能力者も秘密結社も存在しない退屈な世界にキレた俺は本物の厨二病たちをスカウトして【真・国家保安特務機関】を設立する~妄想が現実になった彼らはなぜか政府に土下座されています~ 作:パラレル・ゲーマー
アメリカ、シカゴ郊外。
午後2時という真昼間に、日常が破られた。
放棄された古い製鉄所の跡地に、一体の『魔獣』が出現したのだ。
今回の個体は、全長5メートルはある四足歩行の重装甲獣【アーマード・ベア】。
戦車砲すら弾き返す黒い甲殻に覆われ、一撃で建物を粉砕するパワーを持つ中型魔獣である。
普段なら州軍が出動し、撤退戦を強いられる絶望的な状況。
だが今日、現場には特殊な装甲車の一団が到着していた。
車体に描かれているのは、既存のどの部隊とも違うエンブレム。
白頭鷲がその爪に「稲妻」を掴んでいるデザイン――米国防総省直轄・対魔特殊部隊『ゼウス・プラトゥーン』である。
「ターゲット確認! 繰り返す、タイプ・ブラヴォーだ!」
現場指揮官のジョン・スミス少佐が怒鳴った。
彼を含めた隊員は、わずか五名。
全員が黒い強化外骨格スーツを着込み、そして何より、彼らは全員が『生還者(サバイバー)』だった。
地獄のような人体実験に耐え、魔獣因子の適合を果たした人工能力者たち。
「全小隊戦闘開始(エンゲージ)! 我らの力を見せてやれ!」
合図と共に、前衛の男が飛び出した。コードネーム『タンク』。
魔獣が咆哮し、巨大な爪を振り下ろす。
「うぉぉぉおおおッ!」
タンクが吼える。
彼の皮膚が一瞬で銀色の金属光沢を帯びた。『身体鋼鉄化』。
ガギィィィン!!
重金属が激突する音が響き渡り、タンクの足元の地面が陥没した。
だが、彼は耐えた。
本来なら挽肉になっているはずの攻撃を、生身の腕一本で受け止めたのだ。
「捕らえたぞ! やれぇッ!」
「イート・ディス(喰らえ)!」
後方から援護の女兵士、『スパーク』が手を掲げる。
バヂヂヂヂッ!!
彼女の手のひらから、青白いプラズマの槍が迸る。
因子によって体内の生体電流を増幅・放射する、『雷撃操作』の能力だ。
雷槍は、タンクが抑えている魔獣の側面に直撃した。
ギャオォォォンッ!!
黒い装甲が焼け焦げ、魔獣が悲鳴を上げる。
「効いた! 装甲を貫通したぞ!」
「畳み掛けろ! 一気に仕留めるんだ!」
そこからは、泥沼の死闘だった。
彼らは必死だった。
実験で死んでいった(と思っている)仲間たちのためにも、ここで成果を上げなければならなかった。
魔獣が暴れ、タンクが吹き飛ばされて腕を骨折する。
スパークも鼻血を出しながら、過剰な電力で脳が焼き切れそうになるのを堪える。
あと少し。あと一歩。
「これが……俺たちの、人類の可能性だぁぁぁッ!!」
最後は、全員の斉射だった。
鋼鉄の拳、雷撃、ソニックブーム、衝撃波。
人工的な超常の力が一点に集中し、ついに魔獣の心臓部(コア)を粉砕した。
ドサァッ……。
巨大な魔獣が、黒い霧となって消滅していく。
残ったのは、ボロボロになり息を切らせて倒れ込む五人の兵士たちだけだった。
「はぁ……はぁ……やった……」
スミス少佐が、膝をつきながらガッツポーズをした。
周辺で待機していた通常の米軍部隊から、割れんばかりの歓声が上がる。
歴史的瞬間だった。
「見えない怪物」に対し、人類が初めて自分たちの技術で作った力で勝利したのだ。
CNNのレポーターが興奮してマイクに叫んでいる。
「アメリカが! 人類が! ついに反撃の狼煙を上げました!!」
* * *
そして。
その熱狂とは正反対の、静寂と冷ややかな視線に満ちた場所があった。
次元の狭間【黄昏の宮殿】。
円卓の間に浮かぶホログラムスクリーンに、シカゴでの激戦の一部始終が映し出されていた。
「……ふん」
円卓のNo.8席、スカーレッド(チンピラ狼男)が、つまらなそうに鼻を鳴らした。
彼はポップコーンを放り投げ、ポリポリと齧りながら画面を指差す。
「雑魚魔獣じゃねえか。アーマード・ベアなんて、俺なら爪楊枝でも倒せるぜ?」
「まあ、爪楊枝では無理でしょうけれど……」
No.4席のレイ(お嬢様)が、優雅にティーカップを置き、ため息をついた。
「なんとか退治できたみたいですわね? ……けれど、スマートじゃありませんわ」
彼女の目には、泥だらけになって勝利を喜ぶ米軍の姿は「野蛮」にしか映らない。
「美学がありませんのよ。黒いドレスも着ずに、汗とオイル塗れで戦うなんて」
No.6の言霊少年が、マスク越しに呟いた。
「……効率悪い。一体倒すのに30分? 僕なら一言で終わる」
彼の能力なら、『砕けろ』と言えば終了だ。
「しかも、こいつら雑魚だぜ?」
スカーレッドが再び画面を指差す。
「見てみろよ。たった一体倒した程度で肩で息してやがる。全員ボロボロじゃねーか。疲れ切ってるぜ」
円卓のメンバーたちは、冷笑していた。
無理もない。
彼ら「純正の能力者(御影の設定した天然物)」は、チート並みの出力を持っている。
それに対し人工異能者たちは、命を削ってようやく「下級~中級の魔獣」と互角になれるレベルなのだ。
スペックの桁が違う。
そんな部下たちの慢心を、No.1の席から見下ろしている男がいた。
御影 迅総帥だ。
彼は深く椅子に腰掛け、ワイングラス(中身はグレープジュース)を揺らしていた。
「ふふふ……。厳しい評価だね、みんな」
余裕たっぷりの声が、円卓に響く。
「だが、褒めてあげるべきじゃないかな? 私があの日、公安に残した『ヒント(魔獣因子を利用せよ)』を、彼らはうまく使えたようだ」
「ボスが情けをかけてやったおこぼれってことッスか?」
ライト(No.3)が、皮肉っぽく笑う。
「そうだね。まあ……」
御影は、画面の中、歓声を上げるスミス少佐たちの顔をアップにした。
「その能力は未熟もいいところだ。出力制御もなっていないし、因子の適合率も低すぎる。あれでは数回戦えば、肉体が崩壊するだろう」
いわゆる「粗悪品(劣化コピー)」だ。
「……ボス。潰しますか?」
No.9の情報屋が、眼鏡を光らせた。
「彼らが増長して、我々の領域に入ってくるようなら、今のうちに『教育』が必要かと」
「いや」
御影は片手を上げて制した。
「放っておけばいい。……彼らの存在は、我々にとっても都合がいい」
彼はニヤリと、悪役(と書いて神と読む)の笑みを浮かべる。
「警察や軍隊が『雑魚掃除』をしてくれれば、君たちの手間が省けるだろう? 我々は、より強力な『上級魔獣』や『世界の深淵』の相手に集中できる」
これは詭弁だ。
実際には、上級魔獣なんてまだ設定していない(これから作る)のだが。
「まだまだ我々の活躍が無くなることはなさそうだね……。むしろ、彼らが苦戦し絶望した時こそ、我々が颯爽と現れて『格の違い』を見せつける……最高の演出(スパイス)になると思わないかい?」
おお……と、円卓から感嘆の声が漏れる。
スカーレッドが膝を叩いた。
「なるほどな! さすがボスだ! 『へへッ、やっぱり軍隊じゃ歯が立たねぇ! 助けてくれ特務機関様~!』って泣きつかせるワケだな?」
「およしなさい、品のない表現を」
レイが窘めるが、その顔も楽しそうだ。
「でもそうですわね。引き立て役は必要ですわ」
「そういうことだ」
御影は頷いた。
「まあ、露払いを任せていいぐらいに思ってたらいいかもね。……所詮は人間の作った模造品だ。我ら、選ばれし『円卓』の席には届き得ないよ」
一同は納得し、再び優越感に浸りながらモニターを眺めた。
画面の向こうでは、ヒーロー気取りの米軍兵士たちが大統領から勲章を授与されるシーンが流れている。
しかし、ここにいる13人は知っている。
その栄光がいかに薄氷の上に立つ脆いものであるかを。
そして、もし次に彼らが対処不可能な「真の絶望」が現れた時、世界が誰の名前を呼ぶことになるかを。
御影は、グラスの中の紫色の液体を見つめながら独りごちた。
(さて……そろそろ次のシナリオの執筆だ。人類側が戦力を整えたんだ、こっちも強敵(ボスキャラ)を出してあげないとな。パワーバランスの崩壊こそが、物語を面白くするんだから)
世界の平和(カオス)は、今日もこの厨二病患者たちの手によって、入念に、かつ楽しげにコントロールされていたのである。