報告書   作:そそぐ


原作:艦隊これくしょん
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阿武隈が日報を執筆しました。

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報告書

阿武隈

2023/08/01

 

16:17 @基地食堂 ジューシーから揚げとオクラ巣ごもり玉子と中ライスを注文する。席を探して歩きながら、本日を実行日としようと思い立つ。特に何も考えずにツイートする。

 

16:42 @基地購買部 15%還元の期間なので、Self-Reference ENGINE、ツインスター・サイクロン・ランナウェイ1~3、傲慢と善良を買う。マセマの線形代数は対象外で悲しむ。

 

16:58 @宿舎 自転車で帰宅しながら、実行場所について考える。本来なら門司港の土手が好ましいが、逮捕の可能性を考える。波止場にある新築の公衆トイレを思いつく。

 

17:08 @宿舎 お腹を壊さないよう、体調に気を配る。健康的なものが望ましい。

 

17:25 @宿舎談話室 近くのコンビニで購入したピルクルとR-1を飲む。研修のときの生物学実習Ⅲでヤクルトを顕微鏡で観察したことを思い出す。乳酸菌飲料は激しく活発に泳ぎ回る乳酸菌に埋め尽くされている。

 

17:29 @宿舎談話室 直近の食事を思い出してみる。昨日は昆布だしの美味しいつけそばを一杯、今日は食堂のから揚げしか口にしていない。不味くなる要素のないことに満足する。

 

17:32 @宿舎自室 口に入れる行為について考える。キスをすることで多くの口内細菌が交換され、免疫への好影響があるとアニメで言っていたことを思い出す。口内細菌に大腸菌が加わることはどちらに転ぶのだろうか。誰かとの接吻のときに再び思いだすような気がしてならない。

 

17:42 @宿舎女子便所 小便をしながら、小便が大便よりも汚いと小学生のときに言われたことを思い出す。私は大きな異議を唱えたい衝動に駆られる。小便は血液由来で体の内側にあったものだが、大便は常に体の外側にあって、多くの菌に満たされているのだ。反面、人体において不要なものの割合が多いのは小便だとも思う。

 

17:48 @宿舎自室 暑く、外が明るいためやる気が失せる。変態糞親父の投稿でも読む。

 

18:35 @宿舎自室 投稿を遡りながら読んでいたが、生々しさに疲れる。義務感は強いが、欲望はあまりない。

 

18;37 @宿舎自室 XのTLに流れてきたブルーアーカイブの水着イラストを見て、店でプロの女性に頼んでも良いのではないかと考える。

 

18:52 @宿舎自室 店のホームページの写真の生々しさに、今夜起ころうとしていることを見つめ直す。母親の影響か、もともと人間の裸体というものには男女関わらず興奮しないが、今日ばかりはいつもにまして汚く見える。女性が脱衣した途端に性欲が義務感に変わる自身の性質がある限り、女性への魅力を感じることはできないのかもしれない。

 

19:05 @宿舎自室 どう解釈しても美しくはなりようのない行為の汚さに絶望する。

 

20:42 @宿舎自室 昼寝から目覚める。頃合いの良い時間だが、どうしてもやりたくない。

 

21:45 帰寮 実行しました。小さいことに集中すると思い出して嫌になるので、遡って時系列に書くことはもうしたくありません。私はスマホを置いて、割り箸と紙コップをいくつか無造作に取って、自転車で門司港の波止場に向かいました。あの海軍主計部と書かれた黒い自転車です。今日は8月に入って、昼間は随分と暑かったですが、夜はそこまででもありませんでした。私は昔テニスを習っていたときの服をきて、夜道を飛ばして波止場に向かいました。橋の上から見下ろすと波止場は思ったより暗くて、大学生はいないかに見えました。向かいの土手で手持ち花火をしているカップルが一組いました。近づいてよく見ると、明かりのない波止場を埋め尽くさんばかりに大勢の大学生が立っているのが見えてきました。誰一人花火をしていなかったから、暗くてよく分からなかったのです。私は、波止場の入り口に並べて停められている自転車の間に自分の自転車をそっと停めて、反対側の公衆トイレに向かいました。去年の暮れにできた木目調のお洒落な建物です。まわりの公園もいつの間にか工事が終わっていて、ベンチにまた若いカップルが座っていました。わたしはその目の前を、大きな歩幅で歩いて便所へ向かいました。新築というだけあって、建物はとても綺麗でしたが、中には誰もいませんでした。好都合です。女子便所の洗面台が詰まって水が溜まっていて、そこになぜか細長い草がいくつも浮かんでいました。子供か観光客か分かりませんでしたが、少し悲しくなりました。私は隣の多目的トイレに移りました。まず鼻をかみ、念入りに手を洗いました。少し潔癖になっているみたいでした。私は便座をあげて、紙コップをまず一つ、取りました。化学繊維でできた体操着のズボンを無造作に下ろして、私は少し、小便を出しました。止めて、紙コップに少し注ぎ、紙コップを置いてのこりの小便を出しました。いつもの尿検査と同じです。手際よくできました。私は、息をつきます。そこから先は、すこし勇気が必要でした。まず私はさっきの紙コップを鼻先に近づけてみます。変な匂いがします。匂いというよりも、熱気、という方が正しいかもしれません。とても濃い色をしています。すこし、嫌です。多すぎる気がしてきました。私は紙コップを傾けて、便器の中に捨てます。そこにすこし溜まるくらいだけ残して、私は紙コップを置きました。好奇心旺盛な彼女に、優しい彼氏が頼まれて少しウイスキーを注いであげたみたいな、それぐらいの量です。これくらいなら一口で丁度良いです。私は割り箸を、その紙コップの上に置きました。そしてもう一方の紙コップを手に取ります。一度便座に座ってみます。あまり出そうな気配はありません。一度立ち上がりました。隣のおおきな鑑に映った自分の下半身を見ながら、私は肛門の位置を確認します。意外と下の方にあります。わたしはそこに、紙コップを当ててみます。位置がずれて手にあたるといやですが、試してみるしかありません。私は便座から少し腰を浮かせて、腹に力を入れます。いつもと違うからか、今日は少し出が悪いみたいです。ことっ――と軽い感触がして、私は紙コップを持ち上げます。人差し指の先より少し大きな、小さなかけらがあります。予想していたよりも小さいですが、これでいいことにします。臆病者と嗤われるでしょうか。私は鼻に近づけてみます。ああ、嫌なにおい。においというよりも、熱気に近いです。しかし、小便とは全然違います。もっと、嫌なにおいです。あまり臭くはありません。しかし吐きたくなるような、生理的に忌避したい、ほかに形容しがたいような熱気がします。しかも、つやがあります。少し色が明るい。柔らかくなかったことは幸いですが、これはとても嫌です。もっと、鹿の糞みたいな可愛いものが良かった。私は紙コップを洗面台の上に並べて置いて、また便座に座りましたが、もうなにも、出ては来ませんでした。とても、嫌な気持ちです。まさかこんなに嫌なにおいがするなんて思いませんでした。もっと、笑ってしまうような、鼻をつまみたくなるような、赤ちゃんのおむつのような、動物園のような、臭くて顔をしかめたくなるものが出てくると思ったのです。いま私の両手にあるものは、近づかないと匂いが分からないのに、無臭の熱気で生理的嫌悪をかき立てるような、生暖かいものです。私はトイレを出て波止場へ歩きます。途中、何人かの大学生とすれ違いました。紙コップと割り箸を手に歩く私は、コンパに参加している大学生そのもののはずです。私は悠々と、おつまみとビールでも入っているかのように波止場へ向かいました。税関と倉庫に挟まれ、木がよく生えている波止場は、あまり広くはないですが良い雰囲気があります。私は石のベンチのひとつに腰掛けます。紙コップを隣に置き、脚をくんで周りを眺めます。意識したわけではないのに、ウイスキーでも傾けて浸っているような満足感があります。隣の紙コップのことは考えたくありません。跳ね橋が見えます。歩行者専用の、小さな跳ね橋です。丁度開いた跳ね橋の下を、観光船が出て行きます。あの橋の上で、色々なことがありました。人間関係でうまくいかなくなって、一人で月を見上げながら渡ったときも、ふらふらに酔って介抱されながら歩いたときも、あまりの忙しさに余裕がなくなって知らない番号に電話をかけて話し込んだときもありました。夜、門司港に歩いてくると、余計なものを洗い流して本質に向き合える、そういうおまじないみたいなものがありました。私は紙コップを手に取ります。固形物が入っている方です。手の中の余分なものも一緒に洗い流してくれたらいいのに――。そのとき、目の前を3人の大学生が通り過ぎました。後片付けでしょうか、大きなゴミ袋を持っています。暫くして、5、6人の大学生が通り過ぎました。私は土手の下を見ます。さっきから大学生が集まっていたところです。丁度その時、集団がこちらに向きを変えて歩き始めました。狭いので、あっという間に目の前までやってきて、通り過ぎようとしています。私は焦りました。森見登美彦だって、人のいない波止場には花火を打ち込みたくはならないでしょう。私は勢いよく箸を割って、かけらを口に放り込みました。わけが分かっていません。私もわけがわかりません。訳が分からないうちに咀嚼します。ふにゃあ――と柔らかい感触で潰れていきますが、唾液に混ざっても一向に溶けません。かたちが変わるだけで、体積が増えてくるようです。小さく見えても、意外と量が多かったみたいです。ちょっとだけ、繊維があります。じゅりっ――とみずみずしい食感がありました。果物の皮のような、つぶあんの皮のような、なにかがあります。味、そうですね、私は何かに形容しようと思いつきます。そんなに味はしませんでしたが、かみ砕くうちに強烈な苦みがやってきました。サザエの肝のような、鶏レバーのような味がします。思いついたのはこの二つです。肝の味がします。匂いは、そんなにしません。あまり臭くはないですが、生理的嫌悪を催す熱気があります。あたたかい、へばりつくような、嫌なにおいの染みついた油です。私は咀嚼をしますが、口の中から消えていきません。私は焦ります。吐き出したい。今すぐ海まで降りて吐き出したい気がします。しかしそれではいけません。私は無理矢理飲み込みます。柔らかい物体が喉へ一気に詰めかけて、私はむせそうになります。我慢して飲み込みます。飲み込みました。嫌だ、とても嫌だ、私は身をよじり、吐き出そうとするのを堪えて、奇声をあげた気がします。とても嫌な気分です。不快、不快、とても不快、不愉快です。目の前の大学生たちは脚を止めずに通り過ぎています。私の行動が素早いのか、彼らが歩くのが遅いのか、よく分かりません。人が苦しんでも誰も助けなどしないのだとわかりました。口の中の肝のような後味が消えません。あずきの皮が歯に張り付いて残っているような気がします。港の海水の方がよっぽどおいしいでしょう。でも、天橋立で舐めた海水はあまりおいしくはありませんでした。私はとても口直しがしたい。忘れないうちに私はもう一方の紙コップに口をつけ、一気に喉に流し込みました。そのまま飲み込みます。最悪です。あまりにも不快。強い塩気がきたと思ったら、苦みに覆い尽くされ、生理的嫌悪を煮詰めた不愉快な熱気を濃縮して、口から喉から胃から、すべての粘膜に張り付いてしみこんでいきます。私は思わず立ち上がります。丁度大学生は最後の一人が通り過ぎたところです。私は叫びながら、税関と倉庫の間を行ったり来たりして叫びました。大きな松の木の皮がとてもおいしく見えます。最悪です。ぐちゃぐちゃに溶けて胃を満たす人糞と小便が頭に張り付いています。血管を通ってもう脳まで来てしまったのでしょうか。不愉快です。私は乱暴に紙コップをまとめると、割り箸の先が手につかないようにつかんで自転車にまたがり、宿舎まで帰りました。最悪です。達成感なんてみじんもありません。人生で一番やらなくて良い体験です。不快です。乱雑に力任せに漕いで、通りを下ります。大概のものは食べられるような気もします。いいえ、嫌です。ゴキブリは食べたくありません。結局何も変わっては居ません。無駄です。生暖かい嫌悪感が息になって口から出ていきます。口直しをしたいですが、何も食べたくはありません。最悪です。そういえば自分の糞を食べる動物もいた気がします。私は基地で一番、うさぎを自称するにふさわしい人間になったような気がします。


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