憑依拒否   作:茶ゴス

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現実編第4話「それぞれの思惑なの」

「なのは!ここで踏み込んで!」

 

「うん!!」

 

 

 白い魔法少女は変身すること無く、友人の使い魔と近接戦での修行を

 

 

 

 

「フェイト、そこの魔力制御が若干不安定だよ」

 

「う、うん」

 

 

 黒い魔法少女は変身すること無く、友人のペットと魔力制御の修行を

 

 

 

 

「クロノくん、どう?そっちの調子は」

 

「武装局員の中隊を借りられた。操作を手伝ってもらうよ。」

 

 

 管理局員たちは事件の沈静化に向けての行動を

 

 

 

「主はやて、本日は私が病院に付き添います」

 

「ありがとうな。シグナム」

 

 

 闇の書の主とその騎士は変わらぬ日常を

 

 

 

「とっとと完成させないといけないな。行くぞザフィーラ」

 

「ああ、しかし無茶はするなよヴィータ」

 

 

 自らの意志で動く騎士たちは主を助けるために戦いを

 

 

 

 

 そして

 

 

「………」

 

 

 

 まだ少年は目を覚まさない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 海鳴大学病院のある診療室。そこに少女、八神はやてはいた。

 本日は定期健診のために病院に訪れ、自身の身体の状態を確認してもらっていた。

 闇の書の騎士、ヴォルケンリッターの将、シグナムが同行しており、主である八神はやてを守っていた。

 

 

「うーん、やっぱりあんまり成果は出ていないかな。」

 

 

 診察のカルテを眺めて身体を揺らしながら医者は言う。それを2人は少し不安気に見つめていた。

 

 

「でも、今のところ副作用も出てないし、もう少しこの治療を続けましょうか」

 

「はい。えーと、お任せします」

 

「おまかせって。自分のことなんだからもうちょっと真面目に取り組もうよ。」

 

 

 苦笑いを浮かべる医者に少女は少し罰が悪そうに笑い、視線を医者から外す。

 そして、一息置いた後医者に視線を向けて笑みを浮かべて言う。

 

 

「私、先生を信じてますから」

 

 

 医者はそれに少し困ったような顔をした。現状この少女の症状が良くなっていない理由がわからない。それでも尚自身を信じると言ってくれた少女に申し訳なく思ったのだ。

 

 

「そうだ先生。この病院に原因不明で寝とるっていう男の子がおるって聞いたんやけど」

 

 

 それを察してかどうかは定かではないが少女は話を変えるためにその話題を切り出す。

 少女の友人である月村すずかから聞いたこと。彼女の親友の想い人だと聞かされたはやてはその男の子に興味を持っていた。

 

 

「ああ、藤崎君のことね。あの子がどうかしたの?」

 

「いやあ、ちょっと気になったので」

 

 

 医者は顎に手をおいて考える。少年もまた原因不明の症状、目の前の少女と共通点はあった。それに仲間意識を持った為に聞いたのかもしれないと考える。

 良くも悪くも身体というものは精神と繋がっている。プラシーボ効果と呼ばれる特効薬でもない薬を飲ませてそれによる思い込みで症状が治ったりすることもある。精神的に良い刺激を与えるというのはこの少女のためにもなるかもしれない。

 

 

「じゃあ、会ってみる?」

 

「ホントですか?」

 

「ええ。あの子は眠っているけど健康状態は良好なのよ。だから面会は問題ないわ。寧ろあそこの病室は賑やかなくらい」

 

 

 またもや苦笑いを浮かべる医者に少女は不思議そうに頭を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

 それから医者は少女の付き添いであるシグナムと話をするとのことで少女は廊下で看護婦と一緒にシグナムを待つことになった。

 

 

「そういえばはやてちゃん。うちの子に興味があるんだってね」

 

 

 少女の隣に立つ看護婦はそう少女に話しかける。それに頭を傾げて少女は考える。一体誰のことだろうか、興味をもったと言ったのは藤崎という少年だったはず。

 と、そこで看護婦の胸元に目が行く。そこには藤崎と書かれたプレートがあった。

 

 

「もしかして」

 

「そっ。私は貴方が会いたいって言った男の子の親なのよ」

 

 

 少女はそれを聞いて彼女の顔を見る。悲しそうではない、寧ろ少し喜んでいるような顔で少年のことを話している。

 一体どうしてそこまで元気なのかが少女にはわからない。家族が目覚めないのは不安ではないのだろうか?と少女は思った。

 

 それを察し女性は優しそうに笑い少女の頭を撫でる。

 

 

「最初は不安だったんだけどね。自分の息子がどうしてって事も思ったりもして碌に仕事なんて出来なかった。」

 

 

 始まるのは独白。一人の女性が一人の親として語る言葉。

 それに少女は黙って耳を傾ける。

 

 

「でもね、あの子が目を覚まさなくなってから何があったと思う?」

 

「……わかりません」

 

「毎日女の子が会いに来るようになったのよ」

 

 

 少女には一瞬意味がわからなかった。この女性は一体何を言っているのだろうかと思うが、女性はそれに構うこともなく続けた。

 

 

「本当は他の子と遊んでたい年頃なのに、毎日息子の病室に来てるのよ。で、その子最初は沈んだ顔で息子の顔を見ていたのだけどある日を境に急に元気になったのよね」

 

「……」

 

「私は気になってその子に聞いたのよ。どうして貴方は笑顔なのってね。そしたらその子なんて言ったと思う?家族(旦那さん)が帰ってくるのを笑顔で迎えるのは家族(お嫁さん)の役目なんだって。」

 

 

 少女は女性の顔をみる。凄く綺麗な笑顔を浮かべている顔。思わず見惚れるほどの顔。

 それに少女は気付く。少年は自分とは違うのだと。周囲の人に愛され、想われ、そして。それに応えているのだと。

 

 

「私もその言葉には衝撃だったわ。そして安心した。息子にはこんなに想ってくれている子がいるんだって。もしその子を泣かすような事があれば私が眠らせてやるわよ」

 

「……ふふ」

 

 

 少女は安心する。自分の出る幕では無かったと。この人達は信じることが出来るのだとわかった。

 女性は膝を曲げて少女と視線を合わせる。そしてニカッと笑った。

 

 

「ごめんね。はやてちゃん、つまらない話だったでしょ」

 

「ううん。ホントにいい話でした。全米が泣く位には感動しました。」

 

「ははは。じゃあはやてちゃん。もし良かったら息子に言っといてくれない?お誕生日おめでとうってね」

 

「……ええ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 それから八神はやてとシグナムは件の少年の病室にやってきていた。

 ノックしてから入ると病室特有の匂いがした後、綺麗に片付けられている部屋が視界に飛び込んでくる。

 

 そのままシグナムに車椅子を押されてはやてはベッドに近付く。

 ベッドにいるのは寝息を立てて眠っている少年。ただ眠っているようにしか見えない寝顔の少年に少し安心する。その少年の横で幸せそうに眠っている幼稚園児くらいの女の子がいなければだが。

 

 

「…むぅ…優……わたしも…」

 

「なあ、シグナム…」

 

「……はっ!、ど、どうしましたか?」

 

「何か知らんけど無性に腹が立つのは何でやろ。今にもリア充爆発しろって叫んで壁を殴りたいこの衝動は何やろ」

 

「…私にはわかりかねます」

 

 

 グヌヌと唸っているはやてを他所にシグナムは思案する。

 目の前の少年は何なのかと。ここまで近付いてやっと気づいた魔力。だがそれは途轍もない程の大きさ。闇の書のページの残りを埋めても余るほどの魔力に身震いする。

 

 右手が少年の方へ伸びていく。

 この少年の魔力を蒐集すれば……

 

 

「あら、見ない顔ね。」

 

 

 しかし、部屋の入口から声が聞こえ反射的に手を引っ込めた。

 そして視線を声の方向に向けるそこにいたのは一人の女性

 。長い灰色がかった髪。少し疲れ気味の眼。そして…魔力

 

 

「あ、お邪魔してます。私八神はやて言います。」

 

「これはご丁寧に。私はプレシア。そこで眠っている女の子の母親よ」

 

「……シグナムだ」

 

 

 警戒する。これほどの魔力を持った少年を野放しにしてるわけが無かったと今更に気付く。

 

 自身の落ち度、それに主である八神はやてを巻き込んでしまったことを恥じる。

 

 

「……はあ、ちょっとそこの貴方。ついてきなさい」

 

 

 そんなシグナムを見てプレシアはそう告げて部屋を出て行った。

 

 

「……どうしたんやろ。シグナム」

 

「……取り敢えず行ってきます」

 

 

 バレてしまったと。主であるはやての顔が相手にバレてしまったと内心で思う。

 故に行動する。全ては主のために…

 

 

 

 

 

 ◇

「それで、どういった要件だ?」

 

 

 

 シグナムは直ぐにでもデバイスを取り出せるように構える。それに対しプレシアは頭を抑えてため息をはいている。まるでシグナムの様子に呆れているように…

 

 

「貴方さっきあの男の子に手を出そうとしたでしょ」

 

「……」

 

 

 沈黙する。それは答えを言っているのにも等しく。更にプレシアはため息を吐いた。

 

 

「全く、自分たちが主を苦しめているのは理解しているだろうけど、あの子に手を出すのは一番やってはいけない事よ」

 

 

 まるで全てを知っているかのような口ぶり。だからこそ困惑する。そこまで知っておいて何故管理局からのアクションが無かったのだと…

 

 

「闇の書の騎士…いえ夜天の書の騎士達がそこまで短慮だとは思わなかったわよ。」

 

「……夜天…」

 

「自分たちの本来の役職さえ忘れ、過去にどうなったのかすら覚えていないでしょ。貴方」

 

「そんなことは…」

 

 

 シグナムは自身の記憶を探る。そう言えば以前の主のことを思い出すことが出来ない。まるで靄がかかってるように認識することが出来ない。

 

 

「このままじゃあ闇の書が暴走してあの子の命は無くなる。」

 

「嘘をつくな!!もし本当だとしても何故貴様が知っている!!」

 

「調べたからよ。私の娘を生き返らせる為にね。まあ、ベルカの方はそれらしいものがなかったからあまり詳しくは調べてないけれど。貴方達は有名だから真っ先に調べたのよ」

 

「娘を生き返らせるだと?ではあそこの少女は」

 

「正真正銘私の娘。生き返った娘よ。」

 

 

 その言葉をありえないと吐き捨てつつシグナムは期待する。生き返る程の事が出来るのならばはやてを助けることが出来るのではないかと…

 

 

「…どうやって…」

 

「私もわからないわ。だけどこれだけは言える。あの男の子がアリシアを生き返らせたのだって。ここまで言えばわかるでしょ?さっきの言葉の意味が」

 

「……」

 

 

 案にプレシアはこう言っているのだ。あの少年に頼めと。あの少年にはそれをするだけの力があると。だが、当の本人は昏睡状態にあるとシグナムは内心でつぶやく・

 

 

「まあ、貴方達は納得出来ないでしょうから蒐集を続けるといいわ。もし蒐集仕切る前にあの子が目を覚ませばどうにか出来るだろうし。目覚めなければ貴方達が出来る事が出来て貴方達の中では万全な事になるでしょうね。」

 

「……何故そこまで我らに告げる。貴様は管理局の人間ではないのか?」

 

「私はあんな連中は嫌いよ。まあ、多少は協力してやってるけど貴方達と戦うことになるよりはこうやって話すほうが面倒がなくていいわ」

 

 

 シグナムは安堵する。プレシアが主はやてのことを管理局に告げることは無いと。

 

 

「まあ、あの子に手を出すというのなら全力で相手をするけれど」

 

 

 プレシアは手のひらをシグナムに向ける。

 それにシグナムは一瞬呆気にとられてしまった。

 

 

「答えて頂戴。約束して頂戴。あの子に手を出さないと。もし断るならばバリアジャケットを展開する前に雷を打ち込むわ」

 

 

 完全に油断していた。警戒を解いてしまった。

 既にシグナムは後手に回ってしまっていたのだ。

 ここで自分が倒れれば主がどうなってしまうのかは容易に想像できる彼女には既に選択肢などはあって無いようなものだった。

 

 

「何故…そこまでして」

 

「あの子は私達家族にとっての恩人。未来では私の息子になるかもしれない子。それを守れなかったら娘に嫌われちゃうわ」

 

 

 シグナムは少年を傷つけないと言うしか無かった…

 

 

 

 

 

 




プレシアお母さんって基本親馬鹿だと思います。

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