憑依拒否   作:茶ゴス

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第12話後編「神に抗う愚か者」

 少年の手に持つ物からは途轍もないほどの力を感じる。それは少年の身体を巡り少年を変貌させる。

 少年は敵を認識し切り離す。自分と敵とそれ以外の者を。

 

 少年は景色を変え、陰湿な城から異空間へと敵を引きずり込んだ。

 天使の一刺しは空をきる。目の前にいた人物は消え、一瞬困惑した表情を浮かべた。そして立ち上がっている少年を見てさらに困惑する。

 

 

 少年自身に変化はない。ただ、少年の腕には黒い籠手のようなものが付き、その手に黒い槍を持っていたのだ。

 

 自身が持つ槍と正反対のように感じるそれに天使は身震いする。

 

 

「貴様がここへ私を連れてきたのか」

 

 

 少年はただ、自身が開放した力を確かめるように手のひらを見つめている。

 心なしか少年の肌はグレーに近づき、頬には黄色のラインが走っている

 

 天使は自身の言葉に耳を傾けない少年に激昂する。

 

 

 “神から与えられた力に酔いしれる異端者と”

 

 

 少年は天使を一瞥すると槍を強く握りしめ、天使へと向けた。

 

 

「確かに僕は神様に作られた器なのかもしれない。だけどね、神様は一つ失敗したんだよ。人形遊びをするのだったら僕に感情を持たせてしまったのは間違いだった。ただ、意思のない人形で面白おかしく遊んでいれば良かったんだ。だけどもう僕は人間として生まれたんだ。自分たちがしたいと感じる事を全力でする。それが僕達人間なんだ。どれだけの力を持っていてもそれだけは変わらない。神に決められたレールに従う理由なんて無いのだから」

 

 

 これまで少年は自身を人外と称していた。

 人並み外れた身体能力に、膨大な知識。非常識な宝具を見に宿した自分は人間であると言えないと、少年は思っていた。

 

 

 それを一人の王が否定した。

 

 どれだけの力を持ち、どれだけ人間から離れようとも、神に抗い己の信念を貫く貴様はまさしく人間であると。

 

 更に王は告げる。自身の役割は神などという重荷を取り除き、人間の欲望を開放するのが仕事だと。

 

 

 そして王は少年に渡した。自身の宝物庫に勝手に入れられた一つの金色に輝く時計を。

 

 

 少年は更に時計の力を引き出す。

 籠手が徐々に大きくなり少年の腕を全て覆う。

 それではまだ足りない。目の前の天使を倒すためにはもっと引き出さなければいけない。少年は表情を変えて、時計を握る手を強めた。

 

 

 この力、骸殻は精霊の力を宿した力だ。時計と契約し、自身がタイムファクターと呼ばれる危険因子へと徐々に変貌していく代わりに強大な力を手に入れる。

 

 少年は既に知っていた。この力の到達点を。故にその危険性を理解していた。

 だが少年は開放する。王はこの力にリスクは無いと告げる。少年はそれを鵜呑みにはしなかったが開放を進める。しかしもし仮にその言葉が無くとも少年は開放していたのだろう。

 

 籠手は更に大きくなり少年の身体を包み込む。到達点に至る為には更に開放しなければいけないが、少年はそこで開放を止めた。

 

 ただ、なんとなくだが思ったのだ。今の自分ではこの先へはいけないと。

 

 天使は手に持つ光を弓と矢の形に変化させて少年へと放つ。

 少年は手に持った槍で光の矢を払いのけ前に進む。

 

 この力の使い方は身体が知っている。全てが自身の力となったわけではないが、それでも骸殻という強大な力が敵を倒すには申し分ないと感じる。

 天使が更に光の矢を放とうとするのを見計らい、天使の頭上へと跳ぶ。

 

 

「絶影!」

 

 

 槍を構えて急降下し敵の翼を貫く。

 天使の呻き声が聞こえたが、少年は着地と同時に距離を詰めて痛みに顔を歪める天使と肉薄し、槍を振るう。

 

 

「舞斑雪」

 

 

 すれ違いざまに槍で天使の腹部を切り裂く。天使は、少年の動きに合わせ、自身の持つ光を槍へと変え少年の腹部へと突き立てる。

 天使の腹部からは血が吹き出し、少年の身体には光の槍が貫いている。

 少年は自身の損傷を気にもとめずに槍を天使へと投げ放った。

 

 天使は翼と腹部への損傷にその場を動けない。投擲された槍を避ける事が出来ずに貫かれた。

 少年は骸殻の力を槍という形で具現化させ、更に槍を投げ続ける。光の槍に貫かれた腹部からは血が吹き出すがそれでも少年は投げることをやめない。

 天使に次々と襲い掛かる槍はその一発一発を確実に天使の命を削りつつ、動きを制限していく。

 

 

 そして少年は、最期の仕上げと言わんばかりに槍を具現化させて疾走した。

 

 天使は近づいてくる少年を見て、自身の存在が終わることが近いことを悟った。

 だが、天使はただ少年に殺されることを良とせずに最後の力を振り絞り光の槍をその手に持つ。そして、少年の槍に貫かれながら胸部へと光の槍を突き立てた。

 

 少年は一瞬怯みそうになったが、それでも攻撃をやめることもなく、力を開放し叫んだ。

 

 

「マターデストラクト!!」

 

 

 言霊を載せずに発動させた秘奥義。

 それは、即ちその技が少年自身の力で発動された事を物語っていた。

 天使は少年の一撃でその命の炎が掻き消えた事を悟る。

 一体どうしてこうなってしまったのだろうか。自分はただ神が定めた運命を正すためにやってきただけなのに、今自身の存在は消えようとしている。何がいけなかったのだろうか。何を怨めばいいのだろうか。

 

 天使は薄まる意識の中自問を繰り返し、そしてある答えに至った。

 

 

(人間を…甘く見てしまっていたのか)

 

 

 天使はこの事を神に告げられ無い事を神に謝罪する。

 人間とは危険なものであり、油断して行動すれば思わぬ反撃を食らってしまうと

 

 

「…神…よ………人間に…...力を与えた…のは…間違い…で….」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 プレシア・テスタロッサは困惑した。自身の目の前にいた天使が音もなく消え、天使により押さえつけられていた身体も問題なく動けるようになったのだ。

 

 

「いったい…何が」

 

 

 その場にいる者達で事態を把握できている者は居ない。高町なのはやフェイト・テスタロッサも同様に、天使の力が消えた状況に困惑するだけであった。

 

 そして気付く。高町なのはの隣に倒れていた少年の姿が無いことに。

 それと同時に少し離れた場所で何かが倒れる音が響いた。その先は先程までアリシア・テスタロッサの入ったカプセルが置かれていた通路の方向。

 一同は疲労した身体に鞭を打ち、音のした場に向かう。

 

 

「優……くん?」

 

 

 その場に辿り着いた高町なのはの声が震える。プレシア・テスタロッサもその光景に絶句し立ち尽くす。

 そこには、腹部を抉られ、胸からも夥しい量の血を流し、血の海に伏している藤崎優の姿があった。

 

 

「っ!!母さん!今すぐ医療班を!!」

 

 

 クロノ・ハラオウンが次元艦アースラへ叫び声で通信し、それにはっとしたプレシア・テスタロッサが近づき治療する。

 

 

 残された少女たちはただ、その現実離れした光景に立ち尽くすだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『神に抗う愚か者…か。それ故に現れたのだろうな。だが、まだ我の宝物を使わせるわけにもいかない。しかしまあ、あの神に押し付けられた物品だけならば貸してやらんこともない。

 最後に一つだけ言っておこう。此度の蛮勇、見事であった』

 

 

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何故皆さん分かるんですかね

正解は英雄王様が神様嫌いだからです。
どちらかと言えば1番に近い3番と言ったところですかね。


次回で無印編本編は終了します。
それが終われば皆さんお待ちかねのシリアスいっぱいの外伝が始まりますのでこうご期待。

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