こよみさんは勝たせてくれない:意地悪だけど甘やかしてくる幼馴染ちゃん   作:maricaみかん

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17話 混浴の罠

 しばらく車に乗り続けて、ようやく旅館に到着したみたいだ。

 車から出ると、なんか日本庭園みたいなものが広がっている。木がいっぱい生えていて、葉っぱがいくつか落ちていたり。枯山水っぽい模様があったり。あと、水の音もどこかから聞こえてくる。

 よく分からないけど、たぶん風流ってやつなんだと思う。僕が普段見ない世界すぎて、表現が難しい。

 

「母さん、結構良い宿なんじゃないの? 高そうな雰囲気が出てるんだけど……」

「せっかくの機会だもの。良い思い出にするためにも、惜しまないわ」

「というか、ふゆこちゃん。私の出した旅費で足りたのかい?」

「ふふっ、普段ははるとがお世話になっているもの。そのお礼と思えば、安いものよ」

 

 父さんも母さんもほとんど帰ってこないくらいだし、あんまりお金を使っている感じはしない。たまの奮発だと思えば、そこまでおかしくはないのだろうか。

 こよみたちの分もある程度出しているみたいだけど、実際お世話になっているし。母さんが納得しているのなら、それで良いはずだ。

 それよりも、どうやって家族風呂から逃げ出すかの方が大事だ。なんで旅行先で、妙な危機に陥らなくちゃいけないんだよ。普通、旅行ってのは心の洗濯だろうが。

 

 ただ、少なくとも部屋に入ってから行動しないと。うっかりスタッフや他の客に聞かれたら、僕は憤死するぞ。

 

「じゃあ、チェックインしようよ。ふゆこさん、それで良いですよね?」

「そうね。あんまり立ち話もなんだものね。はると、行くわよ」

「うん。どんな部屋なのか、楽しみだね」

 

 とりあえず、今のうちに策を考えよう。まっすぐにお願いしても、たぶんダメだ。こよみのペースに飲み込まれて終わりだろう。

 本当に、おかしい。なんでこよみが混浴に誘ってきて、僕が逃げようとしているんだろうか。よくあるイメージだと、逆じゃないか? いや、女の子を混浴に誘うとか、絶対しないけど。

 ならいっそ、こっちから積極的になるか? いや、ダメだ。どう考えても、良くない手。僕から言うと、絶対に妙な生々しさが出る。そうなったら、混浴から逃げられたとしても負けだ。

 

 母さんたちはチェックインを進めている。これが終わって部屋に入るまでに、何か策が思いつかないと終わってしまう。

 もって、後5分とかだろう。下手したら、2分とかもあり得る。希望的観測は、避けておかないと。

 

 そうだ。こよみを説得しなくても良いんじゃないか? 車の中でもそうだったけど、母さんたちを味方につければ優位に立てる。つまり、母さんとあかねさんに話を振れば良いんだ。

 よし、これならいける。僕は胸を弾ませながら、部屋につくのを待っていた。

 

 部屋に入ると、軽く説明を受ける。それを聞き流しながら、言い回しを考えていく。女将さんが去っていった段階で、僕は話を切り出した。

 

「母さん、あかねさん。やっぱり、混浴はまずくない? ふたりだって、僕に見られるんだよ?」

「親子なんだから、見られても恥ずかしくないわよ。でも、はるとも年頃なのね」

「純情そのものだね。まあ、ある意味安心感はあるか。こよみを預けても良いというか」

 

 ふたりとも、生暖かい目で僕を見てくる。なんでだよ。普通、高校生なんて性欲の塊だ。避けるのが当然だろ。というか僕にだって、よこしまな感情くらい少しはあるんだ。それが普通だろ。

 まあ、母さんはまだ分かる。歳を考えればおかしいけど、一応は家族だし。

 どうしてあかねさんは否定しないんだよ。こう言っちゃ何だけど、常識がないんじゃないのか?

 

「どうしても見たいってお願いするのなら、考えてあげても良いんだよ?」

 

 こよみまで、ニマニマしながら追撃してくるし。というか、羞恥心はないのか? 僕に見られて、平気だというのか?

 まあ、母さんやあかねさんが居るから、僕に魔が差したところで襲われないという余裕はあるんだろうけれど。いや、それでもおかしいだろ。どういうことだ。

 

 今となっては、もはや無駄な抵抗かもしれない。だけど、せめて最後まであがいてみせる。希望は捨てないぞ!

 

「そもそも、どうして一緒に入るの……!?」

「はると、ひとりで平気か心配だもの。本当にひとりよ?」

「あー、言われちゃったねー。ふゆこさんは、そう言っているけど?」

「諦めちゃった方が、案外楽になるものだよ。ね、はると君」

 

 母さんは天然みたいなことを言ってくるし、こよみは相変わらずからかってくるし、あかねさんは僕の味方の顔をして追撃してくる。

 僕を助けてくれる人は、どこにもいない。気分は、猛獣の居る檻に入っていくようなもの。もはや僕は、美味しくいただかれるしか無いんだ。

 

 でも、諦められない。そんな罰ゲーム、受けたくない。いや、一般的にはご褒美なんだろうけれど。僕にとっては、哀れな餌となる運命でしかない。

 ほんと、気が変わってくれないかな。それだけを、僕は祈っている。

 

「いや、間違えて見えちゃったらどうするの……!?」

「それこそ、親子だもの。気にすることじゃないわ。家族風呂なんだから、他の人に見られる心配はないわよ」

「あたしだって、はると君は息子みたいなものさ。こよみが気にしないなら、関係ないんだよ」

「はると君ってば、えっちなこと考えちゃってー! そんなに見たいんだー?」

 

 もはや、こよみに反論する気力すらない。僕は、ただうなだれていった。

 そして僕は、母さんに手を引かれていく。もはや、抵抗しても無意味だ。うっかり暴れたり大声を出したりしてしまえば、旅館にも迷惑がかかる。

 

「ね、ねえ。せめて、着替えは別だよね? そうだよね?」

「まあ、そうね。仕切りがあるみたいだし、良いんじゃないかしら」

 

 そう言われて顔を上げると、確かに仕切りが見える。僕は、ほっと息をついた。

 ただ、少しだけ離れて服を脱いでいく。そして僕は、1枚脱ぐたびに、崖に向かって足を進めているような気分になったんだ。

 

「はると、そろそろ入ってきなさい」

 

 どうにも僕はゆっくり脱いでいたみたいで、お風呂の中から声が聞こえてきた。諦めて、僕は扉を開けた。

 

 ひとまず、湯船に入る前に体を洗っていく。できる限り、天井だけを見ながら。

 ただ、ずっと上ばかりも見ていられない。シャンプーとかを取るたびに、誰かと目が合う。

 こよみはニヤニヤしているし、母さんはニコニコしているし、あかねさんは優しい目で見ている。どこを見ても地獄という状況だ。

 なんでみんな、こういう時に反対しないんだよ。僕が良くない心を出したらどうするんだ。もしかして、ペットか何かだと思われていたりしないだろうな。

 

 体だけ洗って、ちょっと戻ろうとする。すると、声が飛んできた。

 

「はると君、ちゃんと湯船に浸かりな。せっかくの温泉を無駄にして、どうするんだい」

 

 そこからが、僕の地獄の始まりだった。必死で危ないところを見ないようにするだけの時間が、ただ過ぎていった。みんなタオルを巻いているとはいえ、もうメチャクチャ。

 出た頃には、息も絶え絶えだった。

 

 せっかくお風呂に入ったのに、ひたすら疲れただけだ。どうして湯船に誘ってくるんだよ。僕は女の子じゃないんだぞ。こよみは平気な顔をしているし、僕だけがダメージを受けている。

 顔だけ見るのだって、かなり大変だったんだぞ。こよみたちは浴衣を着ているが、それすらも呪いの装備に思えてしまう。

 もう二度と、このメンバーで旅行に行きたくない。ただ、溜息がこぼれた。

 

 ひとまず、危険地帯からは解放された。だが、それで終わるほど甘くなかったようだ。

 

「どうせなら、はるとを洗ってあげれば良かったかしら」

 

 そんなことを言われる。母さんは、僕を幼児か何かだと思っているのか? 高校生を洗ってあげようとか、無理があるだろ。

 いや、まあ、母さんはめったに帰ってこないし、親子のスキンシップを求めていたのか……? だからといって、この状況ではおかしいだろ! せめて、家でやってくれよ!

 こよみはまたニヤニヤしているし、もうおしまいだ。僕はただ、餌になる運命なんだ。天を仰ぐことしかできなかった。

 

「そんなに疲れているのなら、あんまり動きたくないよね? あーんしてあげよっか、はると君?」

 

 まだ、僕の地獄は続く。こよみの言葉で、確信させられたんだ。

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