プレゼントとしてポケモンをあげたりしたんだから、実質的にポケモン博士と名乗っても良いんじゃないかな!?」
「たぶん良くはないと思うよ? 他の地方の博士はしっかりした仕事でやってるだろうし」
それに、とナノカは言葉を繋ぐ。
「ポケモンをくれたことについても、本当は最初の三匹揃えるつもりで他の地方から取り寄せようとしたけど、手違いで一匹しか届かなかったのは詰めが甘いと思う」
「うっ……やっぱり、ダメだったかな……?」
トシツキは窺うように姪へと訊ねかける。博士名乗るに足らないのもそうだし――博士を自称しながらも最初の三匹を選ばせられなかったことへの負い目も。
けれど、ナノカは苦笑混じりに返す。
「別にいいよ。私はアチャモが最初のパートナーになって嬉しいし。ね、アチャモ」
「ちゃもぅ!」
そう話しかけると、膝の上に乗せていたトシツキからプレゼントされたパートナーポケモン、アチャモも同感とばかりに返答してくれた。
「そうか、良かった……とにかく、この映像がボクなりのナノカの旅立ちへの
「ありがとう、叔父さん。……でもなんで直接じゃなくて映像なの?」
「あわよくばそれを実績にポケモン博士への足掛かりにできたらな、と……ね?」
いやっははは、と誤魔化し笑いをするトシツキ。おそらく努力の仕方が間違ってる。
「あ、そうだ。叔父さん、これから手合わせしてくれない? いちおう先輩のポケモントレーナーだし、旅に出る前にもう一回バトルして景気づけしたいなって」
「いちおうってのは余計だけどね……でもまあ、ボクとしても都合がいい。後輩になるナノカがこの先やっていけるかどうか今一度試させてもらおうか!」
同意を得た後、ナノカはいったん二階の自室に足を運ぶ。
景気づけというからには、新米トレーナーとして相応しい恰好を整えるためだ。
準備と、身だしなみのチェック――明るい色合いのセミショートヘアにお気に入りのヘアピンを着け、冒険に合う活発的な服装に可愛らしいバッグを肩から提げた自身の恰好を鏡で確認したナノカは、よしと頷き改めて叔父の待つ家の庭先へと向かった。
「行くぞ、ナノカ! 加減はなしだ!」
「うん、いいよ!」
両者が相対しポケモン勝負が開始される。
「頼んだよ、アチャモ!」
「ちゃもっ!」
ナノカは一匹きりのパートナーポケモンであるアチャモを、
「ではお見せしよう。行け、ホーホー!」
そしてトシツキがもったいつけた口ぶりで同じく手持ちポケモンを繰り出した。
「ほぉー!」
それは、他の地方で確認されている姿のホーホーではなかった。
ふっくらとした白い羽毛に包まれ、クチバシから目の上部まで生える毛は尖った白い剣先状となっている。寒さに強そうで、雪のような冷たさも窺える見た目。
リージョンフォーム――セイレキ地方の環境に適応した姿のホーホーだ。
「つつく!」
「ひっかく!」
それぞれのトレーナーからの指示に応え、ぶつかり合う二匹。
迫るクチバシを避けたアチャモが、その脚の爪をホーホーへと突き立てる。しかし、ふくよかな羽毛に覆われたホーホーに効果は薄い模様。数度ヒットさせても結果は同じだった。
「そう、セイレキのホーホーは守りが固いんだ!」
「え、別に聞いてないけど……」
「まあそう言うな! さて、生半可な攻撃が効かない相手にはどうする?」
さながらバトルを通して教授する博士のように、トシツキが言う。
そして、
「こなゆき!」
さらに続けて攻撃を切り替えてくる。ホーホーは翼でもって粉雪を吹かせた。
「でんこうせっかでかわして!」
舞い来るそれをアチャモが素早く回避する。そのまま攻撃に転じようとするが、ホーホーも即座に狙いをつけてなおも粉雪を揮う。
接近を許さぬ態勢。さっきまでの攻撃はできない。
ならば、どうするか? ……それはなんとなく分かっていた。
「アチャモ、ニトロチャージ!」
ナノカの指示にアチャモが奔る。炎を纏う突進。それが向かう粉雪を溶かし散らし、アチャモがぐんとホーホーとの距離を詰めた。
「ホーホー、迎え撃て!」
だがそれにトシツキは即応。ホーホーが真っ向から迎撃せんとする。
一触即発の間合い。
が、しかし。衝突の寸前にアチャモの姿が消えた。
「むっ!?」
瞠目するトシツキだが、次の瞬間に全て察する。
ホーホーの死角から、消えたはずのアチャモが再度飛び込んでくるのを。
「ちゃもおッ!」
「ホォ!?」
ズガンっ! と炎熱纏う体当たりをぶちかましたアチャモの一撃でホーホーは転がる。
畳みかけるようなナノカの声が飛ぶ。
「決めろ、ひのこ!」
立て直しも防御もさせない間髪のなさで火の粉が放たれる。
それが留めとなり、あえなくホーホーは崩れ落ちた。
「よしっ!」
目論見通り、といった風にナノカが歓声を上げる。
それにトシツキは満足げに頷き、戦闘不能になったホーホーを労いながらボールに戻した。
「お見事。これは完全に負けたよ」
勝者を讃える言葉に、しかしナノカは苦笑いを返す。
「いや、叔父さんのヒントで気付いたんだよ。ホーホーがこおりタイプだって」
「その通り。この地方のホーホーはこおり・ひこうタイプ。つまり、ほのおタイプの技は弱点となるんだ。タイプ相性はバトルで重要な要素だから復習してほしかったのさ」
でも、とトシツキが微笑む。
「ボクはそれに対応するつもりだったんだが、思った以上に上回ってくれたよ。予想を超えてキミのアチャモがニトロチャージによる素早さ上昇を活かしてきた。これは純粋にキミの強さによる勝利だ、ナノカ」
「……ありがとう、叔父さん。この調子で頑張ってみるよ」
「うん、期待しているよ」
先達としての顔でトシツキが激励を送る。
そのすぐ後で、
「――ああ、それにしても。これが可愛い姪の成長であり、新米トレーナーを送り出すポケモン博士の気持ちか。同時にこの感情を味わえるなんて、ボクはとても幸せ者だろうね……」
「それはちょっとどうかと思うよ」
困った性格の叔父に、ナノカは呆れ返るしかなかった。
定番からあえて外したら本家に縛られないかなって思惑。
地名やキャラネーミングは、暦や年月に関連する名称がモチーフです。セイレキ(西暦)、トシツキ(年月)、ナノカ(七日)、ハツハル(初春)って感じですね。
●ホーホー
タイプ:こおり・ひこう
セイレキ地方で確認されているリージョンフォームのホーホー。雪山に棲息し、雪の積もった樹の上で隠れながら寒さで弱った獲物が来るのを待ち構える。原種ホーホーと比べれば特防から防御に振られた能力値となっている感じ。特性は『ゆきがくれ』。
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