寝る前に投稿できて良かった。
是非お楽しみください。
尻尾突き戦法があまりに見事であったため、吾輩はすっかり浮かれていた。
こういう時は少し遠出でもしてみるのが良い。
いつもの縄張りを越えて、さらに深い森の奥へ。
……といっても、空から飛ぶ吾輩にとっては「深い」も何もないのだが。
首を左右に揺らし、面白そうなものはないかと物見遊山していると、ふと森の中に広く開けた土地を見つけた。
木々がなぎ倒され、強引に更地にされた跡。自然にできたとは到底思えぬ。
近くに気配はない。
どうやら、ここに住まうものは外出中のようである。
ふらりと降りてみた。
そこには骨の山と、食べかけの死体が転がっていた。
「ふむ、肉食であるな」
吾輩の縄張りにも狼程度は見かけるが、木を倒せるような巨体の狼など見たことがない。
つまり、ここには吾輩がまだ知らぬ“強者”がいるということだ。
実に良い。森とはかくあるべきである。
——さて、今回の遠出にはもう一つ目的があった。
オークどもの行方を探すことである。
以前はあれだけうじゃうじゃいたのだ。
大移動したとしても、どこかに痕跡ぐらい残っていよう……と考え、上空から探していたのだが、地に降りてみてようやく気づいた。
奴ら、吾輩の縄張りを越え、人間の街の方へ向かったようである。
それは困る。
——リベンジの機会がないではないか。
傷は既に癒えているが、吾輩の心に刺さった棘はまだ抜けておらぬ。
あれを正しく引き抜くためにも、もう一度あの豚面どもを捕まえねばならぬ。
ここに住まう大物も気になるが、先にやるべきはオークへの報復である。
よって吾輩は翼を大きく広げ、再び空へ舞い上がることにした。
しかし……最後にもう一つ、疑問が残った。
——ここに住んでいる大物は、何者なのであろう?
転がっている死体は人間のものが多い。
こんな辺境まで来る人間など滅多におらぬはず。
それをわざわざ狙い、ここまで運び、食うとは——
「……変わったものもいるのだな」
吾輩は少しだけ、背筋の鱗が逆立つのを覚えた。
強者の匂いである。
それでもまずはオークだ。
次の獲物は後でもよい。
吾輩は風を裂いて飛び立った。
街道に着いた吾輩は、まず風の匂いで事態を察した。
……オークである。しかも複数。しかも街へ向かう馬車にちょっかいを出している。実に無礼な連中だ。
馬が真っ先に倒されたと見える。馬が可哀想? いやいや、それよりも吾輩の因縁の相手たるオークが我が物顔でのさばっているのが気に食わん。
滑空しながら体を広げ、蜘蛛を潰した時と同じ要領で落下、地面と吾輩の鱗の間でオークどもをすりおろしてやった。
この瞬間の手応え、なかなかに爽快である。
ひとりだけ運良く避けたオークが吾輩に向かって吠えたが、遅い。
尻尾をひと突きしてやった。尖端が的確に内臓を貫き、吾輩特製の毒が即座に回る。少し悶えてから死んだ。やはり効果抜群である。
──以上をもって、吾輩のリベンジは完了である。
大満足。
ついでに馬の死体もいただいて、さらにご機嫌である。戦利品というやつだ。人間どもも命は助けてやったのだから文句はあるまい。
帰宅の途に着く吾輩、心はすっきり晴れやか。
いや、オークなど雑魚だと証明できて誠に清々しい。
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命からがら街にたどり着いた商人は、傷だらけの状態で冒険者ギルドへ転がり込んだ。
「た、助かったんだ! 空から竜が……竜が助けてくれたんだ!」
最初は誰も信じなかった。竜が人を助けるなどおとぎ話だ、と。
だが商人が描いた姿形を聞いた瞬間、冒険者の一人が叫んだ。
「それ、魔女の家に居ついてる竜じゃないか!」
事情を共有するうち、誰もが顔を青くした。魔女が飼っている?小竜が、オークと交戦して勝利した。それは良い。だが街の近くにまで行動範囲が拡大している。オークの移動に引っ張られているだけならば問題はないが、馬の味を覚えられて第二のオークになられては一大事である。
魔女にも知らせねばなるまい。
急ぎ、手紙を括りつけた伝書鳥が、森の奥にある彼女の家へと飛び立っていった。
竜はその頃、のんびりと戦利品を抱えて寝床で眠るところである。
己の功績が人間社会でどんな騒ぎを起こしているかなど、つゆほども知らずに。
ちなみに。
ギルドに転がり込んできた商人は、傷だらけではあったものの──背中にはパンパンに膨れ上がった袋を背負っていた。
その姿は、とてもじゃないが「瀕死の被害者」には見えない。
冒険者の一人が眉をひそめる。
「……おっさん、その袋にくくり付いてるの、オークの腕じゃねぇか?」
「ん? ああ、これか。いやほら、勿体ないだろ?
素材は素材だ。腐る前に拾っとかんと」
言うが早いか、商人は袋を床に置き、中から次々と“素材”を取り出し始めた。
折れた斧の刃
オークの牙
片方だけの手甲
そして問題の腕
冒険者たちは呆れ顔になる。
「お前……死にかけてたんじゃねぇのか?」
「死ぬかと思ったよ! 本当に!
だがな、荷馬車がメチャクチャになって、何も持って帰らんと損だろ?
ちょうど竜がオークを潰した直後で、素材も散らばっとってな。これは拾うしかないと!」
冒険者たちは顔を見合わせ、深いため息をつく。
「いや、図太いにもほどがあるだろ……」
「普通は逃げるんだよ、ああいう状況から」
「てかその袋、今にも破れそうなんだが……ギルドに持ち込むなよ……」
しかし商人は全く気にしていない。
「これは竜の恵みさ! ほれ、ギルドで査定してくれ!」
──瀕死とは、いったい。
尻尾攻撃と体を使った突進…やっぱりどこかで見たことがあるような…?
それはそれとして最後まで読んでいただきありがとうございます。
評価感想よろしくお願いします。