吾輩は竜である   作:金欠綱渡り

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読んでいただきありがとうございます。どれくらいのペースで成長させるか悩み中です。今のイメージは2メートル程なので、どこまで大きくするかも楽しみの一つです。



4話 人と川

吾輩は竜である。やはり名前はない。

 

体が大きくなってから、魔女殿の家に近づいただけで鼻先に霜を降らしてくるようになった。吾輩はあれを食らうだけで、驚いて逆らう気力を無くしてしまうのだ。

魔女殿はどうにも、あの毒薬とやらを作って以来、吾輩の体にご執心らしい。

 

いつもなら兎しか狩らぬくせに、最近は妙に張り切って猪や山鳥など、やたら大きい獲物を抱えて帰ってくる。そして、それを吾輩の足元へぽすんと置き、吾輩がむしゃむしゃ食べている間

落ちている鱗を拾い集めたり、尻尾の先をつついてみたり、喉の奥へ顔を突っ込まんばかりの勢いで覗きこんだりと、なかなか落ち着かぬ。

 

竜というものは大らかであるから、多少のことには目をつむるが――

さすがに喉の奥を覗かれるのは、少々むずむずするのであった。

 

 

そんな調子で幾日か過ぎたある日のこと。

 

最近姿を見せなかった魔女殿が、珍しく上機嫌でやってきた。口をもごもごと動かしながら、何やら袋をひょいと投げよこす。

 

受け取ってみると、中には魚がぎっしり入っている。

 

母上が食べる物を用意してくれていた頃以来の魚である。吾輩は「おお」と感心し、そのまま頭からざくざくといただいた。

水の匂いのする食い物も、たまには悪くない。

 

魔女殿はもっと嬉しそうに目を細め、満足げに引っ込んでいった。

その少し後、魔女殿の家の周りや、周囲の木に吾輩の鱗が吊るされるようになった。縄張りを示す手段としてそれがあったかと尾を打ったものである。

 

 

さて、別の日のことである。

 

吾輩が狩りを終え、鹿をぶら下げたまま戻ってくると、魔女殿の家のあたりに金属臭い男どもが屯していた。槍や弓を携え、鎧を着込み、いかにも兵というやつらである。

 

吾輩が上空から降り立つやいなや、男どもは一斉に目をむき、慌てふためきながら武器をこちらへ向けてきた。

中には恐怖で手が震えている者もいる。吾輩は少し得意になった。

 

魔女殿が慌てて何事か叫んで制止したようで、攻撃は数本の矢だけで済んだ。

もちろん鱗に当たったところで、かしゃり、と硬い音を立てて跳ね落ちるばかり。痛くも痒くもない。矢のほうが気の毒である。

 

そもそも吾輩としては、硬い肉など食べとうない。

血の味が濃すぎて、どうにも胃にこたえる。

 

吾輩は鹿を咥えたまま木陰へ戻り、のそりと横になって食事を始めた。

男たちの喧騒がどうなろうとも、竜は竜である。

食べ終えれば、そのまま草山に身を沈め、惰眠をむさぼった。

騒がしい連中が来ようと、吾輩の眠りを妨げるほどの胆力を持つ者は、まだこの地にはおらぬようだ。

 

 

 

吾輩は竜である。相も変わらず名前はない。

 

過ごしやすい季節が過ぎ、空気がじりじりと熱気を帯び始めた頃である。

魔女殿が長い縄を持ち出し、吾輩の首にくくりつけた。

 

とはいえ、この図体である。

その程度で締まるような育ち方はしておらぬから、最初は特に気にも留めなかった。

 

ところが魔女殿、急にグイグイと引っ張り始めた。

老婆の力など、涼しい風に当たるほどにも感じぬが、こうも続くとさすがにうっとおしい。

 

首を振ってふりほどこうとした、その瞬間――

すかさず霜が飛んできた。吾輩はたまらず動きを止めた。

 

仕方なく、魔女殿の我儘に付き合うことにしたのである。

 

 

立ち上がった吾輩の首に、魔女殿がひょいと跨った。

座り心地が悪かったのであろうか、吾輩の鱗をぺちぺちと叩いたのち、一度家へ引っ込んだ。

 

そして持ち出してきたのが、鹿か何かの皮であった。

それを吾輩の首に敷くと、満足げに腰を下ろした。

 

暑い季節だというのに、よりによって毛皮である。

吾輩は鼻先に霜を降ろされたくないので、抗議もできず困り果てた。

 

しかし魔女殿は、やはり賢い。

 

吾輩の足元に霜をぱらりと降らせ、行くべき方向を指したのだ。

なんたる横暴。

首をひと振りすれば、魔女殿などごろりと落ちる身であることを思い出させてやろう――と考えた瞬間、鼻に霜が飛んだ。

 

お見通しというわけである。

 

 

歩かされるまま向かった先は、大きな川であった。

 

魔女殿が吾輩の首から降りたのを確認すると、吾輩はすぐさま川に飛び込んだ。

ここは吾輩お気に入りの場所である。

獲物となる鹿も水を飲みに来るし、涼しいし、飲む・食う・寝るがすべて出来る、素晴らしい川なのだ。

 

吾輩が喜び勇んで涼んでいると、魔女殿が縄を再びグイグイと引いた。

顔だけを水上に出して見ると、なんと吾輩の尻尾に縄の端を結びつけてしまっている。

 

そのせいで、川の流れがせき止められてしまった。

 

これは妙だな……と思っていると、驚いたことに、流れの止まった場所へいつもは吾輩の影だけで逃げてしまう魚が次々と入り込んでくるではないか。

 

吾輩はこれ幸いとぱくぱく食べ、横では魔女殿も火を起こして何匹か焼いて食べていた。

 

言うまでもないが、帰りもまるで同じ仕掛けをされた。

まったく、あの老婆は実に用意周到である。

 




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