という事で新作です。是非お楽しみください。
吾輩、大勝利である。
オークを潰し、馬と荷馬車の中身をひとかじり……いや、お礼をいただいて帰ってきたのだ。
ついでにはぐれオークも探し回って片っ端から始末してきた。
その後、川でしっかり洗い流して綺麗さっぱり。
うむ、リベンジとは実に素晴らしい行為である。
巣に戻ると、魔女殿が腕を組んで立っていた。
何やら、手紙を握りつぶしているではないか。
(まずい。これは“怒る前の魔女殿”である)
吾輩も愚かではない。
あの無言の圧力は、過去に幾度となく経験してきた危険信号だ。
よって即座に、腹ばいの姿勢で友好を示す。首も勿論地面に擦り付ける勢いだ、母上にこんな姿を見られたら果たしてどんな顔をされるであろうか。案外同意して仲間になってくれるかもしれない。それくらいには覇気のようなものが出ているのだ。
魔女殿はため息をつきながら吾輩をじっと見ている。
……その目線やめていただきたい。霜の魔力を飛ばす準備をするはもっとやめていただきたい。吾輩は本当に嫌いなのだ。
魔女殿は何やら言いたげな顔をしたが、ふいっと顔をそむけた。
どうやら諦めてくれたらしい。
その瞬間、吾輩は寝床にダッシュである。
いやあ、助かった。
寝床に転がりながら吾輩は考える。
オーク――もはや恐るるに足らず!
いや、むしろ先手を打って“こちらから”殺しに行くべきではなかろうか。
後顧の憂いを断つとは、まさにこういう時のための言葉である。
「絶滅危惧種」とやらは何であろうか?
よく分からぬが、吾輩の体を傷つけた阿呆どもに遠慮する必要はあるまい。
滅ぼすのだ、根絶やしに。
草の根分けて探し、洞窟の奥で震えている子供であっても引きずり出し、吾輩という恐怖を骨の髄まで刻みつけてやるのである。語り継げ、未来永劫とな!
さて、この壮大なる計画に相応しい名前は……何が良いであろうか。
“根絶やしの竜”…? うむ、悪くない。
ただし、作戦を実行するには腹が満ちておらねばならぬ。
よってまずは食事である。狩りの時間だ。
予定があるというのは実に良いことだ。
やる気が体中を駆け回り、燃えるようである。
だがこの熱も、今は静めねばならぬ。
寝るのだ。眠って体力を回復するのだ。
明日からは忙しくなるぞぉー。
竜は寝床へ転がり込むと、その巨体を丸めて、あっという間に静かな寝息を立て始めた。
満腹のときの竜は、とにかくよく眠る。……いや、普段からよく眠るのだが。
私は、握りつぶしたままの手紙を見下ろし、兵士達と顔を見合わせ深く息を吐いた。
怒りというより、呆れだ。
オークを狩り歩いたらしく、川で血を洗って帰ってきたことも、濡れて帰ってきたからわかる。そこまで高い知能で、あたしの前では叱られるのを察した子供のような態度なのだから竜とは分からないものだ。
「……まったく。言葉が通じないって、本当に厄介だな」
「いや、手紙に書いてあったことが本当ならもうちっと危機感があるべきじゃないのかのぉ…」
「そうだぜ魔女殿、俺達が何もしなかったら街に向かった時大惨事だ。まだ子供だが脅威になるには十分すぎる!」
「うるっさいねえ、あの子と長く過ごしたのはあたしさ。大人しく言うこと聞いときな、あんたらであの子を殺すってんなら好きにすればいいけどね。手伝わないよ」
竜は寝床の中で微妙に尻尾を振り、何かむにゃむにゃと鳴き声を漏らした。
内容は当然わからない。ただ、最近の調子からして――どうせ、ろくでもないことを考えている。
念のため魔力で体温を探る。興奮による微熱はあるが、傷はなさそうだ。
まあ、あれだけ暴れ回って無事なあたり、竜の頑丈さには改めて感心する。
「…どうにか止める羽目になるのかね」
「お師匠がそういうなら私は別に良いんだけどなー、あの子可愛いし!娘の前には連れていけないけど、今の所!」
「あんたは緊張感が足らないよ、黙ってな!…まったく、街の奴らも引きこもりの婆に無茶を言うもんだね」
独りごちつつ、私は手紙を机へ放り、寝息を立てる巨体に毛布代わりの結界をそっと張った。
どうせ本人は気付かない。けれど、いま怒っても伝わらないのだから――せめて眠るときくらいは、静かであれ、と。
竜はふにゃりと喉を鳴らし、さらに深く眠りへ沈んでいった。
次の話で吾輩君視点10話になります。ここまで読んでいただいた方々に感謝します。今日中に投稿できるよう考えておりますので少々お待ちください。
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