意識が沈む。もう何度も経験したためか随分と考えることに余裕が出来てきた。この先は一体どんな世界なのだろうか。一体どんな人が待っているのだろうか。
何も知らないけれど不安ではない。だって、彼らは僕に力をくれるから。彼らは僕に教えてくれる。力がなければ奪われるだけの存在に成り下がると。だから、僕は…
目を開く。既に着いていたようで足はしっかりと地面にたっていた。だけど、視界に映るのは黒。何かを全て黒で塗りつぶしたような世界。認識できるのは僕の身体だけ…
言い知れぬ恐怖があった。
冷や汗が止まらない。この黒を見ているだけで何かに蝕まれるような感覚に襲われる。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い
身体を抱えて座り込む。一体コレは何なの?どれもこれもが黒。右を見ても左を見ても、下を見ても上を見ても前も見ても、黒色しか見えない。まるで生気を感じさせない世界。そんな世界に僕は来てしまったのだ。
脳裏にイメージが浮かぶ。
これは一体…
——何もない部屋。窓も塞がれ、光も入らない部屋で自分が■に向かっていくのを感じる。目の前に映るのは用意された食事。酷く質素な物…一体私が何をしたというのだろうか
——目の前には見たことのある者達。どれも私が過去に助けた者。ふっ、どうやら正義の味方になりそこねた私には相応の罰らしい。全てを助けることなどは出来ずに最低限を犠牲にした私の最後がこうなるとはな
——皇帝の座を追われ、幾度も首元に刺そうとした刃を引き止める。ああ、なんと嘆かわしいことか。この世から素晴らしい芸術家が一人消えることの悔しさよ。願わくば余の理解者が現れんことを
——自分の頬を何かが濡らす。それは暖かく、止まること無く自分の頬に流れていた。目を開く。そこには生涯で唯一の親友の顔があった。全く、なんて顔をしてるんだい。君は王で僕は道具だろう?道具が■れて涙を浮かべるのは頂けないよ。だから、君が泣く事なんてないんだよ
——かっかっか、儂の最後がこうも呆気なく終わるとは考えもしなかった。そうか、やはりどれだけ肉体を鍛えあげようとも、精神を強固にしようとも、毒を口にすれば■するのは道理か。まあ仕方あるまい。儂を■そうとする輩など数えきれぬほどにいる。なればこそ恨む道理などはない。真、愉快な人生であった
——身体を何かが蝕むのがわかる。これが■か。まあ、色んな世界を壊してきた俺が受けるにしては随分と幸運な罰だ。それに、これは俺が選択したことだから…後悔はない。だからこそ、お前は生きてくれ。俺は一足先に兄さんの所へ…
——胸に刺さる矢が自分の■を奪っていくのがわかる。私はただ、人間に憧れただけなのに…
——意識が加速していく。誰も俺に追いつけるやつなんか居やしない。まるで景色を後ろに置き去りにしていくような感覚…これが、これこそが俺の相棒。ゲイボルカーだ!!よし、あのカーブで更に差を着けてやるぜ!!
——幾多も敵をなぎ倒した。幾多も剣を折った。しかし、王を守ることは出来なかった。何故だ?何故私はこうして王を守れずに地に伏せている。旧友に受けた傷に刺さった刃。どうしてこうなってしまったのだ。私のせいではないか。私怨を持ってしまった私の責任。そのせいで王は■に私も■に向かっている。すみませんでした王よ
——血が流れていく。等々やられちまったか。撃たれた場所がズキズキと痛む。どうやら俺の役目はここまでみたいだ。最後の頼みを聞いちゃくれないかい?俺が■んだ後、俺の身体をこの矢が落ちた場所に埋めてくれ。今射つからよ…
いくつもの■のイメージが流れこんでくる。頭が割れそうになるほどに痛む。そうか、そうだったのか。全てはいつか■ぬ。それはどんな存在でも変わらない事実。だからこそ…この世界の全てのはs——
「目を閉じなさい。」
声が聞こえた。凛とした声だ。ハッとしたように意識を浮上させ、声の方向を見る。そこには2人の女の人が立っていた。白い和服の女性と青い和服と赤いジャケットを着た女性。
「貴方…たちは…」
「いいから目を閉じな。」
青い和服の人に言われる。慌てて僕は目を閉じる。すると、先程まで流れていたイメージが突然に止まった。同時に頭の痛みも引いていくのがわかった。
「全く、魔眼ももっていないのにここまで理解して廃人になっていないとか。本当に人間かよ、こいつ。」
「数多の記憶を埋め込まれて尚自我を持っている時点で人間離れをしているのは明白でしょう?多分、最後まで見ていたなら目覚めてしまっていたわよ。」
一体この2人は何を話しているのだろうか。だけどこれだけはわかる。この人達がこの世界の主なのだろう。
「目覚めてもこの子ならば間違った使い方はしないでしょう。だからこそ目覚めさしてはいけない。貴方の力をこの子に渡してはいけないわよ。」
「わかってるよ。お前こそ間違ってもこいつと接触するんじゃないぞ。じゃねえと意味がないからな。」
「わかってるわ。」
頭の痛みも完全に収まる。それと同時に急激に眠気に襲われる。このままじゃあ意識が沈む。だからこそ、聞かなければ…
「貴方達の、名前は…」
「なんだ、随分と酔狂な奴だな。言うに事欠いて聞くのが名前とはな」
「いいじゃない。こんな子が何かを成しとげたりするものよ?」
「違いない。で、名前だったな。俺は—」
「私は——」
「「両儀式」」
その声と共に意識が闇に沈んだ。
???「ランサーが死んだ!!」