是非楽しんでいってください。
吾輩、怪我が癒えるまでの暇つぶしに、戦い方というものを増やしてみる事にした。
そもそも今までの吾輩は、尻尾を振り回し、寄ってくる敵をまとめて薙ぎ払うか、あるいは鹿などを獲物として追い、がぶりと咥えるだけであった。
要するに、戦いらしい戦いをした試しがない。
経験がないのだから、不意をつかれたのもある意味当然である。あの時の吾輩を責めることなどできぬ。
さて、戦い方を増やすと言っても、今吾輩が使えそうな武器といえば――足の爪、翼、尻尾、そして口であろう。
しかしながら、口は論外である。
オークなどという不潔な肉塊を誤って噛みつこうものなら、不味くて不味くて戦いどころではなかろう。あれほど食欲を削ぐ物質も珍しい。
そうなると爪であるが、飛びながらニ脚の爪を振るうとしても数多のオークを斬って回るのは骨が折れよう。逃げ回られでもしたら飽きてしまいそうだ。
ううむ、アイデアが……アイデアが欲しいのである。
いつも狩る鹿などは立派な角を持つが、残念ながら吾輩には角らしい角はない。
鱗もそれなりに硬くはあるが、ぶつかるだけでオークを屠るほどの代物かと問われれば心許ない。
翼も一応棘がついているし振り回すことは可能であるが翼膜を破られれば飛ぶこともままならず、これはいよいよ致命的である。
魔女殿のように氷や炎を自在に出せれば話は早いのだが、生憎吾輩はそういう芸当ができる気配がない。
あれは彼女が年季と根性で得た技術であって、吾輩にぽんと出せるものではなかろう。
かくして吾輩、手詰まりである。
あれやこれやと考えるうちに、思いつくものは何一つなく、尻尾の傷をぺろぺろ舐めているうちに眠気が襲ってきた。
そして吾輩は、そのまま寝てしまったのである。
戦いの工夫は……明日の吾輩に期待しよう。
かくして傷を治すためゴロゴロと惰眠を貪る吾輩の住処に、以前吾輩に失礼をかました兵士達がやってきた。
矢を鱗に弾かれただけで狼狽える弱い者達に、何が出来るというのであろうか。
吾輩、オークの方がよっぽど怖い。
魔女殿が歓迎しているようで、不思議な香りのする飲み物を振る舞っている。
彼らはとても嬉しそうにしているので、美味いのだろう。
そんなこんなしているうち、吾輩ひとつ閃いたのである。
兵士達がここで暫く過ごすならば、彼らを見ていれば何かアイデアが浮かぶやもしれぬ。
彼らは魔女殿の家で寝泊まりこそできるであろうが、一気に増えた者たちを養うほどの備蓄はあるまい。
となれば、彼らは自らの力で獲物を捕らえ、食料とせねばならない。
この森のものどもは吾輩のような竜ならば簡単に殺せるものばかりであるが、人間にとってはそうもいくまい。
――お手並み拝見といこう。
そう思って吾輩、空から森に入る彼らを眺めているのである。
彼らは同じタイミングで飛び立った吾輩を意識してしまい、落ち着かない様子ではある。
が、今吾輩がいるのは彼等の遥か上。
獲物を探す時の高度である。
羽ばたく音や吾輩の影で獲物が逃げるということもあるまい。
あまり気にしすぎないでほしいものである。
彼らの近くには今、鹿、熊、猪……それに吾輩の好みではないが、でっかい蜘蛛がいるようだ。
あれは好かん。糸は翼に付くと中々取れぬ。味も悪く、食感が独特すぎて食べようと思えぬ。
つまり遭遇するだけ損というわけである。
彼らはなるべく迷わないように木に印を付けつつ、草花を集め進んでいるようだ。魔女殿の住んでいる森はかなり鬱蒼としており空を飛ぶことができたり、鼻が効くなどないと迷うこと間違いなしなのだ。無事帰ってきてほしいものである。
暫くして猪に遭遇したようだ。あれは良い。突進か逃げるか噛み付くくらいしかしてこない。
五人もいれば楽に対処できるだろう。
お互い気づいた。
猪は人間を強いとは思っていないため、強気に突進していった。
一人の男が大盾を持って前に出て、猪の突進を受け止め――受け流しはせず、その場に踏みとどまった。
その瞬間、控えていた弓兵と槍兵が左右から一斉に飛び出す。
残った二人は周囲を警戒しているようだ。集中しすぎない、吾輩に出来なかったことである。
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弓兵が、至近距離とは思えぬ冷静さで弦を引き絞る。
猪の厚い皮の隙間を狙いすまし、ドスッと矢が脇腹に深々と刺さった。
悲鳴を上げて身を捩った猪の首へ、槍兵が滑り込むように踏み込み――
鋭い槍先が下顎から差し上がり、骨に阻まれることなく脳天まで貫いた。
猪は暴れこそしたが、盾が押し返すたびに体勢を崩され、
やがて力が抜け、逃げる間もなくその場で息絶えた。
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怪我人なし。見事な連携であった。
弓を使う者は解体の心得もあったのか、一人の手を借りてさくさくと血抜きや解体を行なっている。
他の者は、血の匂いに誘われたものが現れぬか周囲を警戒している。
吾輩のように空を飛んで安全な場所に獲物を運んだり、
周りにいるものを察知する嗅覚などが備わっていない人間なりの知恵であろう。よく考えるものだ。
持ち帰らぬ部分を土に埋めた彼らは、成果物を分担して持ち帰ることにしたようだ。
荷物をまとめ歩き出した彼らを見て、吾輩も帰ることとする。一日見ているだけでも学ぶことが多かった。高度も落として構わないだろう。
――その前に、彼らに迫っている大蜘蛛の群れを踏み潰しておかねば。
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木々の隙間から、大小さまざまな大蜘蛛がぞろぞろと這い出してきた。
十数匹。彼らを追い、後ろから糸を吐きかける気満々である。
吾輩は溜息をひとつ。
「……やれやれ、吾輩の教材に手を出すでない」
翼を畳んで急降下。
地面すれすれで翼を大きく広げ勢いを殺した後体を捻り、身体と尻尾をなるべく広げて着弾。まとめてズシャァッ!と踏み潰す。
甲殻と木々が押し潰れる嫌な音が森に響いた。
後続の数匹が糸を飛ばすが、吾輩の動きを止めるには足りぬ。
尾を横薙ぎに振り払い粉砕する。
最後の一匹は逃げようと幹を登ったが――
尾の棘で串刺しにしておいた。
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こうして彼らは何にも追われることなく無事帰宅した。吾輩の出した音に驚いて急いで逃げたようだったが、吾輩は川で蜘蛛の粘液をきれいに洗い流し、そのまま寝床へ戻った。兵士たちが戻ってくるよりも先に、だ。やはり翼とは偉大である。
寝床に体を丸めながら、吾輩は痛まなくなった尻尾で地面をとん、と叩いた。
戦い方や意識の割き方など、彼らから学ぶことは多い。良い一日であった。
戦い方研究は明日こそ再開するつもりだ。
なんせ、吾輩は今日たいそう働いたので、もう眠るのである。
そういえば、オークを全く見なくなったな…と思いつつ良いことではないかと思い直した。
ここから話の展開ペースをどうするか悩み中です。ぐだぐだとしていてもいいものなのか…
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