能力者も秘密結社も存在しない退屈な世界にキレた俺は本物の厨二病たちをスカウトして【真・国家保安特務機関】を設立する~妄想が現実になった彼らはなぜか政府に土下座されています~   作:パラレル・ゲーマー

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第9話 十二の鉄槌および国連安保理の機能不全

 その夜、世界の時計が狂った。

 日本時間の午前3時。秘密結社【真・国家保安特務機関(仮称)】による、第一次大規模討伐作戦『開闢(ジェネシス)』が開始された瞬間である。

 

 彼らはアジトの『定点ゲート』を通り、世界各地の「魔獣濃度が高いエリア(=御影が適当に配置した場所)」へと転移した。

 御影の設定した魔獣たちは、深夜の街を徘徊し、恐怖を撒き散らしていた。だが、今夜からは捕食者と被捕食者の立場が逆転する。

 

 ◆ Scene 1:ニューヨーク・タイムズスクエア

 

 ネオンが煌めく眠らない街に、異様な遠吠えが響いた。

 体長3メートルを超える、アスファルトの体皮を持つ『巨人魔獣(ゴーレム・ビースト)』が暴れていた。

 

 NY市警がバリケードを封鎖し、ライフルを一斉掃射するが、怪物の硬い皮膚には傷一つ付かない。

 

「クソッ、弾が通じねえ! こいつは戦車かよ!」

「スワットはまだか!」

 

 そこへ、空から一つの影が降ってきた。

 No.8スカーレッド。

 

「ヒャッハー!! ここがアメリケンの中心地かよ! 派手でいいじゃねえか!!」

 

 彼は上空から急降下しながら、自身の能力『暴虐の獣爪(ビースト・アーツ)』を完全解放した。

 

 バキバキバキッ……!

 

 骨が軋む音と共に、彼の肉体が変形する。筋肉が膨張し、皮膚は銀色の剛毛に覆われ、顔が完全に「狼」へと変わる。

 人間と獣のハイブリッド人狼形態(ウェアウルフ・フォーム)。

 

「喰らいやがれ! 【滅殺の餓狼撃(ウルフ・ファング)】!!」

 

 彼は雄叫びと共に、魔獣の脳天に鉄槌のような拳を振り下ろした。

 

 ドォォォォォン!!!

 

 衝撃でタイムズスクエアのアスファルトが陥没し、周囲のビルガラスが一斉に割れた。

 無敵と思われた巨人魔獣の頭部はトマトのように弾け飛び、その巨体が、どさりと崩れ落ちる。

 

 一撃。

 完全なる暴力による制圧。

 

「ヘッ、見掛け倒しだな! アメリカの魔獣ってのは、この程度かよ!」

 

 スカーレッドは粉塵の中から悠然と現れ、血に濡れた爪を舐めた。

 唖然として立ち尽くすNY市警の警官たちに向け、彼は親指を突き立ててみせる。

 

「あーサンキューな、公務員共! お掃除完了だぜ!」

 

 彼は次の獲物を求めてビルを駆け上がり、夜のマンハッタンへと消えていった。その姿はニュースカメラの生中継に、バッチリ映り込んでいた。

 

 ◆ Scene 2:ロンドン・タワーブリッジ

 

 テムズ川から這い上がってきたのは、不定形のヘドロのような『粘液魔獣(スライム・ビースト)』だった。

 物理攻撃無効。触れれば腐食する毒液を撒き散らし、歴史ある橋を溶かしていく。

 

「橋を封鎖しろ! 近づくな!」

 

 ロンドン警視庁(スコットランドヤード)も、手が出せずにいた。

 

 だが、橋の欄干に佇む、小柄な人影がいた。

 バッテンマスクの少年、No.6だ。

 

「……臭いな。美しくない」

 

 彼はダルそうに魔獣を見下ろす。魔獣は巨大な波となって、彼を飲み込もうと襲いかかる。

 

 No.6はポケットに手を突っ込んだまま、ボソリと呟いた。

 

「……『潰れろ』」

 

 瞬間。

 

 パァンッ!!!

 

 不可視の重力プレスが、魔獣の頭上から落下した。

 

「ギャアアアアッ!?」

 

 粘液魔獣は一瞬にして圧死……いや、液状の膜となって地面にベチャリと張り付いた。

 物理攻撃が効かないはずの体が、概念的な「潰れろ」という言葉(言霊)によって、強制的にペラペラの平面へと変えられたのだ。

 

「片付けは頼むよ」

 

 No.6は警官たちに手を振ることもなく、虚空に溶けるように消え去った。

 

 ◆ Scene 3:パリ・エッフェル塔

 

 空を舞う『怪鳥魔獣』を相手に、レイ(No.4)の『黒き荊の処刑台』が乱舞していた。

 

「優雅に、かつ残酷に散りなさい!」

 

 パリの夜空に、無数の黒い茨の檻が出現し、魔獣を捕縛して絞め落とす。

 彼女のゴシックドレス姿はパリの景観とマッチしすぎて、「芸術作品」のようだと現地のSNSでトレンド入りした。

 

 ――こうして、一夜にして世界主要10都市以上で、同時多発的に「超常的な戦闘」が行われた。

 もはや隠蔽など不可能。

 

          * * *

 

【ネット社会の大盛り上がり】

 

 この同時多発テロならぬ「同時多発ヒーロー活動」に、世界中のネットユーザーは熱狂の坩堝と化した。

 

『マジかよ! NYのライブカメラ見たか!? 狼男が魔物をワンパンしてたぞ!』

『ロンドンにもいた! マスクの子供、あれエスパーか何か?』

『パリの黒ドレスの女性、美しすぎる……私の女神様……』

『こいつら全員、黒いマントや特徴的なナンバーの意匠があるな。組織だろこれ』

『日本のブログ「世界の裏側」の管理人が言ってた「13人の使徒」ってこいつらか!』

 

 陰謀論? オカルト? 否。

 数千万人が目撃した、紛れもない「現実(リアル)」だ。

 

 ハッシュタグ #The_Thirteen_Shadows(十三の影たち) #Monster_Hunt(魔獣狩り)は、またたく間にワールドトレンド1位を独占。

 彼らは恐怖の対象ではなく、無能な政府や警察に代わって脅威を取り除いてくれる「ダークヒーロー」として、カルト的な人気を集め始めていた。

 

 動画サイトには「【検証】NYの狼男の戦闘力を計算してみた」「使徒No.4(レイ様)のファンクラブ設立のお知らせ」といった動画が乱立し、コスプレをする若者まで現れる始末だ。

 

 もちろん、全てはアパートの六畳一間でモニターを眺める御影 迅の思惑通り(いや、人気が出すぎたのは想定外だが)であった。

 

          * * *

 

 そして翌朝。

 アメリカ、ニューヨーク。国連本部ビル。

 

 安全保障理事会の緊急会合が招集されていた。

 円形の会議場には常任理事国・非常任理事国の大使たちが勢揃いし、普段のポーカーフェイスをかなぐり捨てて紛糾していた。

 

「ありえない! 絶対にありえない!」

 

 机を叩いて立ち上がったのは、科学と合理性を信奉するドイツの大使だった。

 

「狼人間に重力使いに茨の魔女だと? ……ふざけているのか! 映画の宣伝なら他所でやれ!」

 

「しかし大使、これをご覧ください」

 

 アメリカ代表が、タブレット端末をスライドさせる。そこに映っているのは、米軍の衛星や市街地カメラが捉えた鮮明な戦闘映像だ。

 

「CGによる加工の痕跡はありません。さらに現場から採取された魔獣の肉片サンプルからは、地球上のどの生物とも一致しないDNA構造……いや、構造すら持たない未知の『黒い粒子』が検出されました」

 

 会議場がざわめく。

 

「生物兵器か?」

 

 ロシア代表が低く唸る。「どこかの国の極秘実験……例えば中国とか」

 

「失敬な! 我が国も昨晩、上海で同様の被害を受けている!」

 

 中国代表が、即座に否定する。

 

 イギリス代表の女性が、静かに手を挙げた。

 

「我が国スコットランドヤードの報告によれば、ロンドンに現れたマスクの少年は、空間転移能力を使用した形跡があるそうです。……物理学の敗北を認めたくはありませんが、彼らは既存の科学技術の枠外にいます」

 

「では何か!?」

 

 フランス代表が頭を抱えた。

 

「我々は魔法使いの集団と外交しろと言うのかね? あるいは彼らをテロリストとして国際指名手配するのか?」

 

「テロリスト? 彼らは市民を守り、魔獣を排除しましたよ?」

 

「だが、許可なき武力行使は国際法違反だ! そもそも彼らは、どこの国に属している!?」

 

 議論は平行線をたどる。

 彼らは認めたくなかったのだ。「自分たちの管理できない強大な力」が存在することを。

 

 そして何より恐ろしいのは、彼らが国家という枠組みを超越し、勝手気ままに世界各地に出現できる神出鬼没さを持っていることだ。

 

 もしその力が、魔獣ではなく「国家」に向けられたら?

 核兵器すら無力化されるかもしれない。

 

 ホワイトハウスやクレムリン宮殿に、あの少年(No.6)がいきなり現れて「潰れろ」と呟くだけで、大国の中枢が更地になるのだ。

 

「……彼らの正体については」

 

 日本の国連大使がおずおずと口を開いた。

 

「日本の警視庁公安部より、極秘の報告が入っています」

 

「ほう、日本か! 魔獣の発信源とされる国だな!」

 

「はい。ネット上では彼らは【真・国家保安特務機関】なる名称で呼ばれており……13人の幹部で構成される組織とのことです。現在、日本政府は彼らとのコンタクトを試みていますが、いまだ接触には成功していません」

 

 沈黙が降りた。

 

 真・国家保安特務機関。

 その厨二病全開の名称が、世界最高峰の会議場で厳粛に読み上げられるシュールさ。だが、笑う者は誰もいない。

 

「特務機関か……」

 

 アメリカ代表が、深いため息をついた。

 

「我々人類が手を焼いている『見えない怪物』を、容易く処理できる唯一の対抗勢力。……敵に回すのは愚策だ」

 

 結論は見えていた。

 もはや「無視」はできない。

 科学だの魔法だのと言っている場合ではないのだ。

 

 彼らを味方に引き入れるか、あるいは管理下に置くか。いずれにせよ、まずは彼らを「国連認定の交渉相手(アクター)」として認めるしかない。

 

「決議を採ります」

 

 議長が重々しく宣言した。

 

「国連として、この謎の組織【真・国家保安特務機関】を、世界の安全保障に関わる『特異戦力』として仮認定する。……および、各国は速やかに彼らとの接触を図り、その目的と危険性を査定せよ」

 

 全会一致。

 

 こうして、一人の転生者の暇つぶしと、12人の痛い仲間たちによるごっこ遊びが、ついに国際連合の公式議題となり、世界の歴史の表舞台に引きずり出されることになったのである。

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