憑依拒否   作:茶ゴス

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現実編第8話「暗躍するプレシアさんなの」

 海鳴大学病院の廊下をプレシア・テスタロッサは歩いていた。彼女はここ最近の日課として、藤崎優と彼の病室に入り浸る娘のアリシア・テスタロッサの護衛を行っていた。

 

 と言っても、これまで彼女が動いたのは2回。1度目は闇の書の騎士、シグナムへの忠告。2度目は仮面の男の襲撃を撃退。

 いずれも彼女は詳しいことは管理局へは報告せず、またその心情を管理局側の人間、リンディ・ハラオウンは理解していた。

 彼女は過去に管理局によって娘を失っている。その娘は護衛対象の少年により生き返ったのだが、それでも管理局との溝は未だ深いままだ。

 管理局に手を貸しているという形になってはいるが、彼女にとって手を貸しているのはもう一人の娘、フェイト・テスタロッサに対してだった。

 彼女にとって今行っている日課は管理局とはまた別件と捉えており、未来の息子になるかもしれない少年を守るのは仕方のない事だと考えて文句も言わずに護衛を行っていた。

 

 ふと、廊下の先にいる一行に目を向ける。何やら深刻な顔で医師と会話している女性2人に少女1人。そのうちの1人の女性には見覚えがある。女性、シグナムを見て彼女はその3人を闇の書の騎士であると断定した。

 医師が部屋に戻ったのを見計らいプレシアは彼女たちに近寄る。

 

 

「ちょっと、そこの騎士さん達」

 

「……貴様は」

 

「なんだ、お前」

 

 

 シグナムは鋭い目で睨み、少女ヴィータともう一人の女性シャマルは怪訝そうにプレシアを見た。

 プレシアは彼女たちを見て内心で随分と不用心だと感じつつ言葉を続ける。

 

 

「少し話を聞きたくてね。誰か一人でも二人でもいいから来てくれない?」

 

「いきなりなんだよ。誰がそんな怪しい誘いに乗るかっての」

 

「まあ待てヴィータ。こいつは前に話したおかしな魔導師だ」

 

「…知らねえ」

 

「あの時ヴィータは寝むそうにしてたから聞いてなかったのかも…でもいきなり話してくるなんて随分と不用心なのね」

 

 

 そちらには言われたくないとプレシアは言葉に出そうになるがなんとか飲み込む。今現在会話できると思われるのはシグナムかシャマルのどちらかである。ヴィータは腕を組んで必死に何かを思い出そうとしてるようで話を聞けるような状況ではないだろう。

 

 

「まあ、どうでもいいでしょ。で、来てくれる?ここじゃあ話せない内容だし屋上にでも行きましょう」

 

「…罠ではないのだろうな?」

 

「普通それを本人に聞くかしら…まあ、警戒するのは仕方ないわね。デバイスでも握りしめていつでもバリアジャケット着れるようにしといたらいいじゃない」

 

「…わかった。ヴィータ、主のことを頼む」

 

「お、おう」

 

 

 その返答にプレシアは満足したように頷きキビを返して廊下を進んでいく。

 あまりにも無防備に背中を晒すプレシアにシグナムは若干拍子抜けしつつ彼女に付いていく。シャマルもまた少し困惑しながらも二人に付いていった。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

「で、聞きたいこととは何だ」

 

 

 屋上に立ち、誰も居ないことを確認したシグナムはそう切り出す。その手にはいつでも起動できるように待機状態のデバイス、レヴァンティンを握りしめていた。

 前回彼女はプレシアに出し抜かれてしまい、話し合いを有意に進めることは出来なかった。同じ轍は2度は踏まないと内心で言い聞かせつつプレシアの返答を待つ。

 

 

「そうね。大まかに2つあるわ。まず一つ目、貴方達の主の容態はどう?」

 

「……」

 

 

 プレシアは途端に暗い顔になった彼女たちを見てある程度の状態を理解した。彼女の予想通り闇の書の主の容態は良くはなく、騎士たちにも余裕がないのが一目でわかった。

 

 

「まあそれはいいわ。じゃあ少し良い事を教えてあげる」

 

「……なんだ」

 

「こちらの病人。あの子の容態が変化したわ」

 

「……」

 

「いきなり魔力を放出しだしてね。もう少しで枯渇する所だったけど今は落ち着いているわ」

 

「それの何処が良い事なんですか?」

 

「もしかしたら、あの子が近い内に目を覚ますかもしれないってことよ」

 

 

 既に少年、藤崎優が昏睡状態になってから一ヶ月程度が経過していた。その間は全くの変化も見られなかった少年に変化が出たのだ。

 悪化したのかもしれないが、プレシアは何故か少年の魔力放出は少年の目覚めが近いのだと感じ取っていた。

 しかし、それは確証はないことだ。もし目を覚ましても少年は闇の書の主を助けられないかもしれない。全てが憶測であり根拠の無い事だった。

 だが、プレシアは少年ならば何かをすると感じている。あの時、少年が自分の病を治したように…

 

 

「…それでは何か?我らに蒐集を辞めろと言うのか?」

 

「はぁ、前も言ったでしょ。別に好きにすればいいって。だけどこれだけは覚えておきなさい。貴方達の案よりも良い案はあるってことを」

 

「何の確証もないのにか!!」

 

 

 シグナムは思わず叫んでしまった。主が助かるかの不安。目の前の女性が告げる言葉。全てが重くのしかかりシグナムを潰そうとするのを振り払うかのように…

 そんなシグナムを見てシャマルは胸に手を当てる。彼女もまた不安に感じていたのだ。シグナムから聞いたプレシアの告げる可能性。闇の書に触れる機会が一番多いシャマルにだからこそ感じる悪寒。

 シャマルも薄々気付いているのだ。闇の書が主の命を奪うと。だが、今更蒐集を止められることも無かった。

 

 

「ま、そう言うのも仕方ないわね。さっきのは言っておきたかっただけよ。で、今からが本題」

 

「…なんだ」

 

「貴方達、仮面の男と何か関係はあるのかしら?」

 

 

 重圧を感じた。発生源はプレシア。思考を始めてしまった騎士たちは不意をつかれ、プレシアに先手を許してしまった。

 騎士たちは動けない。既に主導権はプレシアにある。シグナムは内心で自身の失態へ悪態を付き、プレシアの質問へ応える。

 

 

「知らぬ。我らも面識がない。ただいつも我らの前に現れるだけ…」

 

「……嘘はついてないようね。まあいいわ、もし面識があると言っていたなら管理局へ報告していたけど、無いのなら構わないわ」

 

「…一体、どうしてそんなことを?」

 

「……仮面の男がここを襲撃したのよ。私が撃退したけど。もし貴方達と繋がりがあるのなら、先日約束して貰った事を破られたって事だったし」

 

「…そうだったのか。もう一度言う。我らはあの者とは繋がりはない」

 

「それならいいのよ。」

 

 

 プレシアはそれだけ言うと屋上の入り口へと歩いて行った。

 彼女の行ったことは簡単。藤崎優の容態と仮面の男の襲撃があったことを伝えることにより病院付近での戦闘への牽制。そして、闇の書の主の容態を把握することにより、来るであろう大きな戦いの時期を大まかに推測することだった。

 

 実は既に彼女は仮面の男と闇の書の騎士達の繋がりが無いことは知っていた。いや、聞いてしたと言ったほうがいいか。

 

 

 

 

 ◇

 

 《数日前》

 

 

「なのはちゃん。貴方、あの仮面の男について知っているわね?私もある程度目星はつけてはいるけど…貴方、正体も知っているわね?」

 

「な、何のことかわからないです」

 

「もし話してくれるなら暫くの間病室に誰も近付けないわ」

 

「正体は管理局のリーゼロッテさんとリーゼアリアさんっていう猫耳生えたお姉さんたちです!!あと、クロノ君の師匠です!!」

 

「……あ、ありがとう」

 

「どういたしまして!!」

 

 

 嬉々とするなのはにプレシアは引き気味で礼を言った。


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