吾輩は竜である   作:金欠綱渡り

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吾輩君大満足回です。
寝る前に投稿できて良かった。
是非お楽しみください。


8話 オーク再戦

尻尾突き戦法があまりに見事であったため、吾輩はすっかり浮かれていた。

 こういう時は少し遠出でもしてみるのが良い。

 いつもの縄張りを越えて、さらに深い森の奥へ。

 

 ……といっても、空から飛ぶ吾輩にとっては「深い」も何もないのだが。

 

 首を左右に揺らし、面白そうなものはないかと物見遊山していると、ふと森の中に広く開けた土地を見つけた。

 木々がなぎ倒され、強引に更地にされた跡。自然にできたとは到底思えぬ。

 

 近くに気配はない。

 どうやら、ここに住まうものは外出中のようである。

 

 ふらりと降りてみた。

 

 そこには骨の山と、食べかけの死体が転がっていた。

 

「ふむ、肉食であるな」

 

 吾輩の縄張りにも狼程度は見かけるが、木を倒せるような巨体の狼など見たことがない。

 つまり、ここには吾輩がまだ知らぬ“強者”がいるということだ。

 

 実に良い。森とはかくあるべきである。

 

 ——さて、今回の遠出にはもう一つ目的があった。

 

 オークどもの行方を探すことである。

 

 以前はあれだけうじゃうじゃいたのだ。

 大移動したとしても、どこかに痕跡ぐらい残っていよう……と考え、上空から探していたのだが、地に降りてみてようやく気づいた。

 

 奴ら、吾輩の縄張りを越え、人間の街の方へ向かったようである。

 

 それは困る。

 

 ——リベンジの機会がないではないか。

 

 傷は既に癒えているが、吾輩の心に刺さった棘はまだ抜けておらぬ。

 あれを正しく引き抜くためにも、もう一度あの豚面どもを捕まえねばならぬ。

 

 ここに住まう大物も気になるが、先にやるべきはオークへの報復である。

 よって吾輩は翼を大きく広げ、再び空へ舞い上がることにした。

 

 しかし……最後にもう一つ、疑問が残った。

 

 ——ここに住んでいる大物は、何者なのであろう?

 

 転がっている死体は人間のものが多い。

 こんな辺境まで来る人間など滅多におらぬはず。

 それをわざわざ狙い、ここまで運び、食うとは——

 

「……変わったものもいるのだな」

 

 吾輩は少しだけ、背筋の鱗が逆立つのを覚えた。

 

 強者の匂いである。

 

 それでもまずはオークだ。

 次の獲物は後でもよい。

 

 吾輩は風を裂いて飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

街道に着いた吾輩は、まず風の匂いで事態を察した。

 ……オークである。しかも複数。しかも街へ向かう馬車にちょっかいを出している。実に無礼な連中だ。

 

 馬が真っ先に倒されたと見える。馬が可哀想? いやいや、それよりも吾輩の因縁の相手たるオークが我が物顔でのさばっているのが気に食わん。

 

 滑空しながら体を広げ、蜘蛛を潰した時と同じ要領で落下、地面と吾輩の鱗の間でオークどもをすりおろしてやった。

 この瞬間の手応え、なかなかに爽快である。

 

 ひとりだけ運良く避けたオークが吾輩に向かって吠えたが、遅い。

 尻尾をひと突きしてやった。尖端が的確に内臓を貫き、吾輩特製の毒が即座に回る。少し悶えてから死んだ。やはり効果抜群である。

 

 ──以上をもって、吾輩のリベンジは完了である。

 

 大満足。

 ついでに馬の死体もいただいて、さらにご機嫌である。戦利品というやつだ。人間どもも命は助けてやったのだから文句はあるまい。

 

 帰宅の途に着く吾輩、心はすっきり晴れやか。

 いや、オークなど雑魚だと証明できて誠に清々しい。

 

 

---

 

 

 

 命からがら街にたどり着いた商人は、傷だらけの状態で冒険者ギルドへ転がり込んだ。

 

「た、助かったんだ! 空から竜が……竜が助けてくれたんだ!」

 

 最初は誰も信じなかった。竜が人を助けるなどおとぎ話だ、と。

 だが商人が描いた姿形を聞いた瞬間、冒険者の一人が叫んだ。

 

「それ、魔女の家に居ついてる竜じゃないか!」

 

 事情を共有するうち、誰もが顔を青くした。魔女が飼っている?小竜が、オークと交戦して勝利した。それは良い。だが街の近くにまで行動範囲が拡大している。オークの移動に引っ張られているだけならば問題はないが、馬の味を覚えられて第二のオークになられては一大事である。

 

 魔女にも知らせねばなるまい。

 急ぎ、手紙を括りつけた伝書鳥が、森の奥にある彼女の家へと飛び立っていった。

 

 竜はその頃、のんびりと戦利品を抱えて寝床で眠るところである。

 己の功績が人間社会でどんな騒ぎを起こしているかなど、つゆほども知らずに。

 

 

 

ちなみに。

ギルドに転がり込んできた商人は、傷だらけではあったものの──背中にはパンパンに膨れ上がった袋を背負っていた。

 その姿は、とてもじゃないが「瀕死の被害者」には見えない。

 

 冒険者の一人が眉をひそめる。

 

「……おっさん、その袋にくくり付いてるの、オークの腕じゃねぇか?」

 

「ん? ああ、これか。いやほら、勿体ないだろ?

 素材は素材だ。腐る前に拾っとかんと」

 

 言うが早いか、商人は袋を床に置き、中から次々と“素材”を取り出し始めた。

 

折れた斧の刃

オークの牙

片方だけの手甲

そして問題の腕

 

 冒険者たちは呆れ顔になる。

 

「お前……死にかけてたんじゃねぇのか?」

 

「死ぬかと思ったよ! 本当に!

 だがな、荷馬車がメチャクチャになって、何も持って帰らんと損だろ?

 ちょうど竜がオークを潰した直後で、素材も散らばっとってな。これは拾うしかないと!」

 

 冒険者たちは顔を見合わせ、深いため息をつく。

 

「いや、図太いにもほどがあるだろ……」

「普通は逃げるんだよ、ああいう状況から」

「てかその袋、今にも破れそうなんだが……ギルドに持ち込むなよ……」

 

 しかし商人は全く気にしていない。

 

「これは竜の恵みさ! ほれ、ギルドで査定してくれ!」

 

 ──瀕死とは、いったい。

 

 




尻尾攻撃と体を使った突進…やっぱりどこかで見たことがあるような…?
それはそれとして最後まで読んでいただきありがとうございます。
評価感想よろしくお願いします。
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