能力者も秘密結社も存在しない退屈な世界にキレた俺は本物の厨二病たちをスカウトして【真・国家保安特務機関】を設立する~妄想が現実になった彼らはなぜか政府に土下座されています~   作:パラレル・ゲーマー

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第7話 創造主の隠蔽工作と、書き換えられた警察白書

 秘密結社のスカウト活動が一段落した、その夜。

 御影 迅は、アパートの六畳一間で腕組みをして唸っていた。

 

 机の上には、ストロングゼロの空き缶がピラミッドのように積み上がっている。

 パソコンの画面には、連日の「新宿透明怪獣騒ぎ」に関するニュース記事や、SNSのタイムラインが滝のように流れていた。

 

「さて……ここらで一つ、盛大な『辻褄合わせ』をしておかないとな……!」

 

 御影は、眼鏡(伊達メガネ。知的な演出用)をクイッと持ち上げ、独りごちた。

 

 先日の騒動は、想定以上に広がりすぎてしまった。

『見えない怪物が暴れた』という事実は、現代社会のリアリズムを根底から覆す。

 そのまま放置すれば、「集団幻覚」か「新種のガス中毒」として、強引に幕引きされてしまうだろう。

 

 それでは面白くない。

 

 俺が作りたいのは、「闇の脅威が日常を侵食していく世界」だ。

 そのためには、もっともらしい「理由付け(設定)」が必要になる。

 

「まず、魔獣という存在の定義だ」

 

 彼は、キーボードではなく虚空に指を走らせ、神の権能たる『設定実体化』のエディタを起動した。

 

「……あれだけの化け物が、今の今まで発見されなかった理由。……そうだな」

 

 ――追加設定(アップデート):魔獣『影喰い(シャドウ・ハウンド)』及び、同位体の存在定義。

 1. 彼らは太古より、この世界に「いた」。

 2. ただし、彼らが引き起こす物理干渉や被害は、「人類が科学的に説明可能な事象」へと、自動置換(オート・マスク)される特性を持つ。

  これを【認識阻害フィールド:世界律(ワールド・ルール)】と呼称する。

 

「よし、これが基本骨子だ」

 

 つまり、こういうことだ。

 

 魔獣が人を食い殺しても、これまでは「野犬に襲われた」とか「通り魔殺人」、あるいは「心不全」として処理され、誰もその真実に気づかなかった。

 目撃者さえも、脳が勝手に合理的な解釈をして、記憶を修正してしまう。

 

 完璧な隠蔽機能。

 

 しかし、それがなぜ今になって破られたのか?

 

「……ここで俺たちの出番ってわけだ」

 

 御影はニヤリと笑い、設定の続きを書き加える。

 

 3. しかし【規格外の強大な力を持つ異能者(つまり俺たち)】が覚醒・接触したことにより、この世界の認識阻害フィールドに亀裂が生じた。

 4. ゆえに、今後は魔獣の姿や被害が隠蔽されず、表沙汰になるケースが増加する(=これからの物語が盛り上がる理由)。

 

「……完璧だ。我ながら天才的なシナリオだ」

 

 御影は自画自賛しながら、エンターキーをッターン! と叩き込んだ。

 

 これで、世界の「過去」と「理(ルール)」が書き換わった。

 

 さて、設定を実装しただけでは不十分だ。

 人間にそれを「発見」させなければならない。

 

「種は蒔いた。次は水をやろう」

 

 彼はパソコンに向き直り、まずはVPNを通してIPアドレスを偽装し、海外の怪しげな匿名掲示板「ダーク・チャンネル」にアクセスした。

 

 慣れた手つきで、英文のスレッドを立てる。

 

『【機密漏洩】各国の未解決事件ファイルと”黒い獣”の関連性について』

 

 そこには、俺が今でっち上げた「新説」を裏付けるような(偽造した)データを添付する。

 

 さらに、自分の運営するブログ【月刊:世界の裏側】にも、別記事として投稿。

 

『緊急考察:新宿事件は始まりに過ぎない!? 歴史の影に隠された”自動置換”の恐怖』

 

「ふふふ……拡散されろ、拡散されろ……」

 

 デマが真実となり、世界を侵食していく様を想像し、御影はほくそ笑んだ。

 

「さて、警察のお偉いさん方は、このプレゼントに気づいてくれるかな?」

 

          * * *

 

 翌日。

 

 警視庁本庁舎。地下深くにある資料編纂室。

 窓もなく、蛍光灯の白い光だけが満ちるその部屋で、一人のキャリア官僚が頭を抱えていた。

 

 名は、一条(いちじょう)警視正。

 30代の若さで異常犯罪対策課の課長を務めるエリートであり、極度の現実主義者だ。

 

「……馬鹿な」

 

 彼の手元には、先日発生した「新宿中央公園・不明騒擾(そうじょう)事件」の報告書と、過去数十年にわたる未解決事件のデータが散乱していた。

 

 一条は震える手でコーヒーカップを口に運んだ。

 味がしない。

 

 昨夜の新宿事件は、異常だった。

 

 現場の警官のボディカメラ映像。

 何もない空間で弾け飛ぶ隊員たち。空中で停止する銃弾。

 そして、サーモグラフィーに一瞬だけ映り込んだ「獣のような熱源」。

 

 すべてが、既存の科学捜査では説明がつかなかった。

 

「……こんなオカルト、認めるわけにはいかない」

 

 一条は呟いた。

 だが、優秀な彼の頭脳は、ある一つの「仮説」に辿り着きつつあった。

 

 きっかけは、部下のネット犯罪対策課から回ってきた、とある匿名掲示板の情報だった。

 

 最初は鼻で笑った。

 

 『認識阻害』? 『被害の自動置換』? 中学生の妄想小説じゃあるまいし。

 

 だが試しに、その仮説に基づいて過去のデータを再検索(フィルタリング)してみた結果――。

 

 一致してしまったのだ。

 

「ありえない……確率的にも、統計的にも……」

 

 モニターに映し出されたグラフは、恐るべき相関関係を示していた。

 

 ・昭和XX年、K村で発生した野犬の集団暴走事件。

  → 検死の結果、傷口は野犬の歯型と一致したが、その破壊力はヒグマに匹敵する不可解なものだった。

 

 ・平成XX年、渋谷での突風によるビル窓ガラス落下事故。

  → 目撃者は「黒い煙のようなものを見た」と証言したが、後の聴取では「雲の見間違い」と修正されていた。

 

 ・数々の「原因不明の変死体」「行方不明事件」。

 

 これら全てが、今回、新宿で観測された「見えない力」の特性と合致する。

 

 そして何より恐ろしいのは、捜査資料の備考欄に書かれた、担当刑事たちの違和感ある手記だ。

 

『おかしな話だが、まるで犯人が人間ではないような……いや、気のせいだ』

『証拠品が消失した。いや、最初から無かったのか? 記憶が曖昧だ』

 

「我々は……人類は、ずっと騙されていたというのか!?」

 

 一条は机をドンッと叩き、立ち上がった。

 

 認識阻害。自動置換。

 

 もしそれが本当なら、警察組織そのものが、これまで巨大な「何か」の手のひらの上で踊らされ、真実を隠蔽させられ続けてきたことになる。

 

 なぜ今になって、その殻が破れた?

 

 ネットの情報通り、「強い力を持つ存在」が現れたからなのか?

 

 一条の背筋を、冷たい汗が伝う。

 

 新宿で目撃されたという「黒マントの男」と「黒炎の少年」。

 彼らが、その特異点(トリガー)だというのか。

 

「……これは警察だけで対処できる案件ではない」

 

 彼は受話器を取り上げ、直通回線のボタンを押した。

 相手は内閣情報調査室。

 

 もはや、パンドラの箱は開いたのだ。

 

「私だ、一条です。……至急、上層部に報告を。ええ、『超法規的措置』が必要になるかもしれません」

 

 彼の目には、かつてない覚悟と、底知れぬ恐怖が宿っていた。

 まんまと御影の作ったシナリオ(偽史)を「発見」してしまった、天才の悲劇である。

 

          * * *

 

 一方その頃、ネット界隈でも、また別の形の祭りが起きていた。

 

 御影のブログ【月刊:世界の裏側】は、もはやキワモノサイトではなく、予言の書として神聖視されつつあった。

 

 コメント欄の熱量は、臨界点に達している。

 

『おい見ろよ! 20年前の〇〇事件の記事、修正入ったぞ! 警察発表が変わった!』

『「見えない力による損傷の可能性」だってよwww おいおいガチじゃねーか』

『やっぱり管理人Mさんは知ってたんだ! 自動置換とか怖すぎ』

『てことは、俺の隣にいる人とかも本当は食われて別の何かに変わってるかもしれんの?』

『やめろ、夜トイレ行けなくなる』

 

 匿名掲示板でも、スレッドが乱立していた。

 

 【悲報】世界の真実ついにバレる

 【緊急】新宿の怪物の正体について語るスレ part.145

 【M氏】黒マントの組織って味方なの? 敵なの?【救世主?】

 

 そこに、あの九条麗華(ハンドルネーム:漆黒の薔薇)もしっかり降臨していた。

 

『みなさん落ち着いて。恐怖する必要はありませんわ』

『世界の綻びは確かに怖いものです。けれど私たちが知覚できるようになったのは、それを祓う「力」がこの世界に来訪したからですのよ』

『黒い炎。そして全てを見通すマスクの貴方……。彼らがいる限り、私たちは守られています』

 

 彼女の書き込みは「痛いポエム」として扱われがちだったが、今回の騒動を受けて一部からは「ガチの目撃者」「巫女様」扱いされ始めていた。

 

 彼女自身も、屋敷の自室で高級なハーブティーを飲みながら、うっとりと画面を眺めていた。

 

「ふふふ……広まっていくわ。私と総帥だけの秘密だった世界が、愚民たちにも理解され始めたのね」

 

 彼女は御影の計画など露知らず、純粋に「私たちの活動が世界に認知されている」と喜んでいた。

 

          * * *

 

「よしよしよし! かかった!!」

 

 再びアパートの六畳一間。

 御影はガッツポーズをした。

 

 今しがたハッキングした、警視庁の内部サーバーに、新しい捜査フォルダ【特異事案対策資料(仮)】が作成されたのを確認したからだ。

 

 その中には、俺がばら撒いた「魔獣の新説」が、ほぼそのまま事実として記載されていた。

 エリート刑事の考察文付きで。

 

「いやー、優秀な警察官様のおかげで助かるよ。まさか俺の妄想設定を、ここまで補強してくれるとはな」

 

 彼らが真剣に「過去の事例との照らし合わせ」を行った結果、本来は無関係だったただの事故や事件までもが「魔獣の仕業だった」ことになり、結果として俺の設定がより強固なリアリティを持つことになったのだ。

 

 これを、マッチポンプの極みと言う。

 

「さて、これで警察も動き出す。となれば、俺たち秘密結社【真・国家保安特務機関】(まだ名乗ってないけど)も、そろそろ表舞台で『名乗り』を上げる準備をしないとな」

 

 舞台は整った。

 役者は揃った(俺、レイ、ライト)。

 観客(警察、政府、ネット民)も温まっている。

 

 あとは最初の大仕事。

 壮大な「アジトへの初顔合わせ」と「結成式」だ。

 

「待ってろよ、円卓の同志たち。俺たちの厨二病(ユメ)が、いよいよ国連を動かす時が来たぞ」

 

 御影は、残っていたストロングゼロを飲み干すと、満足げに眠りについた。

 

 その寝顔は、世界を恐怖に陥れる支配者というよりは、クリスマスの朝を待つ子供のように無邪気だった。

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