能力者も秘密結社も存在しない退屈な世界にキレた俺は本物の厨二病たちをスカウトして【真・国家保安特務機関】を設立する~妄想が現実になった彼らはなぜか政府に土下座されています~   作:パラレル・ゲーマー

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第5話 宵闇の別離と六畳一間の創世記

 新宿中央公園を見下ろす時計台の上。

 月明かりの下、契約は成立した。

 

 俺、御影 迅は、眼の前の少女――九条麗華、改め『レイ』に向かい、能力付与(インストール)の儀式を行った。

 

 指先で、彼女の額に軽く触れる。

 そして、俺の中で事前に練り上げておいた設定ファイルを選択し、彼女の魂へと焼き付ける。

 

 ――対象:レイ。能力名『黒き荊の処刑台(ローズ・ガーデン)』。属性:闇/植物。

 ――説明:影から無尽蔵に、鋼鉄の強度を持つ漆黒の茨を生成し、対象を拘束・粉砕する。使用者の精神状態により、茨には棘と共に黒い薔薇が開花する。

 

 ビシッ!

 

 指先から微弱な紫色の電流のようなエフェクトが走り(もちろんこれも演出だ)、レイの身体に流れ込む。

 

「んんっ……!」

 

 彼女が艶めかしい声を漏らし、膝をつく。

 身体の中で新しい力が暴れまわり、そして定着していく感覚に、陶酔しているのだろう。

 

 その瞳の奥には、今までにない暗く妖しい光が灯っていた。

 

「……ふふふ」

 

 俺は、あくまで冷徹な総帥として振る舞う。

 

「馴染んだようだな。その力、まさに『茨の女王』に相応しい」

 

「あぁ……素晴らしいです……! 体の中から黒い衝動が溢れてくるのが、わかりますわ!」

 

 レイは自分の手を見つめ、恍惚の表情を浮かべた。

 試しに指を動かすと、彼女の足元の影からスルリと細い黒い蔓が伸び、意思を持った蛇のように蠢く。

 

「これが私の力……『黒き荊の処刑台(ローズ・ガーデン)』……!」

 

「ああ。だが、まだ産声を上げたばかりだ。しばらくその力の扱いに慣れ、自らの血肉とするがいい」

 

 さて、これでお披露目(顔見せ)は十分だろう。

 これ以上長居すると、俺の化けの皮が剥がれかねないし、そろそろ家に帰って深夜アニメも見たい。

 

 俺は背を向け、マントを夜風に躍らせた。

 

「では、私は征く」

 

「おお待ちください総帥! 私たちは次、いつお会いすれば……!?」

 

 レイが焦ったように叫ぶ。まあ当然の疑問だ。

 

 俺は立ち止まり、肩越しに不敵な笑みを投げる。

 

「案ずるな。『アジト』でも作ってくる」

 

「アジト……ですの!?」

 

「ああ。世界の裏側で、我々が集う円卓が必要だろう? ……また接触する。そのうち其処への『鍵』を届けよう」

 

 アジトなんて影も形もないが、まあ今から作るから嘘ではない。

 

「能力の研磨を怠るな。……ではさらばだ」

 

 俺は自分の肉体に、『影と同化(シャドウ・メルド)』の設定を上書きする。

 

 俺の輪郭が曖昧になり、足元から徐々に、ドロドロとした黒い液体のように溶け出し、時計台の影へと吸い込まれていく。

 

「はっ……! かしこまりました……! お待ちしております、我が主!」

 

 レイが深々と跪く姿が、消えゆく視界の最後に映った。

 

 よし、去り際は百点満点だ。

 

 こうして俺は、文字通り「闇に溶けるように」その場から消失した。

 

 ◆

 

 ――しゅん。

 

 瞬間移動のような感覚を経て、俺は元の姿に戻っていた。

 場所は新宿から数駅離れた、俺の住むボロアパートの一室である。

 

「ふぅ……」

 

 マントとマスクを解除し(というか能力で作った実体幻影なので消去し)、ヨレヨレのジャージ姿に戻る。

 手にはいつの間にかコンビニ袋。

 

 帰り道に寄って買ったストロングゼロとおつまみセットだ。

 世界征服の後の祝杯は、やっぱりこれが一番うまい。

 

「……疲れたー。演技するのって、意外とカロリー使うな」

 

 俺は万年床の煎餅布団の上にゴロンと転がり、プシュッと缶を開ける。

 

 だが頭の中は、興奮で冴え渡っていた。

 

 やった。ついに第一歩を踏み出した。

 仲間も見つけたし、魔獣騒ぎも起こした。いよいよ本格的な秘密結社運営の始まりだ。

 

「よし、じゃあ有言実行といきますか。次は『秘密基地(アジト)』を作成しなきゃな」

 

 あの時レイにかっこつけて「アジトを作る」と言ってしまった以上、しょぼい雑居ビルの地下とかでは許されない。

 本物の厨二病患者たちが感動して震えるような、幻想的で荘厳で、闇属性全開の拠点が必要だ。

 

 俺は起き上がり、虚空に指を走らせる。

 キーボードなんていらない。この指先こそが、創造主のペンだ。

 

「まず場所だが……物理的な場所だと、家賃もかかるし固定資産税も面倒だ」

 

 なら、場所は『異空間』一択だろう。

 現実世界と位相をずらした座標に、独立した空間を生成する。

 

 ――設定:【亜空間領域・黄昏の宮殿(仮)】。広さは……とりあえず東京ドーム1個分くらいでいいか。

 ――内装デザイン:闇ベースで。ゴシック様式を取り入れる。床は大理石風の黒曜石。天井はなくて、常に紅い月が浮かんでいる星空。光源は、宙に浮く青白い鬼火(ウィル・オー・ウィスプ)で。

 

 イメージが次々と現実化していく手応えがある。

 

「出入り口はどうするかな。あ、『鍵』を届けるって言っちゃったな」

 

 俺は思考を巡らせる。

 

「……こうしよう。『何処からでも鍵を使えば扉が生成される』設定」

 

 つまり、古びた洋館のドアでも、学校の教室のドアでも、あるいは壁にチョークで書いたドアでもいい。

 俺が発行した特殊な『鍵』を差し込めば、そこがアジトへのゲートになる。

 

 これなら、世界中どこにいても一瞬で集合できるし、逃走経路としても優秀だ。

 

「『鍵』のデザインは、シルバーのアンティーク調で。ドクロの装飾入りでよろしく」

 

 ちゃっかり細部までこだわる。

 

「あと、メインルームには会議室が必要だな」

 

 秘密結社といえば、円卓会議だ。

 ゼーレみたいなモノリスでもいいが、やっぱり顔を突き合わせての悪巧みが楽しい。

 

「円卓……席数は、とりあえず13席あればいいか」

 

 1は俺、2はレイ、3はあの公園の彼(黒炎のライト君)。まだ10席も空きがある。

 これからどんな濃いキャラが座ることになるのやら。

 

「椅子の背もたれには、各ナンバーとタロットカードの絵柄を刻印。これ、絶対かっこいいやつだ」

 

 俺はニタニタしながら、脳内で家具を配置していく。

 

 よしよし、これで器は整った。

 

「あとは……情報収集だな」

 

 俺は片手に酒を持ったまま、もう片方の手でリモコンを操作し、テレビをつける。

 ついでにノートパソコンを開き、SNSとニュースサイトをザッピングする。

 

『――ニュース速報です。本日未明、新宿中央公園にて大規模なガス爆発と思われる事故が発生しました。近隣住民によりますと……』

 

 テレビのニュースキャスターは、困惑した顔で原稿を読んでいる。

 現場の映像が流れる。

 

 へし折れた街灯。めくり上がったアスファルト。

 どう見ても「ガス爆発」ではない。だが、そう報道するしかないのだろう。

 

 ネットの反応は、もっと素早くて過激だった。

 

『ガス爆発とか嘘だろ。動画見たけど、なんか見えない何かが暴れてるぞ』

『新宿やばすぎ。リアルバイオハザードかよ』

『オカルトブログの管理人Mが予言してたってマジ?』

『警察が発砲してたぞ。相手なんだったんだ?』

『なんか黒い翼の生えた男が飛んでいくのを見た』

 

「おーおー、おっかなびっくり盛り上がってんねぇ」

 

 俺はツイッター(X)のトレンドワードを確認する。

 

 1位:#新宿爆発

 2位:#謎の生物

 3位:#見えない怪物

 5位:#黒い翼

 

「おっと、かなり騒動になってる。……やばー、ちょっとやりすぎたかな?」

 

 俺が作った【下級魔獣(シャドウ・ハウンド)】たちは、本来ならもう少しコッソリ人間を脅かす程度の設定だったはずだ。

 まさかレイのお嬢様が実況書き込みしたり、警察がガチ銃撃戦を始めたり、挙句の果てにライト君が派手に燃やしたりするとは想定外だった。

 

「まあ、なんとか退治できたみたいだけど」

 

 ニュースの現場映像を見る限り、警察も負傷者は出ているが、死者は出ていないようだ(ちゃんと手加減設定にしておいてよかった)。

 魔獣たちも、時間が経てば消滅する仕組みだ。証拠は何も残らない。

 

「警察の上層部とか、今頃ハゲるほど頭抱えてるだろうなぁ……。『おい今の映像は何だ!』『わかりません! 映っていないんです!』みたいな?」

 

 くくくと、喉の奥で笑いが漏れる。

 

 ざまあみろ。退屈な日常に安住していた、平和ボケの公務員たちよ。

 これからは、見えない脅威と戦う「ホラー映画」の開幕だ。

 

「……まあいいか! おかげで信者(予備軍)も増えたみたいだし」

 

 俺のブログ【月刊:世界の裏側】のアクセス数が、かつてない勢いで垂直上昇しているカウンターを眺めながら、俺はストロングゼロを飲み干した。

 

 明日からは、さらに忙しくなるぞ。

 なにせアジトに置く備品とか、まだ考えてない設定がいっぱいあるからな。

 

「……あやべ。明日は週刊誌のライターの締め切り日だった」

 

 ふと現実に引き戻される。

 

 世界の支配者になったとはいえ、明日のパン代は自分の労働で稼がなきゃならない。

 なんてこった。世界を裏から操る前に、まずは編集長のご機嫌取りをしなきゃいけないなんて。

 

 俺は溜息をつき、空き缶を投げ捨てて布団に潜り込んだ。

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