吾輩は竜である   作:金欠綱渡り

23 / 24
キャラの説明って難しいですね。魔女殿くーっそ強いから敵が来て活躍!とか中々やらないですし。
それはそれとしてどこかで活躍もさせたい!
是非今回もお楽しみください


18話 ジジイの説明回

 庭の掃除を終え家に戻ると、

 私が食べるはずだった朝食が――

 すでに老エルフの口の中へと消えていた。

 

 白衣は血飛沫でまだら模様。

 ベルトに吊り下げた器具は竜の唾液でべたべただ。

 それでも当人は、礼儀正しい笑顔を作る努力だけは忘れていないらしい。

 ドアを開けた私には、いい笑顔を向けている。

 

 彼は「いただきます」と言う代わりに、

 獣のような勢いで肉をガツガツ噛み千切っていた。

 

 私は腕を組み、しばらくその光景を眺めてから、

 深いため息とともに口を開く。

 

「……で?  いつか来るとは思ってたけど、

 庭をあんな惨状にした言い訳は?」

 

 老エルフはもぐもぐと咀嚼を続けながら、

 ペラペラと軽い言葉を投げつけてくる。

 

「いやぁ、すまんすまん。

 ちょっとサンプルを見たらな、足が勝手に動いてしまってな。

 うっかり噛まれてしまった。あははは!」

 

 笑いながら言う内容ではない。

 

 思わず眉を寄せる。

 

「あんたねぇ……

 竜に丸呑みされて笑ってる医者なんて、この世界に一人しかいないよ」

 

「光栄だ。

 しかしあの子、噛む加減が良くてな?

 ああ、いや、違う違う、研究者としての比喩だよ、比喩!」

 

「フォローになってない」

 

 彼は、まだ減らぬ食欲で皿を漁りながら続ける。

 

「竜の体組織は希少だ。

 王都のドラゴンライダーはさっぱり触らせてくれんかったし、野生種となればなおのこと貴重。

 君の家に竜がいると聞きつけたら――そりゃ来るだろう?」

 

「来てもいいけど、わざと噛まれて血まみれになるのはやめてくれない?」

 

「いやぁ、あれはちょっと興奮してな。

 ほら、口の中に入ることなんて中々出来んだろう?

 あれを見逃す手は――」

 

 あたしははテーブルを軽く叩いた。

 

「サンプル確保の為に臓物まき散らす医者なんていないのよ、普通は」

 

 老エルフは礼儀正しい笑みを崩さず、

 しかし目だけは研究者特有のギラつきを帯びたまま、軽く肩をすくめた。

 

「食われたというより、等価交換をしてやったとも言えるがな。

 しかし……いやぁ、実に良い竜だ。

 火を吐いて塵も残らないと、サンプルを確保できんから助かる。しかもしっかり味わってくれるからゆっくり調べられた。

 今度こそ、もう少し丁寧に――」

 

「次もなにも、逃げられるんじゃない?」

 

「それは困る。

 私は死にたくないからな!」

 

 そう言いながらも、

 “また噛まれるくらいはいい” という顔で笑っているのだから救いようがない。

 

 私は頭を押さえ、深いため息をついた。

 

「……あの子の機嫌をとるの、あたしなんだからね。

 本当に勘弁してよ」

 

「すまんすまん。

 礼として、君の庭の血痕を全部きれいにしてやる。

 ついでに王都から届いた資料とかも――」

 

「まず全身洗ってきて。

 その前に床を血で汚すな」

 

「承知した!」

 

 どこまでも礼儀正しいくせに、

 どこまでも狂っている老人。

 

 私は皿を一つ片付けながら、

「あの子、当分この家に戻ってこないだろうな」と苦笑した。

 

 

 

 

 あの老人――町では立派な“先生”と呼ばれているけれど、

 あたしからすれば “逃亡医” のほうがしっくり来る。

 

 今は街の外れで診療所を構え、

 入口にはやたら目立つ十字の印を掲げている。

 あれは古代の治癒印らしいけど……どう見てもただの飾りだ。

 遠くからでも「あそこが診療所ね」と分かるから便利だけど。

 

 もともとは王都で名を馳せた医師で、

 治癒魔法と医術の腕は本物。

 何度か研究の質問を受けたりサンプルとして追っかけ回されたりしたことがある。貴族の依頼を受けてあちこち飛び回っていたおかげであたしが逃げる時間があったのは幸運だったね。

 

 ただ、あいつが王都を飛び出した理由が問題だ。

 酒場で聞いた話曰く――

「金は貰えるが、人間の身体なんぞもう飽きた。  サンプルとしての伸びしろが無い」

 だそうだ。

 

 医者が言う台詞じゃない。

 

 そしてそのまま貴族の依頼も地位も全部放り捨てて、

 “モンスターのサンプルが多そうな田舎”を目指して逃げてきた。

 彼の言い分では「研究の最適化」らしいが、

 私から見れば逃走劇以外の何物でもなかった。

 

 種族はエルフで、見た目は上品な老人。

 礼儀正しく、柔らかい笑顔も作れるが……

 目が常にギラついている。

 あれが本性だ。

 

 性格は丁寧で優しいようでいて、

 興味のない相手の診察はさっさと終わらせるし、

 逆に興味を持ったら命よりサンプル確保を優先する。

 

 扱いづらいが、悪人ではない。

 ただの研究狂だ。自分が珍しいサンプルになるなら逃げた方が良いだろうけどね。

 

 治癒関係の専門家で、

 回復・止血・縫合・治療魔法なんでもこなす。

 戦闘は苦手で、自分が傷つくのを何より嫌うくせに、

 好奇心のためなら魔物の巣にも平気で首を突っ込む。

 矛盾しているが、彼らしい。

 

 ……まあ、彼が森に現れた時点で、

 庭が血まみれになるのは覚悟していた。

 未知のサンプルに飢えたあの老人を止められる者なんて、

 更に珍しいサンプルくらいなんだから。

 

 




感想評価是非お願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。