沢山読んでいただけているようで嬉しい限りです。
今日の仕事も終わりましたので投稿します。短いですが是非楽しんでください。
魔女殿の家に身を寄せることになった初日、俺は玄関先の薪棚に腰を下ろし、首に下げた木の矢じりを軽く指で弾いて眺めていた。娘にもらったものだ。軽く鳴るその音は、あの子の笑い声を思い出させてくれる。
その音を聞いて寝床で寝そべる竜はちらりとこちらを見たが、興味を引かれなかったのか顔を伏せた。
街から俺達はるばるここまで来たのは、連絡があった竜の怪我と魔女殿の無事を確かめるため。ついでに、森の様子を俺たちの目でしっかり見ておく必要があった。竜を恐れなくなった奴らが変に動いて街道に出たりすれば街に被害が出る。
最悪、魔女殿の制御を振り切った竜が怒りに任せて暴れまわる可能性も指摘されていた。
そうなれば、まず俺たちが立ち塞がらねばならない。
……本音を言えば、竜と戦うなんて勘弁願いたい。魔女殿は平気そうな顔をしていたが、あれがいつ気紛れを起こすか分からない。森の大物は、基本あれくらい理不尽だ。
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魔女殿に「傷を癒す間、竜は寝ているはずだからを行ってきな」と言われ、俺たちは森へ入った。
ここらは狩り慣れた森だ。俺は代々狩人の血筋。たとえ雨の翌日でも、通った獣の種類はすぐ分かる。
先頭で木に印を付ける爺さん——いや、大盾使いは、俺より森のことを知っている。昔この森の中に住んでいたらしい。俺が「猪の通り道だ」なんて言う前に、「この辺りは気をつけろ、若いの。臭いが濃い」と先に言ってしまう。
あの分厚い大盾の裏には、いくつも刃物が仕込んであると知った時は驚いたが、本人は「あって困るもんじゃない」とのんきに笑っていた。生き延びるための工夫だが過去を詮索させない雰囲気もあって不思議な爺さんだ。
猪との遭遇は突然だった。
森に入って一時間ほど、泥の跳ね方が妙に散っている地面を見て、俺はすぐ察した。
「爺さん、正面だ。来るぞ」
次の瞬間には巨体が飛び出してきた。
爺さんは俺たちと猪の間に盾を構え、猪の突進を真正面から受け止めた。
ドン、と俺たちの腹まで届きそうなの衝突音。
慣れた爺さんでも呻き声が漏れるほどだ。
俺は迷わず横へ跳び、槍使いに少し遅れて猪の脇へ回り込む。
槍使いは動きが軽い。本来は盾の影に隠れるより、自分で避けて刺すのを好む男だ。冒険者の頃からのスタイルらしい。
猪が爺さんを押し倒そうと牙を構えた瞬間、俺は矢を射った。
太い肩の筋に通った矢へ猪が身をよじり、その隙を槍使いが刺し込んで、だいたい勝負はついた。
あっという間に暴れなくなった猪に、俺は弓を下ろしながら息を吐いた。
どんな生き物相手でも、結局は命がけだ。
竜が見れば笑うだろうがな。
解体は俺と槍使いが担当した。
血抜きをして皮を剥ぎ、肉と内臓を分け、残りはその場で埋めた。
他の三人は警戒役だ。血の匂いは、森中の生き物を呼び寄せる。
帰り支度をして来た道を戻っている時、轟音が森の奥から響いた。
俺たちは顔を見合わせ、急いで魔女殿の家までの道を戻っていった。
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家に戻ると、問題の竜が寝床に丸まって寝ていた。
新鮮な肉の匂いに釣られて向かってくるかと身構えていたが、魔女殿が杖を向けるフリをすると——
「ピィ」
……鳴いた。小さく。霜で冷やされるだけで大人しくなってしまうと言われ半信半疑だったがどうやら本当らしい。吹雪の中でも飛べそうな体をして、すごすごと寝床に引っ込むあたり上下関係はしっかり成立しているようだ。
俺たちは揃って肩の力が抜けた。
こんな調子なら、すぐには暴れなさそうだ。
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翌朝、魔女殿はやけに真剣な顔で言った。
「竜の好物を頼むわ。あの子、毒を作るのに“うさぎ”が必要なの」
“うさぎ”。
冒険者が嫌がるあれか。
毒草を主食にする変わり者で、噛まれれば面倒な怪我をする。
食えないし皮も小さいから売り物にならない。
……魔女殿がヒナ鳥のように大口をあける竜にうさぎを放り込んでいる姿を想像して、思わず頭を抱えた。
「竜ってのは……本当に、何考えて生きてるんだか」
魔法使いの嫁は笑っていた。肝の太さは師匠譲りらしい。
「可愛いじゃない。あの子、お師匠様に怒られるとしゅんってしてるのよ?
野菜を前にした娘みたいだったわ」
……あいつが、か?
想像すると頭が混乱してくる。
自分たちと同じタイミングで飛び立った竜の気配に怯えながら森へ向かった昨日の自分を思い出し、苦笑した。
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うさぎは足跡が軽く逃げ足も速いから、見つけにくい。
だが俺と爺さんの二人なら見逃さない。
「ここ。草が妙に倒れてる。毒草を漁った跡だ」
槍使いが頷き、魔法使いが小霜を降らせる魔法を撒くと、隠れていたうさぎが跳ね出した。
俺の矢が一匹を射抜き、もう一匹は槍使いが追って仕留めた。
大剣使いは「小せえ獲物は任せる……」と文句を言いつつ周囲を警戒してくれていた。
血抜きと内臓処理をその場で済ませ、三匹ほど確保したところで、戻ることにした。
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「そういえばオーク、結局見てねぇな」
「足跡も古いもんばかりだな。どこ行った?」
「竜がとっくに殺しきってたりして」
「おっかねぇこと言うなよ……」
そんな会話をしながら魔女の家が近くなった時だった。
——風が変わった。
俺の狩人の勘が、全身を走る。
「伏せろッ!」
全員が一斉に身を低くしたその瞬間——
影が木々を押しのけ、真上から滑り込むように降り立った。
竜だ。
怪我はもう癒えたのか、翼はしっかりと広がり、表情にも余裕がある。
逃げようとすればすぐ木々を薙ぎ倒して追いつかれる距離だ。
俺は喉がひりつくのを感じながら、弓を握った。
落ち着け、落ち着け……。
——竜がこちらを見る。
吾輩君、慢心するだけの力はしっかりあるよ!というのを示す為の回でした。それはそれとしてリーダーの弓矢だってしっかり狙われたら吾輩君はピィピィ鳴きながら逃げるしか無いでしょう。
今の所フィジカル任せでしか無いですからね。成長させられる余地が多くて楽しい限りです。