あの不思議な体験から暫くして幼稚園を卒園した僕は、小学生となった。
あの男の人のことをルドガーさんに聞いてみても苦笑いをするだけで詳しくは教えてくれなかった。ルドガーさんの隣にいるユーリさんは呆れた顔で、その男の人を「餌付けされたライオンだ」と言っていたのは少し気にはなったかな。
あれから特にあの夢の世界に行くこともなかったんだけど、今思えばまだ僕が会っていない宿った人達がいる所なのだろう。
ランドセルに教科書を入れた後、新品の筆箱を入れる。
幼稚園を卒園するまでは特になのはちゃんとは特別仲が良かったわけじゃなかった。寧ろ魔力関係がバレるのを警戒してた僕が避けてたってのもあるかもしれない。
ジーパンを履いて薄手のトレーナーに袖を通す
まあ、小学校も違うらしいのでこれからは無闇に警戒する必要も無くなり、心は軽くなったと言える。
あと、僕が行くであろう小学校のことを話した時のなのはちゃんの顔は印象的だったな。小さな声で血痕出来ないかなって物凄く不気味な言葉が聞こえたんだけど
血痕なんて言葉を使う幼稚園児はなのはちゃんくらいじゃないのかな?
なにはともあれ、これからは気楽に出来るってわけではないけれど幼稚園時代よりはマシな生活を送る事ができるようになったと考えておこう。
これが1年前の僕の独白である。
現在僕は私立聖祥大学付属小学校の職員室に居た。
1年生の間は海鳴小学校に通っていた僕だけど、授業やテスト諸々で満点を取り続ける僕に先生が何を思ったのか小学生高学年の範囲の問題を僕に渡してきた。
あの時は何も考えていなかった、というよりもどの程度が小学生低学年の範囲であるのか理解していなかった僕はその問題を難なく解いた。
それから中学入試、高校入試、大学入試の問題を渡され、それをも解いてしまった。
流石に大学入試の問題を解いている時にはおかしいことに気付き点数を下げたんだけど、高校入試の問題で満点を叩きだした僕を先生が母に私立への転校を提案。金銭面については向こうが奨学金を支払うと既に言っていたようで母はこれを承諾。
御馳走が出た時はびっくりしたな。転校するって言われて。
通う場所はそこまで遠くないし引っ越しもしないから今の友人たちとも普通に遊べると聞き、僕はこれを承諾。
まさか、あのなのはちゃんが通う学校とは思っていなかった僕は、編入試験を受けた帰りに見覚えのあるツインテールを見て唖然としたね。
編入試験の結果は満点。この問題は聖祥学園の生徒達も同時期に受けた問題で、満点は僕の他にもう1人いると教えられた。
うん、普通に頭がいい子いるし特に目立つことはなさそうだ。
僕は先生に連れられて教室へ向かう。まずは教室でクラスメイトへ転校生である僕を紹介してから始業式にをするために体育館に行くらしい。そこで全校生徒の前で自己紹介をさせられるらしいんだけど
どのクラスになのはちゃんが居てもバレることに変わりは無いのですね。わかります。
編入試験から暫く時間もあり、その間に完全に開き直った僕は軽い足取りで歩く。今日は早めに終わるんだから家に帰って友人とバケモンするんだ。
『軽い現実逃避はそれくらいにして、もう教室につくよ』
頭のなかでジュードさんに言われて思考を現実に戻す。
半年くらい前だったかな。夢の中でしか会えなかった人達がこうやって起きている間も話をできるようになったのは。まだあの草原で戦った男の人には会っていないけれど、その人達ともじきにあうことになるだろってルークさんにも言われた。
「じゃあ、藤崎君はここで待っててね。少ししたら私が呼ぶから中には行ってきて自己紹介するんだよ?」
先生に言われて頷いた僕は少し息を吐く。大丈夫、自己紹介はスタンさんが飽きて寝ちゃうくらいまで練習したんだ。これくらいなら問題はないだろう
『スタンさん、最初から寝てたけどね』
うん、わかってるよジュードさん。一度も練習してないけど言ってみただけなんだから
そう、頭の中で変な問答をしていると騒がしかった教室が静まり返り先生が僕を呼ぶ声が聞こえた。
普通にドアをガラガラあけてクラスメイト達の前へ進む。
クラスメイト達を一瞥するとそこには興味津々な目で見てくるカラフル集団が
え?金髪やら色んな髪の色多すぎじゃないか?ここは日本では無かったのか。
じゃあ自己紹介も英語の方がいいよね。多分日本語よりも世界的にはわかりやすいと思うし。
「Hello everyone. My name is Yu Fujisaki. I changed school from Uminari Elementary School. Nice to meet you.」
これなら大分簡単な英語だし日本人の子や英語圏じゃない子でもわかるだろう。
「……藤崎君?どうして英語なの?」
「え?いや、黒髪の人少ないから外国人にもわかりやすく英語がいいのかな?って思ったんですけど」
どうして先生は頭を抑えているのか。
クラスメイト達は口を開けてこっちを見ている。え?まさかみんな日本人なの?
『当たり前だ。ほら、もう一回日本語で自己紹介しとけ』
ユーリさんに言われたのなら仕方ない。僕は一度咳払いをして改めて自己紹介をした
「皆さん始めまして。海鳴小学校から転校してきた藤崎優です。色々と迷惑をかけるかもしれないけれど、仲良くしてね?」
クラスメイト達は先程の事は無かったかのように拍手してくれた。
うん。いい人達みたいで良かったよ。一時はどうなるかと思ったけど何とかなったね。
そこで僕は気付いてしまった
何やら笑顔でこちらを見てくる
これからどうなることやら