憑依拒否   作:茶ゴス

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やりすぎてしまった

 どうしてこうなってしまったのだろうか。今はただそれだけしか考えられない

 

 眼前に佇むのは木刀を両手に持ち息を吐いて集中している青年

 顔は大変整っており、格好いいお兄さんといった感じだろうか

 

 少し視線をずらすと僕とお兄さんを見ているこれまた若々しい男性

 あれで3児の父親だというのだから本当に驚きだ。高町家は若返りの秘術でも持っているのではないのか?と考えたがよくよく考えて見れば自分に宿ってる人達も見た目と年齢は噛み合っていない

 あれかな、普通はある程度成長したら見た目の成長も止まるのだろうか。いや、そんなことはないと思う

 

 両手に持つ木刀を握りしめる

 

 僕の背丈にはあまりあっているとは言えず、始まってもいない今は木刀の先が地面についてしまっている。

 始まったら逆手に持ち替えるけどね

 

 夢での修行を始めてまだ間もない。クレスさん達の剣技を習得するにはまだまだ時間が足りないわけで…今回は少しだけ教えてもらったルドガーさんの剣技を使おうと思う

 ただ使うぶんには問題はないけれど、使いこなせているわけではない。寧ろ未だに把握しきれていない自分自身の身体能力でどうなってしまうのかが心配だ。

 

 ああ、本当に……どうしてこうなってしまったのだろうか

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 遊びのお誘いby高町なのは事件からあっという間に土曜日となり、僕は着替えと父から渡された紅茶の葉を鞄に詰めて道を歩いていた。

 事前に高町家の場所は地図で把握しており、両親に自分で行けると言って家を出た。

 

 道中首から下げた水筒に入ったお茶を飲みながら考える。

 

 一人で歩くのって楽しいな。いつもは母と父のどちらかがすぐ隣に立って歩いていた。

 そうでなくても幼稚園の先生だとか、大人が絶対にいたのだ。でも今は僕一人歩いている。いつもとは違うふうに見える景色に心が踊りながら歩を進めていく

 

 今ならどこまでも行ける気がする。幸か不幸か、僕は人外級の身体能力を持っている。

 それは体力にもいえるようで、どれだけ歩いても疲れない。それはとても悲しいことだと思う。みんなと違うのは格好いいけど寂しい

 でも、僕は絶対に独りになることはない。

 

 昨日の夜、ユーリさんに言われた

 

 

「お前がどう思われようが関係ねえよ。絶対にお前を大事にしてくれる奴が現れる。少なくともここにいるだろ?」

 

 

 いまいちわかんなかったけど、簡単に言うとユーリさん達がずっと友達で居てくれるってことだった。

 友達が離れていくのは悲しいとは思うけど、ユーリさん達がいるから僕は独りにはならないと言われた。

 また泣いちゃった

 

 でも、もう泣かないと思う。だって頼りになる人達がいるんだから

 

 

 少し感傷に浸っているという幼稚園児らしからぬ事をやってしまっていた僕の目の前を黒猫が横切る

 綺麗な毛並みに澄んだ瞳。ピンと立った尻尾を振りながら歩くその姿はとても凛々しくて

 

 

 取り敢えず捕まえることにした

 

 

 地面を踏みつけ走る

 景色が後ろに流れていく。それはいつも見ている車の外よりも速くて、空気は壁のように感じてしまう程だった

 

 それでも僕の目は黒猫を捉えている。

 猫が驚きその身を屈めようとしているのがわかる。

 

 でも、猫が足に力を入れて地面を蹴るよりも速く僕は猫を捕まえた

 

 

「ニ"ャッ」

 

 

 両手で包むように捕まえたけど、衝撃は消しきれなかったらしく猫は少し苦しそうな声を上げた。

 僕は直ぐに猫に謝り、その頭を撫でた

 その手触りは心地よく、その毛並みは近くで見れば見るほど綺麗だった。

 

 爪を立てて離れようとするけど、まだまだ離さない。好奇心は猫をも殺すとはよく言ったものだと思う

 

 

 ……使い方が違うね

 

 

 そのまま撫で続けていたけどあまり高町家の人を待たすわけにもいかないため、名残惜しいけど猫を手放す

 猫は一度こっちを見た後そのまま走り去っていった。また会えるかな?

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 高町家に着いて迎えてくれたのはなのはちゃんとお姉さんの美由希さんだった。僕が紅茶の葉を美由紀さんに渡した後、なのはちゃんから両親は喫茶店で今も仕事をしていると聞かされた。

 少し遊んだ後はその店、翠屋に行くらしい。なのはちゃんが言うにはシュークリームがとても美味しいらしいから今から楽しみだ。

 

 取り敢えずなのはちゃんの部屋へ向かう。美由希さんは途中で「後はごゆっくり~」と告げた後リビングらしき所に行ってしまった。

 

 なのはちゃんがドアを開けて僕が入る。

 女の子の部屋にはいるのは始めてだけど、思っていたよりも普通かな?もっとぬいぐるみで溢れかえっているのかと思っていたよ

 

 というよりもお姉さんが居るのに幼稚園児で自分の部屋があるって凄いな。何か大きな道場みたいな建物もあったし、もしかしたら高町家はお金持ちかもしれない。

 いつかは僕もお金稼がないとね。借金しちゃったりしたら大変だし

 

 

 ……何故かルドガーさんの泣き声が聞こえた気がした

 

 

 なのはちゃんはベッドに座り、僕は勉強机の椅子に座った

 

 

「………」

 

「………」

 

 

【拝啓、父さん   沈黙が痛いです】

 

 

 なのはちゃんは一体何がしたくて僕を遊びに誘ったのだろうか。もしかして何も考えていなかったのかな?

 じゃあ、僕が提案したほうがいいのかもしれないけど…

 

 

「何して遊ぶ?なのはちゃん」

 

「うーん。何しようか」

 

 

 何も考えていなかったようだ。

 じゃあ、折角だしこの大きい家でかくれんぼでも

 

 

「それはダメだと思うの。あまりお兄ちゃんの部屋とか行ったらいけないし」

 

「ダメかぁ。じゃあ外で鬼ごっこ?」

 

「なのははいいけど、足遅いからつまんないと思うよ?」

 

 

 なんというダメだし。なのはちゃんはどうして僕を呼んだのだろうか

 

 

「なのはね、優君とお喋りしたかったの」

 

「お喋り?」

 

「うん」

 

 

 聞く前に目的を言われてしまった。というよりも言ってくれた。

 それにしてもお喋りするためにわざわざ家に呼ぶって、女の子だったら普通なのかなぁ

 

 まあいいか

 

 

「優君って魔法があるって信じてる?」

 

 

 また魔法かぁ。これはやっぱりなのはちゃんは魔法の関係者と見てもいいのかなぁ

 

 とすればもしかして高町家全員が関係者かも

 そして、魔法について探っている僕を倒すために招き入れたのかもしれない

 

 

「信じるよ。だってそっちの方が素敵でしょ?」

 

「うん、そうだよね。」

 

「じゃあ、今度は僕から聞こうかな」

 

 

 僕を追い詰めるつもりかもしれないけど、そうはいかない。取り敢えず牽制

 

 

「どうして、僕に聞いたのかな?」

 

「え?聞きたかったからだけど?」

 

 

 ……普通に返答がそのまま返ってきて驚いた

 

 

「うーん。理由が知りたかったんだけど…」

 

「何か、優君は普通の男の子とは"違う"気がしたの」

 

 

 …改めて言われると悲しくなるね。自覚はしているけどね

 

 だけど

 

 

「じゃあなのはちゃん。普通ってなに?」

 

「え?」

 

 

 なのはちゃんはキョトンとした顔でこちらを見ている

 僕はあくまで平静を保ちながらこの質問を行った。昨日のユーリさんの言葉がなかったら少なくとも今みたいに平静を保ってなんかは居られなかったと思う。

 

 

「…僕はあまりわからないんだよね。自分が普通だとかどうかなんて。だって、友達と僕の違いを見つけるのは出来るけど僕は"普通の人"というものを見たことがないから比べられないよ」

 

「………」

 

 

 少し意地悪な質問だったかな。幼稚園児が答えるような内容では無いし、大人でも答えを持たない人もいると思う。

 

 寧ろ、子供だからこそありのままに言えるのかもしれない

 だけどなのはちゃんは少し顔を伏せて考えている。その様子はとても幼稚園児の行動とは違う

 

 

 だからこそ、気付いたのだ。

 なのはちゃんはこの質問の意味をわかっているのだと

 

 答えのない質問に。

 

 

 だからこそ、僕は少し同族意識を持ってしまった。この子もまた、"違う"んだって

 

 

「そんなことより、ゲームでもしない?」

 

「う、うん!」

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 なのはちゃんが言ったとおり、翠屋のシュークリームはとても美味しい

 ほんのり香る甘さに生地のしっとり感。ベタベタしているわけではなくて、さくっとしっとりと言うもの

 

 こんな美味しいシュークリームは食べたことがないと言うと、なのはちゃんは自分の事のように喜んでいた。

 

 

 紅茶を飲みながら、さっきやったゲームについてなのはちゃんと話す。

 

 意外にもなのはちゃんはゲームが好きなようで、その操作は慣れているようだった。

 僕がしたことのないゲームだったので教わりながらやっていたのだけど、とてもおもしろかった。今度母に頼むのもいいのかもしれない

 

 

 ゲームの話も終わり、幼稚園での出来事について話し始めた所で、一人の男の人が近づいてきた。

 誰だろうと思っていると、なのはちゃんから高校生のお兄さんの高町恭也さんだと紹介された。軽く挨拶をして話をする

 

 正直話す事がなくなってきていたので助かった。時々僕を見る目が怖かったけど気のせいだと思う。

 

 

 恭也さんと話し込む。なのはちゃんよりも話しやすいのは内緒だ。僕には兄弟がいないからよくわからないけど、兄がいるのはこんな感じなのかとも感じた。

 暫くするとなのはちゃんがむくれてきたのでなのはちゃんとも話しだす。

 

 折角遊びに誘ってくれたのに本人をほったらかしにしたらいけないよね。

 

 そう言った時に恭也さんに普通の男の子よりも大人だなと言われた時は少し胸が傷んだ。

 まあ、言われても仕方ないので、さっきよりは気にならずに受け答えすることが出来た。

 

 

 途中で美由希さんも加わって話し込んでると、翠屋の閉店時間となり、高町家に帰った。

 

 高町家に着いたら、またなのはちゃんの部屋に行き、2人でトランプをしてご飯の時間まで遊んだ。

 一番最初にスピードをしたのだけど、あっという間に僕が勝ってしまい、スピードは1度しかしなかった。

 

 それから色んな事をしたけど最終的にはトランプタワーを作る遊びに落ち着いた。

 

 絶妙なバランスで組み立てられてくトランプタワーも6段目を作ろうとしたのだが、ここでトランプの数が足りなくなるというトラブルが発生。

 2人してどうしようかと相談しながらあれやこれやをしていると、トランプタワーは音も立てずに崩れてしまった。

 

 結構苦労していた物があっさりと倒れてしまって、何だかおかしくなってしまい、なのはちゃんと顔を見合わせて笑った。

 

 

 そのタイミングで美由希さんがやってきて夕飯が出来たと言ってきた。僕となのはちゃんはトランプを片付けると一緒にリビングへ向かい夕食の用意がされているテーブルの前にある椅子に座る。

 先に席についていた若い男の人がなのはちゃんの父親の士郎さんらしく、今日は楽しんでいきなさいと言われた。

 

 少しして桃子さんが席に座り、夕飯を食べ始めた。

 

 食事はとても美味しく、パクパクと食べ進めていく僕は、その様子を見ている桃子さんにいっぱい食べてねと言われた。

 

 

 食事の後はお風呂に入り既に瞼が重くなり始めていた僕はなのはちゃんの部屋に敷かれた布団に倒れこみ夢の世界へと旅立った

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「また変わった子をなのはは連れてきたんだな」

 

「ああそうだね。あの年にしては随分と落ち着いている気はするけど、概ねいい子だったね」

 

「確かに。だけど一緒に風呂入った時に気付いたんだけどさ。随分と筋肉の付き方が綺麗だった。無駄が一切無いような」

 

「なるほど。一度稽古を付けるのもいいかもしれないね」

 

「まあ、程々にしてあげてよ?父さん」

 

「わかってるさ」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 翌朝目を覚ました僕はまだ眠っているなのはちゃんを起こさないように部屋を抜け出した

 

 そして好奇心旺盛な男の子よろしく高町家の探検をし始めた僕を道場に居た恭也さんが捕まえ、運動をしようって事で道着に着替えさせられて一緒に木刀を振るったりしていた後に士郎さんが恭也さんと試合してみようと言い出し文頭に至るわけだ。

 

 

 

 いや、幼稚園児と木刀で試合するって普通じゃありえないと思うんだけどね。




次話から台詞が多くなります


次回予告

優「蒼破刃!」

恭也「な!?斬撃を飛ばした!?」

優「紅蓮翔舞!」

士郎「炎を出すだと!?」

優「雷封刃!」

士郎「今度は雷!?」









嘘です

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