吾輩は竜である   作:金欠綱渡り

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吾輩君視点半分、魔女殿視点半分です!
お待たせしました、一筋縄でいかない領主を考えるだけでこんなに時間がかかるか時間取られすぎだろと自分に呆れる気持ちで一杯です。
なるべくチェックもしましたので違和感は無いはず!お楽しみください


15話 領主の舌

 鱗を持ち帰ったあの日以来、魔女殿の家に仮住まいしていた兵士たちが、きれいさっぱり消えた。

 教材がいなくなったのは残念である。

 

 従って、たまにもらえていたおやつもなくなった。実に残念。

 吾輩、深刻な問題を感じている。

 ――自給自足、つまり狩り。面倒である。いい加減魚以外も食べたいところではあるのだが、中々体が動かないものだ。

 

 そのうえ魔女殿は、吾輩の体を再び調べ始めた。

 首元に妙な敷物を巻き付けたり、傷の具合を診るついでに尻尾から毒を採ったり。

 魔女という生き物は「ついで」という言葉を都合よく使いすぎではないか。

 

 だが、良いこともある。

 吾輩、ようやく飛べるようになってきた!

 

 これはめでたい。

 めでたくて喉が鳴るほどである。

 全快ではないとはいえ、回復速度はすこぶる良好。

 吾輩の天賦の才であろう。

 

 魔女殿が吾輩の翼をじっと見て、何やら考え込んでいたが……

 あれは褒め言葉の準備だと信じたいものだ。

 

 

 

 

 

 魔女殿に鞍や縄を付けられた。

 いや、空を飛びたいという気持ちは分かるのだ。吾輩とて風を切って進むのは好きである。

 だがしかし――頼み方というものがあるではないか。

 まったく酷いことをするものだ。竜を従えたつもりでいるのだろうか。

 

 飛ぶならさっさとしてくれと魔女殿を見下ろしてやると、

 ……ん?

 なんだその手に持っているものは。

 

 口輪である。

 

 ――いや、待て。吾輩は犬ではない。

 いや犬でもこれは怒るだろう。

 そもそも誇り高き竜に口輪とは何事か。

 

 当然、吾輩はプライドを守るため抵抗した。

 口を固く閉じ、頭を振り、後ずさりし、全力で「それだけは嫌だ」という意思を示したのだ。

 

 すると魔女殿、

 涼しい顔で 霜 を飛ばしてよこした。

 

 首元から背の方へ霜が走り、吾輩は思わず 情けない声で“ヒィン……” と鳴いてしまった。

 寒いし、びっくりするのだ。そういうのは心臓に悪い。

 

 ……結果、吾輩はしょんぼりと大人しく、

 口輪までされる羽目になってしまった。

 

 なんという屈辱。

 

 

 

 空へ舞い上がると、やはり気持ちがよい。

 だが、口輪というものは思った以上に喉が渇くものだ。

 風が口の端から入り、魔女殿の鞍はカラカラとうっとおしく、縄はちょっとかゆい。

 

 モゴモゴ……モゴ……

(外したい、でも霜飛ばされるのは嫌だ)

 

 そんなことを思っていると、

 不意に――

 

 くしゃみが込み上げてきた。

 

 やばい、来るぞ。あれだ。大きいやつだ。

 堪えられない、吾輩我慢が苦手なのだ。

 

「……っぶしゅぁあ!!」

 

 次の瞬間、

 火炎混じりのくしゃみが口輪を一瞬で焼き尽くした。

 

 ぱあん、と軽い音がして、金具が空中に散った。

 

 ……。

 

 背中で、魔女殿が無言で硬直しているのがわかる。

 冷気がゆっくりと溜まりはじめた気がする。

 

 や、やばい。

 

 怒らないでほしい……。

 

 吾輩、わざとではないのだ。ほんとうに。

 

 

 

 

 

 空の上で口輪を燃やしてしまった吾輩は、背中で沈黙している魔女殿が怖くてたまらぬまま飛び続けていた。

 怒っているのかと思いきや、まったく喋らない。寒いし、怖いし、口は乾くし、散々である。

 

 やがて街が見えてきたところで、魔女殿がぽつりと何やら呟いた——と思ったら、縄で体の向きをを変えてきた。

 あそこへ降りろ、ということであろう。声を出してくれればよいものを。

 

 仕方なく降り立てば、何やら兵士たちが集まっているようである。皆がこちらを凝視し武器を構えているではないか。

 こんな所にいるのは我ながら、場違いにもほどがある。喧嘩を売りに来たつもりはないのだが。

 

 と、その瞬間——

 鞍から降りた魔女殿がローブの袖から手ををひらりと振った。

 

 ずるりっ。

 

 足元から蔓が伸び、吾輩の口をぐいっと締め上げた。

 

 

 

 お、おい! 口輪よりひどいではないか!

 口を縛るとは卑怯千万、魔女殿の手にかかったら犬も竜も同じ扱いである。

 これを見た兵士たちは更に騒ぎだし、槍を構える者、腰を抜かす者、涙目になる者までいる。うむうむ、竜への恐れがしっかりあっていいことだ。

 

 が、吾輩は魔女殿が怖いので大人しくしておる。威厳、保たれると良いのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あたしの魔法を受け、素直に蔓で口を縛られたのを見て、兵士たちは武器をおろしざわつき始めた。

 まあ、霜を嫌がって大人しくしてるだけなのだけれど——それをわざわざ説明する必要もない。

 

 そこへ、老いぼれ領主殿が訓練場へやってきた。

 平静を装っているつもりなのだろうけど、靴が部屋履きのまんまじゃないか。

 よほど焦って飛び出してきたんだろうねぇ。

 

「ふうむ……せめて事前連絡をしてからにしていただいても?」

 

 強がっているけれど、竜から目が離せていない。

 いやぁ、実に愉快だ。

 

 あたしは肩をすくめ、軽く笑って見せてやった。

 

「やあ領主殿。約束通り、街に害はないって証明しに来たよ?」

 

 深い溜息をついて、頭を抱えた。

 予想外過ぎて段取りが一気に狂ったんだろうね。

 

「お願いですから……予定が狂うので……事前に……」

 

 周りに聞こえないように呟いてる苦情は聞こえるけれど、聞くだけ聞いて流せばいい。

 あたしとしては、この子の顔見せに来ただけで、段取りなんてどうでも良い。

 鼻を明かしてやれただけ満足だ。

 

 近くの兵士に言って肉を持って来させる。

 口の前に置いてから、蔓を少しだけ緩めてやった。

 

 ぱくり。

 

 うちの子はおとなしく食べ始める。うんうん、察しが良くて助かるよ。

 

 兵士たちは息を呑んだようだ、計画通り。

 

「た、食べた……」

「え、こんなふうに……躾けられるものなのか……?」

「あれ、完全に従ってるよな……?」

 

 本当は“従っている”んじゃなくて“怖がっている”だけ。

 でも、説明せんでも誤解してくれるならそれでいい。

 あたしの手間が省ける。

 

 そんな中、大盾を背負ったあいつが駆け込んできた。

 

「ま、いやおいッ! どういう状況で……!?」

 

 あたしは手をひらひら振りながら軽い調子で言ってやった。

 

「ほら見てみな。静かなもんだろう?」

 

 鞍に乗り込めば口を縛られ直しても身を縮め、小さくなっている。

 ……まあ、早く帰りたいってところだろうね。

 

 可哀想だけれど、街に無用な恐怖を広めないためにはこれが一番早い。

 領主にだけ無害を証明したって噂話は止められない。

 ならば——噂をこちらからコントロールしてやろうじゃないか。

 

 周りはあたしと領主のやり取りを見て好き勝手騒いでるが、いい加減この子が暴れると思う者はもう居ないだろう。

 口を縛られてモゴモゴ文句を言っている姿を見てビビるようなら、兵士なんて務まらない。

 

 ——やれやれ。

 これで済むなら、最初からこうしておけば楽だったかね。

 そう思った矢先、老いぼれがゆっくりと息を整えながら近づいてきた。

 最初は慌てていたくせに、表情はもうすっかり平静を取り戻している。

 焦りの匂いはするのに、それを一滴たりとも表にこぼさない──あの老獪さは相変わらずだ。

 

「ふむ……見事に大人しくしていますな」

 

 今は蔓でぐいっと口を閉じられ、

「ふんむぅ……」と情けない声で文句を言っている。とはいえ軽く尻尾をぶつけられるだけで死ぬだろうに、よく近寄ろうとするもんだね。

 

 竜から目を離さず、だが怯えも恐れも見せない声色。

 周囲の兵を安心させるための“演技”が半分、

 あたしを観察して探りを入れる“本音”が半分、といった顔だ。

 

「それにしても……」

 

 領主殿は更に一歩、二歩と竜へと近づく。

 周囲の兵が慌てて止めようとするが、手で制した。

 

「この状況で暴れぬとは。なるほど──

 “魔女殿の管理下にある竜”という話は、あながち間違いではなさそうだ」

 

「まあね。街に害はないって、分かりやすく証明してやっただろ?」

 

 肩をすくめて答えてやると、領主殿はわずかに口元を緩めた。

 

「……確かに。これを見てなお竜が脅威だと言う者は、今ここにおりますまい。

 ただ──」

 

 ただ?

 

 その先を促すと、あたしにだけ分かるよう領主殿は少しだけ笑ってみせる。

 

「“竜が従う魔女”のほうが、よほど脅威だと噂されるやもしれませんな」

 

 おっと。

 その切り返し、嫌いじゃない。

 

「安心しなよ。竜を従えてるつもりはないよ。あたしの魔法を嫌がってるだけさ」

 

「でしょうな。……ですが世間は都合よく解釈しますからなぁ。

 魔女殿の実力を知る者でなくとも、今日の話を聞けば——

 あなたを怒らせたくない、と自然に思うでしょう」

 

 言いながら、領主殿はゆっくりと周囲の兵士へ視線を流す。

 兵たちは竜よりあたしを警戒し、誰もが一歩だけ距離を取っていた。

 

 なるほどねぇ。竜も従える強い魔女のほうが今となっちゃ恐怖の対象か。上手くやるもんだ。

 

 それを見て、領主殿は満足そうに軽く頷いた。

 

「兵たちよ、安心したまえ。

 この竜は《魔女殿がきちんと制御している》。魔女殿もそれを証明しに来ただけだ」

 

 ……あたしはそこまで言ってないけどねぇ?

 だが、兵士たちはその言葉に安堵し、ざわつきが収まっていく。

 

「街の安全は保証された。こちらとしてはそれで十分です。

 ……魔女殿が“味方”でいてくだされば、ですが」

 

 これは牽制だ。

 でも同時に、上手に距離を詰めてくる交渉でもある。

 

 本当にこの老いぼれ、油断がならない。

 

「あたしに迷惑をかけなきゃぁ、味方でいてあげるよ」

 

「それは何よりです。……安心しましたよ。ええ、本当に」

 

 

 頭を回し、状況を読み、こちらの出方を量っている。

 ──やっぱり、この男は食えないねぇ。

 

 

「あたしはそこまで考えてないけどね?」

 

「ですが“考えておいた方が良い”ですよ?」

 

 丸め込んだのを誇りもしないやり手の顔だ。

 この領主殿、竜を利用しようとはしないが、

 “竜の存在をどう街に還元するか”をきっちり計算している。

 

「それで? 本題は?」

 

 あたしが促すと、領主殿はようやく竜から視線を外し、こちらを向いた。

 

「竜は街に害を及ぼさない──それは十分に理解しました。

 ならば次は、街の人々にも“そう見せる”必要がある。

 魔女殿、あなたの協力を願いたい」

 

「協力って、何を?」

 

「簡単なことです。

 竜を“見せたいときにだけ”見せていただく。

 人々の恐怖を薄め、慣れさせるために」

 

 なるほどねぇ。

 思った以上に、この老いぼれはずっと先を見ている。

 

「……まあ、この子の機嫌次第だけどね?」

 

 そう言うと、領主殿は満足げに微笑んだ。

 

「もちろんですとも。ご機嫌を最優先すべきですからな」

 

 ……こいつ、上手く言うもんだね。やんわり竜と言わずあたしの機嫌優先しているように言いやがった。

 

 

「ま、それでいいよ。今日は帰る」

 

「ええ、ありがとうございました。お気をつけて」

 

 

合図をして蔦を解けば、待ってましたと飛び立った。もうちっと威厳を保てないものかね。




ありがとうございました!
魔女殿と吾輩以外のキャラクターの名前やキャラを強調するか悩み中です、これはこれで楽しいですね!次回もお楽しみに!
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