吾輩は竜である   作:金欠綱渡り

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バトル描写を拘ろうとしてるんですが…難しいですね、目が滑る!書いている方はイメージしているのを文字にするので楽しいんですが。
感想で良い悪い伝えていただけると嬉しいです。


11話  圧倒!

 む……むぅ……。

 

 まぶしい。

 目蓋の裏から光が差し込んでいる。

 

 吾輩は重たくなった尻尾を引きずりながら、のそりと頭をもたげた。

 寝床の藁が、昨日の大暴れと魔女殿の“鎮圧行為”でぐしゃぐしゃである。

 

 鼻を鳴らし、空気を吸い込む。

 

 ……あたり一面、静かだ。

 

 いつもなら朝に鳴く鳥の声があるはずなのだが、今日はほとんどしない。

 代わりに、森の奥から微かな焦げ臭い匂いと、皮膚がざわつくような魔力の波が漂っている。

 

(む……? 森がおかしい)

 

 吾輩は寝ぼけながらも鼻先を振って匂いを確かめた。

 吾輩より遥かに強く、どこか懐かしい――けれど胸がざわつく匂いが混じっている。

 

 ……母上の匂いに似ている。

 だが近くにはない。

 

 いや、むしろ近くにあれば吾輩は眠ってなどいない。

 母上がここに来るなら、地面が揺れ、木々が折れ、吾輩は飛び起きているはずだ。

 

 これはもっと……薄い。遠い。

 残り香のような……しかし嫌に強烈な。

 

(……よく分からん)

 

 吾輩は欠伸をし、翼を一度大きく広げる。

 ぱん、と骨が鳴った。よし、問題なし。

 飛ぶ準備も、尾を振り回す準備も完璧である。

 

 昨日より強くなっている気さえする。

 

 さて、と寝床から這い出した。

 

 すると魔女殿がこちらを睨んでいた。

 腕を組み、眉間に皺を寄せている。

 顔色はいつもより少し悪い。

 

 どうやら昨日の吾輩の大暴れは予想以上に疲れを与えたらしい。

 

 

 魔女殿は何か言いながら、吾輩の鱗を軽く叩いた。

 怒っているのか、心配しているのか、判断が難しい。

 

 そして、家の外を指差した。

 

 ――そこには、昨夜兵士からひったくったうさぎの“残り”が置かれていた。

 

(……朝食ということか?)

 

 吾輩は喉を鳴らし、うさぎを脚でつかんだ。

 腹は空っぽではないが、食べられるものは食べるのが竜の流儀である。

 

 

 

 

 

 魔女殿と兵士が森へ出て行ったのを横目で見送り、吾輩はひとつ大きく伸びをした。

 

「さて――暇だ。実に暇だ。暇というのは心身に良くない。うむ」

 

 周囲には昨夜の乱闘の名残が点々とし、折れた枝やえぐれた地面が口を開けている。

 その全てが吾輩の仕業だと思うと、背の毛がぞわりと逆立つ。成長とは嬉しいものである。

 

 竜の気配は、今も森の奥の奥で燻っている。

 まるで空気そのものが震えているような、胸の奥を爪でひっかくような、あの尋常ならざる威圧感。

 

「……行きたくないな」

 

 正直な本音が漏れた。

 あれに近寄るのは愚か者のやることだ。いや、愚か者でも途中で思い直すレベルかもしれん。火砕流に突貫するものなどいない。そういうものだ。

 

 危機感がしっかりしているのは生存力の証である。

 うむ、吾輩は決して臆したわけではない。学習能力が高いだけである。母上も褒めてくれるであろう。

 

 とんでもない気配を避けるように、吾輩は森の反対側へ向かう。

 

「まずは、オークだな」

 

 歩きながら鼻を鳴らす。昨日の戦いによって熱は抜け、冷静な思考が戻ってきていた。

 奴らは鈍いくせに繁殖力だけはある。草むらの向こう、倒木の陰など、好き放題に巣を作るものだから、油断ならん。

 

 魔女殿は人間の言葉で何やらを言っていたが、吾輩の目的は単純である。

 

「見つけて、叩いて、終わり。実にわかりやすい」

 

 耳を澄ますと、遠くから濁った唸り声のようなものが聞こえた。

 オーク特有の、喉の奥に泥を詰めたような低音。

 

「いたな。よしよし、ちょうど気晴らしが欲しかったところだ」

 

 吾輩は尾を揺らし、雲の影の中を滑るように進む。

 脅威を避けつつ、自分より弱い相手を狩る――これは合理的判断である。断じて小心ではない。うむ。

 

 そして、草むらをそっとかき分けた刹那。

 

 そこには、三匹のオークが背を向けて何やら言い争っていた。

 

「……よし。まずは一匹ずつ静かに、だ」

 

 吾輩は口の端を上げ、姿勢を低く落とした。

 

 ――獲物を狩る時間である。

 

 

 

 

 

 腹ごなしにちょうどいい。

 

 草むらを押しのけた瞬間、三匹のオークが槍や棍棒を手に警戒しているのが見えた。

 吾輩の姿を確認した瞬間、その顔が恐怖で歪む。

 

 当たり前だ。

 吾輩は――竜であるのだ。

 

「グルルル……」

 

 喉の奥で低く唸ると、オークたちはビクリと跳ねた。

 その隙に、吾輩は地を蹴った。

 

 踏み込み一つで地面が抉れ、吾輩の体が弾丸のように飛ぶ。

 オークの胸へ頭突き――竜種特有の頑丈な鱗で、肉を砕き骨を折る。

 

「グボッ!?」

 

 巨体が吹き飛び、木に叩きつけられて動かなくなる。

 

 まず一匹。

 

 残る二匹は恐怖よりも怒りが勝ったらしく、槍を同時に突き出してきた。

 

 だが、それは思い上がりである。

 竜たる吾輩には通じない。

 

 吾輩は翼を軽く広げ、僅かに浮力を得て横へ滑るように回避した。

 同時に尾を横薙ぎに叩きつけ――

 

 バキッ!

 

 槍ごとオークの体をへし折った。

 

「グオオオッ!」

 

 オークが悲鳴を上げて吹っ飛ぶ。

 吾輩は続けざまに足で踏みつけ、捻りを加える。

 

 メリッ。

 

 二匹目、沈黙。

 

 最後の一匹は逃げるどころか仲間を庇うように立ち塞がった。

 愚かだが……勇気だけは買ってやらんこともない。

 

 吾輩は鼻息を一つ漏らし、前脚を地に叩きつけた。

 

 ドンッ!

 

 その衝撃で地面が波のように揺れ、オークが膝を突く。

 

 その隙に吾輩は飛び立った。

 もう吾輩は油断はしない。

 気を抜いて痛い目を見るのは、もうごめんである。

 

 空中で体を丸め、急降下の姿勢に入る。

 吾輩とオークの視線が重なった。

 

 オークは勇敢にも槍を突き出した。

 

 だが――

 

 ドガァッ!

 

 衝突の瞬間、ボロ槍の穂先は吾輩の胸鱗に触れた途端、乾いた音を立てて粉砕された。

 砕け散った破片が空中に舞い、同時に吾輩の体重と速度がオークの胴を押し潰す。

 

「グギャ――ッ」

 

 悲鳴は途中で途切れ、巨体は地面へ押し込められ、土が爆ぜて盛り上がった。

 オークは二度と動かなかった。

 

「グルゥ……」

 

 吾輩は残心のように唸り、周囲を一瞥した。

 竜の気配はまだ森の奥にある。

 あれは明らかに“格が違う”。

 

 幼い吾輩でも、本能が警鐘を鳴らす。

 

「……近寄らぬが吉であるな、うむ」

 

 吾輩はそう思いながら、尻尾をゆらりと揺らし、オークの死体から離れた。

 

 

 

 吾輩は翼を広げ、森の上空を滑るように飛んでいた。

 

 風が心地よい――などという余裕はない。

 鼻の奥では血の匂いがまだ残り、胸の内側では戦いの熱がじりじりと燻っている。

 

(見つけたら落ちて、潰す。逃がさん。)

 

 それだけだ。

 それ以上の思考は必要ない。

 

 上空から森を覗き込む。

 動く影、複数。

 重い足音、獣臭、踏まれた枝の折れる音――

 

(居たな、オーク!)

 

 吾輩は翼をたたみ、急降下へ移った。

 

 ひゅうぅぅぅううう――!

 

 空気が吠える。

 体が矢のように落ちていく。

 

 地上のオークたちが気づいて顔を上げた瞬間――

 

 ドガァァッ!!

 

 吾輩のドラゴンダイブが直撃した。

 

 衝撃で大地がえぐれ、オーク数匹が原形を失いながら地面に散る。

 爆風のように舞い上がる土砂で周囲のオークがひるむ。

 

(次ッッ!!)

 

 吾輩は地面を蹴って跳躍。

 振り向きざまに尾を横薙ぎに振り抜いた。

 

 バシュッ!!

 

 樹をへし折る勢いの尾撃。

 オークの胴体が宙に浮き、両側へ弾け飛ぶ。

 

「グルルルル……ッ!」

 

 胸の奥から唸りが漏れる。

 だが吾輩は油断しない。

 

(生き残りが離れた。よし、上へ!)

 

 再び翼を広げ、一気に上昇。

 オークが反撃できる距離から離脱し、空から次の獲物を探す。

 

 視界の端で、逃げ惑う影が走る。

 逃げる? 良い。

 探す手間が省けるだけだ。

 

 吾輩は滑空しながら旋回し、狙いを定める。

 

(今度もまとめて、だ。)

 

 翼をたたみ、

 

 急降下――!

 

 落下の勢いのまま、地面スレスレで翼を広げて軌道を変え、横方向の遠心力を最大まで引き出す。

 

 そして尾を――

 

 薙ぎ払う!!

 

 肉が裂け、骨が砕け、二匹のオークが同時に吹き飛ぶ。

 片方は木に叩きつけられ、もう片方は地面を転がりながら沈黙する。

 

 吾輩は鼻息を荒くしながら周囲を見渡す。

 

(まだいるだろう……吾輩の心は満たされておらんぞ。)

 

 血の匂いが森へ広がり、戦意がまた沸き立つ。

 しかし、遠く――森の奥から、再びあの“格の違う竜の気配”が咎めるよう微かに響く。

 

 吾輩は思わず翼を震わせた。

 

(あれは……無理。あれは狩りではない。死ぬやつだ。)

 

 胸の奥の獣性が吠える一方で、背骨のあたりが冷えていく。

 

「……うむ、あれには近寄らん。」

 

 吾輩は低く唸りながら体勢を整え、空へ舞い上がった。

 そして再び、次のオークを探しに森の影へと目を向けるのだった。




はい、お母さんの苦労を全く察さずにビビりまくってる吾輩君でした。いつ気づくでしょうね、君の為なのに。
それはそれとして戦闘描写どうでしたか?評価感想お願いします。
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