高町なのはによるアプローチ事件から1日が経過した。既にある程度の計画を立てた僕は友人と遊んでいた。
遊んでいたのだが…
「うわ、はえぇ…」
「すっげぇ」
人外と化してしまった僕が友人と遊ぶのはとても大変で、どれだけ手加減してもその違いが明確に出てしまう。
現在は鬼ごっこ中なのだが、わざと転んだ時以外に鬼にはなっていない。なんだろうか、無性に悲しくなってきた。
でも泣かない。男の子だから
「………」
もう一つ悲しいことがある。何故かとは言わないが魔法少女疑惑(スタンさん談)をかけられている大人な幼女、高町なのはちゃんが事あるごと、いや寧ろずっと僕の方を見ているのだ。
それを見ていた先生はなのはちゃんがそう言った事に興味を持つのは珍しいと興奮していた。恋?恋なのね?って言ってたけど、幼稚園児って恋とかするものなのかな?少なくとも僕はいまいちわからないや。
今一番好きなのは母さんだし。次は勿論父さんだよ
まあ、わからないことをいつまでも考えるのは意味のないことだね。やってくる鬼から逃げつつちらりとなのはちゃんの方を見る。
ん?…今何か変なもの感じた気がするけど…
気のせいか
滑り台の手すりにジャンプして掴まり、そのまま滑り台の上に登る。直ぐに鬼も登ってくるが、今度は滑り台を走って降りる
遠くから危ないからやめなさいとの声が聞こえた。失敗失敗
今度はジャングルジムへ一足で届くだけの場所に手を伸ばし、そのまま腕の力で自分の身体を持ち上げる。思ったよりも自分の体重が軽いことに気付いたんだけど、流石に片手で持ち上げれたのは驚いたかな。
鬼は違う子を追いかけに行ったようでこちらには来ていない。僕はジャングルジムの頂上に登り上から見回す。
ブランコに乗りながらどちらが高く漕げるか勝負している女の子
砂山をぺたぺたしている男の子
鬼を挑発してすっ転んでいる友人
白熱したドッジボールを繰り広げている先生と男の子達
花壇の花を見て何かを話している女の子達
こちらをじーっと見ているなのはちゃん
地面に半分埋まったタイヤを跳び箱に見立てて跳んでいる男の子
憑依なんて無ければもっと自然に混ざれたのかな。
何か込み上げる物を感じて目が熱くなる。視界が少し歪んでしまったため、服で目を擦って誤魔化す
なんだよ、さっきは泣かないって決めてたのにふと考えこむとこれだ。いけないな、これじゃあ。
3秒間だけ服を目に押し付けた後ジャングルジムを飛び降りる
鬼になった友人を挑発してそのまま逃げる。
なんと言われようと僕は僕なんだから
「まて!ゆう!」
「またないよ!」
今という時間はきっとかけがえの無い物だと思うから。
◇
「何であの子泣いてたんだろ」
先程からおよそ子供とは思えない動きをしている少年、藤崎優君は先程ジャングルジムの天辺で涙を流していた。
突拍子もなく泣いていた事に疑問を抱いた私は更に混乱する。
昨日あの子が書いていたノート、普通に漢字を使っていてよくわからないことを書いていた。
でも、その中であの子はいきなり魔法について書き始めたのだ。
地球ではまず見ることの出来ない魔法。将来的に私が深く関わっていく世界を何故知っているのだろうか
彼に問いただしてみたが、返答は期待していたものではなかった。子供らしい憧れを言われただけだったのだ
だけど、それじゃあ昨日のノートは納得出来ない。彼は親の持っている本の内容を書いていたと言っていたけど、まずその時点でおかしい
どうして幼稚園児が本の中身をノートへ書くのか。
内容も一貫性の無いものばかりだったのにそれが書籍化しているとは到底思えない。
彼の親が魔法に関わっているのかも知れないが、私の勘だと彼自身が何かを隠している気がする。
でも、少しわかりやすく魔力を出しても気付かない彼は本当に魔法について知っているのだろうか。
「藤崎、優」
彼の名前を呟いた。
もう少し彼を知るべきだと思う。彼が涙を流していた理由、あのノートの真相、私が結婚出来るのかどうか。
気になったら行動あるのみだね
◇
幼稚園が終わり、僕を含め何人かの親が迎えに来たと先生が言った。
制服に着替えていた僕はそのまま鞄を持って先生のところへ歩いて行く。
少し遅れて何人かの子が先生の前にやってきた。その中にはこちらを見ているなのはちゃんの姿もあり…
「……」
未だに無言で見てくるので取り敢えず笑顔を向けといた。
それに先生は何故かいい顔をしてそのまま僕達を連れて行く
何やら激しく勘違いされた気がしたけど気にしてはいられないか
そう言えば今日のご飯はチーズカツだって言ってたな。今から楽しみだ
後、ルドガーさんの料理が美味しいらしいからぜひ食べて見たいんだけど。どうしたらいいのだろうか
廊下を歩き、入り口に差し掛かった所で何人かの親が話している姿が見える。
その中にはスーツを着て猫を撫でくりまわしている母の姿も見える。何か一人だけ浮いている気がしなくともないけど、気にせずに先生にさようならと言って母のそばに寄る
「お母さん、にゃんこ可愛いね」
「ん?優か。そうだな、可愛いだろ?雅人さんがアレルギーじゃないのなら飼っていたと思うな」
母は僕の頭を撫でてそう笑った。雅人とは父の名前で軽度の猫アレルギーを持っている。
軽度だから毛くらいじゃあ問題はないけど、流石に猫自体がいるとしんどいらしい
「じゃ、帰るか。今日は約束通りチーズカツだからな」
「やったぁ!」
母に手を引かれ歩いて行く。気分はウキウキしているのが自分でもわかる。美味しいものに期待するのは人外になっても変わりない
「優くん!」
と、駐車場へ向かう僕を呼び止める声が。振り向くとそこにはなのはちゃんと美人な女性が。どこと無くなのはちゃんに似ている所から察するに姉かな?
なのはちゃんは僕の目の前まで来ると少し息を吸ってこう言った。
「明日の土曜日一緒に遊ぼ?」
うん。ただの遊びのお誘いだった。実は少し警戒していたというのは秘密だ。
漢字書いてた所暴露されたらどうなるかわかったものじゃないしね
それよりも休みの日の遊びかぁ。僕は母の顔を見て遊んで良いのか聞いてみる
「ああ、遊んできていいよ。土曜日は私も雅人さんも仕事だから丁度いいしね。優が病院に来たいって言うなら別だけどさ」
そうなのだ。基本的に土曜日は母親の仕事場に連れてかれて時間を潰すのだ。託児所があるからそこまで苦にはならないけど、今の僕にはどれだけ苦になるか
「それじゃあ私の家で遊ぼうよ!」
まあ、親がいないから僕の家は除外して外かなのはちゃんの家くらいしか選択肢はないしね。
でもいきなり家にお邪魔してもいいのだろうか…
「ウチは大歓迎よ。なんなら泊まっていってもいいしね」
いや、お姉さん。いきなりお泊りってハードル高くないですか?
母もすっかり乗り気だし、このままじゃお泊りコース待った無し
って、何か話の様子的にお姉さんってのはしっくりこないな。どっちかというと…母親?
「いいの?お母さん」
わお、本当に母親だったよ。見た目は全然そうは見えないんだけど…
「じゃ土曜日はお願いします」
「いえいえ、責任を持って預からせていただきます」
世の中不思議なこともあるもんだと感じながらうんうん唸っていると僕のお泊りが決定したようだ。
まあ、別に断る理由もないからいいんだけどね。せっかく出来た友達とは仲良くしたいし
それから、行く時間を決めて僕と母は帰路についた
僕は手を振るなのはちゃんに手を振り返しながら車に乗り込んだ
帰り道、車の中で母はこう言った
「可愛い子捕まえて、やるじゃん。優」
母よ、それは幼稚園児に言う台詞だろうか。
※なのはちゃんも主人公