ある晴れた日、夏休みを満喫している小学生にとってはもう少しで学校が始まってしまうという憂鬱に襲われる8月の半ば、高町家は海が見える公園にピクニックに来ていた。
他にもアリサ・バニングス、月村すずか、月村忍もそれに同伴しシートの上で弁当を広げてピクニックを満喫していた。
誘拐事件からはや半月。月村忍は謎のパンダ、パンダ師匠を捜索したのだが見つかることは無かった。アリサ・バニングスは月村と盟約を交わし夜の一族のことを秘密にすると約束した。
2人が誘拐されたことは高町なのはも知っており、その時にパンダ師匠に助けられたとも教えられていた。
高町なのはは不思議な神様もいるんだねといって全員を呆れさせていたが、そういうのもしかたのないことだろう。
看板を投げては木刀から衝撃波を打ち出す存在など、普通に考えればありえないのだから。
「そう言えばなのは。あんた優とは遊んでるの?」
「うーん。遊んでないよ。優君いつも忙しそうだから」
ウインナーを口に運びアリサ・バニングスは高町なのはへ聞いた。
アリサ・バニングスは高町なのはが藤崎優という少年に特別な感情を持っていることを知っている。というよりもクラスの殆どの女子生徒は知っているのだ。
当人には気付かれていないが、それは傍から見たらとてもわかりやすく。また、高町なのはもそれを否定することはなかったのだ。
「ほほぅ?それは興味深い話だね」
だが、そのことを知っているのはあくまで学校内の生徒たちなのだ。高町なのはの父親である高町士郎が知っているはずもなく、自分の娘に近付く不逞な輩の話を聞こうと少女たちの会話に入ってきた。
兄である高町恭也もまた近付いてきて会話に耳を傾けていた。
「お父さんも知ってるよね?藤崎優君。将来、なのはは優君のお嫁さんになりたいの」
とんでもない発言が自分の娘から飛び出し、思考がフリーズする高町士郎と高町恭也。
アリサ・バニングスの隣に座っている月村すずかは高町なのはの大胆な発言に顔を真っ赤にさせて俯いている。
「アンタって、大物っていうかなんというか…」
アリサ・バニングスの呆れたような声に高町士郎は思考が再起動し、自分の娘へ詰め寄る
「まだ早すぎるよなのは。もう少し良く考えて」
「考えたの。出会ってからずっと優君のこと。小学校離れ離れになって悲しかったの。でも彼が転校してきた時に気づいたの。運命って本当にあるんだって」
その眼は無駄に燃えており、士郎は自分の娘はいつの間にここまで成長したのかわからず、戸惑っていた。
そして思考する。藤崎優という少年について
会ったのは3年前のことだが、彼には何かを感じたのは確かだった。だけどそれは不明瞭なもので自分の娘がそんな相手と付き合うことになれば厄介事に巻き込まれてしまうのではないか?
そして更に思考は加速し、ある結論に至る。
なのはと結婚するならば、相応の実力をつけてもらわねば
「恭也、優君に稽古を付けるぞ」
「…必要あるのか?」
士郎の言葉に思考を起動させていた高町恭也は父親の言葉に反論する
「なんだって?」
「あいつの剣術に手を出してはいけないと思うんだ。あいつ自身、自分で高めるために父さんの誘いを断ったのだろうし」
その言葉に高町士郎は唸り、月村忍は疑問の声をあげた
「その、藤崎優君って、何か剣術を習ってるの?」
「ああ。3年前に一度手合わせして引き分けたが、殆ど俺の負けみたいなものだった。」
「うそ!」
月村忍は自嘲気味に告げる自分の彼氏に信じられないと声をあげる
高町恭也は夜の一族である自身から見てもその実力はとても同年代のレベルではなく、ましてや自身の妹と同年代。3年前といえば幼稚園児に引けを取ることなど考えられないのだ。
だが、高町恭也が嘘を付いている様子もなく、月村忍は妹に言われた相手、藤崎優への警戒レベルを引き上げた。
「まあ、優くんはいつも家にいないから稽古も出来ないと思うよ」
何やら混沌と化してきた場に高町なのはが一声をあげる。
それに全員が視線を向け、高町なのはの話の続きに耳を傾ける。
「家に行ってみても、いつも友達の家に行っているか山に行っているらしくて会えないの。時々お義母さんがいるから教えて貰ったの」
この際はこの少女が言うお義母さんという発言をスルーして彼らは話しだす
「山に行ってるって、一体何やってんのよアイツ」
「えーっと修行?」
「そんな漫画みたいな事するわけ無いでしょ」
「いや、わからないぞ。もしかしたらあいつの剣術は山で鍛えられたものなのかもしれない」
「山にいるっていうけど、パンダ師匠を捜索する時にあらかた探したけどそんな男の子見なかったんだけど」
「まあ、違う山にいるのかもしれないからな」
ますます謎が深まる少年。藤崎優について話している家族や親友たちを見て、何故か誇らしげにしている高町なのはは急に立ち上がると海の方を見つめ始めた
「どうしたんだ?なのは。一体何があったんだ?」
「……」
高町なのはは兄の言葉を無視し、ただ海を見つめる。
無視された兄、高町恭也はそれにショックを覚え、うなだれる。月村忍に慰められているところを見る限り大丈夫そうなので一同は放置し、高町なのはが見つめる方向に視線を向ける。
ベンチなどが置かれているレンガの道に転落防止用の柵。その向こうには綺麗な海が広がっているほか何もない。
「いったい何が…」
高町美由希が呟いた時だった。
突然、視界の柵に手が現れた。海から伸びてきたように出てきた手は柵を掴むと、その身体を引き上げる
小学生くらいの身長。
濡れた黒い髪にゴーグル。
無駄のない筋肉がついた身体。
片手に持つ1mほどの魚。
水が滴る海水パンツ。
小学生の少年。藤崎優が海から現れたのだ。
「…大物get」
そうつぶやきが聞こえ、少年は公園の外へ歩き出した
「……アイツ、何やってんのよ」
「さ、さあ?」
「…今のいいスズキだったわね」
「いや桃子、少し観点がずれてるよ」
「……」
更なる混沌に包まれる公園はなんとも言えない空気になっていた
そろそろ原作始めようかな