憑依拒否   作:茶ゴス

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夢想編第7話「選定」

 倒れこむように迫る札を躱す。片手を失いバランス感覚が狂ってしまった身体で玉藻さんの攻撃を避けるのは大変だ。

 すぐに左手で地面をついて起き上がる。目の前には再度放たれた札が迫っている。

 

 防御は無意味だ。さっきまで何度か試したが障壁を破られるだけで意味が無い。

 その場にしゃがんで札を躱す。

 

 息もつけない波状攻撃に接近する事が出来ない。それでは僕の力を最大限に生かせないよ。

 僕は遠距離攻撃で強力なものを身につけていない。術は使えるけど近接戦闘のほうが強力なのは明白だ。

 転がり、直ぐに反転し札を躱す。

 

 ジリ貧なのはわかってる。寧ろ玉藻さんが全然本気を出していない事がわかってた。

 いや、本気なのは本気だろうけど全力ではないといった所。

 

 次元斬で時を止めて札を躱す。

 もう既に魔力は尽きかけている。どれだけ多く魔力を保有しようといつかは無くなってしまうのが当たり前。

 だけどその当たり前が今はとてつもなく重く感じる。時間が動き出す前に出来るだけ距離を詰める。

 

 大体止まってる時間は1秒と少し。札を避けてから少しだけしか進めない。

 治癒功で止血は続けなければならない。集気法で体力を回復しなければならない。

 全てを集中して行ってやっと戦える状態。

 近付けば近付くほど攻撃の間隔は短くなっていく。

 

 

 躱す、躱す、躱す。

 

 

 次元斬を使う。ここで一気に距離を詰めて…止まらない!?

 次元斬による時間停止の魔力が尽きた。その一瞬の判断ミスが一気に僕を劣勢にする。

 

 目の前には札、一発一発がとんでも無い威力を秘めた一撃。

 躱す。

 

 左足に被弾した、すぐさま治癒功の範囲を広げる。痛みは緩和されたが集気法が切れた。

 気も尽きかけということか。

 

 無理矢理身体を回して第2波を躱す。

 

 躱しきれないと判断。エターナルソードで札を斬る。

 目の前で爆発。それと同時にエターナルソードが吹き飛ばされてしまった。

 爆風のせいで次の札が見えない。

 

 しゃがむ。頭の上を何かが通過したのがわかった。

 すぐに横へ移動。札の攻撃範囲から外れないといけない。

 

 右足に被弾。少し遅れたせいか。治癒功を発動、発動しない。

 

 尋常じゃない痛みの信号が足から発せられる。

 我慢して地面を転がり、すぐに立ち上がり視線を玉藻さんへ向ける。

 

 周囲360°を札が囲んでいた。

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

 

 囲まれた。武器も持っていない。魔力もほぼ皆無、気も同様。

 ここまでか。

 

 

 いや、諦めない。

 残った気と魔力で身体を強化。躱すことは出来ない。だけど出来るだけダメージを減らすことなら…

 

 

「密天・集」

 

 

 札が殺到する。

 身体に当たる度に衝撃が襲う。

 出来るだけ姿勢を低くし被弾数を減らす。

 

 耐えろ、耐えろ、耐えろ。

 

 

 これを乗り切っても意味がないかもしれない。だけど、乗り切らなければ何もないんだ。

 

 耐えろ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

「……」

 

 

 女性は目の前の地面に伏せる少年を見る。

 神に弄ばれる哀れな存在。神に逆らう愚かな存在。

 神とは人が作った想像上の物であるがゆえにそれは絶対的な存在なのだ。

 

 現に神である女性を前に少年は何も出来ずに地面に倒れ伏すのみ。

 少しは期待した。自身の宝物、水天日光を使いこなしたのは紛れも無くこの少年の力。故に何かをやってのけるのかとも思えた。

 

 しかし、結果は期待を裏切るものとなった。

 何が神様が嫌いか、何が嘘は付きたくないか。

 

 言葉では正しいことを言えようが力が無ければいつも排他され消される運命にある。

 

 

 そう、生前の自分のように…

 

 

 振り返り社へと歩を進める。

 ここは精神世界、暫く時間が経てば少年も目を覚ましてここからいなくなるだろう。

 手加減はした、されど容赦はしなかった。

 この少年は敗れたのだ。水天日光という冥界の宝物を手に持つ資格を得る戦いに。

 

 敗者に情けは無用、ただ勝者となった女性の心も曇ったままであった。

 

 

「……って……」

 

 

 ふと、声が聞こえた。掠れた声、空耳かと思うくらいに小さな声。

 女性は立ち止まり少年へと視線を向ける。

 少年は立ち上がろうとしていた。右腕がないせいか上手く力を入れられずに立ててはいないが、それでも必死に左腕で立とうとしていたのだ。

 

 あれだけの攻撃、いかに神に作られた器といえど気絶は免れないはずの攻撃を少年は耐えたのだ。

 しかし、満身創痍の身体で一体何が出来るというのか…

 

 女性は札を一枚取り出し少年へと放る。

 札は少年の胸に当たると爆発し少年を吹き飛ばした。

 少年は地面をゴロゴロと転がり倒れこんだ。

 

 これで終わっただろうと内心で呟き女性は社へと歩を進める。

 やはり、人間は人間か。と感じるもその歩を緩めることはなかった。

 

 

「…まっ…て….」

 

 

 女性はゆっくりと振り返る。そんな馬鹿な、と感じつつ視線を少年へと向けた。

 左腕で地面を押し立ち上がろうとしている。

 

 一体何が少年をそこまで動かすのだろうか。一体少年は何がしたいのだろうか…

 見ている限り少年の身近な存在が死んだ事もない。ただ少年は水天日光の蘇生という物を求めるだけ…

 

 はたしてそうなのだろうか。それだけの理由で少年がここまでする事になるのか…

 

 

 わからない

 

 

「何故。そうまでして…」

 

 

 女性はたまらずに問うた。わからない、理解できないと内心で叫び少年の返答を待つ。

 少年はその言葉にぴくりと反応し、なんとか身体を起こして座り込んだ。

 

 

「…あなた…ち…と…きあう…ため…」

 

 

 息も絶え絶えと言った様子で呟く。

 貴方達と向き合うため…

 

 この少年はただそれだけを考えていたのか…と女性は納得する。

 

 少し考えは外れていたが概ね綺麗事を宣う人間の言葉だ。

 しかし、綺麗事も最後まで突き通せば偉業となり得るものだ。

 

 女性は札を取り出す。

 少年は自分たちと向き合いたいと言った。だからこそ女性も真摯に向き合うべきだと自身に言い聞かせた。

 

 札をとばす。これまでの手加減などとは比較にならないほどの威力を秘めた札。

 魔力量も倍以上のもの。これを受ければ少年もただでは済まないとわかっていても女性は放った。

 

 

 

 

 

 

 

 防いだ…

 

 

 誰がではない。何が…だ。

 

 放った札は防がれた。少年の目の前に漂う鏡に…

 

 

「水天日光…」

 

 

 自身の宝具、いつの間にそこに居たのかがわからないが、少年を庇うように鏡は宙を浮いていた。

 その装飾はヒビが入り、辛うじて鏡部分が残っている程度…

 

 

「そう…貴方の答えはそうなんですね」

 

 

 女性は札を取り出す。既に少年は資格を得た。後は答えを得るだけ…

 少年にとっての答えが真摯に向き合うことなのかがわからない。だけど少年の行動への答えとして自分が用意できるものはこれだけなのだと呟き、女性は札を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 防いだ…

 

 

 今度は鏡ではない。少年の障壁だ。

 水天日光の恩恵を受け、魔力を回復したのだろう。先ほどまでの魔力とは比べ物にならない密度の障壁を展開している。

 これを砕くのは骨が折れそうだと感じつつ女性は次々と札を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 少年の目の前、丁度障壁と少年の間にそれは現れていた…

 

 青と金色で装飾された剣…

 地面に突き刺さったそれは突然現れていたのだ…

 

 

「………」

 

 

 少年は立ち上がり、その剣を見る。

 少年はその剣を知っている。埋め込まれた記憶の一つにある剣。丁度少年の周りを壊れかけの姿で漂う水天日光の時と同じように思い出したその剣。

 

 

 名を勝利すべき黄金の剣(カリバーン)

 

 

 アーサー王伝説で記された選定の剣。それが少年の目の前に現れた。

 これが意味することを少年は本能的に理解する。

 

 

 今、少年は試されているのだと…王たる資格なのかは不明だが、この剣の持ち主としての資格を…

 少年は柄を持ち引き抜く。

 

 剣はあっさりと地面から抜けた。

 内包された力を感じる。エターナルソードよりはランクが下なのかもしれない。

 

 だけど、ただこの時だけはどの剣よりも強い、最強の剣だと少年には感じられた。

 

 

 使い方はわかっている。自分の魔力を剣へと浸透させる。

 減った分だけ補充されていく魔力。何故か誇らしげに見える鏡に少年は内心で感謝しつつ前を見た。

 

 障壁へと絶え間なく攻撃を繰り返している女性。

 既に壊れかけの障壁でここまで持ったのは奇跡と言うべきかもしれない…

 

 少年は剣を持った左手を後ろに引く。

 魔力をどんどんと貯めこむ剣はその輝きを増していく…

 

 恐らくはこれが最期。魔力が回復したが怪我を治ったわけではない。

 時間があれば治せるが、目の前の女性がそれを許してくれるはずもない。

 

 故に最期…この一撃を放つには少年の身体は持たない…

 これを放ったが最期、最悪は命を落とすかもしれない…

 

 

 この世界で命を落とすことは現実世界における精神的な死だと少年は感じていた。

 

 

 それでも少年は止まらない。これが自分を守ってくれる者たちへの最大の賛美であると信じているから…

 

 

 

 

「これが…僕の全力……」

 

 

 剣を握り締めて横薙ぎに振るった。

 

 

「カリ、バーン!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

「……」

 

 

 女性は目の前で伏せる少年を見ていた。

 先程と違うのは少年の周りを心配そうにふよふよと漂う鏡。

 

 そして……

 

 

「…あなたの一撃は、間違いなく私に届きましたよ」

 

 

 

 腕から血を流した女性だった。

 

 少年の決死の攻撃は女性へと確かに至り、本来少年なの力ならばありえない威力で女性へと傷を付けることが出来た。

 

 

 結果、少年はその命を削り死にかけ、女性は手傷を負った程度、と考えればどちらの勝利であるかは明白だったが、女性は少なからず少年を認めていた。

 

 女性は少年へと近付く。

 自分が認めた相手、少年をここで死なせるのは女性は良としない。すぐさま水天日光を呼び、少年の傷を治療しようと腰を降ろした。

 

 

 

 

 

 少年が消えた…

 

 女性は目の前で起こった事に一瞬思考が止まったが直ぐに慌てて魔力を開放した。

 

 

 少年が向かった先を探る…あの傷では少年が死んでしまうのは時間の問題なのだ。

 女性は数秒で少年の居場所、違う者の世界を見つける。

 

 そして、自身の世界の境界のかべを蹴破り、その世界へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ==========================

 

 

『…君は生きたいか?』

 

 ーー…うん。僕は生きたい。生きてやらなきゃいけないことがある。

 

『その結果、人間から更に離れても構わないのか?』

 

 ーー僕は、僕であるかぎり人間であるから、大丈夫だよ

 

『……そうか、ならばこの呪いを認めよう。これにより君は異端の目で見られるかもしれない』

 

 ーー…それで、大事な人達を救えるなら

 

 

 

 ==========================

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

「とう!!」

 

「む、次元を蹴破って入ってくるとは、とんでもない客が来たものだ」

 

「うるさいです。そんなことより、あの子は?」

 

「ああ、治したよ。なんせ死にかけていたしな」

 

「…一体どうやって…」

 

「神の加護…いや、呪いかな。彼が受け入れたから認めたよ」

 

「…余計なことを…」

 

「そう言わないでくれ。いつかはこうなる運命だったと僕は感じているよ」

 

「それでもです。でもまあ、手遅れになる前に助けられて良かった…」

 

「ああ、確かあまり死に近づくと、直死の魔眼に目覚めてしまうんだったか。それではあまりに酷だからね」

 

「ええ、私が言うのも何ですがそれだけは避けたかったので」

 

「次からは手加減してあげなよ?玉藻の前」

 

「そういう貴方も手合わせするならば手加減してあげてくださいよ?英雄ヘラクレス」

 

「ははは、違いない」




視点移動多くて申し訳ないです。



おまけ
ルドガーが円卓の騎士達にどうしたら宝具を使うのを認めてくれるのか聞いてみた


ア「私が直接見たいとは思いますが、選定の剣に選ばれるならば聖剣を貸すのは吝かではありません」

ガ「わが剣は王と共にあり。王の命ならば使用を認めるでしょう」

ラ「右に同じ」

モ「俺も父上が貸すならば別に貸してやってもいいよ。あいつのお陰で父上と稽古も出来るし」



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