こよみさんは勝たせてくれない:意地悪だけど甘やかしてくる幼馴染ちゃん 作:maricaみかん
学校が終わってから、相変わらず僕の家でふたり。いつものように、勝負する予定だ。
負けたら恥ずかしいことを言う勝負。いったい、どんなことを言わされてしまうというのか。僕はつばを飲んだ。
いや、気が早すぎる。戦う前から負けを考えるな、僕。勝てさえすれば、言わなくても済む。それどころか、こよみに言わせることもできるんだ。
よし、やるぞ。僕は姿勢を正して、こよみに向き合った。目の前には、良いことを思いついたという笑顔が見えていた。
「負けた方が、相手の考えた恥ずかしいセリフを言うってことでどうかな?」
なるほど。以前とはまた違った形で、恥ずかしいことを言うと。今回は、別に本心でもないことを言わされるだけ。なら、僕が受けるダメージは、最小限に抑えられるはずだ。
それに、うまくやれば、こよみに大ダメージを与えられる。いつものお返しをするチャンスだ。
「分かったよ。それで、こよみさんは決めているの?」
「うん。まずは、お互いに紙に書いていこうよ。それで、どうかな?」
こよみは自信満々の笑みを浮かべている。どんな勝負だろうと、僕が負けると思っているのだろう。今日こそ、手痛い反撃を食らわせてやるんだ。僕も笑顔で、頷き返した。
そして、こよみの取り出したメモ用紙に、恥ずかしい内容を書いていく。
僕の考えた内容は、これだ。『魔法少女ラブリーこよみ、ただいま見参! みんなをメロメロにしちゃうぞ?』
ふふふ、僕の才能が恐ろしい。これを言ったこよみは、どれほど恥ずかしくなることか。きっと、迷子センターに名前を呼ばれたくらいになるはずだ。覚悟しろ、こよみ。
こよみもペンを走らせて、書き終えた。ニヤけながら頷いていて、よほど自信がある様子。
その感情を隠さないまま、僕の方を見てきた。
「じゃあ、お互いの書いた恥ずかしい内容を当てるゲームね。順番に質問をして、先に当てた方の勝ちだよ」
なるほど、今回の勝負はそれか。受けて立とう。魔法少女なんて、そうそう思いつくものじゃない。僕の頭が読めるというのなら、読んでみることだね。
「じゃあ、僕からね。親の前で言うのは厳しい?」
「はい」
こよみはためらいなく返事をする。まあ、前提条件を確かめただけだ。恥ずかしいセリフという時点で、親の前で言いたくないだろう。そんなの、屈辱どころじゃない。
とはいえ、こよみのことだ。予想の裏を突いてくる可能性もあった。それを抑えたのは、悪くないはず。
僕の質問を受けて、次はこよみが質問をしてくる。
「私からは、そうだね。親が言っている姿を、見たくない?」
「はい」
こよみも、僕と同じような戦略で質問をしてきたようだ。逆説的に、僕の戦略が正しいことが証明されたようなもの。この調子なら、いけるはず。魔法少女なんてものを当てられるのなら、どんなエスパーだって話だ。
よし、この調子でどんどん進めていくぞ!
「言っていたら、誰でも恥ずかしいって思いますか?」
「はい」
「ふふっ、はると君自身が言っていても、恥ずかしいかな?」
「はい」
「似たようなセリフを、実際に聞いたことがありますか?」
「いいえ、かな」
こよみは、明らかに余裕の笑みを浮かべている。対する僕は、ちょっとあちこち見回してしまう。何か、少しでもヒントがないかと。
まるで、手がかりがつかめない。具体的な回答が、全然思いつかないんだ。
だというのに、こよみは僕のことを見透かしたかのように、笑みを深めた。ブラフなんかじゃない。それが確信できて、背筋に寒気が走った。
「それって、子供が言うようなセリフ?」
その質問に、胸が跳ねる。かなり、近いところまでたどり着かれている。もしかしたら、もう王手がかかっているのかもしれない。そんな気がしてしまった。
なのに、僕は有効な質問ができない。ただ、ジリジリと追い詰められていくだけ。
「は、はい……」
「主人公は、男の子?」
「いいえ……」
「朝にやっているのが定番かな?」
「はい……」
ここまで質問をされて、僕はうなだれないことで必死だった。もはや、ほとんどバレていると思っていいだろう。そうじゃなきゃ、出てこない質問だからだ。
3択くらいが浮かんでいて、後はそれを合わせていくだけ。まだ、もう少し粘らせてくれ。そんな祈りは、通じなかった。こよみは、僕に目を合わせて、ゆっくりと口を開いていく。その数瞬が、処刑を待つ時間のようだった。
「ふふっ、正解は魔法少女のセリフでどうかな?」
「はい……」
まさか、全文当てろなんて言えるはずもない。僕だって、間違いなく当てられないのだから。
僕の、負けだ。完敗と言っていい。今だって、有力な候補は何も思いついていない。手も足も出なかった。それだけだ。
こよみはニコニコとしながら、僕にメモを差し出してくる。どう見ても、これから僕が言う恥ずかしいことを待ちわびている様子。
僕はただ、両手を出して受け取っていくことしかできなかった。
「じゃあ、これを言ってね。ね、はると君」
渡されたメモに目を通した瞬間。僕は二度見した。夢であってほしいと思った。頬をつねった。痛かった。
こ、こんなの思いつくわけがない。最初から、勝ち目なんてなかったんだ……。
自分が震えていることを隠すことすらできないまま、僕は指定のセリフを言っていく。
「ぼ、僕は……。こよみさんの胸をこっそりチラチラ見ていたことがあります……」
な、なんて悪魔的なことを言わせるんだ。あまりにも、胸が苦しい。こんなの、何かの条約で禁止するべきだろ!
「ふふっ、そんなことしてたんだー? ……でも、はると君なら良いよ?」
心底楽しそうに、頬を赤らめている。なんてやつだ。僕を全力でおもちゃにしてやがる。
なんと言えば僕が恥ずかしくなるか、完璧に理解されている。これが、釈迦の手の上というやつか。
「こ、こよみさんが言わせただけでしょ! 僕が言い出したわけじゃないから!」
「じゃあ、はると君は一度も見たことないって言い切れる?」
こよみはニヤニヤとしてこちらを見ている。どう考えても、僕の答えを確信している顔だ。
いや、僕は節度を守って、しっかりと見ないようにしているけど。だからといって、一度もないとは言い切れない。それは、男の本能というものだろう。
だからこそ、否定できないんだ。こよみのやつ、的確に弱い所を突いてくる。
「そ、それは……。その……」
「やっぱり、当たってるんだよねー? ……はると君の、えっち」
両手で胸を隠しながら、こよみはジト目で僕を見てくる。くそっ、これ以上何を言っても、傷口を広げるだけ。
そう分かっていても、僕は声を抑えられなかった。
「も、もう! こよみさん!」
「ふふっ、かーわいいー! 色っぽい服とか、着てみた方が良いかな?」
小首を傾げて、問いかけてくる。ちょっと、想像してしまう。でも、こよみはどこで着るのだろうか。外でだと、注目の的になったりしてしまうのだろうか。
想像して、胸がきゅっとなるような感覚があった。嫌だなと、心から理解できた。
「それは……外では……その……」
「私が見せたいのは、もちろんはると君だけだよ。それで、どうかな?」
はいと言えば、本当に着てくるのかもしれない。そんな気がして、ちょっとだけ言いたくなる。
でも、僕には耐えられる気がしなかった。いろんな意味で、大変なことになってしまう。想像しただけで、ドキドキしてしまうのだから。
「ま、まだ早いです!」
「そっか。なら、もう少し段階を踏んでみよっか。じゃあ次は、勝ったら私がはると君とぎゅっと腕を組む勝負だよ?」
こよみはニンマリとしながら言ってくる。
そ、それはつまり。ドキドキの展開というやつなのだろうか。
最初とはぜんぜん違う意味で、僕はつばを飲んでしまった。