次元巡艦アースラ内にて、一人の少女が女性に正座させられていた。
「全く、いきなり次元の壁に穴を空けるとはね」
「なの…」
その言葉に身体を小さくさせて項垂れる少女。
この少女、実は先程砲撃魔法で次元を超える攻撃を行ったのだ。
本人曰く、「優君が攻撃されてカッとなってやった。後悔はしていないの」とのこと。
説教している女性にとっては、雷を落としてきた相手を察知したことに内心驚いてはいるのだが、いきなり砲撃で次元に穴を開けられては溜まったものではない。
既に穴は管理局員のお陰で塞がっているのだが、それに人員を割いたため、再度藤崎優を確保する事が出来なかったと内心残念がっていた。
アースラ本艦にも雷撃は直撃し、その機能を著しく下げてしまっていた。しかし、もう一つ女性にとって不可解なのが、同じ雷撃を食らったはずの少年がピンピンしているということ。
彼はそのまま、海に潜り逃走していったのだ。
アースラのモニターも動かないため、暫くの確保は出来ずじまい。出来る事といえば雷撃を放ったであろう人物、プレシア・テスタロッサについて調べることくらいであると。
つまり、目の前の少女にやってもらうことは唯一つ。
「今回の件については不問とさせていただきます。そして、貴方には暫く休みもあげましょう。」
「?わかりました」
「アースラの機能が回復するまで特にすることもないしね。フェイト・テスタロッサ、プレシア・テスタロッサ両名ともあれほどの魔法を使用したのだから暫くの間行動は出来ないだろうし。なのはちゃんには一度帰宅して身体を休めてもらいます。その際に出来れば藤崎優君からジュエルシードを貰っておいてくれるかしら?」
「…わかりました。」
◇
「そろそろいいかな。」
日も落ちてきて、もう辺りも暗くなってきた。流石に追手の目も撒けたと思うしそろそろ帰ろうかな。
いい加減お風呂入ってゆっくりしたいんだよね。海から出てから焚き火で身体を乾かしたくらいだけだからベトベトしてるし。
それにしてもさっきはびっくりしたなぁ。ジュエルシードを取ったと思ったら雷が降ってくるんだもん。少しビリッとして火傷もしちゃったけど、集気法で回復したらすぐ火傷も無くなったし問題は無かったんだけど。
でも、その後のなのはちゃんのスターライトブレイカーは怖かったな。空に大穴開けちゃったんだもの。あの時は目を疑ったよ。
土中から這い出て身体に付いた土を払う。
海水パンツとタオルが入った袋を手に持ちつつ山を降りていく。
多分僕がジュエルシードを回収していたのは管理局の人にバレたと思う。だから、見つかっちゃったら多分僕を捕まえに来るだろうなぁ。
ついでに僕を実験動物みたいにするに違いない。
なんて恐ろしい組織なんだ。管理局は。
「って?魔力反応?」
すぐ近くで弱々しい魔力の反応を感じた。
何だろうか、罠だろうか、それともおかしなものだろうか。
少し警戒しつつ魔力の反応へ近付く。
もし罠ならば逃げよう。
敵ならば倒そう。
おかしなものならば捕まえよう。
そう考えつつ、魔力の反応のばしょに辿り着いた。
そこには、フェイトちゃんの使い魔の獣が横たわり、今にも息絶えそうな程に弱っていた。
僕は駆け寄りその容態をよく見る。
どうですか?ジュードさん。ルカさん。
『僕は獣医じゃないからちゃんとは見れないけれど、口から血も流しているし恐らくは内臓へ何かしらのダメージを受けたのだと思うよ』
『それに呼吸も不規則だね。早く治療しないと命の危険があるよ』
それは大変だ。
僕は急いで治癒功を発動し獣を癒していく。
って、え?傷塞がったよ?
『全快したみたいだね。優の治癒功の性能がおかしいのかな』
ま、まあ結果オーライだね。嬉しい誤算ってやつだよ。だけど、取り敢えずいつ管理局に見つかるかはわからないし、山に引き返すとしよう。
先程の不規則で苦しそうな呼吸ではなく、安定した寝息を立てている獣を担いで山に入る。
入った所で車の音がしたし、もう少しで普通の人に見つかるところだったようだね。危ない危ない。
◇
あれから夜が明けて現在は学校。
なのはちゃんも久しぶりに登校してきてアリサちゃんやすずかちゃんが目に見えて喜んでいるのがわかる。良かったね。
あの獣、アルフさんはあれからすぐに目を覚ました。
僕がどうしてあそこで倒れていたのか聞いたら、特別に教えてくれた。
フェイトちゃんの母親に挑んで返り討ちにあったらしい。理由はフェイトちゃんへの虐待を止めるためらしいのだ。
フェイトちゃん、虐待受けていたのか。なのにあんな気丈に振る舞っているなんて、物凄い子なんだ。
そうアルフさんに言うと自信満々に当たり前さと言っていた。それからフェイトちゃんのいい所や可愛い所をアルフさんから散々聞かされた。
女の子のスリーサイズって勝手に教えてもいいものなのかな。まあ、小学生はそんな気にしないかな。
まあ、暫くアルフさんには山に潜んでもらう事になった。春の山なら食料に困ることも無いし、下手に外に出て管理局に見つかる可能性を低くしたいと意見を言っておいた。
そして昼休み現在、僕はなのはちゃんに屋上に呼び出されています。
取り敢えず、ついたらベンチに座るように言われて従う。下手に逆らったりしたらスターライトブレイカーがとんでくるかもしれない。
するとなのはちゃんは嬉しそうに笑い手に持った弁当を僕に差し出してきた。これを食べればいいのかな?
受け取ってみると正解だったようで更に嬉しそうに見えた。
『優君、普通にご飯を食べながら聞いて欲しいの』
いきなりなのはちゃんが念話で話してくる。一瞬反応しそうになったけどグッと堪えて弁当を開く。
中には少し形の崩れた玉子焼きに唐揚げ。レタスなども入っており。バランスは考えられてるみたいだね。だけど、ご飯にハートマークってどういう事?これって女の子の弁当では普通なのかな。
『まず最初に、優君アルフっていうフェイトちゃんの使い魔が今どこにいるのかわかるかな?Yesなら唐揚げをNoなら卵焼きを食べて』
特に嘘をつく必要もないため唐揚げを食べる。ここまで徹底してやっているんだ。多分なのはちゃんは管理局とは別の目的で動いてるに違いない。
なのはちゃんは管理局に潜入した凄腕スパイなのだろう。今も日夜行われる非人道的な実験を止めるために夜な夜な戦いにあけくれているのかもしれない。
「どう?美味しい?」
念話でなく口頭。これは念話のカモフラージュかな。
なら話を合わせたほうが良さそうだね。
「うん。とっても美味しいよ」
「そう。嬉しいの!」
『わかったよ。一度フェイトちゃんへの伝言を伝えておいてくれるかな?後で紙に書いて渡すから。』
「ねえ優君。なのはの頭を撫でてくれない?」
多分、この口頭での質問は念話での頼みを断るか否かを判断するためのものだろう。
「うん。いいよ」
「えへへ」
僕が頭を撫でるとなのはちゃんの顔が綻ぶ。
ここまでの演技、なのはちゃんってすっごく器用なんだね。もう少し不器用だと思っていたよ。
『じゃあ、後は聞いておいて欲しい事なの。フェイトちゃんについて、少し長くなるから、肩に頭乗っけさせてもらっていいかな』
僕は少しだけ頷いて返事した。そして、僕の手を掴みつつなのはちゃんは僕に寄り添ってきた。
『じゃあ、話すね』
◇
な、なんて健気でいい子なんだろうか。フェイトちゃん。
そして報われなさすぎるよ。フェイトちゃんについての事を全て聞き終えた僕はそう思った。
フェイトちゃん自身は作られたクローン。オリジナルは母親のプレシア・テスタロッサの実の娘であるアリシア・テスタロッサ。
既にアリシアちゃんは亡くなっていてプレシアさんは彼女を生き返らせようとしているのだと。そしてプレシアさん自身も病に冒されていると。
これで昨夜のアルフさんの話と繋がる。勘でしか無いけど、プレシアさんは自分が長くないことがわかっているから冷たくしているのだろう。
別れの時の悲しみが少ないように。
フェイトちゃんは事情を何も知らされる事はなく、母親のためにジュエルシードを集めていたんだ。
ただ、プレシアさんに褒めてもらいたくて。
本当に悲劇の家族だね。なんとか助けてあげたいけど…一体どうすれば…
『私も手伝うから一緒にがんばるの』
『う、うん』
なのはちゃんってこんな情報どこで知ったのかな…
後ルークさんも随分とご立腹みたいだ。恐らくはクローンとオリジナルって単語に反応したらしい。
そうか、確かルークさんも……
◇
アルフさんへの伝言は間違いなくフェイトちゃんに届いていた。
内容は簡単、ジュエルシードをすべてかけて勝負すること。
勝てればもれなく僕の持ってるジュエルシードも渡すという太っ腹な気持ちで参戦した。
僕は戦うのではなく傍観。
今回は、なのはちゃんとフェイトちゃんの戦いを見守るだけだ。2人共怪我はしないでよね?
なのは様の巧みな甘え方が披露されました。