優の呼吸音だけが響く病室。彼が生きている証拠となっているそれを私は黙って聞く。
優が魔力を大量に発してから1日が経った。今は魔力を放出していないけれど、一時は本当に危険な状態だったらしい。母さんが言うにはいきなり現れた鏡が優の魔力を補充し続けていたらしく、もしそれがなければ間違いなく母さんが枯渇するくらいに補充しても足りなかったそうだ。
彼は今現在戦っているのだとも母さんは言っていた。魔力の補充時に気付いたらしい。そして、昏睡している間戦い続けていたかもしれないと聞いた。
優の手を握る。母さんより小さい手。でも不思議と心地よく安心感がある。
私を守ってくれた彼、姉さんを生き返らせてくれた彼、母さんを直してくれた彼。
そして、私達家族を救ってくれた彼。証拠はない、けれどなんとなく彼が母さんの裁判での情報を見つけてくれたのだと思えた。
そんな彼に私は何をしてあげれたのか…
何もしていない。ただ彼に救われただけだ。
それは嫌だ。彼に何も出来ない自分は嫌だ。
だから修行した。彼を守れるようになるために。
だから勉強した。彼と沢山話せるように。
手をぎゅっと握る。彼の体温が伝わってきて少し身体が高揚する。
私の親友、なのはも一緒だ。彼と肩を並べるために修行している。驚くほどの速度で強くなっていくなのはに危機感を覚えなかったわけではない。
どうして私はここまで弱いのだろうか。以前よりは強くなっているけれど、優やなのはには遠く及ばない。
だからこそ、私は強くなりたい。そしていつの日か彼と家族になれたら…
顔が熱い。どうしてそうなってるのかは自覚している。傍から見たら赤くなっているだろう。
私は彼が好きなのだ。どうしようもなく彼を好いている。
初めて会った男の子。私を助けてくれた男の子。私を認めてくれた男の子…
いつも太陽のように笑う彼は凄く眩しい。
だけど、今はその笑顔が見られない。彼はこんなに近くにいるのにここにはいない。
少し身体を寄せて密着する。彼の匂いがする布団。嫌悪感はなく、むしろいい匂いとでも言えるほど…
いつも姉さんが潜り込む理由がわかる気がする。ここだと本当にぐっすりと眠れてしまう。
隣にいる男の子。私の親友が好いている男の子。私の好きな男の子。
複雑な関係かもしれない。でも、なのはは言ってくれた…一夫多妻でいいじゃないって。
正直盲点だった…
「あ、フェイト布団に潜り込んでる!!」
「アリシアに続いてフェイトまで……母さん育て方間違えたのかしら」
「??あまりお母さんってフェイトに構って無かったんじゃなかったっけ?」
「………少し海に飛び込んでくるわ」
「冬の海は寒いよ?母さん」
病室に入ってきたのは母さんと姉さん。いつか、優も一緒の家族になるから楽しみにしててよ?母さん。
◇
緊急指令が発せられ、シグナムの姿が確認された。場所は文化レベル0の次元世界、目的は魔獣からの魔力の蒐集だろう。
結界を張れる局員の到着は時間がかかるため、私が出ることになった。行く際になのはから背後を気をつけておくように言われた。
到着すると魔獣に捕まっているシグナムがいた。私はサンダーレイジで魔獣ごとシグナムの拘束部分を破壊する。
『フェイトちゃん、助けてどうするの!捕まえるのよ!』
「あ、ごめんなさい、つい」
エイミィさんからの通話に申し訳なく思う。あの状態から捕まえるなんてこれっぽっちも考えていなかった。
「礼はいわんぞ、テスタロッサ」
レヴァンティンにカートリッジを込めつつシグナムは言う。お礼を言われるとは思っていない。寧ろこちらは魔獣の蒐集を邪魔したのだ。恨まれはしても感謝はされないだろう。
「邪魔をしただけですから」
「そうだな。蒐集対象を潰されてしまった」
「悪い人の邪魔をするのは私の仕事ですし」
「ああ、悪人だったな。私は」
シグナムはカートリッジを入れ終わりこちらを睨んでくる。
怖いとは感じない。勝てないとも思えない。彼女はまだ彼らの域には達していないから…
カートリッジをロードしハーケンフォームになったバルディッシュを構えて
計4個。私の周りをヒュンヒュンと音を立てて飛び回る魔力弾を制御しつつ視線をシグナムへ向けた。
「リベンジは出来れば今しばらく先にしたいが、速度はお前の方が上だ。逃げられないのなら戦うしか無いな」
「はい。私も戦うつもりで来ました」
魔力弾を1発シグナムへ放ち、それと同時に接近してバルディッシュを振り下ろす。
魔力弾は躱されてバルディッシュはレヴァンティンで防がれる。更に魔力弾で攻撃しつつ、バルディッシュを持つ手に力を入れる。
弾き返された。魔力を手に込めるのが一瞬遅れた…要練習
「お前のその魔力弾による牽制は厄介だな。時間を掛けられればやられそうだ…だからこれで決める」
シグナムがカートリッジをロードし魔力を高める。あの技は前にバルディッシュを破壊された技…
でも、今の私はあの時の私じゃない!
カートリッジロード…
さらに飛ばしていたハーケンセイバーをバルディッシュに戻す。
強化、強化。
私はなのはみたいに収束魔法が得意ではない。だから攻撃は自分の力で行わなければいけないんだ。
だから、魔力制御を修行した。自分の全力を出せるように…
「行くぞ、テスタロッサ!」
「うん!来て!シグナム!」
「紫電一閃!!」
「fifthハーケンスラッシュ!!」
シグナムの炎の纏った攻撃を電気を纏ったバルディッシュで迎撃する。
この技は単純にバルディッシュの魔力容量を5倍にしてそこへ5倍の魔力を注ぎ込むという荒業。
だけど、威力はその分跳ね上がりとんでもない一撃となる!!
「はぁぁぁぁぁ!!!」
「なに!!」
レヴァンティンを弾き飛ばす。そのまま、一回転してもう一度シグナムへ一撃を入れれば…
そう思って一度振り向いた瞬間に何かが現れた…
ええっと、確かなのはが言っていた後ろに気をつけろってのはこのことかな。取り敢えずその何かにバルディッシュで攻撃しつつそのままシグナムを攻撃した。
「がは!!」
「ぐっ!!」
現れた何かとシグナムは攻撃を受けて吹き飛ばされる。あれは確か、なのはや母さんが戦った仮面の男…間違えてなくてよかった。
今回はフェイトちゃん視点の話でした
リーゼアリア?
なのは様の砲撃を防ぎきれませんでした。