少年は目を覚ます。少女と出会ってからどれ位の時間が経ったのかは少年にはわからない。だが、少年は自分がすべきことを見つけ、それを成す為にその身体を起こす。
既に少女の姿は無く、近くのテーブルには食べておくようにと書かれたメモとサンドイッチが置かれていた。
少年は衰弱している身体に鞭を打ちサンドイッチを持って外へ出る。
その際に何か透明な壁に阻まれたが、少年はそれを手で押すことで破壊した。
既に身体はボロボロである少年にはたして何が出来るというのだろうか。
少年はただ、自分の想いを叶えるために歩いた。
少女の住居を出てから数分。弱り切った身体ではサンドイッチを満足に食べる事もできずに3口ほど食べて吐き出してしまった。
しかし少年はそれでもサンドイッチを食べた。少女に感謝しつつもその身体を少しでも治すために。
そして、少年は少年が生まれた場所に辿り着いた。
何故ここに来たのかは少年にもわからない。ただ少年は人目のない場所を目指して歩いていたのだ。
少年は地面に座り込む。体の節々が悲鳴を上げて頭は割れそうなほどに痛む。
その中で少年は願った。ある少女の幸せを。
自分でないものが残していった記憶。悲惨な運命に愛された少女を助けたいと感じたのだ。
少年は頼った。彼の中に住む黄金の王に。
一度助けてくれた王。非力な自分に生きる可能性をくれた人物へ懇願した。少女を助けたいと…
少年は誓った。自分と同じ思いを少女にはさせないと。
全てを壊された自身だからこそわかる絶望。神様が目の前の少女の思いが壊される事を望んだのならば、少年はそれに抗うと王に向かって叫んだ。
少年が王から渡されたのは
人類が生み出した願望機であるそれは、まさに少年が望んだものであった。
しかし、そう簡単に願いが叶うという事はなく。その金色の杯の中身を満たすためには代償が必要だった。
少年には乗り越えることが出来ないかもしれないもの。失敗すれば死を持って願いが成就されるもの。
それを説明した上で王は少年に問う。
ーーそこまでして貴様は神へとその刃を向けて抗うというのか?
少年は答えた。
ーー神様だとかは関係ない。私は、私がしたいようにするだけだ。その結果神様に抗うことになっても俺は止まらない。
混ざり合い。自我すらもあるかはわからない少年の唯一つの意思。
何を思ってそれに至ったのかは王ですら理解の出来ないことではあった。
だがひとつ言えることは、王の責務として、神に縛られている少年に手を貸してやるということ。
王は嗤う。どこまでも自身のことを考えるからこそ他人を助ける愚か者。
それを自覚し、否定せずにありのまま受け止める少年はまさしく人間であった。
王はやってみろと言わんばかりに少年の持つ杯を起動させた。
◇
杯から光が溢れ、少年は目を思わず目を瞑ってしまう。
太陽のような光を放つ杯。それだけの光量を放ちながらもそれを持つ手は何も感じない。
少年はやがて、杯を持っていた手が空を切っていることに気づいた、それと同時に光がふっと消え、少年はその目を開けた。
周囲の景色は先程までいた場所とは打って変わっており、一面白色の空間であった。地面があるのかもわからない空間。立っていることも覚束無いであろうその空間で少年は一人で佇んでいた。
ふと、少年は気配を感じる。周りから感じる圧倒的な圧力。
それを知覚した直後、少年は戦慄する。
少年を黒い影が囲む。その数は実に21体。
全てがおぞましい身体を持ち、その目を爛々と光らせて少年を狙う。
願望機が提示した試練。それは即ち、21匹の怪物の討伐に他ならなかった。
額に英数字を鈍く光らせた怪物達は今にも少年へと殺到しようとしているようにもとれる。
しかし、ここで少年の目の前で波紋が拡がる。
そこから出てくるのは王の宝物内にある無銘の剣。特別な力が付与されているわけでもなくすごく切れ味の良いというわけでもない。
ただの剣が少年の目の前に現れたのだ。
『餞別だ。貴様の力、存分に振るうがいい』
その声と共に少年は剣をその手に持つ。
そして、声高々に宣言した。
「俺…いや、僕は絶対に生き延びる!!」
初めて握った武器をその手に少年は駈け出した。
願いを叶え、自分が生き抜くために。
短いですがここまで。
外伝は後2話程度書きます