セイレキ地方のポケットモンスター   作:秋塚翔

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あと二、三話は早めに更新して土台を固めたい所存です。


旅立ちと出会い

 今日はハレの日。

 一人の少女が町を発つ旅立ちの日だ。

 

「気を付けていってらっしゃいね」

「うん、分かってるよ母さん」

 

 町の外にて、ナノカの母は娘を見送る。その顔には、僅かに心配の色が浮かぶ。

 けれど、我が子の第一歩を快く送り出すべく笑顔でナノカを見やる。

 

「たまには帰ってきてもいいのよ――貴女のバカな叔父さんがやたらとはしゃいでたって、それに応えようとしなくていいんだからね」

「ひ、酷いなあ姉さん……」

 

 急な悪態に、同じく見送りに来ていたトシツキが笑みを引きつらせた。

 

「ナノカはナノカのまま、好きなように旅をして、時々元気な顔を見せに来なさい」

「うん」

 

 母の言葉に頷きを返したナノカは、トシツキとも向き合う。

 時折面倒なとこはあるが、曲がりなりにもこうして自分が旅に出るための手伝いをしてくれていた実の叔父とのしばしの別れ。

 

「姉さん……キミのお母さんの云う通りだ。これはキミの物語。誰かの意思で言われるがままでは何の意味もないだろう。だから、ナノカの信じる道を冒険するといい」

「分かった。叔父さんもポケモン博士になれるって信じてやってるしね。――私が帰ってくるまでには、まともな博士になっててよ?」

「はっはっは! 気分だけはまともな博士なんだけどね!」

トシツキ(あんた)は昔っから無駄に前向きなのが良いところであり悪いところだわ」

「いやあっはっはっは……!」

 

 実姉であるナノカの母からのツッコミも、高らか笑って誤魔化す。

 

 こうして少女トレーナーは見送られながら旅に出た。

 目指すは新たなポケモンと出会いつつ、ポケモンジムのある町々を巡ること。

 定番な目標ながらも、自分の力でどこまでやれるか試すため、ナノカはポケモンと共にセイレキ地方への冒険の第一歩を踏み出す。

 彼女だけの物語は、ここから始まるのだった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アチャモ、でんこうせっか!」

「ちゃもっ!」

 

 ハツハルタウンと隣町『サンガタウン』とを繋ぐ1番道路。

 そこで目と目が合ったトレーナーたちと、ナノカはポケモン勝負を繰り広げる。

 

「ポチエナ、かみつけ!」

 

 トレーナーである短パン小僧が指示を出し、相対するポチエナがアチャモめがけて牙を突き立てんとしてくる。それをでんこうせっかでもって掻い潜ったアチャモは、がら空きの横っ腹へと突撃していった。

 

「がう!?」

「ああっ、ポ、ポチエナ!」

 

 それが決め手となってポチエナが戦闘不能と相成る。

 控えはいないため、これにてナノカの勝ちだ。

 

「参った! あんた強いなー」

 

 賞金を渡し、短パン小僧は素直に負けを認めて引き下がった。

 

「ふぅ。そろそろ休憩しよっか、アチャモ」

「ちゃもぅ」

 

 かれこれ幾度目かのバトルを終え、いったん息を吐くことにするナノカ。

 まだ次の町にも着いてないのに浮かれていた。そのためここまでぶっ続けでポケモン勝負をしてしまっている。本当に独り旅を始めたばかりの新米とはいえ、流石にはしゃぎすぎだろうか。

 

 いけないな、とナノカは休息がてら自分を律する。

 いかに新人といえど、これからは()()トレーナーとしての気概も持たないと――と。

 

 ナノカは一度決めたからにはとことん突き通す性格の少女だ。

 ある意味で自分に厳しい。その延長で、親しい人間に限るがはっきり言うところもある。

 せっかくポケモントレーナーとして旅をしてるのだから、自分と自分のポケモンが胸を張れるように。

 それが、ナノカがこの旅路に掲げるポリシーのようなものであった。

 

「ん?」

 

 と、道端に腰を下ろして自由な風の流れを満喫していたところ。

 向こうの方から慌ただしく駆けてくる足音が近づいてくる。

 

「――おい、こっちだッ!」

「追うぞッ!」

 

 それは黒服を着た二人ほどの男だった。

 明らかにこの辺りでは見ない、怪しい風貌の二人組。こちらに走ってきたと思いきや、脇道に逸れて一目散に何かを追いかけるようにして去っていった。

 

「……なんだろ、あれ」

 

 唐突な不穏さに一瞬ぽかんと見過ごすナノカ。

 けれど興味が向いてしまい、男たちの後を追ってみるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1番道路の外れ。

 一見して何もないような変哲のない草原。

 そこで、一つの人影が今まさに追ってきたらしき男二人組に追い詰められていた。

 

「もうここまで――!」

「いい加減に――っ」

 

 逃げ場は失われていた。

 背後は水辺が広がり、正面は当然だが男たちが立ち塞がっている。

 下手に逃げようとすればたちまち力ずくで捕まるだろう。

 

「…………」

 

 追い込まれる人影は目深に被るパーカーで前を見据え、

 ボールからポケモンを繰り出した。

 

「! ゴルバット!」

「ゴルゥア!!」

 

 抵抗の意思を読み取った男らはそれぞれゴルバットを出す。

 

「ぜにぃっ!」

 

 それらに立ち向かうポケモンは、ゼニガメ。トレーナーを護るようにして身構える。

 トレーナーからの指示なくゼニガメは口から放水する。みずでっぽうだ。

 散開し避けたゴルバットに、しかしゼニガメはそれが狙いと片方に集中射撃。

 なおも飛び回り回避しようとする片方のゴルバットであるが、それをも狙い通りとばかりに軌道を読んだ水鉄砲が直撃させられる。

 全身に浴びせられた水の重みで墜落する一匹。

 

「くッ、ちょうおんぱだ!」

 

 片割れがやられたことで、もう一匹のゴルバットが攻勢に出る。

 動きを封じようとするゴルバットの音波攻撃に、ゼニガメは存外素早くかわす。そのまま再度みずでっぽうを放つが、二匹目のゴルバットは巧みな飛翔でそれを捌く。もう片方のゴルバットよりも手練れのようだ。

 

「エアカッター!」

 

 射撃の間隙を縫い、ゴルバットからの反撃。

 空気の刃がゼニガメを襲い、それが被弾してしまう。

 

「ぜにっ……!」

 

 ふらつきながら、なんとか耐えたゼニガメ。だがダメージは少なくない。

 勝機を見てほくそ笑む男と、その手持ちポケモンであるゴルバット。追う側の立場さながらにじりじりとにじり寄ってくる。

 一方のゼニガメのトレーナーは、パーカーフードを握り後ずさる仕草。

 

「やれッ! ゴルバット!」

「ゴゥルアァッ!」

 

 怒声と共に飛び掛かってくる。

 一撃で仕留めて片を付けんとする勢いと気迫。

 

「――ひのこ!」

 

 それは、横から乱入してきた小さな炎の連撃で打ち消される。

 

「っ! な、なんだ!?」

 

 男たちが険しく攻撃された方向を見やった。

 するとそこには、明るい髪色の少女――ナノカの姿が。

 

「なんだかよく分かんないけどさ……二人がかりなら私も参加していいよね?」

 

 正直、事情も何も掴めない状況。

 ならばと、ナノカは見るからに怪しい方に敵対を決めた。

 

「チッ……引っ込んでろ! 行けゴルバット!」

「アチャモ! ニトロチャージ!」

 

 向かってきたゴルバットに相対し、アチャモはニトロチャージを繰り出す。

 素早い機動で中空からの攻撃に上手く対応する。

 

「エアカッターで蹴散らせ!」

 

 焦れた男がゴルバットに攻撃指示。

 再び放たれる空気の斬撃。しかしアチャモは上昇した素早さを使い、これを見事掻い潜り、逆に攻め入って距離を詰める。

 

「そこ! 今だアチャモ!」

 

 技に集中し隙のできたゴルバットを見計らい、ナノカの合図で跳ぶアチャモ。

 ニトロチャージによる体当たりがもろにゴルバットを打った。

 

「ゴルァ……っ」

 

 重い一撃で気を飛ばしたゴルバットが地に堕ちる。

 これで二匹のゴルバットは戦闘不能になった。

 

「くそっ、なんてことだ!」

「まずい! いったん退くぞ!?」

 

 戦える手持ちの失った男たちはそそくさと来た道を逃げていく。

 残されたのは、ナノカとパーカーのトレーナーだけ。

 

「大丈夫だった? 余計な手出しかもだけど」

 

 結局何も分からずして見た目だけで相手を倒してしまった。正しかったかどうか判断が難しく、若干気まずそうにしてナノカはパーカーのトレーナーに尋ねかける。

 

「――いえ、助かりました。感謝します」

 

 そう、透き通るような声色がパーカーフードの奥から返ってくる。

 ダメージを負うゼニガメを介抱してあげながら、

 ぱさりと、そのフードが取り払われた。

 

「あのままではわたしも危なかった。お礼を言います、お陰でゼニガメも助かりました」

 

 パーカーのトレーナー――少女が視線を合わせて言う。

 ちょうどナノカと同じくらいの少女。濡れ羽色の長い黒髪を下ろしたフードから解き放ち、闇夜に紛れるようなパーカーを纏った少女は、感情の窺えない能面顔で名乗る。

 

「わたしは、ヤヨイといいます。よければ次の町でお礼をさせてください」




特にそれで特別どうだってことはないですが、この地方の御三家枠はアチャモ・ゼニガメ・ナエトルの設定です。

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