吾輩は竜である   作:金欠綱渡り

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こっちの方が需要あるんだろうなとも思うので投稿します。
へっぽこ吾輩君です。


13話 死闘を超えて

 戦いの熱が、すぅっと引いていく。

 

 ……途端に、全身が悲鳴を上げ始めた。

 

 

 

 痛い。

 

 

 

 いや、痛いという言葉では足りぬ。

 傷口に、さっき自分で巻き上げた砂埃が容赦なく入り込み、ズキズキどころかジンジンと焼けるように疼く。

 尻尾も――ああ、尻尾も駄目だ。無理やり振り回したせいで傷口がぶり返し、動かすたびに星が飛ぶ。

 

 

 

「……ぐぇ……ぅッ……」

 

 

 

 そして口の中が。

 案の定、不味いでは済まない。

 さっき噛んだリーダーの肉の味がまだ舌の奥にこびりついている。

 

 吐きそう、という段階はとうに過ぎた。

 空吐きが止まらない。

 

「ゴェッ……ッ、おえッ……! なんで噛んだ……吾輩……なんで……!」

 

 

 

 後悔は無い――と言いたいが、嘘である。勢いで牙を使ったが、あれは衝動であり、決して舌が納得していない。

 胃も納得していない。

 鼻も納得していない。

 

 どこもかしこも抗議してくる。

 

 

 

 周囲を見れば、オークと吾輩の血が混じって真っ赤に染まった地面。

 その上でむせ返っている吾輩。

 威厳? 知らぬ。もう死んだ。

 

 

 

「い、痛……っ、くそ……!」

 

 

 

 翼を広げようとしたが、背中の筋肉が軋んで悲鳴を上げた。

 無理だ。飛べぬ。飛ぶ気力もない。

 

 

 

 よって徒歩。

 いや、ほぼ這いずるように。

 足から血をぼたぼた垂れ流しながら川へと向かうことにした。

 

 

 

 さっきまで咆哮し、空を裂き、敵を蹂躙した威厳ある吾輩?

 

 もう二度と戻ってこん。

 

 今ここにいるのは、ただ痛くて泣きたいだけの、可哀想な竜である。

 

 

 

「……川……川……! 水……!」

 

 

 

 必死のダッシュ。死にかけ野生動物みたいな動きになっても構わぬ。というか実質その通りである。

 痛いし苦しいし不味い。早く助かりたい一心で必死に体を動かした。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ようやく辿り着いた川へ、勢いのまま飛び込む。

 

 冷たい水が傷口に触れ――

 

「い゛だあああッ!?!?」

 

 

 

 しみる。恐ろしくしみる。全身が跳ねる。

 

 

 

 しかし、口はすすがねばならぬ。

 吾輩は川底に顔を突っ込み、ガバガバと水を飲み、吐き、また飲む。

 

「んぐっ、ぉえっ……まだ味残ってる……っ!」

 

 

 

 本気で泣ける。泣いた。

 

 

 

 水を飲んで、すすいで、頭まで浸かって、ようやく少しだけ落ち着く。

 

 

 

「……お腹……すいた……」

 

「……寝床……帰りたい……」

 

 

 

 しょんぼりと水の中で座り込む吾輩。

 

 戦場を焼き尽くす咆哮を上げた竜の帰り道は、

 涙目で傷を抱え、水をぽたぽた滴らせながらの情けない凱旋であった。

 

 

 川で全身を洗い流したが、痛みは消えぬ。

 翼を小さく震わせ、足から血を垂らしながら、なんとか寝床へと戻る。

 

 

 

 道すがら、思わず呻く。

 

「……ぐぅ……うぅ……痛い……」

 

 尾も翼も、腹も口の中も――全身が悲鳴を上げる。

 さっきまでの威厳ある竜の姿は、もう影も形もない。

 

 

 

 寝床にたどり着き、ゆっくりと体を横たえる。

 傷口を水で湿らせたのが逆にしみる。

 しかし眠らねば、もう力が残っていない。

 

 

 

 そして……ふと気づく。

 

「……ご飯……?」

 

 勝利の戦いを終えたあとに食べるような、ご馳走は……?

 

 何もない。

 

 

 

 溜息を吐き、目から涙がぽろりと落ちる。

 

「うぅ……うぇえ……腹……空いてる……」

 

 

 

 痛みと空腹とで、全身が震える。

 しかし、もう動けぬ。泣きながらも、仕方なく空きっ腹を抱え込み、体を丸めて眠る。

 

 

 

 血まみれで、傷だらけで、泣き顔で。

 けれど、戦いを生き抜いた証――それだけが、かすかに胸を支えていた。

 

 

 

 こうして、吾輩の長く、痛く、悲しい一日は終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 血まみれで、痛みに耐えながら丸くなって眠った吾輩。

 どれほど眠っただろうか。

 薄く目を開けると、朝の光がじんわり差し込んでいた。

 

 

 

 ――そして、空腹が襲ってきた。

 

「……はら……へった……」

 

 腹の奥がきゅるきゅる鳴る。

 涙が浮かぶ。

 痛いし寒いし腹が減っているし、気力なんてとっくに尽きている。

 

 

 

 そして思い出した。

 

 そういえば昨日の朝――ウキウキで全部食べた。

 

 狩った肉も、魔女殿から渡されたうさぎも全部だ。

「今日は狩り日和だな! いっぱい倒して、いっぱい食べるぞ!」

 などと、調子に乗って。

 

 

 

 今の吾輩は、その昨日の自分に言いたい。

 

「……あの時の吾輩……馬鹿か……?

 なんで全部食うんだよ……あれ残ってりゃ今……ぐぅぅ……!」

 

 怒りとも情けなさともつかぬ鳴き声が漏れる。

 

 

 

 腹は空っぽ。

 体は傷だらけ。

 勝利のご飯もない。

 昨日の自分は満腹でご機嫌だった。今はそのツケを払って泣いている。

 

 

 

 胸を押さえて丸まりながら、吾輩はシクシクと鼻を鳴らした。

 

「うぅ……あの時の吾輩め……今ここにいたら噛む……噛みつく……!」

 

 でも、その牙も今は痛くて使いたくない。

 

 

 

 そんな情けない気分のまま、竜の朝は始まった。




ありがとうございました、私は可愛い吾輩君が書けて満足したので寝ます。いい夢見れそうです。
評価感想よろしくお願いします。
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