がネタが思いついたので復活です。次回から吾輩君視点に戻ります。
水気を払って家へ戻ってきた老人に、あたしは片肘つきながら声を投げた。
「で、話は前から聞いてたのに今来たってことは何かあったってことだろ?
さっさと言いな」
老人は濡れた髪を拭きながら、いつもの間延びした笑みを浮かべる。
「いやあ賢い人相手は助かるね。いちいち説明しなくていい!
――けど君はもう賢いとは言えないかもしれないな。鱗、売っただろ?
私がいる街でだ。やってしまったね?」
あたしは鼻で笑った。
「貴族が目をつけてる街だから“おいた”扱いだって?
なんであいつらに気を遣ってやらなきゃいかんのさ。知ったこっちゃないよ」
「まあね。私も竜のサンプルは欲しいから知らせに来たが……
王都から私を追ってきていた連中は大体片付けたと思ってたのに。まだまだ来るぞ。」
「うへえ、冗談だろ……」
「この街にも何やらきな臭いしな。面倒だよ、人というものは」
老人が肩をすくめるものだから、つい毒を返す。
「エルフはのほほんとしすぎなのよ。寿命にかまけて植物みたいな生き方して、
生きたままあたしの養分にでもなればいいんだ」
「これは手厳しい」
軽口を叩いたところで――
ガサガサガサッ。
家の外で何かが擦れる音が一斉に走る。
「……おやおや。連れてきたってのかい? やってくれたね」
窓の外を覗けば、荒くれ者どもが十数人。
松明と武器を構え、あたしたちを囲むつもりらしい。
見るからに金で動く連中で、顔が血の臭いでできてるような連中ばかり。
武器を掲げながら怒号を上げ、ドアを蹴破る気満々で――
が、勘の良いやつが妙な気配を感じたのか、背後を振り返った。
ずんッ……!
森に溶け込んでいた“巨大な影”がぬっと姿を現す。
木の幹と根が絡み合って形づくった、森そのものが実ったかのような木製の巨人。
荒くれが息を呑むより速く、巨人の拳がぶん殴りにいった。
ドゴォォッ!!
人が宙を舞い、木に叩きつけられ、骨が砕けたような音がした。
他の連中が悲鳴を上げ武器を構えるが、本気で抵抗するほどの度胸はなかったようで、動きが遅い。
木製の腕が大地を薙ぎ払い、地面ごと数人を巻き上げて転がす。
土が跳ね、枝が裂け、血が飛ぶ。
松明を持った一人が恐怖で振り回し、巨人の腕に火をつけた。
だが――燃えない。
いや、燃えるには燃えるが、
“水をたっぷり吸った木”は火勢を飲み込みながら突進してくる。
燃えながら。
黒煙をまき散らしながら。
ぐらぐらと揺れる炎を纏い、そのまま悪党たちの真ん中へ飛び込んだ。
人の悲鳴と武器の金属音が重なり、
木の巨体が踏み潰す度に、鈍い破砕音が闇に響く。
槍が折れ、斧が砕け、盾は木っ端みじん。
逃げようとする奴ほど狙いやすいとばかりに、
根が伸びて脚を絡め取り、容赦なく叩きつける。
燃えた木片がちらつき、あたりは火の粉だらけだ。
森の湿気が濃いせいで延焼しないのが唯一の救いか。
あたしと老人は窓越しに眺めていた。
「いやあ、流石だね。ドライアドは鈍りとは縁遠い」
「当たり前さ。手足の動かし方なんて忘れなくなる方がおかしいってもんよ」
「んまあ、それはそうかな、……?」
しばらくすれば、悲鳴も、武器が砕ける音も、
何もかもがすっと静かになった。
外には、倒れた荒くれ者たちと、
燃えた木片をゆらゆら揺らす巨人の影が残るだけだった。
外がすっかり静かになった頃、巨人はゆっくりと腕を下ろし、燃え残った枝をぱちぱちと落としながら身じろぎした。
あたしは窓から顔だけ出して軽く合図を送る。
「そこのゴミ、まとめて片付けといて。あたしの庭に置いとく物じゃないしね」
巨人は首をコトリと傾け――そのまま動き出した。
根が地面を這い、倒れた荒くれ者たちを器用にかき集めていく。
ぐったりした腕や足が枝に引っ掛かり、ずるずると引きずられる音が夜に響く。
老人が感心したように頷いた。
「いやあ、手際がいいねえ。あんなに大きいのに細かい作業ができるとは」
「慣れてるのよ。あの子、あたしの掃除を手伝うのが好きだから」
「人間の掃除もするんだね?」
「雑草と同じ扱いよ」
巨人は、荒くれ者たちの武器――
折れた槍、血のついた斧、刃こぼれした剣――をひとまとめに抱え込むと、
そのまま街の方へゆっくり歩き出した。
ずしん、ずしん、と地面が揺れ、
重さで草の露が跳ね、木々がざわめく。
あたしは室内の椅子に座り直し、腕を組んで眺める。
「さて……あの子、街まで持っていくつもりね。
門の前にぶちまけて、誰かが見つけるようにする気だわ」
老人はくすりと笑った。
「衛兵は大変だね、本当に。」
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