意識が沈む。この感覚はあの影と戦った時と同じ感覚。ならば、この先に待っているのは…
どうやら到着したようだ。前回のような宇宙みたいな空間ではない場所。黄昏時の丘に無数の剣が刺さっている光景。風が冷たく感じるのは何故だろうか。
僕は歩く。そこかしこにはボロボロになった剣が転がっている。その中で異彩を放っているのは一人の男性の姿だった。
赤い服に白い髪、褐色の肌をした男性は静かにこちらを見つめていた。
「……どうやら来てしまったようだな」
男性は少し重々しげに口を開く。その口調から察する事が出来るのは諦めのような感情。一体この人は誰なんだろう。
「ようこそ、というべきかな。もてなしはしないが歓迎はするよ。藤崎優」
この人は恐らくみんなが言っていたまだ会っていない人達の一人なのだろう。だから僕のことを既に知っているのだ。
僕は男性に近付く。敵意を見せない男性はそんな僕をただ見ていた。
「貴方は、一体?」
「名乗るほどの者でもないが、まあなんだ。呼び名が無いのは少しばかり不便だな。私のことはエミヤと呼ぶがいい」
「エミヤ…さん。わかったよ。始めましてエミヤさん。知っているみたいだけど僕は藤崎優だよ。」
エミヤさんは少し驚いたような顔でこちらを見ると、顔に少し笑みを浮かべて口を開いた。
「さて、本題に入るとするか。もう薄々と感じているとは思うが、ここは私の心象世界だ。そして君へ試練を与える場所でもある。」
「試練……」
あの影のようにエミヤさんと戦うのかな。だとすればこの人強そうだから最初から全開でいかないと。
「まあ、戦う事には変わりないが少しばかり話を聞き給え。せっかちなのは損をするぞ」
少し呆れたように言うエミヤさんに恥ずかしく感じる。まあ何にせよ戦うのなら本気で行くよ。
「では話すぞ。私はある友人に頼まれてな。君が私の元に至った場合は力を貸すに値するかのテストをしてやってくれと。」
「友人?」
「それは気にしなくていい。まあ、本来ならば断っているのだがな。私も君には少しばかり興味を持っている。だからこそ私の力を使うに値するかを試させてもらう」
エミヤさんはそう言うと僕からすこし離れた場所に立って双剣を両手に持って構えた。
僕もそれに習って王様の蔵からエターナルソードを取り出そうとする。
が、でない。
「残念ながらここではある方法でしか武器を扱えないようにしている。素手で掛かって来るのもいいが私相手にそれは些か愚かというものだ。故に考えろ。君の目の前にいる男をよく観察し見極めろ。君なら出来るはずだ」
エミヤさんはそう言って剣をこちらへ向けてくる。
「いいか、イメージするのは常に最強の自分だ」
最強の自分?
一体どういう意味が…
「行くぞ。君がこれから目撃するのは無限の剣。剣戟の極地。恐れずしてかかってこい!」
その言葉とともにエミヤさんが疾走してくる。ありし日の士郎さん並の速度。だけど、捉えきれないわけではない。
「はっ!!」
エミヤさんが振るってくる白い剣の横っ腹を思いっきり殴る。エミヤさんは言っていた。よく観察しろと、だからエミヤさんの剣撃を捌きながら動きを見極める。士郎さんと比べて筋力はエミヤさんが上、速度は最高速度の士郎さんのほうが若干速い。多分動体視力はエミヤさんが上。判断力も上だろう。
これまで戦った相手で一番強い相手だと思う。だからこそ集中しなければならない。エミヤさんは言っていた。ここではある方法でしか武器が使えないと。多分その答えがエミヤさんの武器なのだろう。
双剣の切り下ろしを思いっきり横から蹴って逸らす。
エミヤさんの体勢が崩れた。好機!
「掌底」
「甘い!」
エミヤさんが武器を捨てた。そして再度同じ双剣を手に持って斬りつけてくる。取り敢えず掌底破をそのまま放って距離を取る。
「がっ!!」
距離を取るためにだいぶ威力を削がれてしまった掌底破。恐らくは無傷だろう。だけど、少しは考える余裕が出来るはず。エミヤさんは今瞬間的に武器を取り出した…いや、手放した武器が消えていない。もしかして武器を作っているのかな?
流石にあんな剣で似せた剣が存在するとは思えない。なら、エミヤさんが何かをして作ったと考えるのが正しいだろう。だからこそ思い出す。エミヤさんは僕にも出来ると言っていた。だけど、どうやって?
まだ糸口はわからないけど、それでもやるべきことはわかった。エミヤさんのように剣を生み出さなければ勝てない。
まずはイメージ。多分使うのは魔力。エミヤさんの剣を躱し頭のなかで思い浮かべる。手に馴染んだ木刀。だけどここからがわからない。
「思考が散漫になっているぞ」
「っ!!」
エミヤさんに蹴り飛ばされる。なんて脚力!
軽く人間やめてるんじゃないの?
まあいいや。言うほどダメージはない。これなら集気法で回復できる。
それよりも作り出さなければならない。それにはもっとエミヤさんが剣を作るのを見なければならない。
着地と同時に距離を詰めて気を集めた拳でエミヤさんが持った剣を思いっきり叩く。
そこまで強度があったわけではなかったようで、黒い剣を折ることが出来た。エミヤさんの手から飛ばせれば良かったんだけど、思わない収穫だね。あの剣は折れる。
「中々やるな」
エミヤさんの手元に集中する。魔力で剣の骨組みを作ったのがわかった。なるほど、それから剣の本体で覆うのか。
後は実戦するだけだ。イメージしろ。その手に持つのは木刀。まずは骨組みを敷く。魔力で骨格を作るように…
幸いにも何故かエミヤさんはこちらを攻撃してこない。今のうちに完成させる。
材質は木。思い出すのは影との戦い。あの時の木刀は絶対に折れることのなかった物。僕が夢で生み出した物。
それが手に握られていた。
「……驚いた。よもやこの短時間でここまでの投影をしてみせるとはな。やはり天才…」
エミヤさんが驚いている声が聴こえる。これは投影という技術なのか。基本は理解した。これで戦える。
僕は木刀を片手に持って構える。
「ふむ、見たところ6つの工程の内4つまでしか行えていないようだな。だが、何も教わる事無くそこまで再現してのけたのだ。及第点は優に超えているな。ならば、後は君の実力を確かめさせてもらう」
エミヤさんが双剣を消す。
それと同時に纏う空気が変わった。さっきまでの比じゃない圧力。さっきまでは手加減していたのだろう。そんな空気に警戒し、木刀を握る手に力が入る。
エミヤさんが双剣を投影する。多分さっきみたいに簡単に折れるものじゃない。あれがエミヤさんの本当の投影。
だけど、僕は全力でぶつかるだけだ。
「こい!」
「はい!」
思いっきり地面を蹴って接近する。エミヤさんがそれに合わせて白い剣を振り下ろしてくる。それを木刀で撃ち上げるように防ぐ。すぐさま黒い剣が迫ってきた。地面を蹴って上に逃げる。そしてそのまま体重を載せた一撃をエミヤさんに振り下ろす。
「はぁぁぁぁぁぁ!!!」
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
エミヤさんの交差させた双剣と僕の木刀がぶつかる。僕の上からの振り下ろしを真っ向から止めるなんて人間業じゃない。だけど、負けられない!!
木刀に魔力を込める。骨組みはできているんだ。どちらも同じ剣。元々の形は同じ。後は剣の本体を投影するだけ!
「なっ!?」
木刀が変化する。その刀身を大きくし色を紫色に染める。これがクレスさんから教わった時空剣技だ!
「次元斬!!」
次元を切り裂くその剣技。それは時をも止める事が出来る。
一体どういった原理で時間を止めているのかはわからないけど、この剣エターナルソードのお陰だとクレスさんは言っていた。
時間が止まった空間で着地し、魔力を身体に集中させてエミヤさんへと迫る。
魔力は炎に変換されて僕を包む。
ここで時間は動き出し、エミヤさんが驚いた顔でこちらへと視線を向けた。
もう遅いよ
「燃え上がれ紅蓮の刃!緋凰絶炎衝!!」
鳳凰天駆で突進、それから反対方向へ再度の突進。それにより地面から炎が吹き出し敵を燃やす。
「
え?今何かが聞こえたような。
っていきなりエミヤさんの前に白い盾が!?
「くっ!!」
突破、出来ない!!
僕は盾を打ち破れない事を悟ると盾を蹴り距離を取った。
そうか。投影は盾も作れるのか。
「全く、いきなり姿を消したかと思えば炎を纏っての特攻とは。しかも
エミヤさんはそう言って盾を消す。今度はどう攻めるべきだろう?次元斬連発して時間を止め続けたらいけるかも…
「投影にしてもそうだ。私に及ばないものといえどその根底を同じにしておきながら私に出来ないこと…投影の重ねがけをやってのけるとはな。これは認めざるを得ない」
エミヤさんが近づいてくる。よし、今度は時空剣技の組み合わせで…
「合格だ。君に私の力を貸そう。」
「え?」
まだ僕勝ってないんだけど…
「どうやら一つ勘違いしていたようだな。何も私は最初から勝てとは言っていないだろう?君の力を見せてみろと言ったはずだ。それを君は存分に見せてくれた。故に合格だと言ったんだ。」
「は、はぁ」
「それに、今の君ならば使えるだろうさ。固有結界
「無限の剣製…」
一体何だろうか。それがエミヤさんの切り札なのかな?
僕の切り札はエターナルソードでの時空剣技と極光術。ローレライの鍵での超振動。時計での骸殻くらいしかない。どれも同程度の力しか使えてないから、多分エミヤさんにその切り札を出されていたのなら負けていたと思う。
と、あれ?僕の身体が光りだした…
「どうやら時間のようだな。詳しいやり方などは後日教える。今は投影の技術を磨いておくことだ。」
「は、はい」
「ではな。これからよろしく頼むよ」
視界が光りに包まれた。
さて始まりました優君による夢めぐり、次回は一体誰の世界に行くのか