能力者も秘密結社も存在しない退屈な世界にキレた俺は本物の厨二病たちをスカウトして【真・国家保安特務機関】を設立する~妄想が現実になった彼らはなぜか政府に土下座されています~ 作:パラレル・ゲーマー
その日、天気予報は「快晴」を伝えていた。
しかし午後、東京湾上空に突如として鉛色の暗雲が立ち込め、季節外れの暴風雨が吹き荒れた。
レインボーブリッジは封鎖され、お台場の観光客たちが屋内に避難する中、海面が異常に盛り上がり始めた。
ザッパァァァーン!!
波間を割り、それは姿を現した。
全長500メートル。
青黒い鱗に覆われた巨体。背中からは鋭利な水晶の棘が天を突き、巨大な顎(あぎと)からは、すべてを押し流す濁流のブレスを吐き出す。
聖書に記されし海の王【巨大魔獣・リヴァイアサン】。
御影 迅が三日三晩かけて設定を練り込んだ、自信作(超大型レイドボス)である。
『うわあああ!? なんだあれは!?』
『怪獣だ! お台場に怪獣が出たぞ!!』
東京都民の悲鳴が、リアルとネットで交錯する。
緊急地震速報ならぬ「緊急魔獣警報」が、スマホを一斉に震わせた。
自衛隊機が緊急発進し、ミサイルを撃ち込むが、リヴァイアサンの周囲に展開された「水神の障壁(アクア・フィールド)」によって、すべて無力化される。
もはや人類の手に負える代物ではない。
その光景を遥か上空――汐留の高層ホテルの屋上ヘリポートから見下ろしている男たちがいた。
一人は黒衣のマントを風にはためかせる総帥、御影 迅。
そして彼を取り囲むように、耳にインカムをつけた公安のエリート捜査官たち。指揮官の室戸もそこにいた。
彼らは銃を構えることすらせず、ただ呆然と眼下の終末的絶望を凝視していた。
「……絶望する東京都民」
御影が独りごちた。
彼の声は、暴風雨の中でも鮮明に公安たちの耳に届いた。
「滑稽なものだね。あれが『見える』ようになっただけで、彼らはこれほどまでに狼狽(うろた)えている」
「……どういう意味だ?」
室戸が、雨に濡れながら問いかけた。
御影は振り返り、悪魔のように甘美な問いを投げかける。
「君たちは、ずっとこれを『台風』や『津波』と呼んできたのだよ」
「!?」
御影は手すりに寄りかかり、荒れ狂うリヴァイアサンを指差した。
「太古の昔から、台風や水害といった『天災』は、本来このクラスの魔獣が暴れた結果が、世界律(ワールド・ルール)によって自動置換されたものに過ぎない」
もちろん嘘(御影の設定)だが、室戸たちにとっては衝撃的な真実だ。
「かつての伊勢湾台風、東日本を襲った水害……。あれらは気圧配置の悪戯などではない。こういうバケモノが、空腹で暴れたただの食事の跡さ」
御影は続ける。
「人類はずっとそれを『自然現象だから仕方がない』と自分を納得させてきた。だが、こうして実体が見え、明確な敵意として認識できるようになった途端、人々は理性を失い、絶望している」
彼はクスリと笑った。
「面白いと思わないかい? どちらも結果として起きる破壊(被害)は同じなのに」
冷たい雨が、御影のマスクを濡らす。
「目に見えぬ理不尽な天災と、目に見える圧倒的な魔獣……。人間にとって、果たしてどちらが本当に怖いんだろうね?」
室戸は言葉を失った。
確かに、ただの台風なら「運が悪かった」で済む。
だがもしそれが「怪物の暴力」だと知らされたら?
恐怖の質が変わる。世界への信頼が崩れ落ちる。
「我々は……」
室戸は、絞り出すように言った。
「我々警察組織も、自衛隊も、あの怪物の前では無力だというのか……」
米軍が倒した雑魚魔獣とは、スケールが違う。
人工能力者部隊「サクラ(日本の部隊名)」を投入しても、一瞬で蒸発するのが関の山だ。
「……黙って見ているしかないのか!」
室戸が悔しさに拳を握りしめた時、御影がスッと手を挙げた。
「安心したまえ。今回は我々が出る」
御影の声が、不思議と力強く響いた。
「このサイズは、放置すれば東京が地図から消える。君たちの作った『まがい物(人工異能者)』では、何十回戦っても勝てないだろうからね……」
厳しい宣告だが、同時にそれは救いの言葉でもあった。
室戸は項垂れ、そして深く頭を下げた。
プライドも、国家の威信も、かなぐり捨てて。
「……すみません。お任せします」
それは、日本政府が正式に【真・国家保安特務機関】へ防衛を委任した、歴史的瞬間だった。
「……ということだ、円卓の諸君」
御影はインカム(実際は念話)を通じて、待機していた配下たちへ命じた。
「存分に暴れたまえ。今宵の東京湾は、君たちの独壇場だ」
――承知ッ!!
その瞬間。
暗い東京湾の空が、真っ黒な炎で焼き尽くされた。
『ライト(右腕)』が上空へ飛翔し、彼が得意とする黒炎を極限まで練り上げ、一匹の巨大な『竜』を形成していたのだ。
オォォォォオオオンッ!!!!
闇より生まれし黒きドラゴンが、咆哮を上げる。
「先陣は俺が貰うぜぇ! 行けェ、黒炎竜(ブラック・フレア・ドラゴン)ッ!!」
ライトが腕を振り下ろす。
黒き竜が、リヴァイアサンへと突撃した。
『!!??』
避難していた都民たちが、そしてテレビの前で見守っていた一億人が絶句した。
『竜だ!!!!』
『黒い竜が現れたぞ!!!』
『あれ、あの組織の狼のやつの……いや、これは別格だ!』
カメラが捉える。
黒竜と海竜の激突。
水蒸気が爆発的に発生し、お台場が白い霧に包まれる。
「隙ありだぜ!」
霧の中から、海面を凍らせて滑走する人影。
円卓No.11『氷結の魔女(コキュートス)』だ。
「凍てつけ! 【絶対零度の大監獄】!!」
彼女が海面に手を触れると、リヴァイアサンの足元の海水が、一瞬にして氷山へと変わった。
巨大な質量を持つ怪物が、氷に足止めされる。
「今ですわ! 全員一斉攻撃を!」
お台場の観覧車の頂上に立つNo.4レイが、号令をかける。
彼女のスカートの下から展開されたのは、影で形成された数百門のガトリング砲とミサイルランチャー(『黒き荊』の応用技『死の舞踏・殲滅形態』だ)。
「あなたたちごときに、マスターの創った美しい東京(夜景)は渡しませんわーーーッ!!!」
ズババババババッ!!!
無数の黒い棘ミサイルが発射され、リヴァイアサンの鱗を削り取っていく。
「ウラララララァ!!」
スカーレッド(狼男)も負けてはいない。
彼はタンクローリーを片手で投げつけ、それを空中で粉砕して、即席の榴弾としてぶつけるという荒技を見せつける。
「……崩れろ」
そしてトドメは、高層ビルから見下ろすNo.6の『言霊』だ。
彼はリヴァイアサンの水晶の角一点に狙いを定め、静かに、しかし確定した未来として言葉を紡いだ。
パキィィィィィィン!!
高音の破砕音が響き渡り、リヴァイアサンの象徴である角が粉々に砕け散った。
断末魔の叫び。
黒竜のブレス、茨の砲撃、氷の鎖、言霊の重圧。
12人のチート級の攻撃を一斉に浴びて、さしもの超大型魔獣も限界を迎えた。
光の粒子となって崩壊していく、リヴァイアサン。
雲が割れ、そこから一筋の陽光(これも御影の演出)が差し込む。
「……終わったのか……?」
屋上の室戸が、呆然と呟いた。
戦闘時間、わずか10分。
人類の全兵器を投じても勝てないはずの怪物を、彼らは「遊んでいる」かのように蹂躙し、消し去ってしまった。
「言っただろう?」
御影がマントを翻す。
逆光の中、その姿はまさに救世主か、あるいは魔王のようだった。
「我々がいる限り、この世界の『黄昏』は終わらない。だが同時に、決して『夜』にはさせないとな」
『ウオォォォォォオオオ!!!!』
お台場から、対岸の芝浦から、そしてテレビの前から。
歓声が上がった。
【真・国家保安特務機関】万歳!
12使徒万歳! 黒マントの総帥万歳!
ネットは、サーバーダウン寸前の勢いでお祭り騒ぎになっている。
『カッケェェェェ!! 日本終わったかと思ったけど始まったわ!』
『もう自衛隊いらなくね? こいつらに税金払おうぜ』
『俺もあの組織に入りたい……! 能力さえあれば……!』
御影は満足げに頷いた。
公安の目の前で見せつけた、圧倒的な力の差。
これで政府も警察も、もはや俺たちの「下請け」として動かざるを得まい。
彼らは二度と、俺たちに「協力してほしい(対等に)」などという寝言は言えなくなるだろう。
「室戸管理官。……あとの掃除(事後処理)は任せるよ。我々はシャイでね、マスコミ対応は苦手なんだ」
御影は茶目っ気たっぷりに言い残し、いつもの転移魔法で消失した。
後に残されたのは、ボロボロになったが平和を取り戻した東京湾と、完全に価値観を書き換えられてしまった人類(公安)だった。
室戸は晴れ渡る空を見上げ、苦笑した。
「……化け物め。勝てるわけがない……」
彼の手は震えていたが、そこには安堵もあった。
少なくとも、彼らが「味方」であるうちは、人類は滅亡を免れるだろう。
彼らの機嫌を損ねない限りは。
こうして【東京湾決戦】は伝説となり、世界は本格的に『厨二病の時代』へと突入していくのであった。
<第一部:東京湾決戦編・完>
おまけでネットの反応があります。人体実験バレでぶっ叩かれる姿はそこで。